要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ! (2019年7月号)


先月、書籍を扱っている会社らしく、社内で「自分の人生に影響を与えた本を紹介し合う」という機会を設けました。これ、ものすごくおすすめです。自分という人間を他人に伝えるのは簡単ではないですが、本が触媒になると、自然とその人の個性が引き出されます。一人で楽しむ読書もすばらしいものですが、他者と分かち合う読書もまた格別ですよ。ということで7月のイチオシをご紹介。



「PIXAR(ピクサー)の名前を一度も聞いたことがない」という人はなかなかいないでしょう。『トイ・ストーリー』に始まり『バグズ・ライフ』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』など、数多くの名作を生み出したことで知られるアニメスタジオです。また故スティーヴ・ジョブズ氏がピクサーのIPOをきっかけに、ビジネス界の最前線に戻ってきたことをご存知の方も少なくないはず。
そんな華やかな話ばかり目立つピクサーですが、本書によるとじつは『トイ・ストーリー』が公開されるまで、相当厳しかったようです。なにせCFOとして入社した著者ローレンス・レビー氏を待ち受けていたのは、累積赤字5000万ドル、利益もなければ成長もない、しかもディズニーに首根っこを押さえられているという絶望的な状況。ここからなんとか企業再生の道へと進んでいく様は、そのまま映画になってもおかしくありません。というか映画化してほしい!
コンテンツさえ良ければすべてうまくいくわけではありませんが、コンテンツさえ良ければ突破口はある。そんなことを教えられた一冊でした。ちなみにディズニー/ピクサーの最新作『トイ・ストーリー4』が7/12に公開されますので、こちらもぜひチェックを。



余命宣告を受けた患者たちが、死の間際でもっとも後悔することとして、何を挙げるのか?介護職として終末期の患者たちを支えてきた著者、ブローニー・ウェアによると、それは次の「死ぬ瞬間の5つの後悔」に集約できるという。
「自分に正直な人生を生きればよかった」「働きすぎなければよかった」「思い切って自分の気持ちを伝えればよかった」「友人と連絡を取り続ければよかった」「幸せをあきらめなければよかった」。
これら5つを眺めて、どれも大事なのは当たり前じゃないかと思う方もいるだろう。ただ私には、1つ目の「自分に正直な人生を生きればよかった」は、シンプルでありながら、ハードルが高いと感じた。原文では次のように表現されている。
I wish I’d had the courage to live a life true to myself, not the life others expected of me.
心に突き刺さったのは、“not the life others expected of me(他者が期待する人生ではなく)”というフレーズだ。私たちは、社会生活を営むなかで、「こうあるべき」「こう振る舞うほうが望ましい」という規範を身につけ、それらをやがて内在化していく。規範は、色々な人々と共存するうえで欠かせない。けれども、他者からの期待・社会からの要請を強く感じるあまり、それがまるで「自分の本来の願望」かのように錯覚することも多いのではないだろうか。
「会社や上司の期待に応えて出世をめざすべきだ」
「家族のことを自分のことよりも優先したほうがよい」
他者の期待を優先し続けた結果、自身の心の底から湧き出てくる声が封印されていく。やがてはその存在すら気づかなくなってしまう――。そんなケースもあるはずだ。
「自分に正直に生きる」ためには勇気が必要だという。「本当はこうしたい」という声がかすかにでも聞こえてきたら、じっくりと耳を傾けてみる。その本心が、他者の望む方向と違っていてもいい。「こんなことを望んでいたのか」と自分で驚くことすらあるかもしれないが、それでもかまわない。どんな自分も、私という人間を形成する大事なピースなのだから。
鋭敏な感性とあたたかい人柄で患者たちに寄り添い続けてきた著者ブローニー。そんな彼女だからこそ紡ぎ出せたであろうメッセージが、本書には詰まっている。私自身はこの本にふれ、ずっと蓋をしていた願望に素直に生きてもいいんだ、と背中を押してもらった。自分の心のままに生きていくことが肯定される世の中になれば、他者にも自分にも優しく接することができ、悔いのない人生を送れるのではないだろうか。



もし、あなたのお子さんやお孫さんが障がいを持って生まれてきたら――。少し立ち止まって考えてみていただければと思います。
本書の著者、伊藤紀幸さんの場合はどうでしょう。伊藤さんの人生は、息子さんが障がいを持って生まれてきたことで一変します。なぜうちに限ってそんなことが起こるのか。僕らが何か悪いことでもしたというのか。伊藤さんはそう思い悩みます。同じ境遇なら、きっと私も同じように考えるでしょう。
ですが、伊藤さんの人生は、もう一度大きく転換します。障がい児は就職が難しく、就職できたとしてもごくわずかな賃金しか得られないケースがほとんどだそうです。そのことを知り、「障がい者が働く会社を起業してみたい」「彼らに雇用の場と工賃アップを実現したい」という思いから、全国初の福祉のチョコレート専門工房を起業するのです。
そこには色とりどりの物語があるのですが、事業選びのエピソードは実に印象的です。前職と同じく不動産関連にするか、昔から好きだった粉もののお店を開くか……。伊藤さんは最終的にチョコレートを選ぶのですが、その理由がなんともすてきでした。ぜひ要約をチェックしていただければと思います。
絶望したとき、理不尽な出来事に遭遇したとき。それを世の中の仕組みのせいにして諦めるのではなく、自らの手で世界を変えるという選択ができる人はどれだけいるのでしょう。本書がたくさんの読者のもとに届くことを、心から祈っています。



早起きしたいけどできない。あるいは、早起きしなければならないからするけど、つらい。
世の中そんな人ばかりではないでしょうか。
かくいうわたしも後者の人間であり、だいたい毎朝機嫌わるく起きています。
本書は、そんな「つらい早起き」から抜け出すための秘策をたっぷり紹介する一冊です。そもそも、本書によれば、「つらい早起き」と思えば思うほど早起きは失敗してしまうのだといいます。「早起きしなくちゃ!」と意識しすぎず、「明日の朝は買ってきた本を読もう♪」と楽しい気持ちで起きられるような状況をつくること、つまり「快の追求」をすることこそが、成功の秘訣なのだそうです。
朝型生活が続けば、充実した時間を過ごせるだけでなく、そのことによって自己効力感が高まり、自信も育まれるとのこと。このように、著者が専門に学んだ心理学の裏づけがあるのも、本書の優れている点です。
心の動きを味方につけて、明日から楽しく早起きしてみませんか。



人には好きなもの・嫌いなものというのが必ずある。
だが、いざ「好きなことをやりなさい」といわれた時に、即答できる人というのはどれぐらいいるだろうか。
就職活動中の学生で、自分の今後に悩んでいる人は本当に多い。いざ仕事をするということになって、いったい自分は何がしたいんだろう? と立ち止まっている。
これは本当に自分の「好き」が見えていないからに他ならない。
著者は自身の断片的な事象についての「好き嫌い」をできるだけ抽象化していくことで、本当に自分の「好き」のツボがわかるようになると説く。
「ケーキのイチゴはいつ食べるか」「自分はなぜシュークリームが好きなのか」というような身近な話から企業改革や資本主義の考え方に至るまで、あらゆる事象の「好き嫌い」をあくまで抽象化して分析しているのが面白い。
こうすることで自分の「好き」がわかり、それは自ずと自分を知ることに繋がり、これから生きていく、仕事をしていくためのしっかりとした判断基準、価値基準を作ることができるのだ。
著者は、それぞれの「好き嫌い」を尊重し、人の「好き嫌い」を自分に合わせないことが大切だという。
各地で頻発している「炎上」や「公開処刑」は、批判する側の「好き嫌い」をあたかも普遍的な「良し悪し」であるかのようにすり替えて行われている。
よそはよそ、うちはうち。多少気に入らないことがあっても、公の場では気持ちよく放置し、飲み屋でくだを巻くレベルに留めておきたい。