要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ! (2019年9月号)


少しずつ暑さも和らぎ、秋の訪れを予感し始める季節になってきましたね。
9月のイチオシをお届けします。



樺沢紫苑先生の前作『アウトプット大全』が大ヒットしたことで、「インプット」「アウトプット」という言葉はもはや、日本中に浸透したといっていいでしょう。学び直しブームも相まって、いまや日本中がインプット&アウトプットに熱い視線を注いでいるようです。
そんななか、前作ファンの期待に応えて(満を持して!)登場したのが本書です。本書では、「読み方」「聞き方」「見方」「インターネット活用術」「学び方」という形で、実に80にものぼる、脳科学に裏付けられたインプット法が紹介されます。
特にじんわりと心に残ったのは「私たちの心や脳は、10年前のインプットでできています」という一文。樺沢先生ご自身も、10年スパンで膨大なインプットとアウトプットを繰り返した結果、いまがあると実感されているそうです。
また本書では、インプットの精度を高めて成長するには、「本当に必要な情報」以外は思い切って捨てよと指南されます。
「自分にとって本当に必要なものはなんだろう?」「10年後、どんな自分になっていたいだろう?」――そんなシンプルな、けれど根源的な問いと向き合わずにはいられない一冊でした。



よい人生を送る方法は何か? そう問われて簡単に答えを出すことができる人はどれぐらいいるだろうか?
そもそも人は十人十色である上に、生き方は時代を追うごとに多様化している。そんな中で万人に当てはまる答えなど存在しないというのが正しいだろう。
本書は、よい人生を送るための方法は「わからない」としたうえで、よりよい人生を送るために使える52の思考法を紹介した、いわば「思考の道具箱」のような本である。
何かに行き詰った時、判断が鈍りそうな時、間違った道を選びそうな時、本書にまとめてある思考法から適切なものを引っ張ってくるとプラスに事が進みそうな気がする。答えをいきなり求めるのではなく、“道具”をまず揃えようという考え方が素晴らしい。
思考法が“52個”も載っているのもいい。
こういうのは1個ではダメだ。「〇〇するためのたった一つの方法」と銘打った書籍は昔から多く刊行されてきた。「たった一つ」という明確さとお手軽さで飛びつく人も多いと思うが、その「たった一つ」に寄り添う怖さというのも忘れてはならないと思う。多様化している現代において、一つの問いに対して答えが一つというのは机の勉強とクイズ番組ぐらいではないだろうか。
52個と聞くと多いと思う人もいるかもしれないが、多くない。こういったコンテンツこそ書籍で持っておく価値のあるものだ。行き詰った時いつでも手に取って開けるからだ。1ページ目から読む必要もない。自分のぶち当たった壁に応じて適切なページを都度開けばいい。
しかも、そのどれもが様々な学問や偉人・賢人の言葉に裏付けられており、物凄く説得力が高く、背中が押されるものばかりだ。
“道具箱”と聞くと今すぐ持っておきたいという気にならないだろうか?
はさみ、糊、ホッチキスなど、道具箱の必需品は今でも廃れない。紙を切りたいと思った時に今からはさみを買いに行くのでは遅いのだ。備えあれば患いなし。それがよい人生を送るための第一歩であることは間違いない。
478ページもあるので上下巻にして出すという方法もあっただろうが、ここは出し惜しみなし。太っ腹な著者と出版社には拍手を送りたい。



これからの時代に活躍する人材の資質、「ニュータイプ」。これまでエリートとされた「オールドタイプ」と対比しながら、ニュータイプの思考・行動様式を、24の観点から鮮やかに描き出しているのが本書だ。
ニュータイプの要件の1つは、「プロブレムソルバー(問題解決者)ではなくアジェンダシェイパー(課題設定者)へ」。心と頭にグサグサ突き刺さる、的確なフレーズだ。「問題を発見し、提起する」ことが今後ますます大事になってくるという。だが、そもそも課題を見つけ出す力や問いを立てる力は、どうすれば養えるのか?
日頃から強烈な不満や不便を感じていれば、それを解消しよう、となるだろう。けれども、便利なプロダクトやサービスがあふれる現代の日本では、よほど広くアンテナを張り巡らせていない限り、そうした強烈な「不」を感じる機会は減っている。
そう思いながら本書を読み進めていくと、「好奇心」というキーワードに遭遇した。オールドタイプは上司の命令で駆動している。それに対し、ニュータイプは好奇心という内発的動機で駆動し、自由自在に高いモビリティを発揮して、成功をつかんでいくという。課題設定者というニュータイプの仲間入りを果たすためには、好奇心がカギになる。
現に「Curiosity Quotient(CQ:好奇心指数)」への注目は高まる一方だ。心理学者のトマス・チャモロ・プレミュジックによると、ビジネスや勉強で高い成果を出すには、IQ(知能指数)やEQ(心の知能指数)と同様に、CQが重要だという。好奇心が旺盛だからこそ、ワクワクしながら次々に関心テーマを発掘し、「問い」を立てていけるのではないだろうか。何より私にとって朗報だったのは、このCQは一生高め続けられるということだ。
著者の山口周さんは、フライヤーのインタビューで「問いの力が高い人」の共通項を語ってくださったことがある。その内容と相まって、今回より立体的にアジェンダシェイパーへの道筋が見えてきた気がする。
24の思考・行動様式を1つでも多く頭と身体に染み込ませて、自分なりの「ニュータイプ」を見つけていこう――。そんな心意気でいれば毎日が宝探しのような気がしてくるから不思議だ。新時代をしなやかに生き抜くための人生戦略の書として、本書をおすすめしたい。



本書は世界45言語で発売され、既に1,000万部を超える売上を記録、世界中で社会現象になっているという。なぜこれほどまでに注目されているのだろうということが、本書を手に取った私の最大の関心事だった。ミシェル・オバマは、バラク・オバマ前大統領の妻であり、ファーストレディとして有名ではある。それを考慮しても反響が大きすぎる。実際に読んでみて、熱狂の理由が自分なりに理解できた。この社会現象の源泉は、世界中で起きている分断とポピュリズムに対する人々の憤りと、統合への願いなのではないだろうか、と。
ミシェルはシカゴの決して豊かではない地域で生まれ育ち、高校では地域屈指の進学校に通う。頭脳明晰な彼女は、周囲の反対を押しのけてプリンストン大学に合格して、その後弁護士事務所に勤める。ミシェルが有色人種の女性であるということだけから生じる様々な偏見や差別を経験し、それでも自分の人生を切り開いていく。
弁護士事務所でのバラクとの出会いと2人で過ごす時間はとてもロマンチックだ。そして、2人の運命を変えたバラクのスピーチは印象に残る。「赤(共和党)のアメリカと青(民主党)のアメリカを争わせたくはない。私がなりたいと望むのは、アメリカ合衆国の大統領です。」という演説の言葉に、オバマ夫妻の想いが感じられる。さらに、ホワイトハウスでの生活の華やかさと不自由さが描かれていく。
この物語は、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに負けるところで幕を下ろす。最後の最後で現実の非情さを読者に突きつける。アメリカは選挙の結果、分断社会を選択したのだ。これから世界がどのように導かれるのかはわからない。ただ、分断ではなく統合を夢見たオバマ大統領夫妻の願いを、1,000万人の読者が共有しているならば素晴らしいことだろう。不寛容さが増す時代の中で、日本でも多くの人に届いてほしい本だ。



「思想」や「哲学」はビジネスに関係ない――そう考えている人は少なくないでしょう。多くの場合、与えられた課題や問題をいかに解決するかのほうが重要視されますし、下手に思想を振りかざしたところで(残念ながら)問題は一向に解決されませんので、その気持ちもよく理解できます。
ですが本書を読むと、やはり思想は驚くべき力を持っているのだと、そう思わざるをえません。そのことが端的にわかるのが、本書でも取り上げられているピーター・ティールのエピソードです。PayPalの共同創業者として知られ、投資家としても有名になったティールですが、学生時代はルネ・ジラールの薫陶を受け、思想活動家としての側面も持ち合わせていました。ビジネス界に活躍の場を移したあとも、彼の「国家は無用のものとなり、個人が力を持つ」というビジョンは変わらず、今度は電子決済サービスであるPayPalを通して、そのビジョンを現実化しようとしました。そして実際に人々の生活を大きく変えたのです。
かように適切な「技術(テクノロジー)」を手に入れた思想や哲学は、これまでなかったようなインパクトを社会にもたらします。
ティールの系譜ともいえる「新反動主義」が今後どれだけ勢力を拡大していくかは、これからの「技術」といかに結びつくかにかかっていると言えます。新反動主義の思想が技術を伴い、大きなビジネスとして結実するとき――それは本当に世界が変わるタイミングなのかもしれません。



魚の旬を知る。お茶の産地を知る。はたまたラーメンのスープの材料の違いを知る。
口に入れるものの知識が増えると、味覚の世界がひろがります。それまで「なんとなく」感じていたことの理由がわかったり、違う種類を試してみたくなったり、楽しいものです。
本書はまさにそんな楽しみを提供してくれる一冊です。わたしはどっしりした味の黒ビールが好きなのですが、そもそも黒ビールはなんで黒いのでしょう? それは、ビールの原料のひとつである麦芽に理由があるのだそうです。高温で黒く乾燥させた麦芽を使うから黒いのですね。さらには、麦芽の配合を工夫することで、さっぱり味の黒ビールも造れるのだとか。そちらも飲んでみたい。
日本のビール、世界のビールの特徴や成り立ちも詳しく記され、読みながらのんびり飲み歩きをしているような気持ちになれるのも本書の魅力です。ビールの本場ドイツでは、旅に出たらその町のビールを楽しむのは当然で、これをビア・ライゼ(Bier-Reise、ビール紀行の意味)というそうです。ミュンヘンで開催される世界最大のビールの祭典、オクトーバフェストの攻略法(!)なども必読です。
食べものや飲みものは暮らしと切り離せないものだからこそ、楽しみを見いだせば人生が一段、明るくなります。
特に思い入れなく「とりあえず生」を注文する方も、ビール大好きな方も、その一杯の体験を知識によって深めてみませんか。まずは要約からどうぞ。