星野リゾート代表の本の読み方
『ビジョナリー・カンパニーZERO』

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」マネジメント部門で1位に選ばれたジム・コリンズ、ビル・ラジアー『ビジョナリー・カンパニーZERO』(日経BP)。
今回フライヤーの動画コンテンツ「RISING」では受賞を記念して「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの愛読者として知られる星野リゾート代表・星野佳路氏と本書の翻訳者である土方奈美氏の対談を企画しました。
RISING第4回 「星野リゾートがビジョン経営に徹底的にこだわる理由(前後編)」
この特集記事では「教科書通りの経営」を実践する星野リゾートの「ビジョン」の設定と共有に着目、ぜひ動画とあわせてお楽しみください。

「起業家なら、本書の86ページ分を丸暗記せよ」
NetflixのCEOリード・ヘイスティングスによるこのインパクトある帯文が目を惹く『ビジョナリー・カンパニーZERO』(日経BP)。
ジム・コリンズとビル・ラジアーによる「ビジョナリー・カンパニー」シリーズは、1994年の刊行から現在までに世界で1000万部を超えて読まれたロングセラーです。
コリンズとラジアーによる最初の著作『Beyond Entrepreneurship』(1992)のアップデート版として刊行された『ビジョナリー・カンパニーZERO』は、「偉大で永続的な企業になるために必要なこと」を凝縮した1冊。「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」でも圧倒的な支持を集め、マネジメント部門賞受賞に至りました。
世界的な経営者として知られるAmazon創業者のジェフ・ベゾスをはじめ、世界中に多くのファンを持つ「ビジョナリー・カンパニー」シリーズ。日本でも星野リゾート代表の星野佳路氏が愛読者の一人として知られています。

いまや日本を代表するホテル・旅館の運営会社として星野リゾートは今年2022年に創業108年目を迎えました。1991年に星野温泉の社長に就任した4代目の星野佳路氏は、1980年代にアメリカのコーネル大学ホテル経営大学院に留学し、ビジネス理論を学びました。
そこで出会ったのは「ビジョナリー・カンパニー」をはじめ、ケン・ブランチャード、マイケル・ポーター、ドラッカー、コトラーなどの研究者たちによる数々の経営理論。
これらの理論は単なる個人の体験談ではなく、信頼に値する研究者たちによる長年の調査の成果です。星野氏は解決すべき課題に直面した際、このような研究の中からその都度ふさわしい「教科書」を選び、徹底的に実践する「教科書通りの経営」を行っているそうです。

ビジョンの設定と共有
星野氏が代表に就任した当時の星野リゾートは、軽井沢のローカル企業でした。
就職説明会で学生たちの興味を引くことができず「人材が集まらない」という課題に直面した星野氏は、会社の現状を語るのではなく、目指す将来像を伝えることで学生たちに関心を持ってもらうことができるのではないか?と考えました。
そこで重要になったのが「ビジョン」。
「ビジョナリー・カンパニー」では経営者の最初の仕事としてビジョンの設定とその共有が挙げられていますが、星野氏はこの時まさにこの「ビジョンの設定と共有」を実践したのです。
「リゾート運営の達人」という星野リゾートのビジョンはこのようにして定められましたが、この時の経験からビジョンを持つことの重要性を実感した星野氏は、その後全社員に向けた「共有」にも力を入れるようになります。

共有の方法の一つが「ビジョナリーカップ」をはじめとするオリジナルグッズ。
中に入れた飲み物を飲んでいくと、段々とビジョンの中身が現れていくというこのカップは、1998年に誕生日プレゼントとしてメッセージ付きで社員一人ひとりに渡されました。
「こんなふざけたカップを作ってちょっとうちの会社おかしいよね」と笑ってもらい、それを通じて会社のビジョンを覚えて欲しかった、と星野氏は言います。
2020年からの新型コロナウイルスの流行では世界中のホテル業界も大きな打撃を受けましたが、星野リゾートはこれまで適切な対応ができているそうです。そのような対応を可能としたものは、コロナ以前からのビジョンの共有が徹底的になされた組織の作り方から来ているものではないか、と星野氏は考えます。
星野リゾートを100年後に残す
4代目の経営者としての自らの役割を「星野リゾートを100年後に残すこと」と定める星野氏は、その実現のためにどのような本を経営の教科書としているのでしょうか?
星野氏が挙げる「教科書」には「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの他にも例えば次のようなものがあります。




星野氏は何か解決すべき問題が出てきたとき、その問題を解決するのにふさわしい教科書を選び、「一行一行理解しながら全部読む」「つまみ食いはしない」という姿勢で徹底的な実践を行います。すべてを教科書通りにしていると、うまく行かない時もやり続けることによっていつかうまく行くんだ、と信じることができるそうです。
この対談で星野氏が紹介する本の読み方や実際に「教科書」として用いられた本は、中沢康彦『星野リゾートの教科書』(日経BP)でより詳しく紹介されています。
星野氏がアメリカのビジネススクールで学んだ1980年代は、まだインターネットもなく、ビジネス理論を勉強するには留学するしかありませんでした。
しかし現代では、星野氏がコーネル大学の図書館で読んでいたビジネス書の名著の数々は日本語にも訳され、日本中の書店で手に入れることができます。またインターネットではこれらの本の著者である研究者たちの講演の動画を見ることも可能です。
わたしたちもまさに星野氏の経営理論に本や動画で触れることができるわけですが、会社の経営においてのみならず、自分の人生、自分の仕事の「ビジョン」とはなんだろう?と考えさせられる、心に残るお話でした。
星野佳路(ほしの・よしはる)
星野リゾート代表 。1991年に星野リゾート社長に就任。「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。
土方奈美(ひじかた・なみ)
『ビジョナリー・カンパニーZERO』翻訳者。
日本経済新聞社で記者として、企業経営や資産運用など幅広く取材したのち独立。
ビジネス書を中心に、約50冊のノンフィクションを翻訳している。