〈対談〉その失敗、本当に異文化のせい?
『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない』

〈対談〉その失敗、本当に異文化のせい?

海外のビジネスパーソンと仕事をすると、それまでのやり方が通用せず、戸惑った経験がある人も少なくないでしょう。ですが、それは言語や国民性の違いからくるものでしょうか?

そう疑問を投げ掛けるのは、イランやシンガポールといった国々に駐在し、海外経験が長いグロービス・コーポレート・エデュケーション、マネジング・ディレクターの高橋亨さん。

今春刊行した『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない』(英治出版)では、「異文化だから……」と日本人が陥りがちな罠や海外展開における心構えを、自身の実体験をもとに紹介しています。

今回は高橋さんをお招きし、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリストである荒木博行さんが、Voicy「荒木博行のbook cafe」で対談を行いました。総合商社を経てグロービスへ転職したという共通点を持つお二人のトークを、再構成してお伝えします。


日本人はもっと活躍できる

荒木博行(以下、荒木):高橋さんは商社時代にイランとベルギーに駐在、2002年にグロービスに転職されました。私は2003年にグロービスに入社したので1年違いでしたね。包容力のあるタイプの方だなと感じていました。その理由が、海外でのご経験に裏打ちされたものだと本書を読んで分かり、線でつながった気がしました。 『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない』というタイトルはストレートフォワードでよく伝わります。本書に込めた思いをお聞かせください。

高橋亨(以下、高橋):丸紅ではイランに3年、ベルギーに5年駐在し、グロービスでもシンガポールとタイで5年の計13年間、海外で働きました。その中で「日本人はもっと世界で活躍できる。良いものを持っているのに……」と感じていました。

日本人は、海外に行くと「ここはアメリカだからこうしなきゃいけない」とか「中国だからどう」と異文化に囚われ過ぎてしまい、本質を見失いがちです。

しかし日本人もいろいろな人がいるし、イラン人もアメリカ人もさまざまです。異文化というバイアスに囚われずにもっと事の本質を見るようにすると、より良い成果が出せるという、私なりの海外での体験やチャレンジを知っていただきたい思いで書きました。

荒木:日本にいても、そういう記号的なものが目に入ってしまうことってありますね。たとえば、女性だとか、生え抜きだとか、人はいろいろな記号を背負っています。ただ、そこにこだわっていると人間関係はうまくいきません。

高橋さん提供

4つの壁

荒木:本書にある「『異文化だから』で、見落としてしまう4つの壁」について、少しご説明いただけますか。

高橋:異文化を言い訳にしないためにどうすべきかを考えるうえで、4つの壁があります。
グロービス提供

高橋:まず発展段階の違いによる壁です。日本の市場は成熟していますが タイやインドネシアなど成長中の国では違った仕事の進め方が求められます。何十年も成熟した日本で生きてきて、そこから成長しているマーケットに行くと、リスクの取り方も違ってきます。発展段階の違いに起因するビジネスの違いという壁がありますね。

2つ目はビジネス領域の壁です。海外は比較的小さな拠点が多く、1人で販売とマーケットの両方を担当したり、日本でやっていなかったことを初めてやらされたりします。慣れない仕事をいきなりやる難しさです。

3つ目は、組織での役割の壁です。日本で部下のいなかった人が海外でいきなりチームリーダーを任されたり、日本で課長や部長だった人が海外では役員あるいはトップを務めたりします。そうするといろいろな組織運営面での壁にぶつかります。

このように海外で仕事をするに当たっては、ビジネス上、組織上の壁があります。しかしその認識がないと、すべて異文化による壁だと錯覚してしまうことになりかねません。

そして4つ目が異文化の壁です。

「発展段階の壁」の中で書きましたが、ベトナムの現地スタッフがスピードばかりを重視するあまり、非常にいい加減な仕事をしていたという話があります。しかし成長市場であれば、そうせざるを得ない事情もあるでしょう。日本のように成熟したマーケットの場合は、もっと顧客に寄り添う姿勢が求められますが、インドネシアやベトナムでは早く商品やサービスを提供するニーズの方が強い。それはつまり文化の違いではなく、経済の発展段階の違いによるものということです。

そのように解きほぐしていくと、文化の違いではなく、より本質的な課題が見えてくるはずです。

荒木:4つ目の文化の壁が異常に強調されてしまうということですね。

高橋:そういうことです。異文化の壁を否定しているわけではありません。異文化の壁も確かにあるのですが、その前にビジネス上の壁などをつぶさに見ていくと、もっと適切な対応ができるのではないでしょうか、と提起しています。

荒木:この思考のフレームは、汎用性がありますね。例えば大企業がスタートアップと組む場合にも当てはまりそうです。

高橋:おっしゃるとおりですね。

志の4ステップ

荒木:海外中心の商社勤務を経て、グロービスへ移られたわけですが、何がきっかけだったのでしょうか。

高橋:8年間の海外駐在の中でさまざまなビジネスパーソンに出会い、30代、40代前半でバリバリ活躍している人も多く、刺激を受けました。30代前半まで丸紅でいろいろと経験させてもらい、とても感謝していますが、もっと自分をスピーディにストレッチして勉強したいと考え、紹介されたのがグロービスでした。成長できる環境だと思いましたが、最初は大変でした。それこそ異文化の経験でしたね(笑)。

荒木:商社時代には産業機械を扱われていましたが、グロービスはサービス業。海外展開をするうえで違いはありましたか。

高橋:形のある機械と違い、比較的高額の無形物を売るというのはハードルが高かったです。サービスを言語化して現地のクライアントに買ってもらうという仕事を通じて、相当鍛えられました。しかも、当時、シンガポールでは「そもそもグロービスって何?」と知られていない状況でしたから。

荒木:ブレークスルーのポイントは何だったのでしょうか。

高橋:結局は志ですね。ここでいう「志」には2つの意味があります。1つは、そもそもなぜシンガポールに来たのかという私自身の志。これは明確なものがありました。

もう1つは、グロービスのMBAコースでも「志」を扱っている通り、「ビジネスにおいて志は大事だ」とアピールしたことです。

英語だとpersonal missionと訳しますが、それをシンガポール人に話すと、「たしかにビジネスに志は要るよね。シンガポール人は今やお金のことばかり考え、建国の理念を忘れてしまっている」と意外に共感を得たのです。グロービスが東南アジアでも受け入れられると手応えを掴めました。

荒木:本書にある「志の自覚」のための4つステップ。これは面白いですね。

グロービス提供

高橋:志というのは、最初から明確に持っている人もいますが、多くの人はそうではないでしょう。志は4つのステップで高まっていくと解説しています。

最初はやはり能力アップをしないといけないということで、基礎固めが大事です。ビジョンを描くにしても、ビジュアル化したり、言語化したりするための能力、思考力が要ります。まずは自分を鍛えましょう。

ステップ2は、自分をいろいろな所にさらしていきましょうというエクスポーズです。想定外のことに出くわすことで自分が分かってくる。志は自分一人で抱えず、人との比較で磨かれます。

ステップ3、ここまで来て初めてチャレンジという段階です。能力も高まっていろいろできてくる頃で、チャレンジしようという方向性と同時に、守りに入ろうとする自分も出てくる。パウロ・コエーリョの『アルケミスト』(角川文庫)に「傷つくのを恐れることは、実際に傷つくよりもつらいことだ」という言葉がありますが、恐れを乗り越えていく段階です。

ここを乗り越えると最後のステップ、「シンクロニシティ」で、向こうの方から自分にいろいろと声が掛かるようになります。

荒木:この最初の基礎固めの段階で、「自分が何者か」みたいな悩みを抱えてグロービスの門をたたかれる人は多いですね。そして、自分をさらして、恐れを乗り越えて、自分が呼ばれている感覚が出てくる、ということですね。

高橋:はい。出口治明さんもリーダーに必要な教養を身につけるために、「人」「本」「旅」が重要だと言われていますが、まさにそれに近いですね。勉強して、旅に出て、と。
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荒木:冒頭で、日本人は海外でもっと活躍できるはずと話されていましたが、高橋さんの志、personal missionはそれをお手伝いすることでしょうか。

高橋:それもあります。私自身がいろいろとチャレンジしてきたことが生かせたらうれしいです。

また、世界にはさまざまな課題があります。環境やサステナビリティといった問題は、日本が以前から向き合い解決しようとしてきたことです。従い、日本のリーダーたちをサポートし、一緒に解決策などを世界中に広めていきたいと考えています。

それと、多くの日本人はもっといろいろな人と仕事をした方がいいという思いもあります。自分自身、イラン人と仕事をするなんて夢にも思っていなかったですし、うまくいくとも思っていませんでした。その中でダイバーシティはすごく大事だなと実感しました。日本人と全く違う発想が出てきて、そのうちの7割くらいは「勘弁してよ」と思うような内容であっても、2、3割はいいアイデアでした。そうしたアイデアは拾いにいく価値があり、チャレンジした方がよい。このような考え方をもっと広げていきたいです。

高橋さん提供

荒木:7割はダメでも、2、3割に何か価値があるなら、そこに目を向けようということですね。今日は、高橋さんの包容力の正体を見た気がします。ありがとうございました。
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グロービス 著,高橋亨 執筆
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高橋亨(たかはし とおる)

大学卒業後、丸紅株式会社に入社。イラン、ベルギーでの計8年間の駐在を含め、一貫して海外事業に携わる。このあいだ、さまざまな海外プロジェクト、ファイナンスや投資案件の組成、取引先や投資先への経営支援、現地拠点の立ち上げなど、グローバルに展開する企業の海外事業支援を行う。

2002年から株式会社グロービスに転じて、企業研修部門にてクライアント企業の人材育成に携わる。日系企業のグローバル化に伴い、2011年にグロービス・チャイナを立ち上げ、2013~2018年はグロービス・アジアパシフィック(当時)、グロービス・タイランドを設立し、自ら現地でクライアント企業の組織変革、現地の人材育成支援に携わる。

上智大学経済学部卒、スタンフォード大学経営大学院SEP修了、ブカレスト経済大学大学院博士課程在学中。グロービス経営大学院 専任教員、現職は、グロービス・コーポレート・エデュケーション、マネジング・ディレクター。

共著に、『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』(ダイヤモンド社)がある。

荒木博行(あらき ひろゆき)

株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤー アドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。

著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。

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文責:南龍太 (2021/06/22)

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