要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ! (2019年4月号)


本格的に春になりましたね。春一番がやってきて、花粉が舞い散り、洋服についた花粉を落とすまで家に入ることが認められない季節がやってまいりました。そういうときはおとなしく家に引きこもって本を読みましょう。ということで4月のイチオシをお届けいたします。世の中はエイプリルフールかもしれませんが、ここに並べてあるのは混じりっけなし、本物のイチオシですよ。



「なにもない」空間をいかに生み出すか。
豊かな伝統、歴史はいつだってすばらしいものですが、それは変化を阻害する要因にもなりえます。かつてのエストニアは、ある意味で「なにもない」国だった。だから勇気を振り絞って変わるしかなかったわけです。
翻って日本はどうでしょうか。モノも歴史もたくさんある国ですので、よくも悪くもなかなか大きな変化が起きません。そしてこれは国家だけではなく、会社や地域コミュニティにおいても言えること。大きな組織であればあるほど、変化のスピードは鈍いのです。
それでもなお変化を望むのであれば、「なにもない」空間を見つけたり、意図的にデザインしたりといった、明確な戦略が必要です。たとえばエストニアの先進的な事例も、そのまま日本へ導入できるとは思えません(著者もそう指摘しています)。「余白」のある地域から始める、再翻訳してアジャストさせるなど、なんらかの工夫を続けていく必要があります。
本当の変化は、変化を許容する「なにもない」空間が生まれた先にある。いまの日本になにが必要なのか、その大切な要素を教えてくれる一冊でした。



名著の魅力を解説するNHKの人気番組「100分de名著」。そのプロデューサーを務める秋満吉彦さんが名著12作品を紹介したのが、『行く先はいつも名著が教えてくれる』(日本実業出版社)である。
フランクルの『夜と霧』、三木清の『人生論ノート』、神谷美恵子の『生きがいについて』、レヴィ=ストロースの『月の裏側』、児童文学の傑作『モモ』、中国古典の『荘子』など。ページをめくると、何度も読み返したい本、一度は読みたかった本が目に飛び込んでくる。
そもそも名著とは何なのか? 先日フライヤーで秋満さんにインタビューの機会をいただき、この問いを投げかけた。すると、秋満さんにとっての名著とは「人生に働きかけてくる本」だという。この捉え方に大いに共感した。名著は定番の古典にとどまらない。自分の人生観を大きく揺さぶった本が何冊も心に浮かんだ。
本書の面白さは、選書の切り口の独自性にある。秋満さんは、ビジネスパーソンのライフステージごとの悩みに寄り添い、何かしらのヒントを投げかけるという軸で作品を絞ったという。たとえば、日本文化の啓蒙書として名高い、岡倉天心の『茶の本』。こちらは「困難や挫折と向き合う」というテーマで紹介されている。また、自然とのふれあいを描いたとされる宮沢賢治の『なめとこ山の熊』では、「働くことの意味」がフォーカスされている。
この意外性から感じ取ったメッセージは、「響くポイントは人それぞれでいい」ということだ。多様な読み方を人とシェアし合えば、「こんな読み方もあるのか!」と、名著を今よりももっと深く味わえるのだろう。そんな名著体験は、人生で困難にぶつかったとき、大事な人を勇気づけたいときに、心の拠り所になってくれる気がする。
名著への扉を開いてくれると同時に、読み方の豊かさに気づかせてくれる一冊だ。本書とともに、近日公開予定の秋満さんのインタビュー記事もあわせてお読みいただければと思う。



「そういうことだったのか!」と納得させられる一冊でした。運動嫌いの私がジム通いを始めて2年。本来の目的(ダイエット)にはまったく効果がみられないのに、なぜ継続できているのだろう――そう不思議に思っていたところだったのです。
本書のメッセージを一言に要約すると、「運動はいいことずくめ」です。具体的には、以下の7つのメリットがあると書かれています。
1. ストレス解消
2. 集中力向上
3. やる気アップ
4. 記憶力向上
5. ひらめきを生む
6. 学力アップ
7. 脳の老化防止
いかがですか、想像以上のいいことずくめっぷりではありませんか?たしかに我が身を振り返ってみると、特に「ストレス解消」と「やる気アップ」には大きな効果があるように思います。
春、外を走るにもぴったりの季節です。新生活に向けて新しい習慣をつけたい方には、これ以上ない一冊でしょう。背中を押されるどころか、本書を閉じた瞬間に走り出したくなるはずです(スポーツウェアに着替えてから読んだほうがいいかもしれません)。もちろん私のように、“運動習慣がついている自分”を肯定してあげたい方もぜひ。



日本の残業問題っていつなくなるんだろうとずっと思っていた。「ブラック企業」だ「働き方改革」だと叫ばれ、うちも手を付けねばと数多の会社が人事施策に乗り出し、現場の実情は全くそれに伴っていない、その繰り返しだ。
本書は2万人以上を対象とした大規模な調査のデータを分析し、あらゆる角度から残業の実態を解明した一冊。なぜ長時間労働が当たり前になったのか、なぜなくならないのか、そもそも長時間労働って悪なのかなど、様々な視点から残業が語られている。
残業は「残」った業務のことで、本来ならば規定時間内に終わるのが普通。会社側が与えている業務量が多すぎるのか、従業員側のスキル不足なのかはそれぞれだと思うが、バランスが崩れていることは間違いない。そして、いまだに長時間労働の美学を振りかざしたナルシス的残業マンもいる。本書によれば、その残業マンの文化は周りに「感染」し、「遺伝」していくのだという。もはや残業は“病気”なのである。
そんな残業という病気を治すためには、「外科手術」的な方法と「漢方治療」的な方法があると著者は言う。残業病は簡単ではないが、治るのだ。これは雇う側も働く側も読むしかない。
私が新卒で入社し、最初に配属になった部署の部長は、誰よりも早く帰る上司だった。おそらく基本的には池袋に飲みに行っていたんだと思う。でもダラダラ仕事しているよりよっぽどカッコいい。飲みでも家族サービスでも何でもいいから、仕事の後の予定が毎晩組めるぐらいの余裕のある大人になりたいものだ。