【対談】秋葉原の心療内科医に聞く、「生きづらさ」への処方箋
『NOを言える人になる』著者鈴木裕介さん

【対談】秋葉原の心療内科医に聞く、「生きづらさ」への処方箋

傍から見れば華々しいキャリアを歩んでいる人でも、内面には鬱屈した感情や「生きづらさ」を抱えながら、ギリギリの状態で生きている人が多いのではないか……。内科医、心療内科医という立場で多くのビジネスパーソンの診療をする鈴木裕介さんは、ビジネスパーソンが抱える心の内面の問題に深い課題意識を持っています。

鈴木さんは、内面にあるネガティブな感情を理解して、嫌なことには我慢せずにNOを言うということの重要性を、ご著書『NOを言える人になる』を通じて訴えかけています。

今回はVoicy「荒木博行のbook cafe」に鈴木さんをゲストとしてお招きし、同番組のパーソナリティであり、フライヤーのCOOである荒木と対談を行いました。その内容を記事としてお届けします。



評価軸が少ない生き方は未熟で脆弱だ

荒木博行:まずは鈴木さんのキャリアを教えてください。

鈴木裕介:現在は、秋葉原saveクリニックという内科、心療内科のクリニックを開業して院長をしています。、メンタルヘルスに興味を持つようになったきっかけは、研修医時代に近親者を自死で亡くしたことでした。当時は放射線科医だったのですが、内科への転向を経て医療機関向けのコンサルティングに転職し、そして自分で開業するというキャリアになります。医者としてはかなり不思議なキャリアなんですが、嫌なことにNOを言い続けた結果でもあるんです。

現在は、ビジネスパーソンに向けた診療をしており、秋葉原という土地柄、コンテンツ業界の方やアーティストの方も多くお越しになります。


荒木:具体的に現場ではどういった悩みを持つ方が来られることが多いのですか?

いろいろな方がいますが、とても優秀なのに自己肯定感が低い方が多いという印象です。一見するとキラキラしているのだけど、実は周囲からは見えない生きづらさのようなものを背負っているんですよね。

荒木:ご著書でも「DWD(だから私はダメなんだ)病」についてふれられていましたね。

鈴木:そうなんです。これは、自分で上げた成果を自分で認められない人のことをそう呼んでいます。目標とする会社や学校に入れても、もしくは目標を達成したとしても、「私がこんなところにいるのは場違いだ」というようなネガティブな解釈をしてしまう。その思考パターンから抜け出さない限りは、どれだけ努力を重ねても自分らしい生き方ができないんです。

そういう人は傾向として、周囲の人たちの期待や他人が「こうすべき」と決めたルールを背負い込んで、他者のニーズを満たすことを優先してしまって、自分を満たすことがおざなりになっている。でも、他人のニーズを完璧に満たしつづけることはできないので、どこかで破綻してしまうんですよね。だから、いつまで経っても自分を認められないまま。
キャリアの階段をのぼればのぼるほど、競争が激しくなり、他者からの期待値も高まっていく。だから、一つ間違うと誰でもこのループに入ってしまう危険性があります。
NOを言える人になる
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鈴木裕介
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荒木:なるほど。それは競争社会の弊害ともいえますね。社会が作った単一ルールの中で、いかに上に上がっていくかという戦いは、小学生の頃から植え付けられてきた競争原理でもあります。そして、そうしたいわゆる「偏差値社会」の延長にビジネスを位置付けてしまうわけです。つまり、どんな会社に入るか、どんな部署に配属になるか、その部署でどれだけ良い成績を残すか……。現在は、こうした他者が作ったルールの下で必死に生きるための維持コストに対し、リターンが見合わなくなっているように感じます。

鈴木:まさにそうですね。もちろん、所属するコミュニティの中で上に行けば行くほど安心を感じるというのは、自然な感情でしょう。ただ、何を良しとするのかという評価軸が1本とか2本しかないというのは、リスクを抱えた脆弱な生き方だと言えます。物量とか体力とか能力とか容姿とか、競争力の源泉になるものは全て、いずれは衰えていきます。そのような他人と交換可能な評価軸の下で勝ってきたことだけがアイデンティティになっている人にとっては、ある時期からはかなり生きづらくなってくるんだと思います。

荒木:評価軸といえば、クレイトン・クリステンセンの名著『イノベーション・オブ・ライフ』が思い浮かびました。この本の原題は、『How will you measure your life?』(=あなたの人生の尺度は何ですか?)なのですが、まさに私たちは自分なりの人生の尺度を問うべきなんですね。それを疑わずして、社会が決めた1つの尺度に沿って生きていることの儚さや危うさに気づくこと必要なのかもしれません。

鈴木:そうですね。さらに加えると、1つの軸で生きていると、コミュニケーションも排他的になりかねないんです。その唯一の判断軸だけで他者とのコミュニケーションのあり方を決めてしまうわけですから。そういう未熟な人とのコミュニケーションは辛いですよね。相手はどこかジャッジされているような気分になってしまう。たとえば、「あなたはお金を持っているから素敵ですよね」って言われたら、いくらそれが本当でも嫌じゃないですか。でも価値観の軸が単一の人は、平気でそうした態度を取ってしまう。

成熟した人間というのは、「価値基準が多様である」と言い換えることができると思っています。だからこそ、いろんな種類の良さに気づくことができる。「マーケティングができる」などと、その人の「機能的」な良さに気づける一方で、機能には表れてこないような「情緒的」な良さにも気づくこともできる。「この人、全くダメだけど面白いなぁ」などと、人間の「欠損」を愛する感情って誰しもあると思いますが、そういう歪な部分を受けいれあえたり、楽しめたりできるようになるといいですよね。

ラインオーバーに対してNOと言おう

荒木:著書には「ラインオーバー」という言葉もありました。価値観が単一になって人間関係の優劣がつくと、上の人が下の人のスペースに対し、ラインを超えて土足で入ってしまうみたいな状態が起きてしまうわけですよね。

鈴木:そうなんです。ラインオーバーをされたまま、窮屈な生き方をし続けている人が多いんですよね。だからこそ、まず他人から何かをされた時の不快感や悲しい感情に気づくことが必要だと思います。「その言い方は違うんじゃないか」とか「その内容には無条件に従いたくない」とか。そういった小さな違和感というのが、ラインオーバーのサインなんですよね。

そして、このラインオーバーの話は、実は会社組織以上に家族という場の人間関係に埋め込まれています。父親の酒癖が悪いとか、母親にヒステリーの傾向があるとか、家庭に安心がない場合だと、小さな子供が家庭を繋ぎ止める役割を担うケースがあります。こうなると、安全確保のために、気づかぬうちに子供の頃から人のニーズを満たすために生きることが常態化してしまうんですよね。それでは、自分よりも他者の価値基準を優先してしまい、自分の人生を楽しめなくなってしまう。華々しいキャリアの持ち主なのに自己肯定感が低い人というのは、そういう家庭的な背景が影響していることもよくあります。

荒木:そういう人こそ、この本のタイトルにあるように「NOを言う」ということが必要になるわけですね。

鈴木:おっしゃるとおりです。「NOを言う」というのは決して壁を作って生きろ、というわけではありません。ラインの内側は、自分だけが大事にできる領域だと意識して、その侵犯には厳しくNOと言う勇気を持つこと。これがあって初めて健全な人間関係が結べると思います。

荒木:NOを言わずにラインオーバーをされ続けた人は、どうなるのでしょうか。

鈴木:ラインオーバーをされ続けていると、人間は体調が悪くなるようにできています。片頭痛、喘息、胃痛、吐き気、めまい、そして会社に行く途中で涙が出たり気分が悪くなるといった症状が出てくる。嫌な上司がいる側の耳だけが聴こえなくなったというパターンもあります。
体感的には、頭痛が原因でクリニックを訪れる人の3人に1人くらいは、オーバーストレスによる症状ですね。胃痛の場合でも、メンタルストレスを背景にしている人の方が断然多いと感じます。
ですので、こういうちょっとした身体の自覚症状が表れたときには、無理をしないこと。そして、実は身体ではなく心にダメージがあるかもしれないと思いを巡らせることが大事だと思います。

自分が安心できる場所を確保しよう

荒木:「無理をしない」というのは、具体的にどうしたらよいのでしょうか?

鈴木:まずは「シンプルに休む」こと。そしてもう一つ大事なことは「遊ぶ」ことですね。
この「遊ぶ」ことって実は難しいんですよね。「適応障害なので、しっかり休んで、それからしっかり遊んでください」と患者さんに伝えても、「どうやって遊んだらいいんですか?」と聞き返されることも。自分が果たすべき役割を果たしていないという罪悪感が先立って、遊ぶことができない。そうなると休息によって体力は回復しても、精神的な回復までに至らないんです。だから、職場復帰してもすぐまたドロップアウトしてしまいます。

荒木:一方で、リーダーの立場に立つと、組織として歯を食いしばって耐える時もあると思います。組織にどこまでストイックさを求めるべきなのか。そのさじ加減はどう考えたらいいんでしょう?

鈴木:人間のキャラクターって実にさまざまなんですよね。だからキャラクターによりけりです。追い立てれば燃える「戦士タイプ」もいれば、他人が気づいていない部分にちゃんと気づけるような「魔法使いタイプ」の人もいる。リーダーはそうしたキャラクターを見極めることが大切です。

体育会系の組織では、魔法使いに棍棒を持たせて前線に送り込んだりすることがよくありますが、それは戦略の間違い。本当は前線と離れたところで魔法を使わせた方がいい。腕力だけでなく、すばしっこさや魔法の力のレベルなど、多様な価値判断ができると、多様な人が活躍でき、楽しいと感じられる組織ができるはずです。


荒木:この本の最後にはコンテンツは人を救う、というメッセージもありましたが。

鈴木:人間には誰もが楽になれる場所、安心できる場所が必要です。たとえば現実の人間関係がうまくいかなくても、小説の世界に逃げ込めるとか、ゲームに救われるとか。僕も過去にかなりキツい時がありましたが、その時にはロールプレイングゲームに救われました。

現実に向き合わずにコンテンツの世界に逃げることは、ネガティブに捉えられがち。ですが、逃げ込む場所とか自分を立て直す場所としてのコンテンツの価値は、もっと広く知られてもいいと思います。ツラい人にとってはコンテンツが唯一の逃げ場かもしれない。攻撃されない安全基地があるからこそ、外に一歩踏み出せることってありませんか。RPGにおける回復の拠点、いわば「セーブポイント」を一人ひとりがちゃんと持ってほしいなと思います。ちなみに、僕の「saveクリニック」の名前にもそんな意味を込めました。


荒木:メディア上には、「辛い時にどうやって課題を解決していったか」というマッチョでストイックなストーリーが多いですよね。でもマッチョの世界観には危険性もありますね。

鈴木:そうですね。戦士系だけでゲームは成り立たないですから。繊細で弱いと思われるところにこそ、豊かさの源泉があると思います。繊細さとクリエイティビティは表裏一体で、繊細だからこそ気づけるアイデアや出せる企画があったりするので。僕はそういう「弱さ」に可能性が開かれる世界のほうがいいなと思いますし、そういうことが活かされるマネジメントというのは、レベルが高いと思います。

この本を読んでいただいたことが、欠損を抱えた自分の「おかしみ」をポジティブに認められるきっかけになってくれたら嬉しいですね。完璧な人間なんて面白くありませんから。
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鈴木裕介
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※本内容は、Voicyでも放送されています。対談の音声のリンクはこちらから。

プロフィール:

鈴木 裕介(すずき ゆうすけ)

内科医・心療内科医。2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。また、研修医時代の近親者の自死をきっかけとし、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動や講演、SNSでの情報発信を積極的に行っている。NPO法人soarなど複数の組織の産業医も務め、メンタルヘルス対策に務める。2020年1月に初の単著「NOと言える人になる〜他人のルールに縛られず、自分のルールで生きる方法〜」をアスコム社より出版。同年4月に著書「メンタル・クエスト〜心のHPが0になりそうな自分を楽にする本〜」を大和出版より発売予定。ゲーム「スプラトゥーン2」を心から愛し、プレイ時間は2000時間超。

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