【ビジネス書グランプリ ビジネス実務部門賞受賞!】
ファシリテーションはポジティブに聴く力
どの人とも心理的安全性の高い関係をつくる思いと技術

ファシリテーションはポジティブに聴く力

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」でビジネス実務部門賞に選ばれた『超ファシリテーション力』(アスコム、以下「本書」)。たくさんの人が集まる場所には必ずファシリテーションが必要になるとの思いで、著者の平石直之さんはあらゆる人に本書を届けたいという気持ちを語りました。

平石さんは、多くの個性的な論客が登場する「ABEMA Prime」で2019年からキャスターを務め、その名ファシリテーターぶりから「アベプラの猛獣使い」と呼ばれています。その秘密や、人に接するときの思いなどについてうかがいました。

なぜいまファシリテーションなのか

── 受賞おめでとうございます! 今回の受賞の感想をお聞かせください。

平石直之さん(以下、平石):ありがとうございます。 こうして初めて本をつくりましたが、つくる過程の大変さを身を持って味わいました。私も放送業界では長らくつくる側ですが、放送は放送した瞬間に次の制作に向けて動き出せます。一方で本は、手に取ってもらって読んでいただいて初めて、書いた意味が出てくる。私が名著だと思っているもののなかには、本屋さんではもう売られていないものもあります。渾身の一冊は、売る努力、伝える努力があって初めて、忘れられないものになるんですね。だから今回の受賞で、私の本がきちんと届いていることを実感できたのは、とてもうれしいことでした。

それでもまだまだ届けきれていないと考えていますので、きちんと責任をもって、つくることと同等か、それ以上のエネルギーを、届けることに注いでいきたいと思っています。

超ファシリテーション力
超ファシリテーション力
平石直之
アスコム
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超ファシリテーション力
超ファシリテーション力
著者
平石直之
出版社
アスコム
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── この本はファシリテーションを題材にしたものですが、平石さんはファシリテーションをどのようなものだとお考えですか?

平石:私が普段取り組んでいる番組はもちろんのこと、会社という組織に必要なだけでもなく、人が集まる場には必ず求められるスキルだと考えています。

議論はあらゆる場面で生じますが、議論すれば必ずいい結果が生まれるわけではありません。場合によっては決裂して仲が悪くなることもあります。そうならないために、議論の作法は教育においても必要だという声を学校の先生からいただきました。消防士さんからも、チームの力を高めるものとしてこの本を紹介したいというお話をちょうだいしました。

ファシリテーションは、会議や議論、チームに参加した人が、「その場を好きになって、また来たくなる」ためのものだと思っています。その場を円滑にするのは、やはり「うまく仕切ってくれる人」なんですね。ただ、気心の知れた、似たような人だけでは、面白いものを生み出すことはできないとも思っています。異質な、多様な価値観をもつ人が集まることで初めて、お互いに考え方をアップグレードしていける。ファシリテーターは、居心地のいいところだけにとどまらずに、多様な価値観を包摂するインクルーシブな場をつくる役割です。

ファシリテーターがいれば、それぞれの組織、チームの考えを背負って会議に参加してきた人たちでも融合しやすくなります。着地点を見つけて、全体としてはどこに向かって歩み寄れるのかを示すのが、ファシリテーターの仕事なのです。

人が集まる場をいかにエモーショナルで心地よいものにするか。3人以上集まった時にその場をいかに楽しく有意義な場にするか。その意識をつねに忘れないようにしています。

ポジティブに人に接する、話を聞く

── ごもっともと思う一方で、自分ができるかと考えると難しそうだなというのも正直な感想です。円滑にファシリテートしていくために、普段どのようなことを意識されているのですか?

平石:あの人はちゃんとそれぞれの発言を汲んでくれるから、自分も意見を言おうかな、と思っていただけるように動くようにしています。それと同時に、発言の一つひとつをポジティブに拾っていって、次につないでいくことを意識しています。点を線にしていくイメージですね。そこで生まれる関係、議論を一回で終わらせない。

「おっしゃるとおりです。この部分はチームにとっても必要ですよね」などとポジティブに拾っていくと、自分の言ったことはとても意味があったんだという気持ちになってもらえます。そうすると「また言いたい」「また行きたい」と思える場になっていく。そして、今回はここまで歩み寄れました、次回はこういう話ができるといいですね、というようにつなぐんです。それができるファシリテーターを軸にするとチームの力を最大にしていけます。その意味では、誰にファシリテーターを任せるかは組織にとっても重要な決断のひとつになるでしょう。

── ポジティブに拾っていくには、話を聴きながら要約していく力も必要ですよね。何かコツはありますか?

平石:私はこれまでの仕事のなかで、話のエッセンスを1分くらいにまとめて、大事な部分だけを瞬時に研ぎ澄ませる力を培ってきました。そこから一般的に言えるコツとしては、キーワードを逃さずに、むしろキーワードをこっちがつくっていくような思いで話を聴くことです。「いまとても大事なこと、『社会の分断』についておっしゃいましたよね」といったように、キーワードで話の輪郭がシャープになるので、発言した人も「それが言いたかったんですよ」となります。

そのためには、いま目の前で展開されている話に一生懸命に耳を傾けることです。そうしてポジティブポイントを探して、次の話につなげていく。どうしても拾えなかったら追加質問をします。「具体的にはどうなんですか」「それはどういう意味でおっしゃっているんですか」というように深掘りする。

そのようにどんどん相手に踏み込んでいくには、心理的安全性が不可欠です。それには普段からの「根回し」が効いてきます。ファシリテーターと誰かとの、個としての信頼関係をつねにつくっていかないといけません。私は、自分から好意を示すようにしているんです。ファシリテーションするにあたって、「何派」というものがあってはいけません。賛成派と反対派がある議論のとき、どちらかに偏るとその場の心理的安全性はなくなってしまいます。だから、フェアであり、ポジティブであることが大前提になります。

対立する間柄があってもそこにパイプをつくる、お互い話せる関係をつくることも意識しています。対立すると組織のなかでも連絡や相談をしなくなってしまう。パイプができた状態で次に会うと、不思議と話し方、接し方が変わっていくんです。

集まったみなさん全員にとってプラスの関係、学びを得られる、ポジティブな場になるように心がける。そのための行動をとっていくのがファシリテーションなのです。

準備が9割!

── ご著書のなかでは「準備力」が大事であると書かれていますよね。先ほどおっしゃったポジティブで心理的安全性の高い関係づくりも準備のひとつだと思いますが、この「準備力」を強調されていることにはどのような思いがありますでしょうか。

平石:「私が責任を持っていい場にしますから」と自信をもってみなさんに伝えるためには、とにかく準備する必要があります。特に、よく知らない方がいらっしゃる場合は、「あなたのことはここまでわかっていますよ」とこちらから歩み寄る姿勢を見せないと始まりません。

ただ、いざたくさんの人がいる場に立ったときは、その場の流れに即座に反応するしかありません。だから、議論が始まったら準備したことは全部「捨てる」んです。資料を見返したりしている時間はありませんから、無意識的に「この人のことはここまで把握できている」という状態にしておかないといけない。ちょっと逆説的ですが、相手の話に集中して必死になって聴けるように、全部捨てる。そのために準備するんです。

── 準備すると往々にして人は準備通り進めたくなるものです。だからこそ「捨てる」。捨てたところでそれでも何か残る、そのくらいまで準備するということなのですね。

平石:まさにその通りです。準備したリストに従ってしまうと、「これとこれを言えた」と塗りつぶしていくだけになります。それは違う。議論が始まったら、言いたいことを言わせて受け止めることがファシリテーターの仕事になります。それぞれの発言者から生じる化学反応をプラスにしていく、それが役割なんです。自由に発言できる心理的安全性の高い場をつくる。だから、あなたのことはとてもわかっていますよ、好意を持っていますよと伝えるために人についての準備をしっかりします。

一方で、論点についての準備ももちろん必要です。それがないと、最終的にはここを明確にしたいというゴールをつくれません。議論の軌道修正もできませんよね。これについても、議論の真っ最中に資料を探している暇はないので、事前にできる限り準備して、議論の要点、軸を頭のなかで何度も反復して叩き込んでおく。しかもそれは、たくさん情報をインプットした状態でやらないといけません。情報が足りない状態で軸を決めてしまうと、軸自体がずれてしまうことがありますからね。

── とてもよくわかるのですが、全部叩き込みたくても、忙しいと準備の時間が足りないと思うのもまた人情です。あえて優先順位、メリハリをつけるとしたらどうなりますか?

平石:私の場合は、収録本番までの時間を逆算して、その時間でこれだけは準備できていないと出演者の信頼を損ねる、という線をまず見極めます。それで、テーマなどを見て優先順位の高いものから潰していくんです。私も全部調べられるわけではありませんから、そういうときは「ここまでは調べてわかりましたがここから先がわからないのでうかがいます」というスタンスを明確にします。

この姿勢で、ファシリテーターが論客の一人として立つつもりで参加すると、ほかのメンバーも本気で話してくれるようになります。上からリストを潰していくのとは違う関わり方になりますから。あとは、参加者が返してきた言葉に対して、今日はここに関心が集まっているんだなという点をつかまえて、話の聴き方を変えていくこともあります。

いずれにせよ、相手が絶対に言いたいこと、私たちが聴きたいことをすり合わせながら、センターピンが何かをふまえていくことが肝要です。それを発揮するための準備9割です。

ファシリテーション力を身につけるのは難しい?

── いかに準備ができたとしても、場を制してファシリテーションをしていくには、やはりセンスや持って生まれた性格が重要になるのではないか、と考える人も多いと思います。平石さんは、もともとファシリテーションのようなことがお得意だったのですか?

平石:いいえ、そんなことはありません。仕事の経験から学んでいった部分が大きいと思っています。

アナウンサーなのでスタジオで話す仕事はもちろんありましたが、インタビューや記者会見などの取材も多かったんですね。特に記者会見では、取材する側がカリカリしてしまう展開になると、会見を開いている企業や組織にとっても損になる。仕切りのまずさが企業イメージを損ねていると感じる場面もあったんですね。発信の仕方にはファシリテーションの力が重要なんです。

私も、自分がファシリテーションをやってみる前は、こうした能力は暗黙知のように感じていました。でも意識してこのスキルを言語化していったら、「自分でもできる」と思ったんです。だからこそ、本書を読まれる方々には、僭越ながら「この本に書いてあることを真似してみてください」と言いたいのです。

それで本の内容をQ&A形式にしています。組織では、「ケンカになっちゃうんです」「全然話してくれないんです」といった悩みが常日頃湧いてきますよね。そうしてちょっと悩んだときに手に取っていただくことが、ファシリテーションのスタートになると思っています。便利なフレーズがたくさんあるのでそれを真似をするだけで本当に違ってきますよ。「おっしゃるとおりです」「そうですよね」といった言葉をファシリテーターが使うと、聴く姿勢が伝わるので本当に喜ばれます。

ただ、そうした言葉は、思いが乗った時に初めて意味をもちます。私のファシリテーションが「うまい」かはわかりませんが、私は「ポジティブな展開にしたい」「あなたのいいところを伝えたいんです」という思いをもって相手の前に立ちます。どんなにつれない対応をされても、こちらからは全面的に好意を寄せる。思いが先で、テクニックが効いてくるのはそのあとです。その姿勢はノンバーバルな部分にも滲み出る。思いがないと相手の心に刺さりません。

ポジティブジャーナリズムを広める

── ポジティブな場をつくる、というお話をしていましたが、平石さんはジャーナリズムの現場でもポジティブであることを大切にされています。平石さんが考える「ポジティブジャーナリズム」とはどのようなものですか? また、今後、ジャーナリストとしてどのようにお仕事を重ねていきたいですか?

平石:私が主に関わっているのはニュースなので、ここで議論されているテーマは深いか、表層的な部分で終わっていないか、ということに気をつけています。深いところまでファシリテーターが知っているからこそ、そのテーマでいままさに熱い部分まで、みなさんを早く連れていける。

報道でも、批判すべきは批判するという姿勢はありますが、批判することばかり探すという状態は違います。私たちの番組は、いまホットな問題に関わっている当事者を呼んで議論しますので、その人たちを傷つけるだけになってはいけません。一緒に問題について伴走して考えるという、ポジティブでフェアな姿勢を見せることが大事です。

以前、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長に出演いただきました。総理会見直後だったこともあって、分科会がやってきたこと、尾身会長が発信してきたことなど、批判しようと思えば批判できるポイントはたくさんありました。でも私は、どういう気持ちで発信したのか、政府との関係でどういう苦悩があるのか、といった尾身会長自身の思いにまずは身を寄せるスタンスで、話をうかがいました。

いまどういう思いでその立場にあるのかを想像する姿勢に徹してみる。それも「ポジティブジャーナリズム」のひとつだと思います。

ただ叩いているだけでは、殻に閉じこもってしまったり関係が悪くなったりする。そうなると、どんどん分断していく一方です。社会によい変化をもたらす、世の中によい作用を生み出す議論の場をつくれるよう強く意識しています。当事者を呼ぶからこそ、私たちの番組の責任はとても重いのです。

人の生の声を聴けること自体にバリューがあります。まずは耳を傾けてみましょう。そこに意識を集中するからポジティブでいられるんです。意見を言う人を守れるんです。

いまこの瞬間、どういう思いでこういうことを発信しているんだろう。そこに興味を持って相対する姿勢を、これからも大事にしていきたいです。

超ファシリテーション力
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平石直之
アスコム
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平石直之(ひらいし なおゆき)

テレビ朝日アナウンサー。「ABEMA Prime」の進行を担当。1974年、大阪府松原市生まれ。佐賀県鹿島市育ち。早稲田大学政治経済学部を卒業後、テレビ朝日に入社。報道・情報番組を中心に、「地球まるごとTV」「やじうまテレビ!」などでMCを務め、「ニュースステーション」「スーパーJチャンネル」「サンデー・フロントライン」「報道ステーション」などでは、キャスターおよびフィールドリポーターとして全国各地を飛び回る。訪れた地は全47都道府県。2004年6月から1年間、ニューヨーク支局に勤務し、イチロー選手(当時)が年間最多安打記録を打ち立てた歴史的な試合や、アメリカ大統領選を取材。帰国後に「数字が読めるアナウンサー」を目指し、独学で8カ月かけて簿記3級と2級を取得。

2019年から新しい未来のテレビABEMAの報道番組「ABEMA Prime」の進行を担当。“論破王”と呼ばれるひろゆき氏との軽快なかけあいや、ジャーナリスト・佐々木俊尚氏との熱い議論など、アナウンサーという枠を超え、ファシリテーターとしての役割を存分に発揮。個性が強い出演者たちを巧みにまとめ上げる、“アベプラの猛獣使い”として番組を大いに大いに盛り立てている。

特技はテニス。学生時代はテニススクールのインストラクターのアルバイトで、コミュニケーションスキルを磨いた。自他ともに認めるスイーツ男子で、愛猫家の一面も。

また、大学の卒業旅行で中国のゆかりの地をめぐった“三国志マニア”で、本、映画、連続ドラマ、ゲームなど、あらゆる形でこよなく愛する。

Twitterアカウント:@naohiraishi

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文責:石田翼 (2022/02/25)
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