自分なりの「問題意識」、見つけてみませんか
身近な社会問題に切り込む5冊


忙しく働く日々が続くと、つい目先のことばかり考えてしまうようになりがちです。けれど、ときには身の周りを見渡してみませんか。ニュースで報じられるできごとに心が反応したとき、それを少し掘り下げてみてはどうでしょう。
「こんな状況はおかしいのではないか」と感じることは、思いがけずあなたと社会のつながりのかたちを浮き彫りにするかもしれません。そして、社会においてやりたいこと、仕事を通して実現したいことが、改めてはっきり見えてくることもあるかもしれません。


残業や働き方の問題は、ビジネスパーソンにとっていちばん身近な社会問題ともいえるかもしれません。2016年の「電通過労自死事件」に胸を痛めた方も多いのではないでしょうか。「ノー残業デー」など、長時間労働を抑制する方策を企業が推進しても、なかなか残業や深夜労働がなくならないのはなぜでしょう。
残業を語ろうとすると個々人の「私の残業観」が投影されてしまうことがありますが、本書は、残業にまつわる全体像をデータから解明することで、客観的な議論を可能にしています。管理職の方、仕事に追われつい残業してしまう方、まずは本書で残業のメカニズムを知ってから、よりよい組織づくりや働き方を考えてみませんか。


仕事の合間に立ち寄るコンビニ。そこで最近大きな変化が起きていることに気づいていましたか。コンビニで働く外国人スタッフは、大手三社だけでも2017年には4万人を超え、20人に1人は外国人という計算になるといいます。もはやコンビニは、彼らなしには「まわらない」のです。
日本政府は「移民」の受け入れは認めていませんが、コンビニをはじめとして飲食業や工場や介護施設で働く外国人はすでに実際、大勢います。人口が減り、高齢化が進んで労働力が不足する日本社会はどこに向かうのでしょう。
数多くの「コンビニで働く外国人」の生の声が、社会の実相を炙りだす力作です。


労働力人口の不足が懸念されつつ、一方では、対策次第で活用できるのにできていない労働力もあります。そのひとつといえるのが、待機児童を抱える母親たちです。
待機児童問題の原因としてよく挙げられるのは、低賃金ゆえに保育士が不足していることや、都市部への人口集中などです。しかし、本書の著者によると、原因はもっと根深いところにあるというのです。3人の子どもたちの保活を経験した経済学者の著者が、体当たりの調査・研究、政策現場での取り組みから見えてきた事実を訴えます。
私たちはいったい何を変えていけばいいのか、認識が変わる一冊です。


本作は、前段まで紹介してきたようなノンフィクション作品ではなく、話題の海外小説です。33歳の女性、キム・ジヨン氏のこれまでの人生をたどりつつ、女性が味わうささやかな理不尽を暴いていきます。
”The personal is political”という言葉があるそうです。個人的な体験は社会や政治の問題につながっている、という意味合いです。本作は虚構のキム・ジヨン氏の体験を提示することで、読者個人が自らの体験を振り返ることを促します。「ジェンダー」と構えて考えると難しいですが、本書は身近なところを出発点として、性差の問題へ意識を向けさせてくれる作品といえるでしょう。


認知症の状態にある人がスタッフを務めるレストラン、それが「注文をまちがえる料理店」です。発起人である著者がこのプロジェクトを立ち上げるきっかけになったのは、認知症介護のエキスパートである和田行男さんとの出会いだったそうです。和田さんは、「認知症になっても、最期まで自分らしく生きていく姿を支える」ということを介護の信条にしています。「厄介者」だと思われていた認知症の人たちを、街の人が「普通だ」と受け入れていく過程を見て、著者はここに大事なヒントがあると思った、といいます。
まさに、問題意識や気づきからアクションを起こした結果が、この新たな取り組みであったといえるでしょう。いまや世界中から注目を集める「注文をまちがえる料理店」の全貌については、ぜひ本書をご覧になってみてください。
気になるテーマはあったでしょうか。少しでも興味を感じることがあったら、ぜひ本を読んで考察を深めてみてくださいね。
また、ここでは紹介しきれませんでしたが、「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズ(坂本光司著、あさ出版)にも、社会へのまなざしを感じられる企業がたくさん紹介されています。こちらも合わせて、どうぞ!