「コロナ期」になぜ「独学」が重要なのか?
野口悠紀雄流・読書術に迫る

「コロナ期」になぜ「独学」が重要なのか?

新型コロナウイルス感染予防により、外出もままならず戸惑いや不安を覚えている方も多いと思います。今後は、withコロナ時代の働き方を模索する必要が出てきています。

家で過ごす時間が増えたビジネスパーソンに向けて、「独学」の重要性を説くのが、経済学者の野口悠紀雄さん。野口さんは、経済学、英語、ファイナンス理論、仮想通貨、人工知能など、さまざまなジャンルを独学でご自身のものにされてきた、独学の達人でもあります。ご自身の経験や著名な独学家たちの軌跡とともに、最強の勉強法を紹介したのが『「超」独学法』(KADOKAWA)です。

なぜ「独学」が大事になるのか。そして、効果的な独学を進めるためには、どうすればよいのでしょうか? 独学の基本といえる「読書」の効果的な方法についてもお聞きします。

「いる働き方」から「成果を出す働き方」へ

── テレワークや外出自粛が進むなか、企業活動も変化を余儀なくされています。「withコロナ時代」において、働き方はどのように変わっていくのでしょうか。

まず、多くの企業が在宅勤務に移行せざるをえない状況になりました。そこでわかったのは、在宅でもかなりの仕事ができるということです。しかも、満員電車で通勤する必要もありません。

もう1つ、より本質的な変化は、働き方に対する「考え方」が変わってきていること。これまで多くの日本企業には、「オフィスに人が集まらないと仕事ができない」という固定観念が根強くありました。資料を配って報告するだけの会議でも、会議室に出向いて「出席すること」が求められていた。しかし、すでに存在していたzoomのようなWEB会議ツールを使えば、わざわざ一堂に会さなくてもいい。必要なときに必要な話だけ、気軽に話し合えるわけです。これはかなり効率的で便利だと気づいた人が多いでしょう。

これまでテレワークへの反対意見として「社員の管理がしづらい」というのが多かった。しかし、単に上司が部下を呼んだときに、すぐ駆けつけてきてほしいだけ。つまり、仕事を「する」ことより、近くに「いる」ことが重視されてきた。管理職層は実際には成果のマネジメントをしていない。

もちろん、通信環境など、在宅で仕事ができる環境整備は必要ですが、今後は「いる働き方」から「成果を上げる働き方」へと変化が起きていく。これをコロナの問題が後押ししたわけです。コロナが収束した後も、この変化は1つの潮流となるでしょう。

── そうした変化に伴い、求められる人材像も変化しそうですね。

そのとおりです。成果で評価されるようになると、私たち一人ひとりが、もっと能動的に「どうしたら成果が上がるか」を考え、行動することが求められます。成果は中身があってはじめて出せるもの。これだけ変化の激しい時代には、何十年も前に学校教育で学んだ内容だけでは太刀打ちできません。新しいことを学び続けることは必須で、そのために重要なのが独学です。

現在は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、外出自粛が要請されています。家にばかりいて面白くないという声も聞きますが、考えを転換してみましょう。今こそ勉強をする絶好のチャンスです。そして、仕事に役立つ知識を身につけたり、自身の興味を深めたりするには、独学が一番効率的で効果的なのです。

「超」独学法
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野口悠紀雄
KADOKAWA
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著者
野口悠紀雄
出版社
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インターネットの発展で独学の優位性が増した

── 学校に通うのではなく、独学がよい理由は何でしょうか。

もちろん、学校に通うことが不要というわけではありません。小中高の基礎教育には、共同生活を通じて協調性を学ぶという目的がある。また大学も、人的交流によって同志を見つけられるなど、1カ所に集まる意味はあります。しかし、社会人になってからの勉強では、学ぶべき内容や条件、「何をどれだけ知ればよいか」が人によってさまざま。独学なら、自分に必要なことを重点的に勉強できます。

英語学習を例にとりましょう。英会話教室では、誰もが広く使える日常の会話表現は教えてもらえる。しかし、自分の仕事に直結する英語力はまず身につかないといっていい。仕事で必要なのは、その業界の専門用語。たとえば税金の専門家同士では、「税額控除」「累進課税」といった用語がわからないと話が成り立ちません。逆にいうと、専門用語を理解していれば、多少文法が違っても議論が成立するのです。

今はオンライン上に教材が実に豊富にあります。私が博士課程の留学後に英語でのプレゼンテーションを学んだときは、英語の音源がないので、米軍放送のニュース解説をカセットに録音して聞いていました。いまでは、グーグル翻訳の音声読み上げ機能を使えば、興味のある本がリスニング教材になってくれるわけです。このように、インターネットの発展で独学の優位性が増したといえます。

もちろん独学できる環境にある場合の話ですが、コロナが収束したときに、独学した人と独学してこなかった人とでは大きな差がつくと考えています。

── 独学のテーマを見つけるには、興味のアンテナを広く立てることが必要に感じます。おすすめの「テーマの見つけ方」はありますか。

これから何をしたいか次第ですね。もし新たな領域へ転職したいなら、その領域で高い専門性があるという「シグナル」が大事になります。私は大学4年生の頃、「経済学的な知識を持っている」ことの証明が必要だと考えました。それを獲得するには公務員試験を受けるのが一番よいと思い、経済職の公務員試験合格という「シグナル」を手にしました。これは若い頃には有効ですが、そうでなければ公認会計士のような資格試験もよいでしょう。大事なのは、何が自分のめざすキャリアのシグナルになるのかを見極めることです。

独学を継続させる最強の方法は「教える」こと

── 人生100年時代を迎え、新たに学び続ける必要性を感じているものの、「独学が継続できない」という課題をもつ方も少なくありません。私もその一人なのですが、先生やコーチがいない、切磋琢磨する仲間が身近にいないといった独学のデメリットを乗り越えるためのアイデアを教えてください。

勉強というと、先生やコーチが必要だと思いこんでいませんか? 実は何かを学ぶための最良の方法は、教えること。自分が学びたいテーマの先生になればいい。すぐに取り組めるのは、ブログを書くことです。たとえば簿記を勉強するならば、簿記講座のブログを開設し、自分が学んだことを整理して書いていく。人に読まれるわけですから、恥をかかないよう、ちゃんと正しいことを発信しようという意識が働く。何より読者から反応をもらえるとやる気が出ます。

人から反応をもらうことは、勉強の強力なインセンティブになります。それを象徴した事例は、独学で外国語を習得し、成功者にのぼりつめた考古学者ハインリッヒ・シュリーマン。彼はロシア語を学ぶ際、人を雇って、ロシア語の朗読を聞かせたといいます。お金を払って「教えを乞う」のではなく、「教えた」のです。独学というのは「一人で完結する」という意味ではないのです。

「読むべき部分は全体の2割」。野口流読書術とは?

── 『「超」独学法』の第7章では、独学の基本として読書を挙げていました。本の内容を血肉にするために、本の読み方で意識すると良い点は何でしょうか。

勉強のための読書の一歩は、その本の目次などを参考に、結論をおさえること。そして、自分が読むべきところを中心に読んでいくのが基本です。読む順番は自由でいいですし、もちろん読み飛ばしをしてもかまいません。

私は本を読む際、線を引いたり書き込んだりしています。そして、本の最初の余白に大事なページを書き込み、私なりの索引をつくる。そうすると、あとで読み返すときに重要箇所がすぐ参照できて便利です。

── 本のなかから読むべき部分をどう見極めていますか。

それに関しては、私がアメリカの大学院時代に実践していた、おすすめの方法があります。アメリカの大学院では、「1週間で厚い本を10冊読む」といった膨大なリーディングアサインメントが与えられることは珍しくありません。全部を読み切るのはまず不可能なので、図書館で本の地(本を立てたときに下側になる切り口)を眺めてみる。するとページが黒くなっている部分がありますね。そこが学生たちによく読まれている、最重要な部分といえます。たいていは、本全体の2割程度でしょう。そこを重点的に読めば、すべてを一様に読むよりもはるかに多くのことを効率よく学べます。

実は本の書き込みからも重要な情報を得られます。「ここが大事」「この記述はおかしい」といった書き込みから、私は著者と時空を越えて議論する切り口を学んできました。図書館の蔵書は先人たちによる「知の共有財産」なのです。

知識が増えると、好奇心の「連鎖過程」が生まれる

── 野口さんがこれまで読まれてきた数々の本のなかで、ご自身の価値観や信念に影響を与えた本は何でしょうか。ビジネスパーソンに特におすすめの本を教えてください。

やはりおすすめは古典です。私自身大きく影響を受けてきた本の一部は、新著『だから古典は面白い』(幻冬舎)にて紹介しています。何より聖書は説得術の最高の教科書。ドラッカーは50年読み継がれていますが、聖書は2000年以上読み継がれてきたのです。

そして組織のメカニズムについて学ぶなら、トルストイの『戦争と平和』を読むほうが、経営書を読むよりも効率的です。もっとも、カミュの『ペスト』、ツバイクの『人類の星の時間』など、おすすめの本がありすぎて、一冊の本には書ききれませんでした。

── 野口さんは子どもの頃にはどのような本に親しまれてきたのでしょう。

いまも印象に残っているのは、小学生のときに読んだ『海底二万里』という海洋冒険小説の名作古典です。最初この本のあらすじを知って、母親にねだったらダメだといわれて。私の母は戦争未亡人だったので経済的に余裕があるわけではなかった。ところが、翌朝目覚めると、枕元にこの本が置いてあった。

もう1つは、高校生のときに読んだ『宇宙戦争』。映画を見て、なんとしても原著を読みたいと思いました。当時は日本語の翻訳書もなく、丸善で原著を買って悪戦苦闘しながら読んだのを覚えています。

── 野口さんのnoteやご著書をお読みしていると、常に学ぶことを楽しんでいらっしゃるように感じました。

勉強の一番のインセンティブは「好奇心」です。シンプルに、面白いから勉強する。好奇心が広がらないという方もいますが、好奇心は、知識を増やすことで高めていけるのです。何かを学ぶと、その関連領域へと興味は加速度的に広がっていく。たとえば、メアリー・スチュアートを読めば、エリザベス女王にも興味をもつことになるでしょう。こんなふうに好奇心が自己増殖していくような「好奇心の連鎖過程」が人生を豊かにしてくれます。

── 最後に、野口さんのミッションを教えてください。

私は一人の伝道師(エバンジェリスト)として、信念を伝え続けたいと考えています。本を書いているのも、noteやTwitterといった様々なツールで発信しているのも、その一環です。私自身が学び続けて、「これが正しい」と考えたことを、多くの人々が認めてくれる日が来るようにと願っています。

「超」独学法
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野口悠紀雄
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プロフィール:

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『「超」独学法』(KADOKAWA)のほか、『情報の経済理論』(東洋経済新報社、日経・経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社、サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社、吉野作造賞)、『「超」整理法』(中公新書)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社、大川出版賞)。近著に『入門ビットコインとブロックチェーン』(PHPビジネス新書)、『「産業革命以前」の未来へ』(NHK出版新書)などベストセラー多数。

Twitterアカウント: @yukionoguchi10

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文責:松尾美里 (2020/05/04)

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