あなたの咲くべき場所はそこじゃない?
4分割ノート術で己を知る

新型コロナウイルスの感染拡大で生活のスタイルやリズムが大きく変わる中、働き方を見直す動きが広がっています。
リクルートが転職活動者を対象に行った調査によると、コロナをきっかけに求職を始めた人は6割強に上り、職探しで重視する点は「やりたいことを仕事にできる」が最も多かったという結果も出ています。
一方、自分の好きなこと、強みは何だろうかと思いあぐねる人も少なくないでしょう。そうした悩みに応える指南書が『GAFA部長が教える自分の強みを引き出す4分割ノート術』(世界文化社)です。ノートに縦軸と横軸を引いて自分の得意なこと/苦手なこと、好きなこと/嫌いなことを書き出していくことで頭の中を整理でき、自分をよく知ることができると言います。
著者の寺澤伸洋さんに、本書に込めた思いや仕事で苦労した経験談を伺いました。
合う仕事、合わない仕事
── 寺澤さんは40歳で今の会社に転職され、事業企画部長をされているのですね。
はい。最初は新卒で繊維メーカーに入って経理を担当しました。仕事が合わなくて苦痛で、10カ月で辞めてしまいました。
2社目に移り、最初の1年は営業でしたが、あまりに売れないし、面白さを感じられなかったため、またしても「もう辞めてしまおう」と思ったんですよね。それで本部長に辞意を伝えに席まで行ったところ、別室に連れていかれて、「ちょうどいいところに来た。君、異動だから」と言い渡され、直後に企画部門に移りました。
その新しい仕事がすごく自分に合っていたんです。本当に仕事が面白いと思えたのと、「自分はこれが得意だ」とか「これをやると周りが喜んでくれる。価値があるんだ」と実感しました。仕事って本当に合う、合わないってあるんだなということを実体験として学びましたね。

── そうした経験から自分の強みや苦手に気付こうと啓発するのが本書ですね。
はい。私の場合、幸い入社後すぐに合わない仕事の会社から逃げることができました。しかし苦手や嫌いな仕事から抜けられず、もがき苦しみ続ける人もいます。そうした人たちを救いたいと思ったんです。



自信を持っていい
── 確かに4分割すると考えが整理されますね。
「強みを生かせる場所に行きましょう」と言われても、自分の強みが何か、なかなか答えづらいものです。それは自分と他人を比較してしまうからだと思います。例えば、自分は「足が速い」と思っていても、世の中にはウサイン・ボルトみたいに上には上がいるために、他人に「足が速い」と言い張れず、しり込みしてしまう人は少なくないでしょう。それは「強み」を他者比較で見つけようとしてしまっているからです。
本書では強みを見つけるときには、「あなたが一番自信を持っていることは何ですか」「他人がどうであれ、自分の中で一番自信があるもの、それは強みと言っていいんだよ」と伝えています。
また、こうして強みを知ると同時に、苦手、嫌い、避けるべきところをきちんと明確に知ること。そしてそこからは距離を置き、強いところにアプローチする生き方をしようというのが趣旨です。
── 読者はどのような層を想定されていますか。
そうですね。20代や30代、特に自分が今の場所で輝けていないと感じている人たちです。
新卒で入社したばかりの若い世代は、自分を客観視できないもの。自分が合わない場所にいるという理解ではなく、「自分の努力が足りない。自分がダメなんだ」と思いがちです。そういう人たちに「違うんだよ。仕事が合ってないだけだから」と気付かせてあげられたらいいなと思っています。
苦手から逃げる
── 寺澤さんの得意や苦手は何でしょうか?
私の場合、得意で好きなことは業務の効率化や文章を書くことで、苦手で嫌いなことは経理、営業、英語といったところでしょうか。

私は新しいことを考えて工夫して変えていくのが好きなんですが、逆に経理はやり方を変えてはいけない。ルール通りにやる決まりなので、全然面白くなかったですね(笑)。
営業では当時、全然売れませんでした。性格的にゴールまで一直線、最短距離を目指すタイプなので、営業トークなどが肌に合わなかったんでしょうね。
── 本書記載の「苦手なことからは全力で逃げろ」を体現されていたりするのでしょうか。
はい、私は営業が得意じゃないと自己認知していますから、中途半端に関わって下手を打つよりも、営業のプロにうまいことやってもらった方がいいと割り切っています。
ただ、全力で逃げるだけでなく、「営業は苦手だけど、その代わり、必要な情報やデータは揃えるから」と言って手を打つ。この「その代わり」という埋め合わせが大事だと思います。

読書の醍醐味は人生が変わること
── 座右の書をお教えください。
一番感銘を受けて行動に表すことができたのが、『チーズはどこへ消えた?』(扶桑社)です。チーズがなくなってしまった時に、「外にはもっとおいしいチーズがあるかもしれない」とすぐに探しに出たネズミ。他方、別の一派は「でも見つからないかもしれない……」と考える対照的なストーリーですが、結局動かない人は、「でも……」と動かない言い訳ばかりです。しかし、「でも」で開く扉はありません。
「下手な言い訳を考える前に一歩進んでみよう」と教えてくれたこの本は、人生において一番大切なことを教えてくれました。
── どのようなジャンルの本を読まれますか?
「考え方を変えていこう」という趣旨の本をよく読みますね。『労働2.0』(PHP研究所)など、こんな風に働き方・考え方を変えていこうとか、人の気持ちをマイナスからプラスに持っていくような本が多いです。
本を読んで面白いと思って、実際やってみようと行動に移し、人生が変わった――そこまでいって初めて本の価値が出ると思っています。
執筆時も、どういう表現なら読者は心が震えて行動を変えてくれるのか、そればかり考えて本を書いています。
── 次回作の構想はありますか。
お金の話を書いてみたいですね。マネーリテラシーや(早期リタイアの)FIRE(Financial Independence, Retire Early)をテーマとして、世の中の役に立つ本が出せたらいいなと構想を練っています。



寺澤伸洋(てらさわ のぶひろ)
1976年大阪府生まれ。灘高校、東京大学経済学部を卒業後、日系メーカーで17年間勤務。経理、営業、業務改革、Web企画、マーケティング、経営企画と多様な部門を経験し、半年間のイギリス留学後にGAFAのうちの1社に転職。現在事業企画部長を務める。
2016年から3年半書きためたブログをもとに、2020年より書籍の執筆を開始。著作に『40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法』、『4時間のエクセル仕事は20秒で終わる』がある。