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AIとつかむポジティブな未来
「ビジネス書グランプリ」〈特別賞〉受賞!

AIとつかむポジティブな未来

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」で〈特別賞〉グロービス経営大学院賞を受賞した『アフターAI』(日経BP)は、テクノロジーとしてのAIの現在地だけではなく、今のビジネス現場での実装状況や、将来的な見通しまで照準に入った本当に刺激的な本です。 「アフターAI」の世界で、日本のビジネス環境をはじめとした社会がどのように変わっていくのか、特に明るい可能性のお話をメインとして、著者のシバタナオキさんにうかがいました。 (グロービス・フライヤー合同インタビュー)

── このたびの受賞、本当におめでとうございます。受賞されての感想をお願いします。

『アフターAI』は、テーマ的にはかなりニッチな本ですし、こんなに売れると思っていなかったこともあって、こうして賞をいただけて本当にありがたく感じています。

グロービスさんは数年前から、テクノロジーとイノベーションをかけ合わせた“テクノベート”という言葉をよく使われていますが、新しい技術が世の中に浸透して人の役に立つというまさにその過程に、いまちょうどあるのがAIですよね。

この2026年は、生成AIの社会実装、ビジネス実装がどんどん進んでいく1年だと思います。そのなかでの新しいチャレンジにはいろんな困難が待ち受けているはずなので、この本が「指南書」のようになればと、個人的には考えています。

この本を手に取ってくださる人が増えたことで、一番びっくりした反響は、NHKの番組への出演を打診されたことです。こうしたお話がくるのは、「日本にはAIで勝てるチャンスがまだあるかもしれない」というポジティブな発信をしているのが、日本ではおそらく私以外にいないからかもしれません。

日本のソフトウェア、インターネット業界は、ここ30年ほどずっと赤字状態です。特にソフトウェアは、ほぼ100%海外製。そこにやってきたAIは、スマホやクラウドよりも大きな影響を及ぼすと言われている。それに対する恐怖感が大きくなるのは、仕方のないことです。ただ、私はそこに非常に大きなチャンスがあると思っているので、この新しいオポチュニティに飛び込んでいく人が、一人でも多く増えてほしいという気持ちで、この本を書きました。

アフターAI
アフターAI
シバタナオキ
日経BP
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アフターAI
アフターAI
著者
シバタナオキ
出版社
日経BP
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AIエージェントで変わるビジネス環境

── 本書でもさまざまに描かれていましたが、この新しい流れのなかでAIエージェントの技術がインフラとして定着していき、汎用人工知能や人工超知能といった進化が実現すると、ビジネスパーソンの職場環境には、どのような方向性での変化が起きていくと考えていますか。

AIはどんどん賢くなっていて、最近の計測では、最先端のLLMのモデルでIQ130くらいでした。人間より賢くなるのは時間の問題ですよね、残念ながら。

そうなるとIQでは勝負できないので、むしろそれをチャンスにしなくてはなりません。現時点でも、ちょっとお金を出せばIQ130の人を無限に雇えるようなものですし、教育したとおりに動いてくれて、自分が寝ている間も働いてくれるのですから。

そうしたAIが浸透していくことで、すべてのビジネスパーソンが数十から、場合によっては数百のAIエージェントを動かしていくようになるでしょう。ホワイトワーカーかブルーワーカーかにかかわらず、AIエージェントのマネジメントは必須のスキルになっていく。24時間365日稼働してくれる優秀な部下を抱える、マネジャーになる必要があるのです。

そのように、AIエージェントが大半の業務を担う形の移行をスムーズにこなせた会社は、同じ社員数でもコストを下げながら成長していけるので、競争力をさらに高めていけるでしょう。この流れは、汎用人工知能が浸透していく過程でも同じです。

もう少し現場目線でいえば、そうした頭のいいAIでも、最初は仕事のやり方を知らないので当然、間違えることも多い。それがハルシネーションと言われるわけですが、ここで重要なのは、次に間違えないようにどう教えるかというフィードバックの仕方です。

これは人間でも同じだと思うんです。新入社員がミスしたとき、ただ怒鳴るだけでは、また同じ間違いをするだけじゃなく、チャレンジする気力まで失わせるかもしれない。だから、何が間違いで、正しいやり方はこうだとちゃんと教えてあげる。AIは我々よりIQが高いので、新しいミスはするにしても、同じミスを繰り返すことはしない。だから、「AIに教えてあげる」という作業を早いうちからやっていた会社が強くなります。

スタートアップには、とにかく新しいことをやって失敗しまくっても、むしろそれを褒めるようなカルチャーがあります。チャレンジのための新しいミスは許容されているからです。でも、繰り返しのミスはダメです。1回間違えたら学習する。

AIのような新しいものを取り込んでいく際には、こういうマインドセットのほうがいいでしょうね。

── 書籍では、現場にある暗黙知が「アフターAI」の時代で大事になってくるということが書かれていました。AIエージェントの進化で、ビジネスパーソンたちがマネジメント側に回っていくと、さらに現場との距離が生まれてしまうということも大いにあり得ます。そのなかで、リアルな現場の経験を大事にしつづけるためには、どのような姿勢で行動していくとよいのでしょうか。

まず、それぞれの社員が100のAIエージェントを部下に持つなら、組織の階層(レイヤー)を減らしたほうがいいでしょう。そのうえで、基本的なタスクのほとんどをAIに任せて、現場に行く時間を捻出していくことが大事です。

私は「ミーティングをサボる名人」なんです。ミーティングのサマリーはAIエージェントに送ってもらえますから。議論が中心のミーティングには行ったほうがいいと思いますが、意思決定に必要な情報収集という意味では、議事録や資料で足りることがほとんどです。

その代わり、現場に足を運んで、会社のフォーマルなレポートには入らないような、フィルターのかかっていない一次データを集める。マネジメントの時間の使い方としてはよほど価値のあることです。

AI時代において、一次データを持っている人は一番強い。もちろん完璧に全部を取れはしませんが、そうした姿勢、考え方を持っているだけでも違ってきます。経営的な意思決定のスピードを上げられますし、現場からチャンスを拾い集められるので、競争力の向上につながっていくのです。

── そうしてシバタさんが一次データを選り分けていくにあたって、情報収集、インプットで意識されていることは何かありますか。

情報収集自体を意識的に行なっているというより、ちゃんと一次情報を取りに行くことが大事です。報道されていることをそのまま受け取るのではなく、原典、原本にきちんと遡る。最近はそれもAIを使うことでより簡単にできるようになりましたが、一次情報を取りに行くという姿勢は自分自身が強く持つようにしています。

最近のニュースだと、Anthropicが出した新しい機能によって、「SaaSの死」がやってくると騒がれていますよね。でも、よくよくその本質を見極めてみると、AI企業に比べてSaaS企業の成長率が低いという問題だとわかる。だから株価が下がっているんですね。Anthropicの新しい機能でSaaSの機能が不要になる、みたいな話はいわばノイズです。

ノイズを切り分けて、意識的にフィルターにかける。それには経験値が大きい。とにかく量をたくさん見ることで徐々に身についていくものでしょう。

そして、これは忘れてほしくないことなのですが、集めた一次情報をもとにして最後に腹を括ること、そしてまわりのステークホルダーを説得していくことは、人間にしかできません。それがマネジメントとしての重要な仕事です。

たとえば、選挙にAIが出馬してそれらしい政策を語っても、おそらく票は集まらないでしょう。2026年2月の衆議院選挙でチームみらいが躍進したのは、彼らのよさが伝わるようなマーケティングをSNSなどで丁寧にやったからです。

正しいことを考えて言うだけではマネジメントは成立しません。人を説得する、上司や同僚、部下をその気にさせることは、AIにはできない。できるだけ多くの一次情報に触れるのは、自分が腹落ちして、それでもって人を口説くために必要だからです。

日本の可能性はどこにある?

── 本書では主に米国でのAIの実装事例がたくさん紹介されていましたが、日本での実装においては、やはり言語的な壁などがネックになるのでしょうか?

日本での開発、実装は、アメリカから見るとおよそ1.5年から2年は遅れていると言われていますが、AIが非常に賢くなっていることもあり、おそらく言語的な壁はほとんどなくなっています。たとえばDeepLはとても高精度な翻訳ツールですが、LLMの翻訳技術はさらに先を行っていると感じる人も多いのではないでしょうか。

では何が一番の障壁になるのかというと、ひとつは規制の違いでしょう。ヘルスケアやフィンテックの分野だと、日本とアメリカで見てみても、銀行や病院で提供されるサービスは似ていますが、その周りの規制がだいぶ違う。

それから、もうひとつ挙げるとすれば、商習慣の違いですね。同じ業界で同じようなサービスを扱っていても、ビジネスのやり方がまったく違うと、それが障壁になり得ます。カスタマーサポートやマーケティング、営業といった分野は、グローバルな商習慣の違いがそれほど大きくないでしょう。でも、たとえばHR(Human Resources)の分野は結構違っていますよね。日本ではいわゆるメンバーシップ型の人事制度、新卒一括採用がベースである一方で、欧米の場合は完全にスキルベースですから。他の国の仕組みをそのまま日本に持ってくるとはなりにくい。そういうところから、日本発の新しいテクノロジーが出てくる可能性もあるでしょう。

とはいえ、業界特化型のヴァーティカルなAIエージェントは、あらゆる産業に進出しはじめている段階です。まさに、全産業×全職種分のAIエージェントができているような状況なのです。そのなかでヘルスケアやフィンテックで導入が早かったのは第一に、人材不足で困っていたからでしょう。猫の手を借りるくらいならAIの手を借りようという。

職場環境がブラックであることも、AI化が進む大きな要因になります。アメリカの病院はまさにそうでしょうね。電子カルテなどの書類仕事で、医師も看護師も、平均して毎日2時間程度の残業が発生していた。命を預かる非常に大事な職場なので、みんな無理をして働いていたわけですが、過酷な労働環境のせいで離職率が上がってしまい、新しい採用が必要になって、その分のお金がかかる。だからこそ、ホワイトな職場にしたいというモチベーションが働く。

よいソリューションが出てくれば、日本でも「猫の手を借りたい」状態の業界では、導入がどんどん進んでいくでしょう。

── 日本は世界のなかでも少子高齢化が進んでいる国です。シバタさんも本書のなかで、「生成AIで解決すべき課題がどの国よりも多いのが日本」であり、だからこそ日本には可能性があるというようなことを書かれていました。「アフターAI」における日本企業の可能性はどういうところにあるのでしょうか。

メンバーシップ型の日本企業では、少子高齢化で人材不足となっても、みんなが少しずつ我慢すれば対応できてしまう部分はあります。でも、明らかに限界レベルを超えている領域もありますので、そうしたところでAIを真剣に検討してみるといいでしょう。

諸外国では忘れられがちだけれども、日本ではわりと喫緊の問題になっているテーマとしては、インフラの老朽化が挙げられます。

日本よりも後に、経済的な豊かさを手に入れた国に行くと、「この空港、きれいだな」と感じることってありますよね。再開発が終わっていない日本の街より、はるかに洗練されているような場所もたくさんある。それは、課題先進国ならではの「痛み」だと思います。

ビルのメンテナンスや高速道路の柱の点検など、インフラ的な部分には人が足りていなくて材料も高いとされてしまう。人間がすべてを見ていくのは、すでに不可能なレベルです。とはいえ、傷んでいるのがわかってから工事したのでは遅いかもしれない。だから、インフラの検査、インスペクションから、簡単なメンテナンスや掃除といったことまで、AIやロボットに担わせる。

そうしたAIの使い方は、いつの時代でも、世界中で必要になってくるはずです。課題先進国の日本だからこそ、トップランナーとして世界に発信していける可能性があると思います。

アフターAIを生き抜くための「熱中」

── 学生と触れ合う機会も多いシバタさんの目から見て、『アフターAI』に関心をもつ若い読者が、「アフターAI」の社会を生き抜いていくために触れるとよい情報などがあれば、ぜひ教えてください。

ひとつ前提としてお伝えしたいのは、世の中にある情報、本に収録されている内容は、AIが人間よりも早く読めてしまうので、知識を蓄えること自体に意味がなくなっているということです。そうして情報が溢れているからこそ、長期間にわたって自分がハマれるものを見つけたほうがいいという話を、若い人たちにはよくしています。対象は何でもいいんです。スポーツでもいいし、料理でもいいし、「プラモデルをずっと作りたいです」というのでもいい。

短い間の試験勉強でいい成績をとるというところには、もはや人間の価値はなくなっている。AIのほうが賢いですから。その部分で人間側が勝つことは、もうないでしょう。

だから、知識を詰め込むより、何かにハマったほうがいいんです。勉強しなきゃ、仕事だからやらなきゃというようなものは、AIのほうが効率よくできるわけですから、どんどんAIに置き換えられていく。AIは超短時間のうちに一番効率的な答えを出すことに関して極めて長けていますが、一見すると無駄に思えるような対象に熱中することはできない。子どものころから異常に料理が好きで、ずっと料理をしていればハッピーですという人こそ、AIには考えつかないようなレシピやビジネスを創出するものです。

よく冗談として出すのですが、画像や写真の共有サービスであるPinterestの創業者は、もともと昆虫を集めるのが趣味だったんです。虫を集めているだけだと「気持ち悪い」と感じる人もいると思いますが、昆虫収集をやりつづけていたからこそ、インターネット上できれいな画像を集めるサービスにつながって、アメリカで上場するほどの会社に成長した。

だから、虫が苦手な人の子どもが虫集めを趣味にしていたとしても、この子は大丈夫かなと思わないでほしいです。そうして何かハマれるものがあること自体、本当に素晴らしいことだから。

就職活動なども、やらなきゃいけないからやるだけのことで、それがすべてではない。好きで続けられるものを見つけて、それを突破口にして生き方を、社会をひらいていけるんだ、ということを、一番大きなメッセージとして、若い人に伝えたいです。

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著者
シバタナオキ
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シバタナオキ

NSV Wolf Capitalにて、マネージングパートナーとして、シリコンバレーの新興VCへのファンド投資、スタートアップへの直接投資を担う。エンジェル投資家として50社以上のスタートアップへ投資実績あり。楽天執行役員、東京大学助教を経て、スタンフォード大学の客員研究員として渡米。米国シリコンバレーでAppGroovesを起業。「決算が読めるようになるノート」を創業(2022年に事業譲渡)。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。著書は『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』(日経BP)、『テクノロジーの地政学』(共著)(日経BP)。

文責:石田翼(2026/03/05)