戦略コンサルタントが語る、いま知るべき「働き方の潮流」
これからの時代の働き方、「フューチャーワーク」とは?

戦略コンサルタントが語る、いま知るべき「働き方の潮流」

この5年以内に働き方が大きく変わる――。そう語るのは、戦略コンサルタントとして長年活躍され、『フューチャーワーク』(河出書房新社)を上梓された高砂哲男さんです。

これからのビジネスパーソンは、「深層思考」「業務最適化」「自己理解」「パートナー」「汎用スキル」という5つのスキルが求められるといいます。ニューノーマルの時代に、生涯にわたって自分の価値を高め、高い成果を出し続けるための秘訣とは何なのでしょうか?

企業変革の重要なドライバーは「個人の変革」にある

── ご著書『フューチャーワーク』を執筆された背景は何でしたか。

この5年以内に、私たちの働き方が劇的に変わると予測しています。しかし、ビジネスパーソンの多くが、その変化の速さに対応しきれていないのではないか。長年コンサルタントとして企業変革に携わるなかで、そんな強い危機感がありました。

企業の変革のドライバーには、次の3つがあります。それはリーダーシップ、会社全体を動かす仕組み、そして個人(社員)です。なかでも今後いっそう重要になるのが「個人(社員)」です。

── 個人の変革がカギとなる理由は何でしょうか。

どんなによい戦略を立て、トップが本腰を入れて企業を変革しようとしても、企業を支える個人が変わらなければ、戦略通りに進まないためです。「失われた20年」を経ても日本企業がなかなか変われない原因も、そこにあるのではないかと考えています。

90年代までは企業が成長していたため、個人も自然と新しいことに取り組めていました。仕事のやり方をそこまで工夫しなくてもよく、決められたことをこなしていけば成長が望めました。ところが、企業の成長が鈍化していくと、短期間で高いレベルの成果を上げられるよう、仕事の「やり方」自体のアップデートが求められます。すると、そうした変化に対応できるかどうかで、デキる社員とデキない社員の差が歴然となっていく。

この差を生むのは能力の格差ではなく、やる気の格差にあります。やる気の格差をなくし、個人が2倍の成果を出すためには、どんな企業でも活かせる能力・スキルを高め、アウトプットと付加価値を大きくしなければなりません。その具体的な方法を書いたのが『フューチャーワーク』なのです。

フューチャーワーク
フューチャーワーク
高砂哲男
河出書房新社
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フューチャーワーク
フューチャーワーク
著者
高砂哲男
出版社
河出書房新社
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これからは本当の「成果主義」の時代へ

── ビジネスパーソンがおさえておくべき「働き方の潮流」を教えてください。

つきつめると、「新しい成果主義」の時代になるのが一番の変化でしょう。一時期、成果主義が流行りましたが、「日本の企業風土には合わない」という声が多かった。それは成果主義自体が間違っていたからではありません。本質的な課題は、「一社の中だけでキャリアを積むこと」が前提になっていたためです。

一社の中での成果主義だと、社内の人間同士で比較され、相対評価になってしまう。ところが今後は、プロジェクト型ジョブが増え、一社にとらわれずに働くことが一般的になっていく。すると、限られたインプットで最大のアウトプットを出す人が、絶対評価によってますますフェアに評価されるようになります。本来の成果主義というのは、「どんな職場でも成果を出せる人が評価される」という意味であって、これがフューチャーワークのベースだといえます。

もちろん、トップレベルの人材だけが高く評価されればいいわけではありません。みんなが少しずつスキルアップして成果を上げられるようになり、全体の底上げをしていくことが、日本の社会全体の成長につながっていくと考えています。

いま、私たちが組むべきビジネスパートナーとは?

── 本書の5つのスキルのなかでも「チームワークからパートナーへ」という変化が印象的でした。この変化は具体的にどのようなものでしょうか。

規模の拡大と効率化をめざしていた時代は、「一対多」の関わり方が重要でした。だから、一人のリーダーが多くの部下を動かすなど、チームワークが求められたのです。もちろんそれは今も大事ですが、今後は多様性を前提とした「一対一」の関わりがますます重要になります。そして、向き合っている個人との「一対一」の積み重ねが「一対多」になる。このトレンドを「チームワークからパートナーへ」と表現しました。

この変化がなぜ起きているのか。規模拡大をひたすら追っていた時代には、全体最適が優先でした。個人の意見はある種犠牲となり、異質な人は排除されてしまっていたといっていいでしょう。しかし現在は、事業を成功させるには、個々人の多様な意見を尊重し、活かしていく必要があります。「一対一」の関係性に目を向けると、効率性は若干下がる可能性が高いですが、その分付加価値が高まるのでよしとされるのです。

── そうした状況では、社内外でどんなパートナーを見つけるとよいのでしょうか。

もつべきビジネスパートナーは3種類あると考えています。「自分の業務に関係する領域の知識やスキルが豊富な人」「強いスキルが自分と正反対の人」「自分の強み・弱みを客観的に指摘してくれる人」です。とりわけ異質性を補完するために、2つめの「強いスキルが自分と正反対の人」とパートナーを組むとよいでしょう。そのために出発点となるのは、自分の強み・弱みを認識することです。

── パートナーとの信頼関係を築くために必要なことは何ですか。

それは、『フューチャーワーク』でも紹介した「センシティビティ・サイクル」を高めることです。自分とは異なる個性をもつ人とパートナーになるには、センシティビティ(感受性)を磨いて、相手を深く理解するのが一番。そして相手の求める行動を先回りすることで、信頼を勝ち取り、結果的に多くの人が味方になってくれます。

センシティビティを磨くことと同じくらい大事なのは、自身の発言と行動の一貫性を保つことです。これからは、一社の中での出世や社内政治にこだわらなくて済むようになります。すると、優秀だが人間的に問題のある上司に渋々従う必要もなく、人間性が優れている人と働きたいという感情に素直になれる。

パートナーシップの核となるのは信頼です。そのため、首尾一貫した言動ができる人がますます信頼され、よいパートナーに恵まれるようになります。

フューチャーワーク実践のカギは「自分事化」にある

── 従来のメンバーシップ型の働き方が中心で、比較的その業種・企業内固有のスキルや経験が積みあがるような職種に就いていても、フューチャーワークを実現していくために、個人が具体的に取り組むとよいことは何でしょうか。

おすすめは、目の前の業務を「自分事化」することです。まずは日々の業務で培ったスキルを洗い出してみてください。そのうえで、「他の仕事に活かせることは?」「いま使っているスキルを他のシーンでも転用できるか?」と考えてみるのです。あるいは、他の職種の人の仕事との共通性を探してみるのもよいでしょう。そうするうちに、固有性の高いスキルを、どんな会社でも活用でき、再現性のある「汎用スキル」に転換していくことができます。

「いまはやりたくない仕事を嫌々やっている」という人もいるでしょう。ですが、「やりたい仕事に活かせる学びは必ずある」という発想で臨めば、目の前の仕事が楽しくなるはずです。こうして自分のスキルを可視化し、転用することを継続していれば、思考力が鍛えられ、必ず将来差がつきます。

国家最大プロジェクト・キューバ危機回避から学ぶ、意思決定の本質

── 高砂さんご自身がこれまで読んだ本のなかで、「フューチャーワーク」を実現するのに役立ったご本、仕事観に影響を与えた本は何でしょうか。

フューチャーワークの執筆にも影響を与えているのが、政治学の名著、『決定の本質 キューバ・ミサイル危機の分析』です。政治学者で著者のグレアム・アリソン氏が、事件勃発から危機回避までの米ソ首脳の政治的意思決定を明らかにしていく傑作です。

彼はキューバ・ミサイル危機を間一髪で回避できた理由について、3つの視点で分析しています。1つ目は、問題を客観的に認識し、国家目標の優先度に応じて、最適な政策を決定していく「合理的アクター」のモデル。2つ目は、国家ではなくさまざまな政府組織が組織的なルーティンに則って政策を決定していく「組織行動」のモデル。そして3つ目は、組織内の役職者同士の駆け引きの結果として政策が決まっていく「政府内政治」のモデルです。アリソン氏は、このうち2つ目と3つ目のモデルに焦点を当てています。

衝撃的だったのは、国家最大レベルの意思決定ですら、組織内政治や個人のエゴのような非合理的なファクターが大きく影響するという点でした。この事実は企業組織内の意思決定にもあてはまります。正論だけでは組織は回らない。企業変革においても、「非合理的なものが影響することは自然」ととらえて行動しないといけないという学びを得ました。これが私の意思決定の仕方にもつながっています。

キューバ危機とフューチャーワークというと、関連がなさそうに見えます。ですが、実はこの読書自体が「自分事化して転用する」事例なのです。軍事の話も、自分のおかれている状況に置き換えてみるとどんなことがいえるか。そう考えることで、汎用スキル獲得の機会になります。

近年、ビジネスパーソンがリベラルアーツに注目しているのも、ビジネスにも汎用的に活用できるネタに満ちているからではないでしょうか。哲学や歴史、美術などからも、汎用性の高い知識を増やしていくことが可能なのです。

── フライヤーでは「ビジネスワークアウト」というコンセプトを広めようとしています。筋トレと同じく、「知的筋力」を鍛える時間をとり、学びを習慣化しようという提案です。そこで著者さまの「私のビジネスワークアウト」をお尋ねしております。高砂さんが日々新たな学びを得るために習慣にされていることについて教えていただけますか。

汎用化できそうだと思った考えや内容を書き溜めて、見返すことです。スマホでも紙のノートでも付箋をつけるのでもいいので、「これはフレームワークとして他にも適用できそうだな」などと、思いついたことを書き溜めていく。そして一定期間経ってから検索したり、企画をたてるときに見直したりすると、メモの内容が応用しやすくなります。あえてメモの内容とは全く異なるテーマについて考えるときに、何かつなげられないかなと考えてみる。そうすると独創的な発想が生まれやすくなります。

── 最後に、高砂さんの今後のビジョンを教えてください。

この10年ほどの間は、自社だけでなく企業のトレーニング講師を務めるなど、人材育成に重きを置いてきました。それは、個人のスキル変革を基点に日本経済の好循環サイクルを生み出していきたいという使命感からです。若手の人材が今後の事業の中核を担っていくようになるなかで、みんなが今よりも高いモチベーションをもてるよう、ボトムアップ的に全体の成果の底上げに寄与できたらいいですね。

フューチャーワーク
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高砂哲男
河出書房新社
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フューチャーワーク
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著者
高砂哲男
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プロフィール:

高砂哲男(たかさご てつお)

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 パートナー。慶應義塾大学法学部卒。大手エレクトロニクス企業、外資系コンサルティングファーム戦略部門パートナーを経て、現職。18年にわたり企業変革、事業変革、人材変革、M&A等のコンサルティングに従事する他、大手事業会社に二度出向し、ハンズオンで企業変革を支援した経験も有する。現在はデロイト トーマツ コンサルティングにて、オペレーショントランスフォーメーションの日本リーダーを務め、「人材価値の変革とそれを支える企業の仕組み変革が日本企業再成長の鍵」との信念の下、企業と人材の変革を、戦略策定から仕組み作り・実行までEnd to End で支援している。新聞・雑誌・ネット媒体への寄稿も多数。

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文責:松尾美里 (2020/09/04)

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