子どもの自宅学習力を伸ばすために、保護者にできること
授業動画で圧倒的な支持を受けるYouTuberに聞く

新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、子どもたちを取り巻く状況は大きく変化しました。学校が休校になったり、塾に行きにくくなったりしている今、「自宅学習」がますます重要になっているのは、疑いのない事実でしょう。
『自宅学習の強化書』(フォレスト出版)の著者であり、塾講師のご経験もある葉一さんは、2012年6月にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。「塾に通えない生徒が、自宅で塾の授業を受けられる環境をつくりたい」という想いから、小中高生の主要教科とその単元を広くカバーする動画を無料で提供し、チャンネル登録者数は133万人、動画累計再生回数は3.9億回を超える(2021年2月時点)ほどの支持を集めています。
自宅学習力が学力向上のカギを握る時代において、保護者は子どもの自宅学習をどのように支えていけばいいのでしょうか。
自宅学習力は、大人になっても役に立つ
── 葉一さんは、コロナ以前より、子どもたちの自宅学習を支援していらっしゃいます。自宅学習に重きを置いている理由をお聞かせください。
「自宅学習力」の有無によって、子どもたちの学力が大きく左右されるからです。今や、月謝を払って通信教育を受けたり、塾に通ったりするだけが勉強ではありません。私が配信しているような授業動画を無料で見られますし、インターネットにはいろんな勉強法が公開されています。
そうした情報やツールを駆使しながら自宅学習で成果を出す力が身につけば、お金をかけなくても学力を伸ばすことができると考えています。
── 葉一さんはご著書の中で、自宅学習力は「次のテストの点数が上がるか下がるかという目先のことだけではなく、もっと先の将来にも関わる大事な力だ」とおっしゃっていますよね。
自宅学習で成果が出せる子と出せない子の大きな違いは、「自分でアレンジする力を持っているかどうか」だと思っています。
自宅学習は、誰かに指示された勉強内容をそのままこなしていくだけでは、なかなか成果が出にくいものです。勉強をする目的を明確にし、自分に合った勉強法を選び、それを自分のライフスタイルや長所や短所に応じてアレンジする力が求められます。
こうしてアレンジする力は、勉強に限らず求められるものですよね。この力が身についていれば、言われた仕事をただこなすのではなく、言われなくても最善の方法を自ら探し、その仕事でプラスアルファを生み出せる人になれると思うのです。

── 葉一さんは、トップ層ではなく、勉強に対して苦手意識がある子どもたちに向けて情報発信していらっしゃるとうかがいました。そこには、どのような想いがあるのでしょうか。
トップ層の子どもたちは、保護者の手厚いサポートを受けている場合が多いですし、情報感度も高い。こうした子どもたちは、自ら力をつけていくことができます。
一方、保護者のサポートを受けられない子どもたちもいます。そうした子たちは、勉強といっても、何から手をつけていいかわからないという状態にあることも珍しくありません。私はそんな子たちに、「ひとまずこの動画で勉強してみよう」といえるような授業を提供したいと思っているのです。
子どもたちに「努力したら結果が出た」という経験をさせてあげたい。その経験はその後の子どもたちの人生の糧になると思っています。


「テスト」ではなく「クイズ」でアウトプットの手助けを
── 子どもが自宅学習で成果を出すために、保護者はどのようなことができるでしょうか。
子どもが自力でできないこととして、「成長実感を得ること」が挙げられます。そこを保護者が手助けできるといいでしょう。つまり、以前できなかったことができるようになっていたときに、それに気づいて、「できるようになったね」と言ってあげる。
アウトプットを手伝ってあげるのもいいですね。
── アウトプットとは、具体的にはどのようなことですか。
クイズがおすすめです。過去に解いた問題を覚えているか、クイズ形式で聞いてみましょう。
「それってテストじゃない?」と思うかもしれませんが、言い方一つで、子どもにとってのとらえ方はまったく異なります。
クイズと言うと、子どもにとってゲーム性を強く感じるので参加するハードルは下がります。ですがテストとなると、どうしてもネガティブなイメージが付きまとってしまいます。
── たしかに、「クイズ」と「テスト」では感じ方がまったく違いますよね。クイズは、勉強中に出すのでしょうか?
うちの子どもは、一日に3つほど漢字を覚えることをやっているのですが、前日までに暗記したものなどを漢字のクイズとして出しています。子どもがゲームをしているときなどに、「この漢字、覚えてる? ちょっと空中に書いてみて」といった具合に。
一日に何度も机に向かうのは難しいかもしれませんが、簡単なクイズならできますよね。
── それなら、ゲーム感覚でチャレンジできそうですね! 今日から試してみたいという保護者の方もいらっしゃいそうです。勉強をがんばる子どものほめ方・叱り方についても、アドバイスをいただけますでしょうか。
「点」ではなく「線」でほめること。テストが返ってきたとき、「100点、すごいじゃん!」ではなく、「苦手だと思ってた漢字の問題が解けてたね! 前回はできてなかったのに。すごいじゃん!」という具合です。
過去の点と今回の点をつなげて線でほめることで、子どもは「過去のことも覚えていてくれている」「ちゃんと見てくれている」と感じ、安心感も得られます。
── そのようなほめ方をされれば、大人でもうれしいですよね。では、叱り方についてはいかがでしょうか。
短く叱り、その空気感を長引かせないことが重要です。短く叱って、スパッと切り替えましょう。
だらだら叱ると、本当に伝えたいことが正しく伝わりません。子どもは「この苦痛な時間、早く終わらないかな」と感じてしまいますから。
「一貫性」も大切ですね。同じことに対して、前回は叱らなかったのに、今回は叱る。これはあってはならないことです。
「教えようか?」ではなく「いつでも頼ってね」というスタンスで
── わが子が自宅学習をする際、保護者はどのように見守るのがよいでしょうか。保護者に手伝える部分と、保護者が手を出してはいけない部分があるのではないかと思ったのですが。
私が意識しているのは、「保護者が手を差し伸べるタイミングは、子どもが決めるものだ」ということ。大人のほうから「勉強教えようか?」と言うのではなく、「頼ってきてくれたときには全力でサポートするからね」というスタンスでいるといいでしょう。
このスタンスでいると、保護者としても楽だと思います。年齢が上がっていくにつれ、保護者として、子どもに何をしてあげればいいのかわからなくなる時期がくるはず。そうなっても、困ったら子どもが頼ってきてくれるという関係性が築けていると安心ですよね。
── 子どもにとっても、保護者にとっても安心な関係ということですね。どのようにすれば、そんな信頼関係を築けるのでしょうか。
一つは、普段から「頼ってきてくれたときには全力でサポートするからね」と繰り返し伝えておくことです。
もう一つは、頼ってきてくれたときに決して無碍(むげ)にしないこと。私自身、忙しかったりイライラしていたりすると、つい「今忙しいから!」などと強く言ってしまうこともあります。そうなってしまったら、必ず「さっきはごめんね」と謝るようにしています。

大人の学びなおしには、過去の“ベスト”を捨てる覚悟を
── 最後に、本の要約サービスflierのユーザーである、学習意欲の高い大人のみなさんに、大人の学びなおしについてアドバイスをいただけますでしょうか。
勉強って、自己流の勉強法を見つけられた者勝ちだと思っています。大人になっても学ぼうという意欲がある人は、学生時代にもしっかり勉強し、成果を出してきた人が多いのではないでしょうか。
そういう人は、過去の自分の勉強法に縛られてしまうことがしばしばあります。過去に結果が出せたばかりに、当時の勉強法をアップデートできておらず、かえって効率を下げてしまっていませんか?
学生のときには効果があった勉強法でも、選択肢が増えた今となっては、必ずしもベストではないかもしれません。大人の学びなおしにおいては、過去の“ベスト”を捨てる覚悟が必要だと思います。


葉一(はいち)
教育YouTuber。2児の父。東京学芸大学卒業後、営業マン、塾講師を経て独立。「塾に通えない生徒が、自宅で塾の授業を受けられる環境をつくりたい」という想いから、2012年6月YouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」の運営を開始する。授業動画はすべて無料で、小中高生の主要教科とその単元を広くカバーしており、これを活用して自宅学習で志望校に合格する生徒が続出。親切、丁寧で頼りがいのあるキャラクターと簡潔明瞭な授業動画で人気を博す。チャンネル登録者数は133万人、動画累計再生回数は3.9億回を超える(2021年2月時点)。テレビも含めメディア出演も多数。
著書に『合格に導く最強の戦略を身につける! 一生の武器になる勉強法』(KADOKAWA)などがある。