250万部選手に聞く、ちゃんと考える人になるためのメモ術
アイデアの泉は「自分ごと」でつくる

これまで編集・執筆した本の累計発行部数は250万部以上。まさに売れる本の裏にこの人あり、というフリーランスの敏腕編集者・ライターである村本篤信さんが、初めての自著を刊行しました。
『ロジカルメモ』は、情報過多のこの時代において自分の考えを整理し、自分の軸をつくっていくためのノウハウであふれています。そのすべては、村本さんの「売れる企画」の秘密です。そして、「ドラァグクイーン」として活躍する村本さんのもう1つの顔を支える考え方でもあるのです。
「思う」と「考える」は違う
── 『ロジカルメモ』著者の村本さんについてまず教えてください。
大学を卒業後、1995年に大日本印刷に入社、2003年に退職してフリーランスのライター、エディターになり、いまにいたります。2012年には脚本でテレビ朝日の賞をいただいて、それから脚本なども書くようになりました。編集者としては横山光昭さんの『3000円投資生活』シリーズや、小澤竹俊さんの『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』といったものを担当しています。


── いままで編集者としていわば「影」の存在であることが多かったと思いますが、今回『ロジカルメモ』を書こうと考えたのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
いまはコロナを含めて社会状況が大変ですよね。自分の頭で考えることが、今後もっと求められる時代になっていくのかなという思いがあります。いままで当たり前だと思っていたことが当たり前じゃなくなる、全然ニーズがないと思っていたところにニーズが新しく生まれる。そうしたなかで過去の常識みたいなものにすがりついていたら、どんどん不安感が増してしまう気がします。自分で社会の状況を捉えて、これから先どういう軸をもって生きていくかを考えなくてはいけない。そこに何か自分なりにアプローチしたいという思いがありました。
でも、いきなり自分の頭で考えろと言われてもなかなか難しい。どのような「考える」メソッドを提示できるか思いをめぐらせているとき、編集者の方に「村本さん、結構メモで考えていない?」と言われてハッとしたんです。小さいころからメモ魔だった自分が普段やっているメモ術。それを介した思考法を一冊の本にしたらどうだろう、とひらめきました。
── ひと口にメモといってもいろいろありますが、村本さんにとってメモはどのようなものなのでしょうか?
もともと、何かを文字にして残すことが好きなんですね。本の中で、一日の終わりにポジティブな一行日記を書こうということを書いているけれど、それだけでなくてネガティブなこと、忘れたいことも全部メモに書くようにしています。そうして一回外に出して、忘れる。それをやらないと自分の気持ちの整理ができないところがあります。
思っていることって文字にして外に出さないとまとまらないんですよね。頭の中でこねくり回すだけで思考を深められる人もいるけれど、私は思っているだけだと考えがうまくまとまらない。それを文字にすることで、思いの内容をイメージして、そこにどういう問題があるか、何が足りないかということを視覚で捉えられるようになるんです。
── それは、本書の中でも出てくる「思う」と「考える」の違いにも関係してきそうですね。
自分の考えを外に一回出すことで、まず言語化する、文字化することが「考える」の第一歩です。頭に浮かんだジャストアイデア、あいまいなものをより具体化していって、それに対して疑問を自分でぶつける。そういう作業自体が「考える」ことだなと。そうして自分であとで触れられるものにしていくプロセス。
この「考える」方法にたどりつく前は、考えているつもりの時間がすごく長かったんですね。本や脚本の構成を考えるとき、頭の中でもやもやとした状態で寝転んで、そのまま寝ちゃうなんてこともよくありました。
「考える」ことにメモを活用するようになって、プロットをまとめる時間がとても早くなりました。できるだけ早く文字にして、まずは一回形にしてみるプロセスを踏むようになってから変わった。先日もラジオドラマを書いたのですが、20分くらいのラジオドラマのプロットが、1,2時間くらいでできあがりました。数日こねくり回していたものが、たったの1,2時間です。時間がかなり効率化されました。
書籍『ロジカルメモ』では、「考える」を素早く行うために、情報を書きとめただけの「ただのメモ」から3ステップで考えを深めていく方法を紹介しています。「ただのメモ」は、思考のスタート、入口のようなものですが、そこから新しいことを生む経験を重ねると、メモが宝物のように感じられます。「考える」ことが苦手だという方や苦手意識を少なからず持っている人には、気軽に試してほしいと思っています。

あらゆることを自分ごとにできる
── 『ロジカルメモ』のなかでは、その「考える」プロセスを使ってメモから思考を広げていくノウハウがいろいろ紹介されています。3分間で思い浮かぶことを書き連ねる「3分メモ」はすぐにでも取り組めそうですが、実際やってみると案外難しいかもと感じました。
私の場合「3分メモ」で考えるのは大体目の前の仕事について。今度の取材ではどういうことをきこうかなとか、今度つくる物語はどういうプロットにしようかなとか、そういうことですね。考えやすいテーマと難しいテーマがあって、もともと土台があれば10個20個と出てくる。でも、まったくのゼロベースで考えようとすると3分ではなかなかアイデアが出ないこともあります。
それでもしょうがないかなと思っています。出なければその回はそれでおしまいにして、次の3分の機会にやります。まずは、3分間考えるということの習慣化が大事です。隙間時間に考えることに慣れていないうちは、「今日家に帰ったら何をしよう」といった何か取り組みやすい素材で、考える訓練をするとよいですね。
「3分メモ」は、時間が区切られていることが良い点です。短い時間だからこそ、瞬間的にスイッチが入って一気に深いところまで行けることもあるし、3分なのでダラダラひきずりません。3分で出てこなかったら諦めて気持ちを切り替えることも大事です。
── そのように考えることを繰り返して、いろいろなことを「自分ごと化」することが大切だということも書いていますね。
そうして自分自身の軸をつくって、社会へとアウトプットを還元していくプロセスがロジカルメモだと思っています。
私の場合、ロジカルメモという方法でちゃんとやるようになってから、私のアウトプットを見る人に対して、どういう具体的な要素を入れたら喜ばれるだろうと、より考えられるようになりました。
それから、いろいろな意見をメモとして外に出しておくことには、自分の立場をフラットにしておける効果があると思います。いわゆる「右」「左」ではないですが、1つの出来事でも立場が変われば考え方も変わりますよね。そのどちらかに偏らないようにする。それが大きな間違いをしない方法なのかもしれない。いろんな意見を取り入れたうえで、どの意見は自分のものにして、どの意見には目をつむるか。そういう整理をするためにもメモは大事です。
このようにメモを使っていると、あらゆることが「自分ごと」になります。
私は会社員時代も、フリーランスになってからしばらくの間も、どこかにやらされている仕事という感じがありました。そういう感覚があるうちは、知らず知らずのうちに、自分のリソースをプラスオンしようとする気持ちをある程度封印してしまう。
「自分ごと」になって、自分がこの仕事をやらなければ、中心になって進めなければという気持ちのスイッチが入ると、明らかにスピード感、自分の能力を発揮できている感じが違います。
『ロジカルメモ』はある意味、ふだん「他人ごと」だと思っていることを、自動的に「自分ごと」にする手段をまとめた本だと言ってもいいかもしれません。
── でも、忙しかったり人間関係がうまくいかなかったりと、さまざまなことが要因になって、なかなか自分ごと化していけないところもありますよね。
そう、自分ごと化するって、いきなりは難しいことだと思います。人間は必要に迫られないとなかなか動けない、というところもありますよね。
だからまずは、「3分メモ」と同じで時間を区切ってみるのはありだと思います。たとえばいまやっている仕事だけでも、一回全力で、自分が主導権をにぎってやってみる。何か期限的なゴールを設けて一回試しにやってみる。そこで、仕事を自分ごと化したことによる楽しさ、面白さ、充実感を一回体験できたら、もう一回あれをやってみたいという気持ちが芽生えると思うんです。
最初から何でもエンドレスに自分ごと化しようと思うと、すごく気が遠くなりますよね。今日1日でも1カ月でもいいから期間を区切って、目の前の仕事に積極的に取り組んでみる。
もちろんこれも、人それぞれ性格が違うので全員に効果があるとは言えないのが難しいところ……。それでも、何か動いてみないと自分の軸は見えてこないと思います。
軸と柔軟性をもっていく
── ここまでの話はライター、エディターである「村本篤信」としての軸についてですが、村本さんには異なるもう1つの軸として、「エスムラルダ」としてのドラァグクイーン(派手な衣装をまとい派手な化粧をし、女性の姿でパフォーマンスを行なう人)の活動がありますよね。いままではこの2つの軸が別々のものとして区別されていた気がするのですが、『ロジカルメモ』のなかでは1つのペルソナとして融合しているように感じました。そのあたりについてお聞かせください。

大学4年のときに友だちに誘われ、はじめてドラァグクイーンをやり、99年頃からは会社員と並行して、ドラァグクイーンとしてコラムなどを書く仕事を副業で始めました。そうしてドラァグクイーン活動、文章の仕事、会社の仕事と3足のわらじを履くようになって、いろいろ考えた末に一番収入がある会社員を切ってフリーランスになりました(笑)。自分のやりたいことを優先させたんですね。
この選択をしてよかったと思っています。将来的に何の保証もないという不安はあるけれど、いろんな人に取材でお会いしてお話を伺うとか、脚本の仕事をするとか、最近は「八方不美人」というディーヴァユニットを組んでCDを出しました。子どもの頃から本や芝居、歌が好きだったんですが、思いがけず、ドラァグクイーンを通じて、それらが仕事になったんです。
人生何歳になっても新たな経験ができる。思いもかけない大変なこともあるけれど、思いもかけない良いこと、楽しいことも起こるという意味では、それを体現できる人生を歩んでいると思っています。
そんなこんなで2022年の春で50歳になります。それを目前にしていろいろ考えることがあって。いままで、エスムラルダと村本篤信はハレとケみたいに分裂していた状態だったけれど、それが統合される時期が来たのかなと。自分の中で、いままで完全に切り分けていたことが一緒になってしまうことへの不安はありました。でも、もう腹をくくって次に向かうしかないなと思っています。2つあった軸が1つに統合される象徴がこの『ロジカルメモ』かもしれません。
そして、新宿2丁目でさまざまな人に会い、さまざまな経験をしてきたことも、この本につながっていると思います。この本が「こうでなければならない」という「他人のルール」に縛られている人が自由に生きるきっかけになってくれれば、とも思っています。
── この『ロジカルメモ』のあとで、村本さんはどのような生き方を選んでいきたいとお考えですか?
私には運命論者的な部分があって、成り行き任せなところがありました。ただ最近、目的意識をより明確に持った方がいいのかなと思い始めたんです。自分の人生を自分でコントロールしていく力をもう少し強めに持っていきたい。
今後は軸と柔軟性を両方もっていないといけないと感じています。自分の考えに縛られすぎても身動きが取れなくなるし、軸なしにただ流されるだけだと何も自分らしく生きられない。自分の根本のところで何が大事かをしっかり見極めたうえで、世の中の流れに柔軟に対応していく生き方をしたいと強く思っています。
また、これまでは自分のことで割と精いっぱいだったところがありました。これからは、自分一人のために生きていくのではなくて、とにかく人が喜ぶようなことをしたい。これからどんな時代になっても見失っちゃいけないなと思うのは、そういうところです。


村本篤信(むらもと あつのぶ)
1972年大阪府生まれ。都立国立高校、一橋大学社会学部卒業。大日本印刷に入社後、フリーのライター、編集者に転身。主な編集・ライティング担当作は『3000円投資生活』シリーズ(横山光昭)、『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(小澤竹俊)ほか手がけた書籍は累計250万部以上。また90年代よりホラー系ドラァグクイーン「エスムラルダ」としての活動をはじめ、各種イベントでの司会やドラァグショー、コラム連載などを行う。