DX推進の立役者が語る、未来を先取りする読書術
経営に必要なことはすべて『銀河英雄伝説』から学んだ

DX推進の立役者が語る、未来を先取りする読書術

「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というミッションをもとに企業のDX推進を支援するリーディングカンパニー、株式会社ブレインパッド。代表取締役社長を務める高橋隆史さんは大の読書家であり、社内でも本からの学びを広めているそうです。

トレンドを先取りし、新しい知恵をインプットしていくために実践していることとは何なのか? 高橋さんが経営において影響を受けた本をお聞きします。

データ活用率はたった3%、企業のDXをトータルに支援する

── 株式会社ブレインパッドについて改めて紹介をお願いできますか。

現在はあらゆる企業がデジタルに向き合い、活用していくことが必要となるDX時代です。データが爆発的に増えるなか、あらゆる産業の巨大企業もベンチャー企業も、データを大きな経営資源と捉えてビジネスにとりいれています。実際、顧客との接点がデジタル化されたことで、多種多様なデータがとれるようになりました。そうした環境に自社のビジネスをどう適用させていくか。それがDXの本質だと考えています。

ところが現在、日本企業におけるデータの活用率は約3%といわれています。さまざまな要因はありますが、経営層がデータ活用の重要性を認識できていないケースや、データを活用できる人材が不足しているケースもあります。このように、データ活用の伸びしろが大きいなか、企業におけるデータ活用の広義のデザインから、システムへの実装、そしてオペレーション改善のPDCAまでトータルに担えることが、当社の強みだと思っています。

── 高橋さんは大の読書家で、社内でも社員におすすめの本を紹介しているとお聞きしました。どんな試みか教えていただけますか。

以前はブレインパッドの新入社員向けに輪読会を開いて、私自身が影響を受けた本やビジネスに役立った本を紹介していました。若手社員たちに、技術の専門書だけでなくビジネス書全般にもふれてもらい、幅広い視野を養ってほしいと考えたためです。

いまは形を変えて、2020年10月からオンラインで私が会社の未来や戦略を話しつつ、社員が気軽に質問を投げかけられる時間を設けています。大学で学生が教授に質問できる「オフィスアワー」になぞって、「オンラインオフィスアワー」と名づけました。

オンラインオフィスアワーを始めたきっかけは、コロナ禍になって社員との接点が極端に減ったこと。オンライン会議だけでは社員の生の声を聴けないことに危機感をおぼえました。もっと経営と現場の距離を近づけたいと考えたのです。この時間のなかで、私のおすすめの本も社員に紹介しています。

Facebookのフィード、平積みのタイトルから未来をつかむ

── 情報量が多く変化の激しいなかで質の高いインプットを続けるために、高橋さんは日々どのような情報収集をしていますか。

Facebookでフィードに流れてくる情報には日々目を通しています。私がいいなと思っている方々や各分野の専門性をもった方々がピックアップしている情報なので、よいフィルターがかかっていて信頼できるからです。あえて探究するテーマを具体的に決めずに、流れてきた投稿を読む。そうすることで、「こういうテーマが話題なのか」と未来につながるトレンドをつかみやすくなるのです。

── あえてテーマを決めないのですね。情報収集のなかでも「本からのインプット」についてお聞きします。高橋さんは普段どのように本を選ぶことが多いですか。

主にビジネス書を幅広く読みます。以前は書店で平積みになっているものから興味をもった本を大量に買っていました。平積みのタイトルからは、いま話題のテーマ、そして将来注目されるテーマがつかめます。ただ、大量買いしていると場所をとってしまうので、いまは人からおすすめされた本を電子書籍で買い、そこからレコメンドされた本を買うことが増えました。そのなかで良かった本を紙の書籍で買い直しています。

私自身は、紙の書籍に書き込んで読むほうが、電子版で読むよりも記憶に定着しやすいですね。本を読んだ場所やページの箇所などの位置情報が関係するのでしょう。「この辺にこんなことが書いてあったな」とか。

積読(つんどく)してきた本を振り返ると、自身の関心よりも「知的コンプレックス」の歴史が客観視できて面白いなと思います。たとえば私の場合、経営に自信がもてなかったときは、「どうすれば人の心を動かせるのか」と試行錯誤していました。だから積読していた本は心理学の本ばかり。「本当はこの分野が得意になりたい」という願望が本棚に反映されていくのだと思います。

高橋さんの本棚には多種多様なジャンルの書籍がズラリ。

経営に必要なことはすべて『銀河英雄伝説』から学んだ

── 高橋さんにとって人生を変えた一冊や経営に影響を与えた本について教えていただけますか。

いちばん印象深い本は、中学時代に読んだ『銀河英雄伝説』です。銀河系を舞台にした帝国軍(専制主義)と自由惑星同盟(民主主義)の戦いを描いたSF小説です。経営で必要なことはすべてこの本から学んだといってもよいです。人間や組織の真実が非常にうまく描かれています。大人とは無条件に素晴らしい存在ではなく、足の引っ張り合いをするなど大人げない面もあるのだと(笑)。若い天才がそういった大人たちを打ちのめしていくのですが、そこから、大事なのは年齢や経験ではなく、高い理想や能力であると学びました。2巻まで読んだらもう止まらなくなりますよ。

創業期の2004年頃に読んで影響を受けた本もいくつか紹介します。1冊目は『奇跡の経営』です。ブラジルで、学生が就職したい企業No.1に選ばれたセムコ社CEO、リカルド・セムラー氏による驚愕の経営論です。社員が数千人規模になっても組織図がない、事業計画がない、人事部がないために社員をコントロールするしくみもない。そんなないない尽くしの非常識な会社でありながら、売上の平均成長率は年147%といわれています。なぜそうした高業績が実現できるのかが書かれた一冊です。役職や階級のないフラットな組織形態を意味する「ホラクラシー組織」の経営者が、こぞって参考にした本としても有名です。

奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ
奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ
リカルド・セムラー 岩元貴久(訳)
総合法令出版
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奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ
奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ
著者
リカルド・セムラー 岩元貴久(訳)
出版社
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2冊目は『コア・コンピタンス経営』で有名なロンドン・ビジネススクール客員教授ゲイリー・ハメル氏の著書、『経営の未来』です。彼は、従業員すべてが自発的に働き、創造性を発揮できるマネジメントを提唱しました。本書では、それを実現している企業の具体例が書かれていて、それを知るだけでも興味深いです。

経営の未来: マネジメントをイノベーションせよ
経営の未来: マネジメントをイノベーションせよ
ゲイリーハメル ビルブリーン 藤井清美(訳)
日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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経営の未来: マネジメントをイノベーションせよ
経営の未来: マネジメントをイノベーションせよ
著者
ゲイリーハメル ビルブリーン 藤井清美(訳)
出版社
日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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そして3冊目の『ブルー・オーシャン戦略』は、どうすれば血みどろの競争が展開するレッド・オーシャンを避け、高成長と高収益につながるブルー・オーシャンを創造できるのかを学べる一冊です。もともと私は競争が苦手で、競争せずに済むビジネスのあり方を模索していました。本書に出てくる事例は、ワインの会社や床屋など、ごくありふれたビジネスでありながら、戦略をうまくずらすことで競争を避けている事例ばかり。そこから勇気をもらいました。

[新版]ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する (Harvard Business Review Press)
[新版]ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する (Harvard Business Review Press)
W・チャン・キム レネ・モボルニュ 入山章栄(訳) 有賀裕子(訳)
ダイヤモンド社
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[新版]ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する (Harvard Business Review Press)
[新版]ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する (Harvard Business Review Press)
著者
W・チャン・キム レネ・モボルニュ 入山章栄(訳) 有賀裕子(訳)
出版社
ダイヤモンド社
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── 最近読まれた本のなかで、ビジネスパーソンにおすすめの本があれば教えてください。

最近社員におすすめしたのが、世界が注目する投資家レイ・ダリオ氏の著書『PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則』です。レイ・ダリオ氏は世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者。ESG投資の世界でも重鎮とされている人物です。半分自伝のようなかたちで彼独自の哲学が書かれており、まちがいなく良い本です。

彼は、人生や仕事の目標を達成するための原則をつくり、その通りに行動していった。そして失敗したら原則に立ち返り、徹底的にPDCAを回し続けました。そうやって高いパフォーマンスを発揮するファンドをつくってきた彼の意思決定の原則は、成果が出たものばかりなので学びが多いのです。

PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則
PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則
レイ・ダリオ 斎藤聖美(訳)
日経BP 日本経済新聞出版
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PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則
PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則
著者
レイ・ダリオ 斎藤聖美(訳)
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
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── 高橋さんはフライヤーというサービスについてどんな感想をもっていますか。活用法のアイディアをいただけると嬉しいです。

何のために読書するのかによって使い方が変わると思います。情報取集の一環なのか、作品として本と向き合いたいのか。

前者なら、たとえば「メタバース」「Web3」について知りたいときに、そのテーマのカギとなるコンセプトをフライヤーで効率よくつかめると思います。「メタバース」「Web3」に関する本はすでに数多く出版されています。先にフライヤー内で「メタバース」「Web3」と検索し、そこでレコメンドされた本の複数冊のサマリーを読んでおく。そうすれば、そこに共通する内容から土台となる知識を身につけつつ、自分にとっていま読むべき本の選書に役立てられると思います。

── 最後に、高橋さんの今後のビジョンを教えてください。

今後注力したいのは後継者の育成です。ベンチャー経営においては離陸も大変だけれど着陸も同じくらい大変だといわれます。私は今年50歳を迎えました。ブレインパッドがデータ活用のフロンティア企業であり続けるためにも、会社の未来を託せる人材を育てていきたいと考えています。

株式会社ブレインパッド代表取締役社長

高橋 隆史氏

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。新卒として日本サン・マイクロシステムズ株式会社(現:日本オラクル株式会社)に勤務後、フリービット・ドットコム株式会社(現:フリービット株式会社)の起業参画を経て、日本企業のデータ活用を支援するべく2004年3月にブレインパッドを創業。代表取締役社長として、2011年9月に東証マザーズ、2013年には東証一部上場を成し遂げる。現在、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事、一般社団法人日本ディープラーニング協会理事、東京大学エクステション株式会社社外取締役を務める他、官公庁による各種研究・委員会活動等に識者として参画するなど、データ活用促進のためさまざまな対外活動にも従事。

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文責:松尾美里 (2022/09/15)
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