要約の達人が選ぶ、8月のイチオシ!


暑すぎた夏も終わりに近づき、ようやく秋に突入しようとしています。まだまだ残暑厳しいところではございますが、落ち着いてカフェのラウンジで本を読める日も少しずつ出てきたのではないでしょうか?(と一瞬思いましたが、関東はそんなこともなさそうですね。暑いだけでした)
ともあれ今月の編集部のイチオシをお届けいたします。これからも皆様が良書に巡り合えますように。



日本ではまだまだ「エンジェル投資ってなに?」という方も少なくないと思いますが、この本を読むにあたっては、エンジェル投資への理解度はおろか、関心すらそこまで必要ないかもしれません。というのはテーマを度外視したとしても、読み物としての完成度が抜群に高いからです。もちろんエンジェル投資に関心があれば、さらにおもしろく読めるのはいうまでもありませんが。
エンジェル投資のあれこれについては、まず要約をチェックいただくとして、個人的に興味深いと思ったのは創業者に対する著者の見解。「確率から言えば、創業者が大きな利益を手にできる可能性は非常に低い」「誰もが創業者になりたがるが、その意味を正確に理解している者はいない」「創業者、中でもCEOは地球上で最悪の仕事だ。チームの優秀な人たちが解決できない大問題はすべてCEOに回ってくる。しかもあらゆる方向から攻撃にさらされて相談する相手もいない」。
こうした痛烈な言葉が説得力をもって響くのは、著者自身もかつて起業家だったからでしょう。だからこそ起業家をサポートするエンジェル投資が、一攫千金のチャンスがあるという以上に、意義深いものに感じられました。
とにかくスケールのでかい一冊です。読めば自分の世界観を無理やり広げられるはず。



貧困や食糧危機、異常気象、資源の枯渇、医療格差。こうした社会課題を解決すべく、中長期的な視点と、揺るぎない信念のもとに、モノづくりに挑戦する――。そんな起業家や研究・開発に携わる方々に出会うと、こちらも居住まいを正さずにはいられない。
もちろん、モノづくりベンチャーを立ち上げるとなると、一筋縄ではいかない。ITサービスとは違って、研究開発にも設備投資にも、時間とお金がかかる。すぐに求める成果が出るとは限らない。そのため、理解してくれる投資家や支援者を見つけるのも、かなりハードルが高いだろう。
そんななか、挑戦者のビジョン実現を後押ししようと、モノづくりベンチャーの成長ノウハウを惜しみなく紹介しているのが本書だ。著者の丸幸弘氏(リバネスCEO)は、ミドリムシで上場したユーグレナを、その立ち上げ時から技術顧問として支えてきた人物だ。仲間の集め方、資金調達を成功させる方法、プレシード期に検討すべきことなどなど。その実効性の高さは、丸氏が支援してきたベンチャーの成功事例が物語っている。
私が一番心を打たれたのは、「道を切り拓くのは創業者の『熱い想い』」という著者のメッセージである。この「熱い想い」が土台にあってこそ、綿密に練った戦略が活き、共感や応援の輪が広がっていくのだと再認識させられた。モノづくりベンチャーの創業に興味がある方はもちろん、新たな挑戦に踏み出そうとするすべての方に、本書をぜひお読みいただきたい。



哲学は社会人に必須の教養である――耳にタコができるほど言われてきた言葉ですよね。では実際に哲学を学び、日々の仕事や人づきあいに生かしている人はどれだけいるでしょうか。むしろ、食わず嫌いの人や、哲学書を読んでみたものの「なるほど。で?」という感想しか抱けなかった人も少なくないはず。
そんな“私たち”にぴったりなのが、本書です。著者の山口周氏は、ビジネスの現場で哲学を武器として使ってきたといいます。そう聞くと、ちょっと意外に感じませんか? 私たちは知らず知らずのうちに「哲学=実用的でないもの」と決めつけてしまっているのですから。
本書の特徴は、哲学の実用性にスポットライトを当てていること。哲学を使い、「なぜ私たちは新商品を買わずにはいられないのか」「未来はどうなるのか」などといった、日々の仕事や人づきあいに根ざした問いに答えを出してくれます。
哲学アレルギーの方も、挫折経験者も、決して怯える必要はありません。本書の第一部では、哲学を学ぶべき理由とあわせて、哲学に挫折する理由が明らかにされています。つまり“私たち”こそ、本書のメインターゲットなのです。ご安心を。



30年ぐらい前だと思うが、日本テレビ系で『知ってるつもり?!』という番組があって、よく観ていた。関口宏が司会で、毎回歴史上の人物を取り上げるのだが、世間に知られている有名な事柄は扱わず、ちょっとマニアックな一面をクローズアップする内容で楽しかった記憶がある。
本書のタイトルがそれに由来しているかはわからないが、この本を通じてわかることは我々は思った以上に「無知」であるということと、「無知」であることをわかっていないということ。
生きているとどんどん知識が増えていき、物事を理解しているような気になっていくものだが、それは「知識の錯覚」だという。知性は個人に属していると思いきや、実は我々は「知識のコミュニティ」のなかに生きているだけで、個々人の知識は驚くほど少ないんだという。
一読すると少しのショックもありつつ、逆に周りとの共存・コミュニケーションの中で知識はいくらでも広げられるという夢も見える。世界中と繋がれるようになった今、「無知」を認めることで夢が描けるともいえるだろう。
『知ってるつもり?!』で関口宏が教えてくれたことを現にほとんど覚えていないことを悲しく思いながら、またいろんな知識を周りと共有していきたいと思った。