
「100万人の通りすがりの視聴者よりも、1万人の濃いリスナーがビジネスを変える」 広く浅くではなく、深くつながる。そんな関係性を育むPodcastに、日本でもますます注目が集まっています。
Podcast Studio Chronicle代表を務め、年間1000本ものPodcast制作に関わってきた野村高文さん。野村さんの著書『プロ目線のPodcastのつくり方』に絡めて、Podcast市場のトレンド、「価値ある音声コンテンツ」の条件、配信を長続きさせる秘訣についてお聞きしました。
長く愛されるPodcastの共通項とは何なのでしょうか?
── 2022年に野村さんがPodcastレーベル「Chronicle」を立ち上げてから約3年が経ちました。野村さんは日本の音声コンテンツ市場にどんな変化が起きていると見ていますか。
まず現在地として、「ポッドキャスト国内利用実態調査」によると、日本でのユーザー数は増え続けています。増加ペースとしては微増ですが、Podcastを聴くという行動習慣が日常に定着してきた印象ですね。
よく聴かれているコンテンツは、大きく分けると2つあります。1つは「お笑いコンテンツ」。Spotifyの「ポッドキャストチャート」上位は、お笑いがほとんどを占めています。これは、深夜ラジオ文化の延長で、芸人さんが親しみやすい雰囲気で話すスタイルがPodcastにも広がり、お笑い好きの人に聴かれているからなんですね。Spotify は YouTube よりユーザーの年齢層が若いというデータがあり、20 代を中心とする若い層がお笑いコンテンツをよく聴いていると解釈できます。
人気なジャンルの2つめが「ニュースコンテンツ」です。Chronicleが配信する「News Connect あなたと経済をつなぐ5分間 #ニュースコネクト」もそうですし、NHK や日本経済新聞、BBCといったニュース番組がランキング上位に入っている。ビジネスパーソンを中心に、日々のニュースを耳から取り込む習慣ができています。このように、お笑いとニュースが日本のPodcast市場を牽引しています。
そのうえで2025 年に起きた変化は、有名人がPodcastを始める動きが増えていること。代表例は、政治家の小泉進次郎さんや、阪神タイガースの主力選手である近本光司さんです。これまでは個人メディアというと、 ブログ 、YouTube チャンネルが中心でしたが、今は第三の選択肢としてPodcastが認知され、実際に始める人も増えてきました。

── 個人の立場から見ると、YouTube よりPodcastの方が参入しやすそうに感じます。
それは間違いないと思います。必要なコストがYouTube に比べて圧倒的に低いので、一から発信を始めたい方にとっては、Podcastは有力な選択肢といえます。
また、YouTube はすでに「レッドオーシャン・オブ・レッドオーシャン」で、あらゆるジャンルに強い競合がいる。これに対し、Podcastはまだ各ジャンルにブルーオーシャンがあるので、今のうちに始めておくと後々いいことがあると思っています。
── 「flierチャンネル」というYouTubeの制作に関わっていても、レッドオーシャンぶりを感じます。視聴回数が非常に伸びる回と、そうでない回との振れ幅が大きいものの、その点Podcastでは、登録者がずっと聴いてくれる印象があります。
そこは大きく違いますね。YouTube はアルゴリズムが配信回ごとにコンテンツを評価するため、再生数にかなりバラツキが出ます。特に、既存のチャンネル登録者が、新着動画をクリックするかで評価が大きく分かれます。結果として、「神回」しか出せないプレッシャーが生まれてしまう。知り合いの YouTuberも「毎回神回しか配信できない」と嘆いていました。
一方、Podcastは良くも悪くも毎回の再生数がほぼ同じ。力を入れても、そこまで入れなくても、数字に大きな差が出ない。だからこそ、配信者側がテーマを設定しやすいのが特徴です。世間でウケているものをうまく当てにいくのが YouTube なら、Podcastは自らアジェンダセッティングをしやすいメディアといえます。
── ほかにも音声コンテンツならではの強みは、どんなところですか。
まずは滞在時間の長さ。YouTubeだと、たとえば30分のコンテンツで最後まで視聴する割合はよくて2割。ですが、Podcastの場合は、7~8割もの人が最後まで聴いてくれます。これは、無限に流れてくる情報が人々の「1秒の注意」を奪い合うアテンション・エコノミーにおいて、かなり貴重なことです。
しかも、一度聴いてくれたリスナーが次も聴いてくれる確率が高い。こうした音声コンテンツによって生まれる「結びつきの強さ」も、音声ならではの強みだといえます。
── 野村さんにとって、面白いPodcastの条件とは何でしょうか。
面白いPodcastの条件は、「その人にしか言えない話をしているかどうか」。そのヒントになるのは3つあって、①職業的専門性、②ライフヒストリー、③強烈に好きなものです。このいずれかから「自分にしか話せないものは何か」を掘り下げると、面白いPodcastになると思っています。
実際に企画に落とし込むときには、「人 × テーマ」の考え方が有効です。自分がどの属性の「人」として話すか、その属性の人がどんな「テーマ」を話せばリスナーにとって「価値のある話」になるかを考えてみる。
その「価値のある話」については、次の4つに整理しています。1つめは、知らなかったことを教えてくれる「発見」、2つめは、複雑なことがスッと腑に落ちる「理解」、3つめは、「あるある」とうなずける「共感」。そして4つめは、「この関係性や場の空気にずっと浸っていたい」と感じさせる「空間設計」です。この4つのうち1つ以上を満たせているかが、リスナーにとって「価値のあるコンテンツ」の指標になると思います。


── このフレームワーク、とてもわかりやすいです。「自分には特別な専門性も強烈な趣味もないし、語ることなんてないな」と感じてしまう人は、どうやって「語れること」を見つけるとよいでしょうか。
大前提として、誰にでも語れることは必ずあります。職業的専門性に関しては、自分では当たり前のことでも、外から見れば興味を引く「ノウハウの塊」だったりするんですよね。職業人としてできることを箇条書きにして、違う職種の人に見せると、「面白そうだね」といわれる可能性は高いです。
熱狂的な趣味についてなら、何が好きで、そのどこが好きなのか、それにまつわるエピソードは何か。これらを書き出していくと、充分「企画のテーマ」になり得ます。
裏ワザは、自分のテーマと近い本を一冊買ってきて、目次を見ることです。本の目次はトークテーマのヒントの宝庫。もちろん丸パクリはダメですが、本の目次の立て方から参考になる点は多数あると思いますね。

── 「長く愛されているPodcastの共通点」について伺いたいです。たとえば、Chronicleが制作している「経営中毒 〜だれにも言えない社長の孤独〜」やTBSラジオ「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のような人気番組には、どんな共通点があるとお考えですか。
大きく2つあると思っています。1つはリスナーとの関係性の築き方、もう1つはコンテンツの中身そのものです。
まずリスナーとの関係性では、いかにコミュニケーションを積み重ねていけるかどうか。たとえば「お便りを定期的に取り上げる」「リスナーに直接呼びかける」などです。私はよく「Podcastのリスナーを増やすのは選挙活動と一緒。握手をした数しか票にならない」といっています。番組でコメントをもらったら、いいねやリプライでコミュニケーションを積み重ねていく。あるいはリアルイベントを開いて、顔が見える関係になっておく。こうした「一人ひとりとの関係構築」が大事だと思います。
次に、コンテンツの「ネタ切れ問題」にどう対処するか。徐々に「ネタ切れしづらいフォーマット」に移行することが重要です。お便り形式や近況を語る形式、映画や本のコンテンツレビューもいいと思います。ネタ切れしづらいフォーマット化が、長続きのカギです。
大事なのは、配信者自身が「アンテナを張って、色々なところに足を運ぶこと」です。街を歩く、人に会うなど、人生を面白く生きている人の話は面白いものですし、そうやってPodcastを続けること自体が、自分の人生を豊かにするきっかけにもなります。
── Podcastの発信が自分の人生を豊かにするって素敵ですね!
Podcastの効用というと、いかに数字を伸ばしてマネタイズをするかが注目されがちですが、それ以上にPodcastは「人生を充実させるもの」だと感じています。自分の考えを一度コンテンツの形で棚卸しして発信することで、自己理解が深まっていく。何年も続けていると、それが数年前の自分に出会える「自分の記録」にもなります。
さらには、配信者同士でつながれるのも大きいですね。好きな番組の配信者に感想を伝えたことがきっかけでつながりが生まれることもありますから。
── これからPodcastを始める人にとって、最初の半年が肝だと思うのですが、そこを乗り越えるために意識するとよい点はありますか。
最初の半年はとにかく「無風」です(笑)。再生数もあまり増えないので、心の支えになるようなフィードバックを早めにもらえるといいですね。おすすめは、数回配信したらリアルの知り合いに連絡することです。「こういう番組を始めたので、感想をもらえたら嬉しい」と。仕事上の知り合いを含めれば100 人くらい連絡できる人はいるはずで、そのうち何人かが感想をくれたら、かなり励みになります。
15〜20 回ほど配信すると、「このジャンルでまとまった発信ができたな」という手応えが出てくる。そのあたりから、同じジャンルのポッドキャスターに、番組の感想を添えて「自分もこんな番組をやっていて、よければ一度お話しませんか」と連絡するのもいいでしょう。コラボやつながりが生まれて、さらに楽しく続けやすくなります。
先日、海外のメディアで面白い記事を見かけました。アメリカでも、男性は女性よりも友達をつくるのが苦手な傾向にあり、Podcastが友達づくりの有力なツールになっているそうです。「番組のゲストに招く」という体で誘えば、友達がつくりやすいという(笑)。中年になると友人が減って孤独を感じやすいといわれますが、Podcastがあれば大丈夫かもしれません。
── Chronicleでは年間1000本ほどのPodcastを制作しています。「想定以上に反響があった番組」はありますか。
「超実践的幸福論」は、想定を超えた反響がありましたね。セルソースという再生医療の会社を創業した裙本理人さんと、私の元同僚でノンフィクションライターの泉秀一さんが、仕事、キャリア、お金といった答えがないテーマについて「最適解」を語る番組です。二人ともとても合理的に考えるんですが、実はちょっと偏っているんですよね。その偏りを自覚せずに喋っているのが面白いポイントです。リスナーは「いやいやいや」と心の中でツッコミを入れながら聴いてしまうんだと思います。
こんなふうに偏りを見せること、つまり誠実でありながらも自分の主観を話すことが重要なんですよね。
── 最近は個人だけでなく企業やチームでPodcastを配信する動きも増えていると伺いました。社外向けのブランディングや採用広報、社内向けのインナーブランディングで活用する際には、どんなことを意識するとよいですか。
社外向けと社内向けでは、方針がかなり違います。社外に発信する場合は、「世の多くの人はまだ自分たちに興味を持っていない」という前提に立つことが重要です。よって、「社員が順番にキャリアヒストリーを語る」という形式だと、一般の人には刺さりにくくなってしまう。
社外向けの発信では、「自分たちが属している業界で、どんな知見を外に提供できるか」を起点にするといいと思います。業界の構造やトレンド、自社のノウハウなどの情報提供から始めるといいですね。
一方、社内向けには「内輪話」をするのがおすすめです。たとえば、ベテラン社員の方に、当時の会社の雰囲気について語ってもらうとか。社内向けPodcastでは、レジェンド社員のエピソードや現場のリアルな空気感など、文脈依存度の高い話こそ、大きな価値になります。
── ここからはメディアの未来について伺えたらと思います。アメリカだけでなく、イギリスやインドでもPodcastが広がっていると知って驚きました。音声コンテンツを含めた「メディアの未来」はどうなっていくとお考えですか。
今後確実に起きるのは、「AI によるコンテンツ爆発」です。テキストも動画も音声も非常に低コストで大量生成できるようになる。その中で「人間が発信する意味があるもの」だけが残っていくと思います。AI にはつくれない、あるいは AI の創作とは明確に違う価値を持つコンテンツを発信し続けられる人は、これからも支持を得るでしょう。
中でもPodcastは、「人間にしか発信できないコンテンツ」の代表例だと考えています。主観や脱線が入り、「場の空気」そのものが価値になる。そうしたコンテンツは AI にはつくりにくい。そうした未来を見据えると、Podcastを蓄積することには大きな意味があると思います。
── 最後に、今後野村さんが挑戦したいことを教えてください。
日本のPodcastリスナー人口を現状の2倍に増やしたいと考えています。そのためにできることは何でもしたいですね。よいコンテンツをつくるのはもちろん、今回の著書のように方法論を開示して、よい番組が生まれやすい環境を整える、音声の魅力を伝える、といったことです。
今、コンテンツ全般がどんどん短くなり、「1 秒の注意」を奪い合う状況になっていますが、それが望ましいとは思っていません。だからこそ、音声コンテンツのリスナーが広がって、「長いコンテンツの価値」に気づき、それを好む人が増えていくといいなと思っています。



野村高文(のむら たかふみ)
Podcastプロデューサー・編集者
愛知県知立市出身。東京大学文学部卒。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、ニューズピックスを経て、2022年にPodcast Studio Chronicleを設立。制作した音声番組「a scope」「経営中毒」で、JAPAN PODCAST AWARDS ベストナレッジ賞を2年連続受賞。その他の制作番組に「News Connect」「みんなのメンタールーム」など多数。TBS Podcast「東京ビジネスハブ」メインMC。著書に『視点という教養』(深井龍之介氏との共著)、『地域が動く経営戦略』(土屋有氏、藏本龍介氏、矢田明子氏との共著)。旅と柴犬とプロ野球が好き。