
コロナショックの今だからこそ、新しい働き方のガイドラインが必要だ。そんな想いからスタートした澤円さんの最新刊『個人力』は、ありたい自分のまま人生を楽しんでいいのだと、働くすべての人を力強く後押ししてくれます。flierで公開された要約は、公開週の人気要約ランキング1位に。 そんな話題の1冊の著者である澤さんご本人に、ボイスメディア「Voicy」で配信中の「荒木博行のbook cafe」にお越しいただき、『個人力』に込めた想いについてお伺いしました。本記事では、その様子を再構成してお届けします。

新型コロナウイルスの影響で生活が大きく変化して、そこで立ちすくんでしまっている人はたくさんいると思います。でも、だからこそ自分のやりたいことや、ありたい自分を明確に定義し、それに正直に生きることが重要です。
荒木: 新型コロナウイルスは様々な神話を解体しましたよね。今まであたりまえだと思っていたものを取り去った後に残るのが、「自分の人生で何をやりたいのか」という本質的な問いだったわけですね。そのうえで具体的な方法論として「Think(あたりまえを疑う)」、「Transform(常にアップデートする)」、「Collaborate(「個」として協働する)」の3つを挙げています。
僕の父は89歳で亡くなったのですが、大きな病気をすることもなく、証券会社で60歳の定年退職まで勤め上げました。旅行の選択肢も限られていた時代に、父は「会社の金であちこちに住める」と転勤族であることすら楽しんでいました。退職してからは月に2回ゴルフに行ってもお釣りが来るぐらいに年金が出ていて、父が亡くなった後には母にも遺族年金が出ている。これだけの手厚さがあるなら、会社に忠誠を尽くす価値があるというのも理解できます。
でも、今はもう、このような過去の成功体験をもとに考えることには無理がありますよね。それなのに日本の会社にまだ昭和から続く仕組みがひしめいていて、容易には転換されない。だったら、個人のマインドセットの方を変えていくしかありません。
荒木: ニーチェが『ツァラトゥストラ』で「神は死んだ」と言ったのに近いですね。あの時代、人々が神の力が弱まっていることを薄々認識していたところに、ニーチェがそれを明言し、個人が自立して生きることの重要性を説いた。今も、「 会社支配は死んだ」と認識して、マインドセットを切り替えるべきタイミングなのかもしれないですね。
澤: そうですね。これだけ情報発信の場が無数にあって、個人の考えを発信していい時代になっているのに、なぜかみんな「働く」ことを考えるときには昭和から続く「伝統芸能」に身を委ねてしまう。僕はこれに「なぜ」と疑問を投げかけたい。
相談や受けたり、メンタリングを提供したりしていると、相手から「あたりまえ」「普通」「常識」という言葉出てくることがあります。僕は、これらは思考停止を引き起こすワードだと思っているんです。こうした文脈での「あたりまえ」には、明確な根拠や合理的な理由はないことがほとんどです。
「みんながそう言っている気がする」という「何となくの空気感」を強要されるのはおかしなことです。「空気」に自分を寄せるのではなく、「自分はこう思う」と「自分」を主語にしてアウトプットしていこうというのが僕の提案です。
荒木: 僕は、「体が抱く違和感に正直になる」というメッセージになるほどと思いました。これはものすごく大事ですね。たとえば、重たいダンベルを持って腕を上げ下ろしするのはしんどいけれど、この筋トレを通して望んでいる自分の姿に近づけるのだったら、「鍛える」ことになる。だけど、自分が求めていない重たいものを「とりあえずこれを持っておけ」と他人から押し付けられたとしたら、それは「我慢」を強要されているにすぎません。
自分はこれを望んでいない、わたしはこれが快適ではないと感じたら、そのダンベルは手放さなければいけない。そこで主語を「わたし」ではなく「会社」にしてしまったら、我慢してダンベルを持ち続けなければならないと思ってしまう。
荒木: 本当はやりたくないと思っていても、「みんな期待しているから」とふんわりした他人の期待を持ち出されると弱いという人は多いかもしれません。「みんなが」や「会社が」はよく聞くフレーズですが、結局はある一人の上司の意見だったりしますしね。今度は元に戻せない世界がやってきました。僕はこれをインターネット元年以来の「25年ぶりのリセットボタン」と呼んでいます。もう「働き方改革」と悠長なことを言っている場合ではない。今すぐにIT対応をして振る舞いを変えなければ、ビジネスパーソンとして価値を発揮できない世界に突入しました。
荒木: ITリテラシーのアップデートはこれまで避けてきた人が多い部分かもしれないですね。価値観をアップデートしていくこともこれからますます重要になりそうです。きっちりとした仕組みは新型コロナウイルスの前に屈服して、機能しなくなってしまった。だから、もっとふわふわとやわらかい生き方をみんなでできるようにしていった方が、結果的には全体が前向きにハッピーに進んでいくのではないかと思います。

わかりやすい例は漫画『ONE PIECE』のルフィです。ルフィは船長でリーダーだけど、周囲の人がルフィのように振る舞ったり、同じ価値観で考えたりしているわけではないですよね。それぞれまったく違う価値観を持った仲間たちが同じ船に乗って冒険をしている。あんなふうに「個」が立っている状態の仲間たちが集まっておもしろいことをする方が、ワクワクが持続するし、大きなパワーになるし、結果的にストーリーもおもしろくなる。
荒木:『ビジョナリー・カンパニー 2 飛躍の法則(原題:Good to Great)』という名著では「誰バス」という象徴的なキーワードがあります。つまり、会社をバスにたとえて、誰をバスに乗せるかを先に考えて、目的地を後から決める、ということ。普通は、目的地が先にあって、それに合うピースとしての人材をはめ込んでいきますよね。しかし、その考え方ではGoodにしかなれない。原題にある通り、Greatに至るにはみんなとの予期しない創発的なかけ算が必要だという考え方です。集められた人たちは、みんなそれぞれのストーリーが明確で、だからこそピースとして呼ばれたのではなく、世界観が合うから呼ばれたのだとわかる。こういったコラボレーションが企業の中でも生まれるのが理想的な状態ですよね。
澤: 本当はできるはずだと思うのですが、なぜか「個」よりも肩書きや会社の都合が前面に出てしまいがちですよね。
マイクロソフトに在籍していたときは、「競合」を意識しなければならなくて、僕はGoogle やAmazon の技術を語るってことはできませんでした。今はそういった制約を全部取り払って、テクノロジーについて語ることができる。この世に存在するすばらしいテクノロジーと、今の世の中をメッシュ状につなげることができるなとすごくワクワクしています。
荒木: これからの時代に重要な役割ですね。澤さんがこれからますます「個人力」を発揮されていくこと、そして本書を読んだ方が自分の「個人力」を発揮してくれることを楽しみにしたいと思います。

プロフィール:
澤円(さわ まどか)
株式会社圓窓代表取締役。1969年生まれ、千葉県出身。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報共有系コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年、マイクロソフトテクノロジーセンター・センター長に就任。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみ授与される、ビル・ゲイツの名を冠した賞を受賞した。2020年8月に退社。現在は、年間300回近くのプレゼンをこなすスペシャリストとしても知られる。ボイスメディア「Voicy」で配信する「澤円の深夜の福音ラジオ」も人気。著書には、『外資系エリートのシンプルな伝え方』(KADOKAWA)、『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1 プレゼン術』(ダイヤモンド社)、伊藤羊一氏との共著『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)などがある。