〈対談〉なぜ、いま攻めのCFOが求められているのか?
CFOというキャリアパスのすすめ

〈対談〉なぜ、いま攻めのCFOが求められているのか?

CFO(最高財務責任者)という言葉を聞いたとき、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。多くの方はCFOという役職について、「財務関係の業務を担う人」と、ぼんやり理解しているかと思います。

一般社団法人日本パートナーCFO協会代表理事を務め、先日出版され大きな反響を巻き起こした『中小・ベンチャー企業CFOの教科書』の著者である高森厚太郎さんは、そんなCFO像にはとどまらない、「攻めのCFO」像を提唱します。中小・ベンチャー企業において、CFOとはどのような存在なのでしょうか。そして、どうすればCFOとしてのキャリアを歩むことができるのでしょうか。

「今日を彩るボイスメディアVoicy」で公開されている番組「荒木博行のbook cafe」に、高森さんをゲストとしてお招きし、『中小・ベンチャー企業CFOの教科書』の内容や高森さんの展望についてお話を伺いました。その様子を再構成してお伝えします。



キャリアをどうピボット(方向転換)してきたか

CFOの教科書
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高森厚太郎
中央経済社
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著者
高森厚太郎
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荒木博行(以下、荒木):: 『中小・ベンチャー企業CFOの教科書』(以下、『CFOの教科書』)で提示されているCFO像は、新しいしおもしろいコンセプトですね。ぜひ多くの方にとってほしい一冊なのですが、ご執筆された高森さんとははたして何者なのか、そしてどういうきっかけで本書を書こうと思ったのか、簡単にお聞かせ願えますか。

高森厚太郎(以下、高森): 大学を出てから、最初は日本長期信用銀行(現在の新生銀行)で法人融資や不良債権回収を担当していました。その後留学(ハワイ)を挟んで29歳のときに社会人マネジメント教育のグロービスに移り、インターネットを使った教育サービスを立ち上げる立場になりました。

でも35歳を目の前にして、「どういう仕事で自分の旗を立てていきたいのか」を考え直したとき、映画のようなエンタメ領域に関わりたいと考えはじめて、デジタルハリウッド大学院に平日夜間通いました。そこで機会を得てUSENグループに移り、GYAO!の立ち上げやGAGAでの邦画製作、リーマンショック後は音楽子会社で著作権管理やM&Aに関わり、リストラが一段落というところで独立し、今にいたります。

荒木: いろいろなことをされてきましたね。そこからどうやって『CFOの教科書』を書くことになったのですか。

高森: 私のこだわりは「事業」と「マネジメント」というところにあって。たとえば最初の銀行では、事業を外から見る立場でした。一方でグロービスやUSENでは、自分で事業をつくり、内側から事業に関わりました。

30代は事業をどう立ち上げるのかをリードし、40代前後からは、マネジメントの立場から、事業をどう大きくするのかにシフトしてきました。『CFOの教科書』は、事業がどう動いているのかをある程度理解した上で、どうやって経営していくのかを語った一冊と言えます。

荒木: 高森さんのキャリアを伺っていると、ピボット(方向転換)のやり方がすごくおもしろいですね。一見するとふわふわしているように感じられるんですが、そこにはたしかな軸がある。

CFOが採用できない!

荒木: おそらくCFOという言葉に、距離感がある人は多いと思います。CFOってどのような仕事をする人なのでしょうか。『CFOの教科書』がフォーカスしている中小・ベンチャー企業のCFOや、「パートナーCFO®」という概念についてもお聞きしたいです。

高森: 一般的にCFOというと、一部上場企業とか、上場を目指すスタートアップのCFOが思い浮かぶのではないでしょうか。そこでの役割は資金調達やIPO(上場)が一般的ですが、中小・ベンチャー企業におけるCFOとは、経理や財務だけではありません。人事、総務、経営企画も含めた、バックオフィス全般のトップを指します。さらには経営メンバーの1人として、会社をどう成長させるのかの舵取りをするリーダーでもあります。

荒木: 『CFOの教科書』を読んでいると、一般的にはCFOがやることではない領域も、かなり仕事内容として含まれています。本書をご執筆されるにあたって、高森さんの課題意識はどこにありましたか。

高森: 独立・起業して、中小・ベンチャー企業に経営コンサルティングを5年以上やっているんですが、その間2年ほどベンチャー企業でNo.2、取締役をやっていたんです。私が入社した際は10人もいませんでしたが、在籍している間に社員は20名を超え、売上も倍以上に伸びました。

元々私はCOOとして参画していたので、「IPO目指す会社を経営していくにあたっては管理部門も重要」ということで、CFOを探していたんですが、なかなか「これ!」という人にマッチングできなくて。中小企業だと、あまり給料を払えない、でも管理系を中心に色んな仕事をしてほしい…となると、中小・ベンチャー企業でのCFO的な人を雇うのはなかなか難しい。でも会社の健全な成長のためには必要。「CFO的なことができる人の供給を増やさなければならない」と思ったのが、本書を書いたひとつの理由です。

もうひとつの理由は、管理担当が急に辞め、簿記二級持ったパートさんが一人という状況下で管理業務を回さないといけないということがあり、同社の後半はCFOを兼務していました。その経験から中小・ベンチャーだと、フルタイムのCFOはいらないなと。資金調達は毎月やらなきゃならないものでもありませんし、日々の経理や労務の仕事はルーティン的な業務で、社労士や税理士の方に任せられば大丈夫。そう考えたとき、CFO的な人は確かに必要なんですが、パートタイムで参画してもらうのが良い塩梅なのかなと思いました。

荒木: 先ほどご紹介した「パートナーCFO®」というのは、パートタイムでCFOができる人を派遣するというスキームでしょうか?

高森: CFOのノウハウは標準化できるものもありますし、一定の教育は必要です。だから今、私もそういうことをやっています。ですが、経営者という一つの会社を背負う人に相対する仕事なので、対抗できるのはサラリーマンでなく、個人で生きているプロフェッショナルかなということで、会社派遣ではなく、個人事業主として自分で見つけて、自分でデリバリーという形にしています。

荒木: 僕も高森さんにCFOについて相談したことがあって。紹介いただいて、たまたま良いCFOの方と巡り会えましたが、本当にいないんですよね。だから社会的意義はあると強く感じました。

ベンチャーに立ちはだかる「30人の壁」

荒木: もう少し本の中身に入りながら、話を深めていければと思います。『CFOの教科書』では、中小ベンチャー企業の経営の難しさが書かれています。経営者と言われている人たち、CxOの人たちが、どうやって手を組んでいかなければならないのかが書かれていて、ここは参考になるなあと。中小企業といってもいろいろなフェイズがあります。この本はどのフェイズの組織を想定して書かれているのでしょうか。

高森: 企業の成長は、5つのフェイズに分かれます。まず(1)「起業」のフェイズがあります。この時期は4,5人で、プロダクトづくりに励みます。次に(2)「事業化」のフェイズがあって、作ったプロダクトで黒字転換、売上でいうと数億規模を目指していきます。

事業化に目途がついたら、更なる成長を目指して、もっと人やお金を投入していく(3)「規模化」フェイズになります。この段階で組織は30人から50人になるんですが、ここから組織マネジメントの問題が大きくなってきます。中間管理職を設けていかないと、現場の日々の仕事がわからなくなるので。そうするとだんだん(4)「組織化」されていきますよね。

従業員100人ぐらいになると、粗利が10億ぐらいになっているのでマザーズ上場が狙えるようになります。そこまでは一本足経営が多いのですが、上場となると他にも成長ドライバーを…で、新規事業を始めたりM&Aをしたりして(5)「多角化」していきます。

そのなかでパートタイムのCFOが必要になってくるのは、「事業化」の後半から「規模化」の前半あたり、社員30人前後のタイミングです。私はいま、パートナーCFOというかたちで6社ほど面倒見ていて、従業員数が10人前後の会社もあれば、100人超の会社もありますが、中間は30人前後の規模の会社です。

荒木: それぞれのフェイズで悩みは全然違うと思うんですが、「30人の壁」って大きいという気がしていて。それまでのフェイズだと、経営者のカリスマ的なところがある程度通用するんですが、そこから先は仕組みも考えていかないと、なかなかうまくいきません。

高森: おっしゃるとおりで、「事業的には目処がついているんだけど、組織的なところで問題があって、結果的に従業員の数が半分ぐらいになってしまった」、いわゆる組織崩壊が起こったのはベンチャーあるある話です。当然、上場していく会社は、その壁を乗り越えていかなければなりません。

CFOに求められる条件

荒木: 中小・ベンチャーのCFOに求められるスキルとは何なのでしょうか?

高森: 中小・ベンチャーの経営の仕事には、「理念・戦略」「実務監督」「リソース調達・配分」「エグゼクティブ渉外」の4つあると考えています。この中でCFOが主に役割を持つ範囲はリソースの調達と配分です。本の中では、その役割を8つに細分化して解説しています。

まず、人とお金の前提になる管理のところで、CEOがやることをアシストします。その全体像を押さえたうえで、どうやって資金調達して、それをどう会社のなかで使っていくのかを考えます。人の面でいえば、人材の採用や、どうやって人を組織の中で動かしていくのかというところも必要です。

あとは新規事業、エグジット(IPO、M&A)、事業承継・再生に関するところですね。今挙げたことについて、中小ベンチャーのCFOとして、全部できないといけないということではありませんが、少なくとも全部わからなければなりません。

荒木: そういう意味でいうと、中小・ベンチャー企業のCFOはいろいろなことをやらなきゃいけないわけで、育成というのが難しいという印象があります。CFOになるためには、どういう能力が必要になるのでしょうか?

高森: CFOというのは、事業そのものにタッチする立場じゃありません。実際に事業を動かしていくのは、CEOとかCOOだったりします。それでも事業のことはわからなくちゃいけないし、同時に投資家や銀行の窓口にならなきゃいけない。投資家や銀行は数字を介して見てくるので、数字に対するリテラシーは必要です。

あとマインドセット的なところでは、冷静さや論理性も重要になってきます。情熱を伝えるだけでは、外部の人からすると「あなたの会社は大丈夫?」となってしまいますから。

荒木: 僕はCFOについて、言語操作能力がすごく大事だと思っていて。というのも、幅広いステークホルダーと向き合わなければならないじゃないですか。外部に限らず、CEOやCOOといった経営チーム、それから現場のメンバーそれぞれに、適切なコミュニケーションを取らなければならないという。

高森: そうですね。管理部門というと「数字と格闘する」というイメージから、「対人のコミュニケーションスキルはそこまで重要じゃない」と思われるかもしれませんが、実際は数字以外のものと格闘することも多々あります。高度なヒューマンコミュニケーションが求められるのはそのとおりだと思います。

じつはCFOはなりやすい?

荒木: ここまで中小ベンチャーのCFOのスキルセットや、仕事内容をお聞きしました。最後に、経営に携わりたいと考えている人に対して、メッセージはありますか?

高森: CFOはなりやすいので、いいと思いますよ(笑) 経営メンバーでいうと、有名なのはCEO、COO、CFOというポジションですが、CEOは起業しないとなれません。アメリカだとCEOが交代するケースもありますが、日本の場合は創業者=CEOであることがほとんどなので、起業する気がなければ現実的には無いでしょうね。

「ではCOOは?」となるんですが、COOというのはひとつの事業を理解して、組織を動かしていく役割ですよね。多くの場合は、たまたま入った会社で、何かのエキスパートになって、そこでたまさか発揮できたマネジメント能力を買われて、請われてCOOになることが多く、「めぐり合わせ」的なところがあります。

その点でCFOは、何かひとつの事業を極める必要がありません。どんな業種でも管理の仕事は同じです。しかも管理部門は守備範囲広く、すべてを経験することは土台無理なので、CFOを請う側は例えば「財務、資金調達力を買うから、経理はいいや」、どこかの領域には目をつぶっています。

請われるCFOも、どこかの領域はマスターしておく必要があるけど、それ以外に関しては、「他の専門家にお願いすればいい」と割り切っているケースがほとんどです。そういう意味で、CFOはなりやすいと思います。ちゃんと専門性を伸ばして、ネットワークさえ築いていれば、なれるチャンスはあります。

荒木: 高森さんはパートナーCFOとして、パートタイムで6社と関わっています。まず声をかけてもらえるというのが凄いですね。

高森: CEOって、パートタイムじゃなかなかできないですよね。CEOになると、「自分の人生をその事業にかける」くらいの意気込みじゃないといけない。COOも、それぞれのメンバーに対して監督責任があるから、フルコミットが求められがちです。

でもCFOの場合、数字や管理業務プロセスなど見るべきところが決まっているので、やり方を工夫すればリモートでもパートタイムでも十分稼働できます。

荒木: 最後になりますが、高森さんが世の中に問いたいこと、こんなことを今考えているとかってありますか?

高森: 会社は常に課題を抱えています。成長していくうえでの成長のひずみ、たとえば「30人の壁」と言われているものもそうですし、創業間もないときの「死の谷」(お金がショートしてしまうこと)もそうです。こういうのって俯瞰してみると、「いまここに課題があって、ここにつまずいている」とわかるんですけど、渦中にいる人間はそれどころじゃありません。

でもそういう状況に詳しい人間が適切に助言なり行動なりすれば、そこまで苦労しなくても乗り越えることができます。だからこそ中小ベンチャーには、CFO的な存在が必要なんです。去年、一般社団法人を立ち上げたのも、「中小ベンチャーの成長をナビゲートする社外CFOのベースキャンプになれば」という想いがあります。


※本内容は、Voicyでも放送されています。対談の音声のリンクはこちらから。
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高森厚太郎(たかもり こうたろう)

一般社団法人日本パートナーCFO協会代表理事

東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画制作、動画配信、音楽出版)、Ed‐Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。

現在は数字とロジックで経営と現場をExitへナビゲートするベンチャーパートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングの傍ら、デジタルハリウッド大学大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務め、事業や個人のプロデュースに注力している。

中小企業診断士、事業再生士(CTP)、一級知的財産管理技能士(コンテンツ専門業務)

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文責:石渡翔 (2020/10/28)

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