トラブルを乗りこなす「心理的安全で強いチーム」のヒント
読者が選ぶビジネス書グランプリ2021 マネジメント部門賞!

トラブルを乗りこなす「心理的安全で強いチーム」のヒント

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」の結果が2/16に発表となりました。今回で6回目となるグランプリもたくさんの方からご投票いただき、コロナ禍であっても読書への熱はいやましに増しているようです。

『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)は、マネジメント部門の部門賞に輝きました。受賞記念として、著者の石井遼介さんへのオンラインインタビューを実施。フライヤーのアドバイザー兼エヴァンジェリストの荒木さん、フライヤー代表の大賀との語らいの様子をダイジェストでお届けいたします。

悪いことが起きたら、ちょうどよかったと思おう

大賀康史(以下、大賀):石井さん、受賞おめでとうございます。

石井遼介(以下、石井):ありがとうございます。

大賀:これは1年半くらいかけて書かれた本だと伺っていますが、どのような思いで書かれたのでしょう。

石井:この本は組織やチームのための本ですが、実は働く個人のための本でもあるんです。一人ひとりの個人が興味や才能、ポテンシャルをちゃんと開いていくことに、もともと興味がありました。

けれども、結局一人ひとりの人は、組織やチームのなかで働き、活動しますよね。社外やフリーランスとしてのプロジェクト・チームでもそれは同じです。

あらゆるビジネスパーソン一人ひとりが輝くために、つまり「個人」のためにこそ、「チームの心理的安全性」が重要になると考えています。

そして『心理的安全性のつくりかた』というこの本をどうせ出すのであれば、知識やTipsの提供だけではなくて実践して効果が出る、価値のあるものにしたかった。だから応用が利くように理論・体系が学べることを重視しましたし、編集者の山地さんには、たくさんお待ちいただきましたが、じっくり書き上げました。

大賀:石井さんはZENTechの取締役をされていますよね。この心理的安全性には、禅とのつながりもやはりあるのでしょうか。

石井:そうですね。心理的安全性をつくるためのリーダーシップ「心理的柔軟性」のなかで、禅・マインドフルネスにも触れています。 禅はいまでは「科学化」が進んでいまして、それの最たるものはマインドフルネスです。マサチューセッツ大学医学大学院教授のジョン・カバット・ジンさんがマインドフルネスストレス低減法(mindfulness based stress reduction)を提唱し、坐禅、マインドフルネスをすると心が整い、ストレスに良いよね、ということを体系化したのが、ここ数十年のこと。

もちろん、マインドフルネスですべてが解決するわけではありませんが、リーダーとして心をきちんと整えていくことは、この変化の激しい昨今のVUCA時代、想定外の出来事が頻繁に起きる、この激変の時代に大切なリーダーシップのいち要素です。コロナも激変の時代の1つの例ですよね。コロナで大きく世の中が変わり、コロナ前は上手くいっていたものが、上手くいかなくなった。そのときリーダーがただうろたえ、部下を怒鳴りつけてなんとかさせようとしたらどうでしょう。そうなるくらいであれば、たとえば「いやあ大変なことになったね。それはそうとして我々はどうしていこうか」と、リーダーが強がることをやめ、しなやかにメンバーと対話する。そうして「メンバーと一緒に困る」ようなリーダーの方がチームとして成果が上がるのではないでしょうか。

大賀:本でも、「悪いことが起きたら、ちょうどよかったと思おう」というようなことを書かれていましたよね。

石井:そうですね。オススメです。トラブルが起きたら、なにはともあれ「ああ、それはちょうどよかったですね」と呪文のように唱えてみる。そうすると、トラブル自体からの焦りを少し軽減でき、起きたことに囚われず、現実的に対処できるようになります。

私たちを「詰まらせる」のは、実際にはトラブルなど、困った出来事自体ではありません。その出来事に紐づく、焦りや不安や恐怖、あるいは「メンツが潰れる」「怒られたらどうしよう」といった、感情と恐怖に支配されてしまい、冷静な判断ができなくなってしまうことなんです。

「想定外」を耐えるために

荒木博行(以下、荒木):心理的安全性という言葉はビジネスシーンではGoogleから広まりましたが、どこか誤解があると思うんです。この本の帯には「ヌルい職場ではない」と書かれていますが、「心理的安全性が高い=ヌルい職場」という方向で伝わりがち。本書はスタンダードに背骨を整えてくださった。

先ほどの「ちょうどよかった」もそうですが、重要なキーワードとして、「心理的柔軟性」という言葉が出てきますよね。このコンセプトが入っていることにはとても深い意味があると思うのですが、このあたりについてお聞かせください。

石井:いまおっしゃられたように、Googleの功績は、「心理的安全性」という言葉をビジネスのフィールドに広めたことだと思います。アカデミアでは半世紀前、1965年に経営学のなかで心理的安全性というコンセプトはできていました。ただ、心理的安全性の第一人者である、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授も、ビジネスのフィールドでこの言葉がこれほどまでに広まるとはおそらく思っていなかったでしょう。学者の共通了解として使っていた心理的安全性というワードがビジネスフィールドに転用されることで、誤解も一緒に広まってしまったという側面はあると思います。

一方で「心理的柔軟性」は、(経営学ではなく)マインドフルネスを含めた、いわゆる第3世代の認知行動療法として研究が進んでいる分野です。そこで生まれたアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、心理的柔軟性と心の健康に関わる科学です。セラピーと銘打ってはいますが、ビジネスのフィールドの人たちと非常に相性のいい考え方です。

コロナ以前からも、ビジネスの現場は日々いろいろなトラブルや想定外の出来事が起きる場所です。そういった想定外に対して、自分のなかに不安がわいてくる。ACTはそのような不安があったとしても、効果的な行動が柔軟にとれるようにするための体系なんですね。

ビジネスでは、「我々はこのチームでこういった地点に行くんだ」「世の中的にこういう意味があるんだ」といった、ビジョン、ミッションを打ち出して、そこに具体的に向かっていくことが大事ですよね。けれども、こちら側・提供者側がいくら大事だと思っていても、お客さんが反応してくれなかったら意味がない。お客さんの反応はいまのところないとすると、その現実を受け入れた上でどう変えていったらいいのか柔軟に向き合うために心理的柔軟性があるわけです。心理的柔軟な態度とは、平たく言うと「単なる正論ではなく、役に立つことをしよう」というものです。ビジネスでは、メンバーや顧客や外部環境という現実に向き合って対応していくことが重要という観点でも、心理的柔軟性の考え方はビジネスととてもマッチします。

セラピーの世界だけではなく、ビジネスのフィールドでしっかり成果を出すために、この「心理的柔軟性」を使っていただきたいと考えています。

事例を知ろう

大賀:ではここで、石井さんの「マイビジネス書グランプリ」をお伺いしましょう。

石井:私は今年の2月1日に刊行された心理的安全性の本、『恐れのない組織』(英治出版、原題=”The Fearless Organization”)をオススメします。エドモンドソン先生が2018年に出された本で、このたび日本語に翻訳されました。『心理的安全性のつくりかた』とあわせて、もっと日本社会に心理的安全性が広まっていく土台になると思います。この本をきっかけとして、1つひとつのチームが心理的安全性を高めていけることを願って、こちらを推薦したいと思います。

大賀:帯文を書いている篠田真貴子さんも絶賛されていますよね。絶対読まないといけない課題本だと思っています。

荒木:心理的安全性にお詳しい石井さんにとっても、何か発見はありましたか?

石井:そうですね、世界中の事例が、畳みかけるようにたくさん書かれていることもあり、心理的安全性は「たしかに大事だ!」と改めて思わされる本でした。事例を通して、こういう組織ではこういうことをやるといいんだ、と自分なりの気づきを得られます。「心理的安全性が本当に必要なのか?」「自分たちの組織・チームもそちらへ向かっていくべきなのか?」とまだ疑っている方がいらっしゃったら、ぜひ手にとっていただくと役に立つと思います。
心理的安全性のつくりかた
心理的安全性のつくりかた
石井遼介
日本能率協会マネジメントセンター
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心理的安全性のつくりかた
心理的安全性のつくりかた
著者
石井遼介
出版社
日本能率協会マネジメントセンター
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石井遼介(いしい りょうすけ)

株式会社ZENTech取締役

一般社団法人 日本認知科学研究所理事

慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科 研究員

東京大学工学部卒。

シンガポール国立大 経営学修士(MBA)。

神戸市出身。

研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネージャー。

組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。

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文責:石田翼 (2021/03/15)

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