ピョートルさんに聞く、「パラダイムシフト」を自分軸で生きるには?
ポスト・コロナ時代に欠かせない「レジリエンス」という武器

コロナショックをきっかけとして既存のパラダイムに大激震が走りました。こうしたタイミングこそ、社会課題と向き合い、本質的な問いについて考えるチャンスである―――。
そう説くのが、ベストセラー『ニューエリート』の著者で、未来創造企業プロノイア・グループを率いるピョートル・フェリクス・グジバチさんです。新著『パラダイムシフト』(かんき出版)では、本質的な問いのもとに未来を切り拓く投資家、起業家、教育者など21名のインタビューが掲載されています。
私たちが直面しているパラダイムシフトとはどのようなものなのか? 危機的な状況においても、自分軸で生きられる人は何が違うのでしょうか。
「世界の問題」は「自分の問題」
── 最初に、現在起きている「パラダイムシフト」とはどのようなものか、教えていただけますか。
新型コロナウイルスの大流行を機に、これまで当たり前とされてきた認識、思想、そして社会的価値観がガラリと変化しています。環境問題、地政学的バランス、グローバル経済のあり方、働き方。これらの認識を問い直すように迫られているのが、私たちが直面するパラダイムシフトの本質です。
まず、これほどの感染スピードの速さは史上初でしょう。感染症の歴史をひもとくと、過去にもペストの大流行などが起きていました。当時は、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルからロンドンに感染が広がるまで数年がかかっていました。ところが、交通機関が発達した現代では、中国の武漢からわずか2、3か月で世界へ広がった。そこで、世界の仕組みと個人の生活がいかにつながっているかを実感した人も多いでしょう。つまり「世界の問題」は「自分の問題」なのです。
さらにいえば、政治や経済における新旧のパラダイムの対立・分断も激化しています。政治、経済に限らず、哲学、会社の風土など、人間がつくりだした概念にはいずれも新旧のパラダイムが存在し、相容れない面が生じてしまう。
このとき重要なのが、それらの橋渡しをする「止揚(アウフヘーベン)」という考え方です。一度否定したパラダイムを全面的に捨て去るのではなく、すでにあるパラダイムがもつ優れた要素を保存し、より高い次元で活かすということです。このアウフヘーベンには、本質的な問いを持ち続けることが欠かせない。それを伝えるために『パラダイムシフト』を執筆しました。

── 本書では、世界で活躍する投資家、経営者、教育者など、多様な方々にインタビューされています。この21人の方々はどんな基準で選ばれたのでしょうか。
共通項は、「自分軸」をもとに本質的な問いの探求を続けている点です。自分軸とは、自分の判断や行動の指針を意味します。自分軸をもっている人は、パラダイムの変化で一時的に軸がブレたとしても、しっかりと立て直すことができる。そして、冷静に自己と外部を認識する「心の余裕」があるからこそ、新しいパラダイムを自身の生き方に持ち込めているのでしょう。たとえば連続起業家・投資家として知られる孫泰蔵さんは、ご自身の事業だけでなく、哲学、アート、教育、働き方、都市のあり方などのつながりに目を向けて、未来に対する壮大なビジョンを描いていたのが印象的でした。
このように私が本質を追求する背景には、ポーランドで生まれ育った自分自身の過去があります。10代のとき、祖国の共産主義崩壊を目の当たりにしました。ポーランドの人々は自由を求めて資本主義へと移行した。それなのに実際には、効率化の名のもとに従業員が減らされる一方。私の村では失業率が100%近くに上昇し、生活は疲弊していきました。人々が求めていたのは、自由ではなく楽な生活だったのです。こんなふうに本質を突きつけられたことが、今回の執筆にも少なからず影響しているのかもしれません。


「ブレない自分軸」などない。大事なのは「レジリエンス」と「メタ認知」
── 本来「こうありたい」という願いがあっても、コロナショックにおいて、バイアスにとらわれたり、分断をあおる風潮に影響を受けたりしてしまう人も増えているかと思います。そうした状況下でも「ブレない自分軸」を見出すためにとりくむとよいことは何でしょうか。
そもそも「ブレない」ということが可能なのか、と疑ってみてもいいでしょう。誰でも感情に波が生じるし、判断がブレることだってある。大事なのは、すぐに立て直せるだけのレジリエンスを発揮することです。私は合気道をしていましたが、合気道の開祖である植芝盛平氏の動画を見ていると、外からの力で倒されてももとに戻る柔軟性に富んでいました。
ではレジリエンスを発揮させるにはどうしたらいいか。それは、「感情にのまれると求めている結果につながらない」と気づくことです。子育ての例をあげましょう。子どものために手料理をつくったのに、子どもは全然手をつけず遊んでばかり。思わず叱りたくなるかもしれない。けれども、本来求めている結果は、子どもに愛情を伝えること。それなら感情に任せて叱るのではなく、愛情が伝わる行動をとることが必要ですよね。
── 自分の置かれている現状と求めている成果とのつながりをメタ認知することが大事なのですね。
そうです。そのためには、自分をとりまくものについて、自ら「変えられるもの」と「変えられないもの」を区別しないといけません。
「変えられるもの」に関しては、心の余裕をつくることで、想像以上に多くの選択肢があることを自覚しやすくなります。そのうえで、現時点で最良と思える選択をし、その選択が自分と世界にどんな影響を及ぼすのか、思いを馳せるとよいですね。
一方、「変えられないもの」に対しては、いかにポジティブにリフレーミングできるかどうか。たとえば飲食店で働いていて休業を余儀なくされたとしたら、不安や喪失感などが渦巻くでしょう。そんな感情を認識したうえで、「対面以外の販売ルートを開拓するチャンスではないか」などと、現状をとらえ直してみるのです。

ポスト・コロナで、組織のあり方はどう変化するのか?
── パラダイムシフトを経て、組織のあり方はどのように変化するとお考えですか。
組織のあり方も、「そもそも自社は何のために存在するのか」という問いのもとに、ますます本質に近づいていきます。会社が存在する意義は、会社の成長ではなく、お客さまの成功。それを起点に、組織の規模もビジネスモデルも最適化するべきです。建設業のように大規模プロジェクトを手がけるなら、多くの従業員を抱えた大企業という形態がよいかもしれない。ですが、コンサルティングを手掛けるなら、プロジェクトベースで仲間を集めてもいいし、複業人材を巻き込んでもいい。長期雇用契約に縛られなくてもよいわけです。
また「オフィスは必要か不要か」という議論も活発化していますが、ホワイトカラーなら年に数回チームビルディングを対面で行えば、信頼を積み上げられる。あとはオンラインでのコミュニケーションでも協働できるはずです。物理的なオフィスとして意味があるのは、メンバー同士で楽しく交流できるスペースかもしれません。
個人は自分軸を問い直すことが求められるといいましたが、組織も同様です。自社のミッションは何なのか、メンバーに意味のある働き方を促せているのか。パラダイム大転換のいまこそ、振り返りのチャンスではないでしょうか。

人間関係構築の青写真になったのは、あの児童文学の名作
── ピョートルさんの人生観に影響を与えた本を教えていただけますか。
一冊あげるとしたら、小学生の頃に読んだ『クマのプーさん』(英: Winnie-the-Pooh)です。クマのぬいぐるみでハチミツ好きのプーと、森の仲間たちとの愉快な日常が描かれたイギリス児童文学の金字塔です。日本でもディズニーの映画などでおなじみですよね。プーは自分で「頭がよくない」というのですが、豚のピグレットや虎のティガーなど、個性的な仲間たちと真剣に向き合い、本質的な関係を築いているんです。最終的には、著者の息子がモデルとされるクリストファー・ロビンの成長とともに、少し悲しいエンディングを迎えます。私にとって人間関係を構築する際の青写真となった一冊です。
── ぜひ読んでみたいと思います! 最後に、フライヤーでは「ビジネスワークアウト」というコンセプトを提案しています。筋トレと同じく「知的筋力」を鍛える時間をとり、学びを習慣化しようという提案です。ピョートルさんが新しい学びを得るために習慣にされていることを教えていただけますか。
アンラーニング(学びほぐし)のために実行していることは多数ありますが、なかでも意識しているのは、「建設的な疑い」をもつことです。目の前の事象に対し、「本当にそうなの?」「この会話は何のためにあるのか?」と掘り下げていく。メンバーとの1on1でも、メンバーの希望に対し、Whyを問い続けることで、その人のめざす世界観が浮き彫りになっていきます。ポイントは、相手とラポールを築いておき、笑顔でチャーミングに問いかけること。そうすれば本質的な問いでも相手が受け止めやすくなりますよ。


ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社TimeLeap取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。ポーランド出身。
モルガン・スタンレーを経て、Googleでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。
ベストセラー『ニューエリート』(大和書房)ほか、『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『PLAY WORK』(PHP研究所)など著書多数。