フライヤー編集部が選ぶ、2019年最高の一冊!

石渡翔

2020年ですね。今年も何卒よろしくいたします。

flierでは毎月はじめに「要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ!」として、それぞれ一冊ずつ、おすすめの書籍を紹介しています。今回はその拡大版として、2019年に要約した365冊の中から、「これが最高だった!」という一冊を一人ひとり紹介していきます。

今年もみなさまが良い本に巡り合えますよう!

大賀康史
CEO大賀康史のイチオシ詳細
新しい経営学
新しい経営学
三谷宏治
ディスカヴァー・トゥエンティワン
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新しい経営学
新しい経営学
著者
三谷宏治
出版社
ディスカヴァー・トゥエンティワン
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『RENOVATION OF MBA BASICS』。本書の英語タイトルで示されているように、新しい経営理論を語る本ではない。経営学という一見難解なものを、初学者でも直感的にわかるように徹底的に分解、構成しなおした野心作である。

著者は私がアクセンチュアに入社した時に、戦略グループのリードをされていた三谷さん。鋭い分析と切り口を提示されることで、尊敬を集められていた方。そして、当時からメンバーを育てることに力を注ぎ、現在も教育者をされている教育熱心な方。読む前から期待が募る。

三谷さんによる経営学の切り方は、経営学を「全社」と「事業」に分けた上で初学者向けには「全社」を捨て、「事業」のみを扱うという大胆なものだった。さらに、経営戦略、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、人・組織、オペレーション等の無数にある経営学の研究領域をその小分類まで分解し、「ターゲット(顧客)」「バリュー(提供価値)」「ケイパビリティ(オペレーション/リソース)」「収益モデル(プロフィット)」の4つに統合してしまった。

この切り口を提示されることには、経営学に対する深い理解と、鋭い洞察が込められているように思う。これほどまでに斬新な発想をどうしたらできるのか私には見当がつかない。この発想の中にはコンサルタントや学生の反応を丁寧に見ながら経営学を教えられてきて、少しでもわかりやすく伝えたいという三谷さんの優しさも表れているように思えた。これから経営学を学ぼうとされる方が読むべき一冊目は本書だと確信している。2019年に出版された多くの名著の中でも、異彩を放つ一冊だろう。

熊倉沙希子
編集部熊倉沙希子のイチオシ詳細
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ブレイディみかこ
新潮社
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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
著者
ブレイディみかこ
出版社
新潮社
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著者、ブレイディみかこさんは、いま最も注目すべき作家のひとりであると断言できます。本作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、昨年大ヒットして数々の賞を受賞し、読者層が一気にひろがりました。

本作で、ブレイディさんは、自分の息子が通うイギリスの中学校生活について綴ります。これがただごとではないのです。息子の同級生のダニエルは自分も移民の両親をもちながら移民を差別します。ティムは貧乏で、新しい制服も買えず、学食で万引きをしなくてはならないほど。そこには大人社会の問題がそのまま映し出されていました。けれど子どもたちは、思春期ならではの繊細さをもちながらも、勇敢に前に進んでいきます。

「社会というもの」と「わたし」という、マクロとミクロを同時に見ることのできる複眼性が、ブレイディさんの作品の特長です。本書は、いちばん身近で愛すべき存在である息子さんの日常を描いたためでしょうか、著者のすばらしさがひときわ輝いているように感じます。読者は、政治や社会について考えを深めつつ、ときに涙を落とすほど心を揺さぶられることになるでしょう。

と、いろいろ書きましたが、ぜひ本を読んでみてください。鋭い知性と愛のつまったパンクな文章にきっと魅了されるはず(ブレイディさんは筋金入りのパンク・ファンです→よければインタビューもどうぞ)。

井手琢人
プロモーションマネージャー井手琢人のイチオシ詳細
Think clearly
Think clearly
ロルフ・ドベリ,安原実津(訳)
サンマーク出版
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Think clearly
Think clearly
著者
ロルフ・ドベリ 安原実津(訳)
出版社
サンマーク出版
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人々が情報を得る手段が増えれば増えるほど、「本」の価値とは何なのかが問われてくる。

特に紙の本の売上は年々下がっているのが現状で、近年なかなかいいニュースが流れないが、その中で、原点に立ち返り本の価値を考えるいい機会になっている気がする。

情報の早さという意味ではやはりネットが圧倒的に早く、その影響を受けて多くの情報誌が姿を消してしまった。一方で、書籍は雑誌以上に年月をかけて作られるもので、そこにかけるエネルギーは早さとは別のベクトルのものである。書籍に込められた著者や出版社の英知を、1500円、2000円で知ることができる―ここに本の価値を感じたいなと思う今日この頃だったりする。

今回ご紹介する『Think clearly』は、自分の考える本の価値に新たな気付きを与えてくれるものだった。

この本は今年読んだ本の中で圧倒的に“手元に置いておきたい”本だったのである。

本書は、よい人生を送るための方法は「わからない」という前提のうえで、よりよい人生を送るために使える52の思考法を紹介した、「思考の道具箱」的な本である。そのどれもが様々な学問や偉人・賢人の言葉に裏付けられており、説得力が高いだけではなく、背中が押されるものばかりだ。

一般的には大人になってから専門的に学問に触れることは多くない。そういった分野を、日常の具体的な例を挙げながらわかりやすくまとめて提供してくれている本書は、多くの読者に気づきを与えるきっかけをくれる快作といっていい。

こういう本は手元に置いておき、壁にあたった時、行き詰った時にパラパラと開くのがベストだ。頼りになる本が一冊手元にあるだけで安心感もあるし、ネットを検索するよりも幸福感が高い気がする。

ネット・本それぞれの利点を生かして付き合っていく時代。まさに本として持っておく意味のある一冊として本書を推したいと思う。

松尾美里
編集部松尾美里のイチオシ詳細
インテグラル理論
インテグラル理論
ケン・ウィルバー,加藤洋平(監訳),門林奨(訳)
日本能率協会マネジメントセンター
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インテグラル理論
インテグラル理論
著者
ケン・ウィルバー 加藤洋平(監訳) 門林奨(訳)
出版社
日本能率協会マネジメントセンター
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人生の大事な局面で、思いもよらない視点を授けてくれる本。2019年を振り返ったとき、私にとってのそれは、『インテグラル理論』であった。著者は、東洋と西洋の叡智を統合することに知性と情熱を注ぐ思想家、ケン・ウィルバー。インテグラル理論は万物の理論といわれ、『ティール組織』のベースになり、成人発達理論にも影響を与えているという。人や組織の変容というテーマに惹かれ続けている身としては、それはもう読むしかない。

原著のタイトル”A THEORY OF EVERYTHING”の名の通り、内包するテーマは科学から宗教、政治、社会まで実に幅広い。この理論を貫く「統合的ヴィジョン」とは何か。ウィルバーによるとそれは、物理的宇宙だけではなく、情動的領域、心的領域、精神的・霊的領域全体を含めた「コスモス」全体を、自己、文化、自然の全ての領域から包含しようとする試みであるという。

なんて抽象的なのだろうか。私はこれほどまでに俯瞰的に世界を捉え、真理に迫っていくウィルバーに畏敬の念を抱いた。同時に、その具体的な内容を理解するのに苦労した。真の理解に至るには、まだまだほど遠い。

そんななかで強く感じたのは、インテグラル理論が、世界に渦巻く「分断」に真摯に向き合ううえで重要な理論だということだ。ここからは個人的な学びを書いてみたい。

大切なのは、単純な二項対立から距離をとってみること。自分のレンズから見える世界も、考えの及ぶ範囲も限られたものにすぎない。だからこそ、自分が得意ではない領域にも光を当て、より包括的に考える必要がある。その際に役立つのが「四象限」のモデルだ。詳しくは要約にゆずるが、このモデルは「これにあてはめて考えればよい」というものではない。常に各象限の関連性を意識すること。そこから浮かび上がってくる「統合的な地図」を静的なものではなく、動的なものと捉えること。そうすれば、多様で複雑な世界を読み解くことにつながっていく――。

こうした学びを受け取ったものの、これを現実のなかで、どう活かせばいいのかという問いが浮かんだ。

本書には、私たち一人一人が統合的な地図の「読み手」であると同時に「作り手」でもあると書かれている。一解釈だが、これは私たち一人一人が日常や専門領域でインテグラル理論を実践するよう背中を押す言葉ではないだろうか。

人の生き様や使命感のようなものを、インタビューを通じてともに発掘することを生業にしていきたいと考える私の場合、どう実践できるのだろう? たとえば、ある人との対話において、自分とは相容れない考えを強めに提示されたとしよう。これまでなら「みんなそれぞれだよね」と、その考えから距離をとり、衝突を避けて終わることが多かった。しかし、常にこのような反応をするだけでは、相手の理解を深め、対話を新たな境地へ導く機会を逸してしまう。そうならないためにできることを何か。

たとえば、相手がどんな背景からそうした考えに至ったのかを考え続ける。自分の見落としている点を少しでも掬い取ろうとする。身体が発する声に敏感になってみる。相手との共通点を発掘して、両者に橋を架けてみようとする。そのうえで、いま・ここでのやりとりが、私と相手と世界にどんな意味を生み出すのかを考え、言語化しきれないものを言語化しようとする。列挙しきれないが、こういった向き合い方がダイナミックに影響を与え合うのではないだろうか。

こうした歩みを続けることで、いつの日かほんの一部でも、地図を書き足すことができればと思う。万物の理論を探求するうえで欠かせない一冊として、本書をおすすめしたい。

庄子結
編集部庄子結のイチオシ詳細
THE CULTURE CODE
THE CULTURE CODE
ダニエル・コイル,楠木 建(監訳),桜田 直美(訳)
かんき出版
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THE CULTURE CODE
THE CULTURE CODE
著者
ダニエル・コイル 楠木 建(監訳) 桜田 直美(訳)
出版社
かんき出版
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「働き方改革」や「超高齢社会における生産性向上」の文脈のなかで、チームでよりよく働くことに関心が集まった2019年。flierユーザーの読書コミュニティ「flier book labo」でもしばしば議論が行われました。本書は、このタイミングでぜひお読みいただきたい一冊です。

本書をおすすめする理由は、知的刺激に満ちており、とにかく読者を飽きさせないから。GoogleやIDEO、ピクサー、シールズチーム6をはじめとした事例がふんだんに掲載されているのですが、どのチームが抱える課題も不思議と身近なものばかり。有名企業の仕事ぶりをのぞき見するつもりで読み進めると、自分たちの課題を解決するヒントが見つかる仕組みです。訳文もすばらしく、また課題に対する明確な解が提示されるので、最後まで気持ちよく読み通せるはず。

最後に、本書で一番印象に残ったフレーズをご紹介します。

「成功したチームの文化は、たしかにまるで魔法のように見える。しかしその現実の姿は、魔法でもなんでもない。文化とは、共通の目標を目指す過程で生まれる有機的な個人のつながりだ」(P29)

テクノロジー化が進むなか、私たちの仕事を支えてくれるのは、意外とアナログなものなのかもしれない――そんなことを考えさせられる一冊でした。

石渡翔
編集部石渡翔のイチオシ詳細
好奇心が未来をつくる
好奇心が未来をつくる
ソニーコンピュータサイエンス研究所
祥伝社
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好奇心が未来をつくる
好奇心が未来をつくる
著者
ソニーコンピュータサイエンス研究所
出版社
祥伝社
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昨年もたくさんの良書に巡り合いました。なので「これが1番!」と断言するのはなかなか難しいものですが、「最も刺激的だった本」ということであれば、『好奇心が未来をつくる』(祥伝社)を挙げたいと思います。ソニー・コンピュータサイエンス(CSL)研究所に所属する、異才研究者集団のインタビュー集ですね。

じつは自分、それまでソニーという企業にほとんど馴染みがなかったのですが、この本を読んで一気にソニーのファンになりました。この本はそれぐらいのインパクトがあります。というのは、自分が普段ぼんやり思い描いていた「理想的な研究者のあり方(のひとつ)」が、まさに描かれているからです。

カギとなるのは「越境し、行動する研究所」というCSLのコンセプトです。分野間の連携・融合や学際領域の研究が重要な時代というのは、昔からなんとなく認識していました。とはいえ実際に「分野を越境する」とはどういうことなのか、いまいちピンと来ていなかったのも事実です。ともすれば単なる「耳あたりの良い言葉」に終わってしまう危険性すらある……と思っていました。ですが本書に登場する研究者たちのインタビューを読んでいると、「分野を越境する」ことが生み出す力強さに、ただただ圧倒されました。

とりわけ「協生農法(Synecoculture)」を学術的に構築した船橋真俊氏の考えには、強い感銘を受けました。協生農法とは、非常に多種類の野菜や果樹など有用植物を混生・密生させて、全体として強い生態系をつくる農法のこと。土地を耕したり肥料をあげたり農薬を撒いたりしないので、生産性の向上や生物多様性の回復、砂漠の緑化などの成果が期待されています。

こうした発想はどこから来るのか。船橋氏は現代の細分化された学問に危機感を覚え、生物学から数理科学系の修士を経て、フランスで物理学のPh.D.を取得しました。そのときのアプローチが、脳科学、エピステモロジー(科学認識論)、ロボティクス、ソーシャルネットワーク、情報理論、発生生物学、言語学など、まったく異なる分野の研究を同時並行で進めるというもの。フランスではこうした研究が日本より認められやすく、またサイエンスの上位に哲学が位置していることから、サイエンスの現場でも抽象的・実存的な議論も活発に行われているといいます。船橋氏が協生農法に行き着いたのにも、こうした多層な知が土台としてあったことに疑いの余地はありません。

「若さというのは有限ですから、本当に重要なことをやらなければいけない。人が全力で取り組むことに未熟なことなどありません」という船橋氏の言葉を胸に刻みながら、「知の協生農法」を実践していきたい――そう痛烈に感じさせられました。

公開日:2020/01/22
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