仕事を面白くしたいなら「推論法」を身につけよう
正解なき時代の最強の武器、「アブダクション」とは?

仕事を面白くしたいなら「推論法」を身につけよう

不確実性の高い時代においては、物事の正解を探す力よりも、自分で問いや仮説を立て、論理的に妥当な結論を導き出す力のほうが重要視されるようになっています。後者の「推論力」を高めるにはどうしたらいいのでしょうか?

そんな課題をもつ方に役立つのが、『問題解決力を高める「推論」の技術』(フォレスト出版)です。帰納法・演繹法・アブダクションという3つの推論法を使いこなすための具体的なステップまでわかりやすく解説した一冊です。推論法がなぜますます重要になるのか? 推論法をビジネスで活かすにはどうしたらいいのか? 著者で外資系コンサルティング会社と広告代理店でキャリアを積んできた羽田康祐さんに、推論力をマスターするための秘訣をお聞きしました。

知識武装だけではバリューを生み出せない

── 『問題解決力を高める「推論」の技術』の執筆動機を教えていただけますか。

若手社員たちに、「推論力」を身につけることで自信をもってもらいたいと思ったからです。部下の育成に関わるなかで、若い人たちの多くが「正解」を見つけなければと思うあまり、すぐにグーグルで検索し、知識武装しようとするのを目の当たりにしてきました。ですが、自分で考えるプロセスを経ていなければ、そうした知識は単なる受け売りであって、バリューを生み出すことはありません。それではビジネスの場では通用しませんし、本人もだんだん会議などの場で発言できなくなり、自信を失ってしまうという悪循環が起きているのです。

そうした状況を救うための武器が、推論力です。推論力とは、未知の事柄に対して筋道を立てて推測し、論理的に妥当な結論を導き出す力のこと。推論力を身につければ、自分なりの付加価値をつけた考えをベースにアクションを起こせるので、物事を1ミリでも前に進められる。これを積み重ねると結果がついてくるので、自信が生まれるようになります。

推論で用いるのは、帰納法、演繹法、アブダクションの3つの思考法です。それぞれの定義を解説する良書はすでにたくさんありますが、具体的な場面でそれらをどう使うかにまで踏み込んで体系化した本は、あまりビジネスの世界で広まっていません。そこで、そうした情報を体系的に若手社会人に伝えたいと思い、本書の執筆に至りました。

問題解決力を高める「推論」の技術
問題解決力を高める「推論」の技術
羽田康祐
フォレスト出版
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問題解決力を高める「推論」の技術
問題解決力を高める「推論」の技術
著者
羽田康祐
出版社
フォレスト出版
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推論力は「量」ではなく「質」を追うためのOS

── 羽田さんが推論力に着目されたのは、どうした背景からでしょうか。

私自身が推論力に助けられてきた経験が影響しています。新卒の頃、新聞広告の営業で売上を立てられず、悩んでいた時期がありました。このままではまずいと、成功確率を上げるためにとにかく考え続けて、試行錯誤した。たとえば提案資料も、会社から用意されたものでなく自分の言葉で書き換えると、受注率も上がっていき、ステージが上がっていったのです。

カギになったのは、行動する前に1分でいいから「推論」する習慣をつけたこと。何かアイデアを思いついてすぐ手を動かすのではなく、「どこを重視したらいいか」を見極めてから取り組むと、同じ量の努力で得られる成果が全然変わってきます。これは「パレートの法則」のとおりです。パレートの法則は、フォーカスすべき重要な要素2割が、全体の8割の成果を生み出すというもの。そのため、推論力によって重要な2割を見極めることで、仕事の生産性や質を高めやすくなるのです。推論力は「量」ではなく「質」を追うためのOS(オペレーティング・システム)といってよいでしょう。

── 帰納法・演繹法・アブダクションという3つの推論法のなかで、アブダクションとはズバリ何ですか。

アブダクションとは、起こった現象に対して「法則」を当てはめ、起こった現象をうまく説明できる仮説を導き出す推論法のことです。要は、「問題に対し、妥当な原因や理由を考える」こと。帰納法、演繹法とは違って、アブダクションは新たな仮説を発見する推論法です。

── 今後は特にアブダクションがますます重要になるとありましたが、それはなぜなのでしょう?

アブダクションがますます重要になっている理由の1つは、働き方改革に伴い、一人ひとりの生産性向上が本格的に求められるようになったためです。問題解決のスピードを速めるよう迫られているときに、問題に対して対症療法を繰り返しても、また似た問題が起きてしまうだけ。根本的な原因を突き詰めるには、仮説を見つけることが重要となり、そこでアブダクションの出番となります。

このように問題の原因を解明したいときだけでなく、トレンドの背景を捉えてビジネスに応用したいとき、他社の成功事例を自社に応用したいときにも、アブダクションが役立ちます。

── アブダクションの精度を高めるには、筋のよい仮説を立てることが求められると思います。そうした仮説を立てられるようになるための秘訣は何ですか。

あふれる情報の中から早い段階で「見えない前提」や「関連性」を見抜けるようになることです。そこで本書で提案したのが「洞察的帰納法」。洞察的帰納法とは、洞察を通して、物事の共通性を発見する方法のことです。私たちは普段、A、B、Cという3つの事象があるとしたら、それらを別々のものとして捉えがち。ですが、実はそれらに共通する1つのメカニズムが働いているケースが多いわけです。

ここで「企業の無形資産」を例にとって考えてみましょう。次のような3つの事実があるとします。

「ノウハウは、使えば使うほど組織に定着する」

「特許は、用途が広ければ広いほど資産価値が増える」

「リーダーシップは、使えば使うほどスキルが磨かれていく」

これらの共通項は、抽象化してみると、どれも「企業の無形資産」だといえる。そこから、「企業の無形資産は、使えば使うほど価値が増える」という法則を見出すことができます。このように、目に見えない法則やメカニズムを見抜くのが洞察的帰納法です。この方法によって、物事の背景にある法則やメカニズムを理解していけば、問題の表面だけを見て誤った仮説を立てることが減っていくでしょう。

── 目に見えない法則やメカニズムを見抜けるようになるために、おすすめの方法はありますか。

1つは、普段から物事を、多面的な見方の切り口で捉えること。「目的と手段」「全体と部分」「演出と仕組み」などと、こうした切り口で関係性を捉え直せないか考えてみるのです。

2つ目は、法則のストックを増やすことです。アブダクションは、「法則の当てはめ」を入れ替えることで、多様な仮説を立てることを可能にする思考のフレームワークといえます。ということは、いかに多くの法則のパターンをもっているかの勝負だといえます。「1を聞いて10を知る」という言葉の通り、1つの現象を聞いた際に、頭の中にある多様な法則を当てはめ、瞬時に10の仮説を導き出せるかどうか。

普段から「AのときにはBが起こりやすい」などと、法則を見出し、自分の言葉に落とし込むことを習慣化するとよいでしょう。法則のパターンを増やしておくと、何かお題を与えられた際もそれを法則にあてはめていけばいいので、短期間でアイデアを生み出せるようになります。

推論力が高い人はいまの仕事に「大義」を見出している

── 推論力が高い人の共通項についてぜひ教えてください。

共通しているのは、いまの仕事に「大義」を見出し、当事者意識をもっていることです。自分のやっていることがほんの少しでも誰かのためになる、今すぐでなかったとしても社会の役に立つと信じているかどうか。大義があると、作業が仕事に変わります。日々の行動が目標の実現につながっているという実感があるため、推論の途中で難題にぶつかってもひと踏ん張りして、よい仮説を考え抜けるようになる。

また、自分の仕事の先にある、より大きな目標が見えていると、仕事の先につながっている相手をリアルに思い描けるようになります。だから、全体のプロセスで問題がある場合にも、その原因を特定しやすくなるのです。

── なるほど。ほかにこういう習慣をもっている、といった共通項はありますか。

何より推論力が高い人は、日常のささいなものを、推論力のトレーニングの機会にしています。電車の車窓から家を見たときに、土地の土台の部分(手を加えられないインフラ部分)と、その上に建つ建物(リノベーションできる部分)に分けて考えることを思いついたとします。つまり、物事には「変えられない部分」と「変えていい部分」とがある、というように抽象化するのです。次に、「これは戦略と戦術の関係にもあてはまるのではないか。戦略では一貫性が大事であるのに対し、戦術は臨機応変に変えて、PDCAサイクルを回していくことが必要になる」などと、他の関係性にも応用していくのです。

こうした思考がまるで歯磨きのように習慣化されている人は、推論力が高い。これは実は組織レベルでも当てはまることなのです。マーケティングや人材育成、組織力が強い会社というのは共通して、働く人の推論力を盤石なものにする仕組みがある会社なのではないかと考えています。

もし仕事力をピラミッドで表すとしたら、一番土台はマインドセット。2層目が推論力で、3層目にマーケティングや組織、人事といった専門領域がくる。そして最上位に「行動」がきます。いくらマーケティングの知識があっても、会社の現状と照らし合わせ応用できなければ、マーケティングの成功はおぼつかないでしょう。また、人事制度も構築するための手法はあっても、それを運用するのは人間なので、運用できるようにするには推論力が問われる。

たとえばトヨタやリクルートは人材輩出会社だといわれます。トヨタでは「なぜ?」を5回くり返すといわれていますが、これはまさに推論力のトレーニングの場だといえませんか? またリクルートの場合も、まるでコーチングのように「何を実現したいのか?」と上司に問われるのが日常になっている。すると、「なぜそれをやりたいのか」を日常的に考え、言語化する必要に迫られ、推論力が磨かれていく。結果的に推論力の高いメンバーで組織やチームを構成できるようになっていると見ています。

── 羽田さんはご自身のブログで、ビジネスパーソンにおすすめの書籍をテーマ別に多数紹介されています。なかでも、推論力を磨くうえで特に役立つ本があれば教えてください。

1冊目は『イシューからはじめよ』。問題解説においては、そもそも何が問題なのかを見抜くことが重要となります。本書は、解くべき問題を見極めて、解の質を上げていくための方法論を学ぶのに最適な本です。

2冊目は『賢さをつくる 頭はよくなる。よくなりたければ。』。思考とは具体と抽象の往復運動であり、これから新しいコンセプトをつくることが求められる時代に、「概念化」の力をどう伸ばしていけばいいのかについて、とてもわかりやすく書かれた本です。

3冊目は『知的複眼思考法』。ロジカルシンキングでは、「ロジックツリー」というツールを使い、要素分解や選択肢の拡大を行っていくものの、よい切り口を見つけられないと、よい結論を導き出せないわけです。こうしたロジカルシンキングの限界を乗り越え、さまざまな切り口から複眼的に物事を見る方法を教えてくれるのがこの本です。論理派の人が新しい発想を生み出していくのにピッタリな一冊ではないでしょうか。

イシューからはじめよ
イシューからはじめよ
安宅和人
英治出版
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イシューからはじめよ
イシューからはじめよ
著者
安宅和人
出版社
英治出版
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── 羽田さんが今後挑戦したいことは何ですか。

私の専門領域の1つはブランディングです。ブランディングというと、そのブランドのコンセプトをいかにわかりやすく伝えるか、良い認識をもってもらうか、というところに目が行きます。ですが、ブランディングの本質というのは、企業で働く人々の目的と社会のめざすものが一致していくよう手助けすることであり、それに寄与することが自分のミッションの1つだと思っています。

つくり手の想いや誇りが伝わり、それを受け取ったお客さんもそれに感情移入し、より豊かになれる。そんなつくり手も受け手も幸せになっていくようなブランドが増えれば、社会自体がよりよいものになっていくと信じています。この実現可能性を高めるためにも、今後も推論力の重要性や身につけ方を発信し、真のブランディングに寄与していきたいですね。

問題解決力を高める「推論」の技術
問題解決力を高める「推論」の技術
羽田康祐
フォレスト出版
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問題解決力を高める「推論」の技術
問題解決力を高める「推論」の技術
著者
羽田康祐
出版社
フォレスト出版
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羽田康祐(はだ こうすけ)

株式会社朝日広告社ストラテジックプランニング部プランニングディレクター。産業能率大学院経営情報学研究科修了(MBA)。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース修了。外資系コンサルティングファームなどを経て現職。「外資系コンサルティングファームで培ったロジック」と「広告代理店で培った発想力」のハイブリッド思考を武器に、メーカー・金融・小売り等、幅広い業種のクライアントを支援。マーケティングやブランディング・ビジネス思考をテーマにしたブログ「Mission Driven Brand」を運営。ハンドルネームはk_bird。

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文責:松尾美里 (2020/04/02)

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