コロナ禍の今こそ響く成功者たちの苦節
『経営者図鑑』著者・鈴木博毅さん

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界の経済や政治は混乱し、私たちの生活は様変わりしました。先行き不透明な混迷が続く中、頼れるリーダー、確固たるリーダー像も見えにくくなっています。
今回ご紹介する『伝説の経営者たちの成功と失敗から学ぶ 経営者図鑑』(かんき出版)は古今東西の著名な経営者30名をコンパクトにまとめた一冊になっています。
「何を信じ、誰についていけばよいか分からない時代は過去にもあった。そうした中にあっても、成功した経営者には共通点がある。彼らの理念や生き様に学ぶべきことは多い」。そう語る著者鈴木博毅さんに、本書に込めた思いをインタビューで伺いました。
成功の秘訣をコンパクトに
── 『経営者図鑑』は、近代産業時代や戦後復興期、近年のネットワーク新時代など時間軸を7つに区分し、各時代を象徴するような名経営者を取り上げています。 「ゆるいイラストとマンガで楽しんで学べる」とうたっている通り、難しい話はなく、かつ各人のサクセス・ストーリーが印象に残りますね。


はい。本書は、2020年にかんき出版から発刊された『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』に続く図鑑シリーズです。肩ひじ張らずにパラパラ読みながら学べるのがポイントとなっており、ベストセラーとなった前作よりもイラストを増やし、さらに読みやすさを追求しました。
── このタイミングで刊行された狙いは何でしょうか。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、厳しい事業環境の経営者や会社員の方も少なくない中、新しい視点で世界を眺めてみませんかという思いを込めて執筆しました。
── 工夫された点や苦労された点をお教えください。
そうですね。成功のポイントだけを追い掛ける方法もあったのですが、人物像全体を分析したうえで生い立ちや人となりも伝えたいと考え、伝記を読みあさり、人間的なエピソードを深く調べました。 学ぶところが多くある経営者のうち、何を取り上げるべきか取捨選択に迷いました。経営者ごとに成功のポイントを3つずつ挙げています。10個、20個列挙するのは割と簡単ですが、3つに絞ったうえで、役に立つ最大公約数となる共通項を拾い上げる作業に苦労しましたね。各経営者における成功は、性格的要因によるところが大きかったのか、何かターニングポイントとなるイベントがあったのかなど、随分と分析、精査しました。

執筆中にコロナをめぐる社会情勢が刻一刻と変わり、苦境に立たされる企業や経営者のニュースも日々伝わってきて「なんとか勇気づけられるものを書きたい」と常に念頭に置いていました。
逆境をはねのける
── 成功している経営者にはどのような共通項がありましたか。
多くに共通して見られるのが、自分を切り替えることに躊躇がないということでした。
彼らは社会的な流れをよく観察し、重視している。自分の外の環境に目を向けることに長けているのが、成功の条件の1つだと思います。
── 特に思い入れのある経営者はどなたでしょうか。
渋沢栄一や松下幸之助、それから元スターバックスCEOのハワード・シュルツやアリババグループを創業したジャック・マーですね。シュルツは幼少期に貧困層向け公営住宅に暮らし、決して裕福ではない家庭で育ちながら、世界屈指のコーヒーショップブランドを築き上げました。本書では起業家精神にあふれた彼のエピソードを端的に紹介しています。マーも元教師の苦労人ですね。
貧しい環境で生まれ育ったり、人生のどん底に転げ落ちたりとさまざまな方がいますが、どれだけ低い所からどれだけ高い所まで這い上がれたか、そのギャップを追い掛けたかったということが、本書の一貫した思いです。
出発点が低くても、逆境をものともせず、自身の努力と周りの愛情で這い上がっていける。どのような環境におかれても、1つのチャンスを掴むことで大きく登っていける。そうしたことを、コロナ禍の今こそ伝えたいと思っています。
歴史から学ぶ
── 普段はどのようなジャンルの本を読まれますか。
大きく2つのテーマがあります。1つは戦争・歴史、もう1つはAI(人工知能)などの新しいテクノロジーの関連書です。
歴史書は面白いものは行ったり来たり何度も読みますし、今の時代に合う歴史書があればそこまでさかのぼって読むように心掛けています。テクノロジーの関連書は、新しいキーワードが出るたびに著作を読むようにし、今伸びている企業がどのようなキーワードで次のビジネスを捉え、描写しているかに注目しています。
執筆に必要なら月に50冊読むこともありますが、読書量に波がありますね。
── 感銘を受けたご本をお教えください。
カエサルの『内乱記』(講談社)や『ガリア戦記』(岩波書店)、それとナポレオンに関する著作や第二次世界大戦の関連書は繰り返し読みますね。
誰もが、同じ状況に置かれたら間違えてしまう条件というものがあり、次に同じ状況が訪れた場合に同じ過ちを繰り返さずに、新しい時代を迎えられるのが一番よいですよね。そのために、私自身何を伝えるべきか、読んでつねに学ぶようにしています。


── フライヤーにもご著書の要約が多くありますね。
今の時代、コロナ禍以前の2年前のルールが通用しないことも多くなっています。型通り仕事のやり方を、良い意味で逸脱しないといけないとさえ感じています。
『実践版 孫子の兵法』や『3000年の英知に学ぶリーダーの教科書』は、コロナ禍の今も通用する、普遍的な考え方が載っていると自負しています。




成功は文化
── 本書ではどのような読者層を想定されていますか。
実需としては30~50代が読者層になるかと思います。ただ、前著『戦略図鑑』と同様、イラストが多いこともあってお子様のために買い求められる親御さんの需要もありそうです。これから社会人になる学生の皆さんにも読んでいただきやすい構成になっています。
── 読者に向けてメッセージをお願いします。
あとがきに「成功とは文化的な側面がある」といった趣旨のことを書きました。文化は学ぶことができます。
成功した経営者は、成功の種を持って生まれたのではなく、成功の文化をうまく学んだり、受け入れたり、あるいは成功の川が流れているところにたまたま流れ着いたりしているケースが少なくありません。成功は実は学べるのだということ、それが本書で伝えたかった最重要かつ唯一のメッセージです。

鈴木博毅(すずき ひろき)
ビジネス戦略コンサルタント。
1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、京都大学経営管理大学院(修士課程)修了。卒業後は、貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、負ける組織と勝てる組織の違いを追求しながら、失敗の構造から新たなイノベーションへのヒントを探ることをライフワークとしている。
現在、ビジネス戦略コンサルタントとして、国内のみならず海外でも活躍中。顧問先には、オリコン顧客満足度ランキング1位を獲得した企業や、特定業界での国内シェアナンバーワン企業などがある。『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』(かんき出版)、『「超」入門 失敗の本質』『古代から現代まで2時間で学ぶ 戦略の教室』『戦略は歴史から学べ──3000年が教える勝者の絶対ルール』(以上、ダイヤモンド社)、『最強のリーダー育成書 「君主論」』(KADOKAWA)など著書多数。