【Zoom疲れの方必読】「なんとなく不調」は脳がお疲れのサイン?
リモート疲れを癒す「新しい休み方」

Zoom会議でグッタリ、身体は動かしていないのに脳が疲れる。リモートワークでオンとオフの区別ができないうえに、孤独感を感じる――。そんな悩みを抱える読者やメンタルヘルスの知識をアップデートさせたい方が増えています。
『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』の著者・西多昌規先生に、オンラインだからこそ生じる疲れやストレスに対処する、「新しい休み方」をお聞きします。また、西多先生が心身の健康につながる数々のベストセラーを執筆されてきた背景にも迫ります。
リモート疲れの対処法が求められていた
── 新著では、リモートワークの会社員として「まさに今知りたかった!」という疲れの解消法が目白押しでした! 2021年夏に本書を執筆された動機は何でしたか。
新型コロナウイルスの流行で、私たちの働き方が大きく変わりました。「外出せず人と会わないのにヘトヘト、なんとなく不調」。そんな声をよく聞くようになりました。
勤め先である早稲田大学で日々学生や教職員の方々と接していると、学生はオンライン授業に慣れてきたようです。一方、教職員の方々は、自宅でオンライン授業の配信に追われ、オンオフの区別をつけにくかったようです。これはリモートワークが可能な職種、特にフルリモートの方に共通しています。Zoom疲れ、脳疲労、孤独、睡眠の質の低下、そしてコロナうつ――。こうした「リモート疲れ」という新しい課題への対処法を体系的にまとめた本は現時点では世に出ていません。
また、新しい疲れやストレスとのつきあい方に関する講演依頼も増えています。そこで、そうした講演や、大学の教職員の方々向けに行った講演を土台にして、リモート時代の「休む技術」を執筆しようと決めました。



フルリモートの人にのしかかる「見えないストレス」の正体
── たしかに「リモートワークは気楽だけれど孤独感を感じる」という声をよく聞きます。リモートワークの浸透で生じている新たな課題や悩みはありますか。
最近では診察にくる方のなかに、「ニューノーマルの働き方に慣れたので、元通りになるのを憂うつに感じている」という方もいます。一部の人には、不謹慎と思いつつも、コロナが終わってほしくないと感じる「コロナロス」が生じているように思えます。
リモートワークでは、満員電車での通勤や会議の移動もなくなり、上司とのやりとりなど人間関係の負担が和らぐというメリットがあります。この便利さに慣れ、コロナ禍を経て自分の本来大事にしたい価値観に気づくなど、学習効果も起きている。私自身も「もう元には戻れない」という気持ちです。
もちろんポストコロナでは、週5出社のワークスタイルに完全に戻ることはなく、リモートとリアルを組み合わせていく働き方になるでしょう。大事なのは、対面のコミュニケーションを望むかどうかには個人差があると知ることです。大まかに外向型と内向型の人がいるとしたら、外向型の人は「コロナの感染者数も減ってきたのでリアルで会おう!」と積極的に対面で会おうとすることが多いですが、内向型の人はこれを億劫に感じる傾向にあります。ですから、その人に合ったペースでリアルとオンラインを組み合わせられる柔軟性が大事といえるでしょう。
ただし、月に1度オフィスに行くか行かないかといったフルリモートの場合は留意点があります。外出を最小限にして日の光にあたることも、人と話す機会もほとんどない。そんな状況だと、睡眠時間は長くなってもその質が低下し、孤独感が募るなど、「見えないストレス」がのしかかってしまうのです。
── 自宅で一人で働くのが居心地よいといっても、「見えないストレス」には注意がいるのですね。たしかにリモートワークのチーム運営では、メンバーのメンタル不調や困りごとに気づきにくいと聞きます。そうした環境下で、マネージャー層や人事の方が意識するとよいポイントは何でしょうか。
オンラインで1対多の会議ばかりだと、コミュニケーションが疎かになり、親密感がなくなってしまいます。表情や身振りなど非言語的な要素が伝わりづらいためです。ですが、オンラインでも1on1ミーティングのように、1対1で話す機会をつくれば、相手の表情などに目を向けやすくなります。
そこで職場でも、マネージャー層が「気軽に1on1のアポをとってね」と周知することをおすすめします。オンラインのほうが気軽に短時間のアポをとりやすい面もあります。そうすることで、メンバーの不安を早めに解消でき、組織・個人のメンタルヘルスの維持につながるのではないでしょうか。

信頼性と即効性のある本を書きたい
── 西多先生は、睡眠医学、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケアの研究を続けるとともに、ストレスケア、テンパらない技術など、身近な視点で私たちの心身のケアにつながる本を多数執筆されています。こうした執筆の原動力は何でしょうか。
読者の日常に役立つような本を書きたいという思いです。今ではネットを通じて、「夜にスマホを使うと睡眠の質が下がってしまう」といった情報に誰でも触れられます。ですが、ネットの情報は玉石混交ですし、科学的なエビデンスをベースにした、専門家ならではの情報にわかりやすくふれられる機会が大事だと考えています。
とはいえ研究結果をまとめただけではどう実践に結びつけるかが見えづらい。そのため、読者が「読んだ後どうするのか?」がわかるように、信頼性と即効性のある本を書いていきたいですね。
医療の世界とは何かを教えてくれた社会派小説の金字塔
── これまで読まれてきた本の中で、西多先生ご自身のキャリアに影響を与えた本は何でしたか。どんな影響があったのかについてもお聞きできれば嬉しいです。
人生に影響を与えた本というと、若いときに読んだ『白い巨塔』が思い浮かびます。社会派小説の金字塔を打ち立てた山崎豊子氏による、医局制度の問題点や医学界の腐敗を鋭く追及した傑作です。人間の描写も素晴らしく、「医療の世界とはこういうものだ」というのが生々しく描かれています。
この小説を読んだことが、後に実体験を小説のように書いた自著『自分の「異常性」に気づかない人たち』につながっています。この本では精神科医として私が診察室で出会った人たちを取り上げていますが、1960年代に書かれた『白い巨塔』では精神科医は描かれていません。精神医学の世界が一般の人に身近になってきたのはここ最近になってからなのだと改めて思いました。
── 西多先生の今後のビジョンについて教えてください。
睡眠とメンタルヘルス、スポーツなど、幅広く研究を続けると同時に、芸術やなど創造性と不眠の関係も探っていきたいと考えています。偉大な芸術家や政治家、アスリートは往々にして不眠を経験していることが多いものです。不眠は解消すべき問題ととらえられていますが、たとえば創造性の発揮にも影響を与えているのかもしれない。不眠のポジティブな影響についても探究し、何かしら皆さんの役に立つ知見を提供していきたいですね。


西多昌規(にしだ まさき)
精神科医・医学博士。早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授、早稲田大学睡眠研究所・所長。
1970年石川県生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。国立精神・神経医療研究センター病院精神科、東京医科歯科大学助教、ハーバード大学医学部客員研究員、自治医科大学講師、スタンフォード大学医学部客員講師を経て、現職。
日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなど。専門は睡眠医学、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケアなど。主な著書に『「昨日の疲れ」が抜けなくなったら読む本』『休む技術』『「集中力」を高める技術』(だいわ文庫)、『「テンパらない」技術』(PHP文庫)、『自分の「異常性」に気づかない人たち』(草思社文庫)など多数がある。