リモートワーク時代の「風呂敷畳み人」の流儀とは?
これからは「無茶ぶり」を畳んできた人が評価される時代になる

リモートワーク時代の「風呂敷畳み人」の流儀とは?

壮大なアイデアという大風呂敷を広げる経営者やリーダーが「広げ人」だとすれば、そのアイデアを形にして実行に移す人を「畳み人」と呼ぶことができます。幻冬舎の見城徹社長や編集者の箕輪厚介さんなどの大風呂敷を畳んできた、伝説の畳み人・設楽悠介さん。著書『「畳み人」という選択』(プレジデント社)では、その仕事術を余すことなく紹介しています。設楽さんは、ブロックチェーン専門メディア「あたらしい経済」の編集長や、幻冬舎の関連会社の取締役を複数兼務。やりたい仕事を次々に実現できているのは、畳み人としてキャリアを積んできた賜物だといいます。

いまの時代こそ畳み人が求められているといいますが、それはなぜなのでしょうか? リモートワークが求められるいま、畳み人として活躍するにはどんなスキルが必要となるのかについてお聞きしました。

ピーター・ティールの本を読んでも、「明日の仕事」は変わらない

── 『「畳み人」という選択』の執筆動機を教えていただけますか。

きっかけは、NewsPicksの野村高文さんとVoicyで「風呂敷畳み人ラジオ」を配信していたこと。ビジネスを実行に移すためのノウハウを発信していたら、おかげさまで多くの方に聴いていただいて人気番組になりました。そしてもっとこのコンテンツを多くのビジネスパーソンに届けたいと考えていたところ、ちょうどプレジデント社から書籍化のオファーをいただいたんです。

もともと課題意識として、売れているビジネス書のテーマが、経営者のイノベーションに関するものが多く、読者との距離がかなりあると感じていました。もちろん僕もそうしたビジネス書をよく読みます。たとえば、ペイパル・マフィアのドンといわれたピーター・ティールの『Zero to One』。これは非常に素晴らしい作品で僕の大好きな1冊です。堀江貴文さんの本もそう。勉強になるし、「俺もホリエモンになれるんじゃないか?」という気がしてくる(笑)。これらの作品を読み終わった後には、ジャッキー・チェンのカンフー映画を観たときのような高揚感があるんですよね。映画館を出る時にステップが軽快になるような。ところが、次の日会社に行くと、いままでと同じ現実が待っているだけ。本に書かれているように行動したいけど、なかなかすぐには覆せない常識や現実があるんです。

いまは「個としてスキルをつけろ」や「自分のブランドを見つけろ」などといわれる時代。そのためにTwitterやInstagramなどのSNSのフォロワーを増やそうと頑張っている人たちも多いのではないかと思います。そして、自分だけのタグを探している人も多い。そういったノウハウはネット上にあふれています。けれども、ノウハウで増やせるフォロワーはある程度限られていて、そこから思うようにいかないと焦ってくると思うんです。

でも当然ですが、今すごい個としてのスキルを持っている、ブランド人である人は、フォロワーが増えたからそうなったわけではないんです。さまざまなことをちゃんと実行して自分のスキルを高めていったから、結果としてフォロワーが増えたわけです。

だからこれからの個の時代においても、まず大事なのは、やるべきことを着実にやるといった、ビジネスの基本の積み重ね。それを「畳む技術」として伝えるビジネス書を書けば、経営者の成功談と読者の現状との間にある距離を埋められると考えたのです。

「畳み人」という選択
「畳み人」という選択
設楽悠介
プレジデント社
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「畳み人」という選択
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著者
設楽悠介
出版社
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── この「畳み人」という言葉に込められた意図は何でしょうか。

「畳み人」という呼び名は、幻冬舎の編集者、箕輪厚介くんが名づけたもの。ある対談で「なぜ箕輪さんは、『NewsPicksアカデミア』や他の新規事業をどんどん立ち上げられるんですか?」という質問に、箕輪くんがこう答えたのです。「それは設楽さんのおかげ。僕の広げた仕事の大風呂敷を畳んでくれる、設楽さんは畳み人ですよ」と。

最初は「変な呼ばれ方だな」と思いましたが、その後、僕が畳み人と呼ばれることが増えたんです。これまでリーダーのアイデアを実行に移す人は、「名参謀」や「No.2」などと表現されていましたが、畳み人という言葉にはフックがあると気づきました。

どんな仕事にも、突飛なアイデアを思いつく広げ人と、それを着実に実行する畳み人がいる。ビジネスシーンで脚光を浴びるのは広げ人が多いですが、もっと畳み人に光が当たるようになってほしい。同じくNewsPicksで上司からの無理難題を着実に実行に移していた畳み人の野村さんと「風呂敷畳み人ラジオ」をやることになったのも、そんな願いがあったからなんです。

なぜ、いま、畳み人がますます求められるのか?

── 本書では、いまの時代にこそ畳み人が求められているとありましたが、その理由は何でしょうか。

もちろん、これまでも企業やプロジェクトの成功の裏には、広げ人と畳み人がいました。ただし、現在はテクノロジーの発展で「業界の壁」が溶けてきて、仕事も多様化しています。IT企業がメディア事業に参入することもあれば、レガシーなメディア企業がIT事業に参入することもある。たとえば、僕のいる出版業界でも、紙の本を出すだけの仕事をしている出版社はおそらく今後サバイバルしていけなくなるでしょう。

そしてビジネスのサイクルが非常に速くなり、さまざまな業界の企業が、さまざまなサービスをアジャイルで広げていくようになってきています。こうした世の中では、事業やプロジェクトベースで、組織を柔軟に組成したり解体したりして、人材の流動化が進んでいくわけです。

そうなると、どの業界でも、スピーディーにアイデアを生んで実行に移せる企業が強い時代になる。要は、昔に比べて、企業はどんどん手数を増やさないといけない。そしてそのアイデアの数だけ、ちゃんとそれを実行に移せる畳み人が必要になります。だからこれからは、畳み人のノウハウがますます重宝されるようになるんです。

また今後は、AIや機械も「働き手」の一つとなり、人と機械を織り交ぜたチームを組成して、戦っていくようになると思います。そういったチームを設計し、動かしていける人材が重要になるでしょう。これはまさに畳み人なんです。

── これまで設楽さんが「一流の畳み人」だと思った方はいますか。

究極の畳み人だと思ったのは、『PIXAR ピクサー』の著者、ローレンス・レビー。スティーブ・ジョブズと二人三脚でピクサーを立て直し、世界一のアニメーションスタジオに仕立てあげた人物です。本書はローレンスの回想録ですが、読んでいて3回も彼に共感して泣いてしまうくらい、まさに畳み人のストーリーでした。

ジョブズは、「トイ・ストーリー」を世に出す前は、現場から嫌われていました。そこにローレンスが加わり、ジョブズのよき理解者であり続けながら、ジョブズと現場とのかけ橋になった。これが奏功して、ピクサーは一致団結。ディズニーとの契約を対等なものに戻すことができた。成功の秘訣は、広げ人と畳み人の役割を切り分けたこと。ジョブズはローレンスのおかげで人間的に成熟しましたし、その後iPhoneの大ヒットを生み出せたのは、ローレンスがいたからではないかと思うくらいです。

PIXAR ピクサー
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ローレンス・レビー,井口耕二(訳)
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ローレンス・レビー 井口耕二(訳)
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家入一真さんの「印税を50%に」という大風呂敷をどう畳んだのか?

── 設楽さんがこれまで出会ってきた広げ人のなかで、「ありえない!」と思ったエピソードを教えていただけますか。

最近印象に残ったのは、幻冬舎とCAMPFIREとの合弁会社エクソダスでのエピソード。エクソダスは、「出版の民主化」を目標に掲げ、クラウドファンディング出版を行う会社です。いままで本を出すには、その著者が出版社から注目されないといけなかった。そして全国に流通させるには、一定数の読者が見込めるよう、「売れる本」に仕立てる必要がありました。ですが、対象読者は100人、200人と少人数だけれども、大事な思想や技術を残す本にも意義があるわけです。

そのとき、 CAMPFIREの代表でもある家入一真さんが、こんな大風呂敷を広げたんです。「出版の常識を変えたい。それなら著者の取り分となる印税を50%にしよう、そうすれば大量に流通されなくても著者も満足できる収益が得られるし、小ロットでも必要な本が世に出せるようになる」と。

出版印税の相場といえば10%程度。「これは広げたな」と思いましたが、家入さんは50%のインパクトに酔いしれてしまった。たしかに出版の民主化という理想に近づくためには、印税50%は理にかなっているのではないか。それならもう何としてでも実現するしかないなと(笑)。

── 設楽さんは、その大風呂敷をどう畳んでいったのでしょうか。

そもそも印税の相場がなぜ10%なのかを考えました。出版社側からすると、これは、売れるかどうかわからない本へのリスクヘッジも兼ねた計算なわけです。その点、クラウドファンディングなら事前に見込み読者数がわかるので、その分を印税に反映できると踏みました。

そこから、印税50%でも成り立つモデルをどう組み立てるか、奔走の日々でした。人件費が最小限になるよう、幻冬舎を通さずに、独自で手を組んでいただけそうな印刷会社を何社か探し、相談しにいきました。すると、そのなかの1社が協力してくださることになり、調整を重ねた結果、印刷費用を大幅に削減できました。そして印刷費用以外にも、今まで出版社で働いていた経験から、本来は削減できるだろうと日々考えていた出版に関わるコストを圧縮していき、印税50%が可能なスキームをつくることができました。

── こうした「無茶ぶり」をうまく畳むために意識していることは何ですか。

大事なことは選択肢をたくさん出すことです。無理な相談をされたときに、できない理由ではなく、実行可能な選択肢を考えてみる。3つくらい考えると満足しがちですが、そこからさらに2つ考えるくせをつけるといいですよ。

役立つのは日々のニュース。「国が行うべきコロナ対策とは?」というテーマなら、マスクを配る、助成金を出すなどと、実現する方法を自分事化して考えてみる。取引先のところに行く際も、移動のルートを複数考えてみるとか。これを習慣化しておくと、仕事にも活きてきます。

リモートワーク時代には「仕事の評価軸」が変わる

── 現在、新型コロナウイルスの感染予防から、都市部を中心にリモートワークを推奨・義務化する動きが出ています。リモートワークの環境下でも、広げ人の意図をうまく翻訳し、現場の人たちを巻き込むには、畳み人にこれまでとは違ったスキルが求められると思うのですが、設楽さんのお考えをお聞きしたいです。

実はそのテーマに関して「なるほど」と思った話を、オンラインアシスタントサービスを提供するキャスターの取締役、石倉秀明さんから聞いたばかりなんです。それは「リモートワーク時代では、仕事の評価軸が変わる」ということ。キャスターは600名近くの社員がほぼ全員リモートワーク。そんなリモートワークのマネジメントの大先輩である石倉さんの言葉を聞いて、手前味噌ながら「これってまさに畳み人じゃないか」と思ったわけです。

日本企業の多くでは、時間に対し給与が支払われる発想が根強く残っていた。長時間オフィスで働いている人が評価されるところがありました。しかし、個々人が別の場所で働くようになると、仕事のプロセスが見えなくなる。すると、メンバーの動きが見えにくいなかでも、きちんとコミュニケーションを図り、仕事の進捗を管理して進めていける人が高く評価されるようになります。

要するに、「ちゃんと仕事を実行できる人の評価が上がる」と石倉さんはおっしゃっていました。ある意味、フェアな成果主義になるといえるでしょう。

こんなふうに自分の役割をしっかり果たせる人の評価が上がると、ビジネスの基礎といえる「畳む技術」がますます重要になる。逆にいうと、これまで社内営業やアピールでうまくやってきたような「雰囲気社員」は淘汰されてしまう。どんな働き方であれ、こうした評価軸が今後のスタンダードになると思っています。

あとは、今回のコロナ対策によって、遠隔でも多様なメンバーがチームを組んで仕事を進められることに、多くの企業が気づいていきます。すると、色々な制約で「週5オフィスに出社してフルタイムで働く」ことは難しかった方も働けるようになる。たとえば、主婦(主夫)の方も、これからどんどんリモートでチームに参加できるようになるかもしれません。

僕は、主婦(主夫)の方々は、めちゃくちゃ優秀な畳み人であることが多いと思っているんです。家事や育児に関するマルチタスクを効率的に日々実行できるのは、ものすごいスキルです。そういった方も加わった、柔軟で多様なチームをつくって仕事を動かしていける企業が強くなっていくと思います。

── 最後に、設楽さんの今後のビジョンを教えてください。

1つは、畳み人の活動に光が当たるように発信を続けること。大企業からスタートアップまで、さまざまな経営者層に畳み人の意義が広がれば、日本のビジネスの効率が上がっていくと思います。また、若手のビジネスパーソンには、「20代のうちにアイデアを実行に移す経験を積めば、30代でやりたいことができる」というメッセージを啓蒙し続けたいと思っています。

もう1つは、ブロックチェーン専門メディア「あたらしい経済」で、世界に向けて日本の取り組みを発信していくこと。ブロックチェーンに関する海外の情報は日本にも数多く入ってくるのに、逆の動きはまだまだ。そこでまずは、日本のブロックチェーンに関する取り組みを世界に届けていきたいですね。

「畳み人」という選択
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設楽悠介
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「畳み人」という選択
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プロフィール:

設楽悠介(しだら ゆうすけ)

株式会社幻冬舎編集本部コンテンツビジネス局局次長/あたらしい経済編集長

1979年生まれ。明治学院大学法学部卒。マイナビを経て、幻冬舎に入社。同社でコンテンツビジネス局を立ち上げ、電子書籍事業・WEBメディア事業・コンテンツマーケティング・新規事業等を担当。仮想通貨・ブロックチェーンに特化したメディアプロジェクト「あたらしい経済」を創刊し編集長に。マンガ出版の幻冬舎コミックス、CAMPFIRE との合弁会社エクソダス、その他関連企業の取締役を複数社兼務。またエン・ジャパンの新規事業「pasture」のアドバイザーも務める。個人としてNewsPicks 野村高文氏とのビジネスユニット「風呂敷畳み人」を組み、Voicy で「風呂敷畳み人ラジオ」の配信や「風呂敷畳み人サロン」など、数々のビジネスコンテンツを発信。イベント登壇やメディア出演も多数。またサウナ好きがこうじて「サウナサロン」も主宰。著書に『「畳み人」という選択 「本当にやりたいこと」ができるようになる働き方の教科書』(プレジデント社)。

ツイッター: https://twitter.com/ysksdr

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文責:松尾美里 (2020/05/15)

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