環境の力で、「すぐやれる自分」になる
『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』著者・塚本亮さん

やるべきことはいつだって先延ばし。「自分はなんてダメなんだ」と自己嫌悪は深まるばかり――。
そんな悩みに「環境を整えれば誰でもすぐやる人になれる」とやさしく語りかけるのは、刊行から四年経った今もなお読者に愛され、27万部を突破した『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』です。著者の塚本亮さんは、ご自身もかつては偏差値30台で退学寸前の「やれない人」だったといいます。しかし、一念発起し同志社大学経済学部に現役合格。その後はケンブリッジ大学で心理学を専攻し、現在はジーエルアカデミア株式会社代表取締役を務めていらっしゃいます。
そんな塚本さんのアドバイスは、心理学的な根拠がありながらも、誰でも実践できるものばかり。今回は、塚本さんに改めてお聞きした「すぐやる人になるための三箇条」を紹介します。
環境を整えれば、誰だって「すぐやる人」に
井手琢人(以下、井手):先日flierに『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』の要約が登場しました。刊行から4年が経ってもなお、今も書店でよく見かける本ですね。今は、テレワーク中心の働き方にシフトしている中で、自分のテンションを上げてすぐやる人になりたいと感じている人が増えているように思います。塚本さんご自身は「すぐやる人」というイメージがありますが、ご自身ではどう思われますか?

でも、私にももちろんやりたいときとやりたくないときがあるわけです。だからこの本を執筆するとき、どうしたらやりたくないときにも「すぐやる人」になれるかを実験しながら書こうと思いました。たとえば、ダイエットのために通っているジムに、行きたいときと行きたくないときを比べ、どうしたら行きたくないときにも行けるのかを考えました。
大学院で研究していた心理学への結びつきも考えていくうちに、自分の行動についても見直すことができました。
井手:本の帯にも書かれていますが、自分を動かす「仕組み」があれば、意思の強さは関係ないというところが重要なポイントですね。「やれない人」はやる気が出ないのは自分の意志が弱いからだ、自分はダメなんだ、とマインドを理由にしがちだと思います。でも、問題はそこではないということですね。塚本:私自身も、かつて全然「やれない人」だったんです。自分なんてどうせダメだと思っていて、勉強も大嫌いでした。そんな私が、今では自ら勉強し、さまざまことをどんどん進めていけるようになりました。つまり、「自分にはできない」と思っていたのは、自分で自分に蓋をしていただけだったんです。できる環境さえ整えることができれば、誰だってできるようになるはずです。だから、このような提案をする本を作りました。
井手:きっとそこが多くの人に刺さったポイントですね。
塚本:自分ではまったく予想ができていなかったことなのですが、たくさんの人に読んでいただけているんだという実感がじわじわ湧いてきました。
すぐやる人になるための三箇条
井手:本書が出版されてから4年が経ちました。ここで改めて、塚本さんにすぐやる人になるための三箇条をお聞きしたいと思います。塚本:1つめは「一人でやらない(人を巻き込む)」ということです。なんでもそうですが、一人でやろうとすると、ついやらない理由を探してしまいがちです。でも、仲間が「いっしょにやろうよ」と引っ張っていってくれれば、面倒になってしまったときでも行動を起こすことができます。
僕はジムを続けるために、お気に入りのトレーナーさんがいるときをねらって行くようにしているんです。そうすると、おしゃべりという別の目的ができて、行く理由を増やすことができます。
初めてやらなければいけない案件が来て、どうしたらいいのかわからないときだったら、詳しい人に「教えてもらえませんか」とためらわずに聞いてしまいます。返事がきたら、もうその時点で一人ではなくなって、やらないといけない理由ができますよね。なんでも一人でやらないといけないと思ってしまうと、気分の乗らない日は絶対に発生します。だから、早い段階で人を巻き込んでしまうのがおすすめです。
井手:仲間がいれば、気乗りしない日があってもお互いに補い合っていっしょに進めていけそうですね。では、2つめを教えてください。塚本:2つめは「中途半端にやる」ということです。やれない理由の一つに、「完璧主義」があると思うんです。完成度の低いものを見られたら相手にどう思われるかと不安になってしまったり、もう少し考えてから送ろうと思っていると、ずるずると時間が過ぎてしまいます。だんだん罪悪感も膨らんできて、送るタイミングも逃してしまい、さらに手が止まってしまうということになりかねません。そのうち相手から「まだですか? 」と言われちゃったりしてね。
まずは60点のものでいいから、作って相手に投げてみるようにするのがおすすめです。「60点でいいや」と思っていれば、行動のハードルが下がるので、最初の一歩が踏み出しやすくなります。それに、自分にとっての100点と相手が求める100点の基準は違うかもしれません。60点のものをいったん出して、「それで進めてね」と言われたら次のステップで100点にすればいいし、出してみて「そうじゃない」と言われたら早い段階で軌道修正ができます。
井手:レスポンスがないと、待たされている相手も不安になりますもんね。早い段階で見せるようにすると、相手にも安心してもらえそうですね。では、最後のポイントをお願いします。塚本:3つめのポイントは「環境を変える」ことです。誘惑が多すぎて、私は家では仕事ができないんですよ。ニューヨーク大学の研究によると、目標の達成率が高いのは、誘惑に打ち勝った人ではなく、誘惑に接触しなかった人なんです。
家が集中できないとしたら、「ここにいると集中できる」という場所を作るといいと思います。ここでやると原稿が進む、ここだと企画書が作りやすいといった場所を自分なりに持っておくと、それだけでもやるべきことがはかどりやすくなります。
井手:集中するための「マイスポット」を持っておくということですね。コロナ禍で重要性が増す、自分をマネジメントする力

井手:私はスピードを意識して仕事をしているのですが、それでも大きな仕事の企画書や、長めの原稿を書くときは、初動がきついなと感じます。最初の一歩の抵抗をなくすためのアドバイスはありますか。
塚本:初動の抵抗をなくすためには、ハードルをめちゃくちゃ下げるといいと思います。たとえば、原稿に手をつけるんだったら、ファイルを開いて、パソコンの前に座るだけでいい、とかね。1行書くだけでいい、1ページ書くだけでいい、3秒だけ、30秒だけ、と上手に自分をだましてあげると手がつけやすくなります。
井手:なるほど、1日で全部やろうとするからできないということですね。
今は、新型コロナウイルスの影響で、家で仕事をしなければならないけれどはかどらないという人がたくさんいると思うんです。本書が今の状況でも売れ続けているのは、こうした環境の変化の中で、「すぐやる人」が多くの人に求められているからではないかと感じます。
塚本:テレワークが増えて、家で仕事をするとなると、誘惑が増えるわけですから、自分をマネジメントする力が試されるようになりますよね。オンオフの切り替えがしづらくて、仕事モードに入りづらいという人もいるのではないかと思います。環境の力は大きいですからね。最近では、ホテルがテレワークに利用しやすいデイプランを提供していることがあります。集中したいとき、ここぞというときはこうしたものを利用してもいいと思います。
井手:本書にあった、自分とアポイントメントをとっておくという発想はますます大事になりそうですね。塚本:私は、すぐやれない大きな原因はスマホだと思っているんです。ちょっとLINEをチェックしよう、なんてスマホを手にしたら、いつの間にか他のことをどんどんやっていて、気がつくと平気で1時間くらい経っていたりしますよね。自分とアポイントメントをとっておいて、決められた時間になったら通知が来るように設定しておくと、他のことで気が散ってしまっていてもやるべきことを思い出すことができるようになります。そうでもしないと、「できない自分」が積み重なっていってしまって、どんどん自信がなくなってしまうんです。だから、自分とアポをとっておくという発想は重要です。
井手:多くの人がこの本を手にとったということは、自分はすぐやれない人だと問題意識を持っている人がたくさんいたということですよね。そうした人が、意思の強さの問題ではないと知り、自分を責めるのではなく、環境を整える方向に向かうことができたら、それだけでも大きな前進ですね。
今後はどのような本を書かれる予定なのでしょうか。
塚本:今は4月刊行予定で2冊の本を準備しています。1冊は英語の型を身につけて、英語の瞬発力を上げるための本です。もう1冊は、私が25歳で起業してからの12年間で経験した成功や失敗を語りながら、どうやってブランドを作っていくかという起業論について初めて語った本です。とんでもない失敗についても、初めて曝け出す本になる予定です。井手:どちらも楽しみですね。
今日お聞きした三箇条を実践して、私も仕事のスイッチを入れられるようにしたいと思います。塚本さん、本日はありがとうございました。
塚本亮(つかもと りょう)
1984年、京都生まれ。同志社大学卒業後、ケンブリッジ大学大学院修士課程修了(専攻は心理学)。
偏差値30台、退学寸前の問題児から一念発起して、同志社大学経済学部に現役合格。その後ケンブリッジ大学で心理学を学び、帰国後、京都にてグローバルリーダー育成を専門とした「ジーエルアカデミア」を設立。
心理学に基づいた指導法が注目され、国内外から指導依頼が殺到。学生から社会人までのべ150人以上の日本人をケンブリッジ大学、ロンドン大学をはじめとする海外のトップ大学・大学院に合格させている。また、通訳及び翻訳家としても活躍している。
著書に『偏差値30でもケンブリッジ卒の人生を変える勉強』(あさ出版)、『努力が勝手に続いてしまう。』(ダイヤモンド社)、『英語、これでダメならやめちゃいな。』(かんき出版)、『すぐやる人のノート術』(明日香出版社)などがある。