なぜいま、「対話型マネジャー」が求められるのか?
【管理職必読】リモートチームの運営に効く1on1の本質

テレワークが広がり、メンバーとの対話の場として1on1ミーティング(1on1)がこれまで以上に注目されています。ですが「1on1が雑談に終わってしまう」「メンバーと信頼を築きながらも、メンバーの成長を促すには?」などと、試行錯誤している管理職・リーダー層も多いことでしょう。
そんなフライヤー読者の救世主的存在が『対話型マネジャー』(日本能率協会マネジメントセンター)です。著者で1on1ミーティング第一人者である世古詞一さんに、これからの時代の対話の極意についてお聞きします。
1on1は部下にとっての「クオリティータイム」であるべき
── 『対話型マネジャー』の執筆動機は何でしたか。
2017年に上梓した『シリコンバレー式 最強の育て方』では、1on1がなぜ組織で必要なのか、1on1のノウハウを提示しました。そこから3年の月日を経て、日本企業でも1on1が広まり、「対話は大事だよね」という雰囲気が醸成されてきたように感じます。ところが、「結局雑談になってしまい、対話の質が上がらない」といった悩みも増えています。本来なら1on1は、部下にとっての「クオリティータイム(高質で貴重な時間)」であるべきです。
ではこの課題にどうアプローチするといいのか。それを起点に、上司と部下が何をテーマに対話を始めればいいかをまとめたのが、「すり合わせ9ボックス」というフレームワークです。個人・業務・組織の3つのレベルに、「現在」「過去」「未来」という時間軸をかけあわせたものです。(図を参照)この9つのボックスを開けていくイメージで対話し、すり合わせて、つなげていく。こうした質の高い対話を続けていくための「型」を広げていくために、『対話型マネジャー』を執筆しました。



「業務以外のこと」を話す時間が減ると、薄れていく「会社への愛着」
── リモートワークでオンラインのコミュニケーションが主流になり、組織やチームで1on1を導入したというお話をよく耳にします。また社外のサポーターが1on1を行うYeLLなどのサービスも増えています。ますます1on1への注目が高まっている背景は何でしょうか。
まずシンプルに、オンラインコミュニケーションが常態化した職場では、「業務以外のこと」を話す時間が確実に減っていますよね。飲み会にもいけないですから。しかも、企業の多くはコスト削減・業務効率化に舵を切っている。これが続くと、個人同士のつながりや個人と組織とのつながりが希薄になってしまう。すると偶然の思いがけない発見、セレンディピティが減っていき、他部署の先輩後輩との「ナナメの関係」もできにくくなります。
会社への愛着は、突き詰めると「会社内の人をいかに知って、関係を築けているか」に起因します。そのため、この状況が続くと、会社への愛着が低下してしまう。それに対処するために、オンライン・オフラインを問わず実施できる1on1への注目が高まっているのです。

マネジャーはメンバーとともに「Why」を確認せよ
── 「部下にとって有意義な1on1にしたい」と思いながらも、1on1が業務の進捗確認になっており、メンバーの気づきやアクションを促せていないのでは、と悩むマネジャー層もいると思います。こうした背景下で、対話型マネジャーが果たすべき役割とは何でしょうか。
主に2つの役割があります。1つは「組織と個をつなぐ役割」です。組織のビジョンや仕事の意義といった「Why」を確認していくのです。オンライン中心だと、チャットツールでいくら説明していても、それを腹落ちさせる時間は減っているんですよね。だから組織のビジョンと目の前の自分のタスクのつながりも、体感しづらい。
そんななか、対話型マネジャーが担うべきなのは、「そもそもなぜこの業務をやっているか、知ってる?」などと部下に問いかけ、Whyを一緒に確認することです。もちろん部下側からも尋ねていけるとよいでしょう。こういう対話を通じて、1つ1つのタスク(点)がつながって線になり、面ができていきます。
そこで必要なのが、2つめの役割である「翻訳する役割」です。「経営者は朝令暮改が多い」といわれますよね。ですがよくよく経営者の話を聞くと、ミッションや長期的な戦略は変わっておらず、短期的な戦略や戦術を変えただけ、というケースは多々あります。マネジャーはそれを踏まえて、経営者の言葉を、部下が理解しやすい文脈で届けていく必要があります。
2つとも難しい役割ですから、マネジャーの難易度はこの数年で確実に上がっているんですよ。

「業務進捗」でなく「業務不安」にフォーカスせよ
── メンバーにもっと本音を話してもらい、有意義な1on1にするためのポイントはありますか。
1つめのポイントは、部下の不安や気持ち、考え方に焦点をあてることです。「あの案件、どうなってる?」という進捗確認は、実際には「部下の不安」でなく「上司の不安」を解消しているだけなんですよね。もし対話にするなら、「あの案件を進めていて困っていることや気になっていることはある?」などと尋ねるのがいいのです。
2つめのポイントは、マネジャーが「教える」のではなく「教えてもらう」という点です。唯一の正解がない時代においては、顧客や業界のことを一番よく知っているのは、現場の最前線にいる個々のメンバーです。そこでマネジャーは、うまくいっている人から秘訣を引き出すことが求められます。本人も「どんな工夫をしているの?」などと聞かれると純粋に嬉しいですよね。その秘訣を他のメンバーや他のチームに横展開していくことが必要です。こうして色々な専門性・経験をもった人たちからの知恵を共有し合える組織が、強い組織だといえます。
相手への興味を伴った問いかけが「気づき」を促す
── 世古さんは、対話が人材育成にもたらす効果とは何だとお考えですか。
メンバー自身が話すことで「気づき」を得られることが一番の効果ではないでしょうか。これは私がVOYAGE GROUP創業メンバーとして、25歳で営業部長になったときの経験からもいえることです。当時会社が急成長して、自分より営業力がある人や年上の人がどんどん部下になっていった。若くてマネジメント経験もなく、自信家でもない私に、当時の営業で主流だった「オレについてこい」式のマネジメントはできませんでした。
そこでNLP(神経言語プログラミング)やコーチングを学び、「メンバーが仕事を進めやすい環境づくりをしよう」と対話をとりいれていった。するとメンバーが自発的に考えるようになり、結果的に営業部としての成果も上がっていきました。
人を育てる対話のカギは「語り直し」にあります。たとえば、上司が部下にアドバイスをしたとしましょう。そのとき部下の「わかりました」で終わりにせず、「私は●●が大事だと思ったけれど、〇〇さんの言葉だとどう?」と尋ねてみる。そしてメンバー自身の言葉で語り直してもらうんです。そうすればメンバーのなかに気づきや当事者意識が生まれていく。本音がポロっと出てくるし、納得いかない点をすり合わせられるのです。
人は自分への興味を伴った問いを投げかけられてはじめて、モヤモヤが言語化でき内省が進みます。大事なのは「興味を伴った問いかどうか」。今のようにインタビューされるのも内省の機会になりますし、これこそが対話の人材育成にもたらす効果ではないでしょうか。

支援型リーダーの資質を学ぶのにおすすめの名著とは?
── 世古さんがこれまで対話のテーマで影響を受けた本を教えてください。
1冊目はリーダーシップの世界的名著である『サーバント・リーダー』です。権威と権力はどう違うのかといったことが対話形式で書かれていて、支援型リーダーの心構えや資質を学べます。21世紀型リーダーの要諦が詰まっているので、マネジャーにおすすめの一冊ですね。
2冊目は『自分の小さな「箱」から脱出する方法』です。本書では「自分が正しい」と思いこんでいる状態を、「箱に入っている」とたとえていますが、このメタファーが秀逸だなと。自分はいま「箱」に入っていないかどうか? そう問い直すことで「箱」から出て、自然体でリーダーシップを発揮しやすくなることを、本書から学びました。
これまで数多くの経営者やマネジャーにお会いしてきましたが、よいリーダーの共通項は「自然体であること」でした。相手のお話をフラットに聴いて、いいたいことを伝えているんですよ。私の著書『対話型マネジャー』も、そんなリーダーに近づくための対話を学ぶ一助になればと思います。


プロフィール:
世古詞一(せこ のりかず)
1973年生まれ。千葉県出身。組織人事コンサルタント。1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントの専門家。早稲田大学政治経済学部卒。 Great Place to Work® Institute Japanによる「働きがいのある会社」2015年、2016年、2017年中規模部門第一位の(株)VOYAGE GROUPの創業期より参画。営業本部長、人事本部長、子会社役員を務め、2008年独立。コーチング、エニアグラム、NLP、MBTI、EQ、ポジティブ心理学、マインドフルネス、ストレングスファインダー、アクションラーニングなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。個人の意識変革から、組織全体の改革までのサポートを行う。
著書に『シリコンバレー式最強の育て方―人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング―』(かんき出版)がある。