才能が輝く「心理的安全性の高いチーム」をつくるには?
「HRアワード2021」受賞者インタビュー

人・組織に関わる領域において、企業や個人の成長を促す取り組みを表彰する「HRアワード」。「HRアワード2021」書籍部門を受賞したのが、『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』、『心理的安全性のつくりかた』です。
それぞれの著者である株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO・安斎勇樹さん、株式会社ZENTech取締役・石井遼介さんは「個人の才能を発揮できる組織・チームづくり」についてどう考えているのでしょうか? 同アワードプロフェッショナル部門を受賞した株式会社フライヤー代表取締役CEO・大賀康史が、お二人にこれからの時代のリーダーの役割や創造的対話を生み出す秘訣に迫ります。
非日常な「問いかけ」によって才能が一気に覚醒した
── 『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』、『心理的安全性のつくりかた』のご著書を読み返しました。お二人の関心の起点は「個人が輝いて生きるためには?」という問いにあるように思いますがいかがですか。
安斎勇樹氏(以下、安斎):そうですね。個人の才能発揮に関する問いが関心の起点にあります。きっかけは大学生の頃に開催していたワークショップにさかのぼります。そのとき毎回参加してくれていた小学生のA君は吃音の特性をもっていて、うまく自己紹介ができずにいたのです。ところが、あるワークショップで「小さい頃に夢中になっていた遊び」を問いかけたことをきっかけに、A君が堰を切ったように自分のことを 話しはじめ たのです。他の参加者からも反響が大きく、A君は大人が驚くようなアイデアを次々に提案していきました。おそらく、これまで抑圧されてきた才能が、非日常な「問いかけ」によって一気に覚醒したのでしょう。
それ以来、ささいなきっかけで人のポテンシャルが解き放たれ開花する瞬間にとりつかれました。そのメカニズムを解き明かそうと、大学院では「問いかけ」の技術と効果について認知科学的に研究する道を選びました。新著『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』でもこのエピソードを紹介しています。

石井遼介氏(以下、石井):個人の才能が解き放たれる瞬間をつくるにはどうしたらいいのか。この問いを掘り下げていくと、個人だけを扱っていてもうまくいかないと気づきました。その人の置かれている環境やチームに目を向ける必要があります。
同様に、メンバーを変えたいのなら、リーダーはメンバーだけに目を向けていてはいけません。自分自身にも目を向け、変わろうという心構えがあるからこそ、相互作用を通じて互いに成長していけるんです。

── たしかに組織やチームの影響は大きいですね。flierも、個人のユーザーだけでなく、「法人版」として企業の方々に使っていただくことで人材開発・育成部門での最優秀賞受賞という機会をいただきました。flierを通じて組織やチームが「本の知」にふれることで力をさらに発揮するサポートになればという思いがあります。




心理的安全性が低いチームでは「罰や不安」が蔓延している
── 会社経営のなかでリーダーの役割について日々考えているのですが、心理的安全性の高いチームのリーダーはどんなことを意識しているのでしょうか。

リーダーが心理的柔軟性をもつための一歩は、「自分自身も問題の中にいれる」ことです。自らマネジメントする組織やチームに問題があるのに、自分を問題の外に置いてしまうと、メンバーが「一緒に組織やチームをよくしていこう」と協力的に考えることはまず難しいものです。
安斎:私が代表を務めるMIMIGURIには経営者や人事担当者から組織開発の相談が寄せられます。よくあるのは、経営者や人事担当者が、「ボトムアップで対話をしてね」と現場に任せきりというケース。自身を「組織の課題」の外に置いてしまっているんです。本来なら、経営層もメンバーも、変革の当事者という意識をもってこそ他者を巻き込めるはずですよね。── なるほど。組織やチームで心理的安全性が高まっても、すぐにメンバー同士の化学反応が起きるわけではありません。創造的対話を生み出すうえで、リーダーやメンバーは何を実践していくとよいでしょうか。
安斎:ポイントは、それぞれのこだわりを語り合い、「チーム共通のこだわり」をつくっていくことです。自分のこだわりは自身を支える足場のようなもので、普段は目に見えません。表層に出ている違いにばかり目を向けていると、「理解し合えないのでは」とネガティブに考えてしまいがち。ですが、違いの背景に目を向ければ、「そんなこだわりがあるなら、こう考えるのも頷ける」と理解しやすくなる。こうしたアクションの積み重ねが創造的対話につながります。「リサーチ・クエスチョン」で才能のありかを知る
── 人材育成の課題を抱えている読者も多数いると思います。メンバーの才能が開花する瞬間をどう促せばよいのでしょうか。
石井:リーダー職にアサインするなど、その人が育つ機会を提供することですね。配置こそが人の成長を促します。もちろん、アサインする役割はその人のこだわりや才能に合っている必要があります。もし合っていないのなら、上長や人事側は「もっと輝ける場所があるのではないか?」と考え、いったんは与えた役割を「剥がす」ことも時には必要になります。安斎:メンバーが事業やチームに貢献するなかでどんな個性を発揮していたのかを振り返る機会を設けることも重要です。MIMIGURIではメンバーそれぞれが、何を探究したいのかという「リサーチ・クエスチョン(探究の問い)」を設定しています。定期面談ではリサーチ・クエスチョンをどれだけ探究できたのかを振り返るようにしており、人事評価でも加味されます。
大事なのは、この問いを個々のキャリアの発達段階に応じた粒度にすること。自身のタスクをこなすのに精一杯なジュニアメンバーに、直接事業に貢献できる一人前のメンバーと同じような粒度を求めると、ジュニアメンバーは不安を覚えてしまいます。

これからの学習戦略は「選択と集中」から「分散投資」へ
── 人生100年時代といわれ、自律的な学びが必要とされる現在、個人はどんなテーマや学び方を意識するとよいでしょうか。
石井:自分の強みが発揮できている瞬間を「動詞」で表すことです。息をするかのようにできていることや楽に継続できていることを思い出してみてください。こうした「すること自体からの楽しさが得られる行動」を「価値づけされた行動」といいます。これを「見る」「聞く」などシンプルな動詞で言語化してみるんです。自分とメンバーの「価値づけされた行動」を理解していれば、苦手な業務をそれが得意なメンバーに任せるなど、適材適所なチームづくりにも活用できます。安斎:これからの学習戦略は「勉強」から「探究」になっていくと考えています。これまでは明確なゴールに向けて、方策を絞り込み、実践することが重視されていた。ですが、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』にもあるように、変化が激しい現在はスキルの賞味期限が短くなる一方。そこで必要なのは、「選択と集中」ではなく「分散投資」の発想です。
自分が明らかにしたい問いを学びの中心に置きながら、好奇心をもって多様なテーマの知識を増やしていく。その過程で問いが磨かれていきます。イノベーション研究の重要理論である「両利きの経営」では、組織の戦略として「知の深化」と「知の探索」がいずれも重要だと説かれていますが、これは個人のキャリア戦略を立てる際にも役立ちます。
探究は「こだわり」を掘り下げることですが、それは「とらわれ」のはじまりでもあります。「とらわれ」を疑い、問い直すことも必要です。両者を実現するためにも多面的な分散投資をおすすめします。




安斎勇樹氏
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO
東京大学大学院 情報学環 特任助教
『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』著者で「HRアワード2021」書籍部門 最優秀賞を受賞。
https://www.flierinc.com/summary/2357
石井遼介氏
株式会社ZENTech 取締役
一般社団法人 日本認知科学研究所 理事
『心理的安全性のつくりかた』著者で「HRアワード2021」書籍部門 優秀賞、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」マネジメント部門賞を受賞。
https://www.flierinc.com/summary/2468
大賀康史氏
株式会社フライヤー代表取締役CEO
flier法人版が「HRアワード2021」プロフェッショナル部門 人材開発・育成部門 最優秀賞を受賞。