要約の達人が選ぶ、10月のイチオシ!


昨年から11月1日が「本の日」に制定されました。
そのことを意識してかどうかはわかりませんが、今回はとりわけ濃密な書籍が多くラインナップされています。
秋も深まる今日この頃、今月のイチオシです。





僕の座右の書は、長らく『ホモ・ルーデンス』でした。ホモ・ルーデンスとは「遊ぶヒト」を意味します。いろいろな読み方ができる本なのですが、自分にとっては世界との距離感を掴むうえで、非常に重要な一冊でした。
ですが本書を読んで、座右の書が『ホモ・デウス』に代わりました。ホモ・デウスは「神のヒト」ですので、さながら遊び人から賢者へのジョブチェンジです。
なぜ自分にとってここまでインパクトがあったのかを考えてみたのですが、一番の理由は「本書を読んで人生の目的の"質”が変わったから」でしょうか。たとえば私たちが当たり前のものと見なしている「人間至上主義」(人間の感覚や経験を重要視すること)は、本書によればまったく自明ではありません。著者の言葉を借りれば、ホモ・サピエンスはそもそも「虚構」を作り出す力によって繁栄してきたのだから、それも当然というわけです。きっとこれからはテクノロジーの発展に伴い、人間の定義や輪郭がどんどんぼやけていくことでしょう。
ここに書かれていることがいつ実現するか、あるいはそもそも本当に実現するかはともかく、人生の目的や世界観そのものを変えてしまうぐらいの魅力がある一冊です。一度読んで終わらせず、何度も読み直したい。そう思わせてくれました。



「これまでに読んだ本の中で、人生に影響を与えた本を10冊挙げるとしたら?」
もしそう問われたら、この本はそこに加わることでしょう。
人生には2種類の美徳があるといいます。履歴書向きの美徳と、追悼文向きの美徳。つまり、世俗的な成功や見栄えのする経歴と、葬儀で偲ばれるような人柄のこと。それぞれ、アダムIとアダムIIと名付けられています。
どちらも大事だけれども、いまの社会には、前者ばかり高めるようなメッセージに満ちているのではないか。ジャーナリストの著者はそう提起しています。
"私たちには、自分の弱さに立ち向かう力がある"
"偉大さとは、自分に始まり自分に終わるという生き方ではなく、「私のいるこの世界は、私に何をしてほしいのか」と問う生き方である"
アウグスティヌスからアイゼンハワー、モンテーニュまで、こうした生き方を実践し、偉大な足跡をのこした先人たち。この本は、彼らの生き方がジャーナリストの手で語り直された伝記であり、哲学書と呼べるのかもしれません。
先日、義理の祖母が亡くなりました。98歳。天寿を全うしたといってもいい年齢でした。常に家族や周囲の人のことを第一に考え、行動していた義理の祖母。告別式では皆、「本当に優しい人だったね」と、彼女の人柄がにじみ出るエピソードを語っていました。本書のアダムIIを体現したようなお手本がこんなに身近にいたのだと、目頭が熱くなりました。
「自分の生きる意味は何なのか」「このままでいいのか」。そんな疑問が湧いたとき、そっとこの本を手に取っていただきたいと思います。読後には、いまよりももっと心の声に素直になれるのではないでしょうか。



すこし手に取りにくい印象を受けていた本書。えいっと読みはじめてみると、ほとんど一気読みでした。
本書では、告発されたソクラテスがタイトルどおり“弁明”します。しかし弁明むなしく有罪判決を受け、さらには死刑を宣告されてしまうというストーリーです。
スピーチのなかでソクラテスは、「有罪判決は予想どおり。むしろもっと票差がつくものと思っていた」「私のような功労者にはリュタネイオン(注:国家に功労をもたらした人々が公費で食事する場所)での食事がふさわしい」などと飄々と語ります。さらには「君たちには、死刑になった私よりも悲惨な未来が待っているだろう。私は老人なんだからもう少しガマンすれば死んだだろうにね!」と恨み言まで。なんだかちょっと笑ってしまいます。
もちろんおもしろいだけでなく、無知の知という考え方を得た経緯や死を恐れない理由を語るエピソードも。読み継がれている本には理由があるのだと改めて感じさせてくれた読書体験でした。



うどん業界トップを走り続ける「丸亀製麺」。リーズナブルにうどんを食べるには立ち食いそば屋が定番だったが、いつの日か讃岐のセルフうどんが全国を席巻、今やどの街にもあって当たり前の光景になっている。私の肌感覚としてはセルフうどん店はあっという間に立ち食いそば屋を抜き去った印象で、しかも女性が一人でも食べているというのが驚きだ。ファーストフードともまた違う、牛丼チェーンともまた違う、立ち食いそば屋とも当然違う、何となく唯一無二の存在な感じがする。
丸亀製麺はうどん専門の会社ではなく、炭火焼鳥のとりどーる、ハワイアンパンケーキのコナズ珈琲など、国内で10以上もの業態をもつトリドールホールディングスが運営している。大手の老舗がじわじわと全国に文化を広げていくような動きとは違い、セルフうどんは一気に広がっていった、そんな印象がある。
というわけで前からかなり気になる存在だったのだが、この度本書が発売され、数々の疑問は解消された。丸亀製麺の掲げる命題はひとつ「お客様のニーズやウォンツを捉え続ける」ことのみである。文化の継承や業界の今後を考えて、とかそういうことではなく、来てくれたお客さんを一杯のうどんでどう満足させるか、それだけなのだ。店はガンガン増やすがセントラルキッチンは作らずすべて店で手作りする。そんな姿勢にも丸亀製麺イズムが表れている。飲食業界としては基本的な考え方なのかもしれないが、店の規模が拡大していくと意外と見落としがちなところなのかもしれない。
そしてこの本は疑問を解消させてくれるだけではない。何とオビに「釜揚げうどん」の試食券がついている。読者のニーズとウォンツを捉えた粋な企画。さすがである。
近日中に著者のインタビュー記事も配信予定なので、ぜひ要約と合わせてチェックいただきたい。