【書店員のイチオシ】
「人の鏡」を大切に。『座右の書『貞観政要』』
【ブックスタマのイチオシ】


高校の時の漢文の授業で、『貞観政要』の「創業と守成 孰れが難きか」の一節を習い、とても印象に残っておりました。司馬遷の「天道は是か非か」と共に、一番記憶に残っている漢文の名文です。


数年前、当時ライフネット生命保険の社長を務めていた出口治明さんが『貞観政要』を座右の書としていて、読書会を開くという話を知ったのですが、すでに満席で申し込むことができず、出口さんが『貞観政要』を解説するこの本を購入しました。
『貞観政要』とは中国の長い歴史で、国が最もよく収まっていたと言われている「貞観の治」の時の皇帝、唐の太宗(李世民)の言葉や行動を書き残した本です。
「創業と守成 いずれが難きか」とは、太宗が家臣に創業と守成のどちらが難しい時か尋ねた時に、房玄齢(ぼうげんれい)という家臣は幾多の戦いを勝ち抜く命がけの困難がある創業が難しいと答え、魏徴(ぎちょう)という家臣は帝王の地位を得てしまうとつい安楽な気持ちになって国を衰えさせてしまうので、守成の方が難しいと答えます。
比較するのが難しいこの問題に太宗は、房玄齢と魏徴のそれぞれの立場を立てたうえで、創業は過去のものになったから、これからは守成をおろそかにしないようにしよう、と答え、うまくその場をまとめるという話です。
ほかに「三鏡」という逸話も有名で、リーダーには「銅の鏡」と「歴史の鏡」と「人の鏡」の3つの鏡が必要だというものです。
「銅の鏡」はいわゆる普通の鏡で、自分が部下が付いて行きたくなるようないい表情をしているかをチェックする。「歴史の鏡」は過去の歴史に照らして将来に備える。「人の鏡」は部下の直言を聞き入れる、という3つの鏡で自らの行いを正すのがリーダーの務めだといいます。
とりわけ、遠慮なく耳の痛いことを言ってきて「人の鏡」になってくれるような部下は、ついつい遠ざけてしまいがちですが、自分の悪いところを率直に言ってくれる貴重な存在なので、特に大切にしなくてはならないということです。
ライフネット生命保険の創業者の一人である出口さんは、常にこの『貞観政要』を座右の書として自分を戒めてきたそうです。しかし、この本を読むと、『貞観政要』の内容以上に、出口さんの持論がとても面白く感じられます。
どんな内容か知りたい方は、ぜひこの本を読んでいただきたいと思います。人の器の話とか人生を絶対値で考えるとか、もしあなたがある組織のリーダーで、自分の能力の限界に悩んでいたり、あるいは大きな失敗をしてしまったのだとしたら、この本を読めばきっと気持ちが楽になると思います。



