要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ! (2019年12月号)

石渡 翔

12月に入り、いよいよ2019年もあと少しとなってしまいました。2020年は東京オリンピックの開催など、ひとつの節目になる年だと予想されます。2020年に向けて、皆さんはどんな本を読みたいですか? 12月のイチオシをご紹介いたします。

石渡翔
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21 Lessons
21 Lessons
ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之(訳)
河出書房新社
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21 Lessons
21 Lessons
著者
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)
出版社
河出書房新社
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『サピエンス全史』で人類の「これまで」を、『ホモ・デウス』で人類の「これから」を語ったユヴァル・ノア・ハラリ氏。『21 Lessons』ではついに人類の「いま」に焦点が当たります。前著は二作とも、どちらかといえば概念的な議論が多かったと思いますが、『21 Lessons』では現在を扱っていることから、より私たちの価値観に踏み込んだ内容となっています。

「一読のすすめ」にも書きましたが、全21章のなかで、とりわけハラリ氏の思想が全面に出ているのは20章(「意味」)でしょう。思えば「人間は物語(虚構)を生み出す生き物である」というテーゼは、『サピエンス全史』の冒頭からずっと続いてきているものです。物語から逃れることは、(ハラリ氏も含めて)おおよそ不可能。ならばその虚構性を認識しつつ、それでも魅力的な「物語」を紡いでいくしかありません。

「物語」の語り手は、なにも小説家や漫画家だけではないのです。一人ひとりが、それぞれの「物語」の語り手です。自らの生きる「物語」に、ときに没頭することあれど、そこから自由になる権利があることを忘れないようにする――21世紀を生きる姿勢(attitude)はそうあるべきだと、本書を読んでいて強く感じました。

松尾美里
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小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て
小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て
高橋孝雄
マガジンハウス
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小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て
小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て
著者
高橋孝雄
出版社
マガジンハウス
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子どもの虐待、相対的貧困、教育格差といった、親子を取り巻く厳しい現実。本来、親御さんの多くは、「子どもには健康で幸せでいてほしい」というシンプルな願いを抱いている。にもかかわらず、それを叶えることが難しいと感じてしまうような、身体的・精神的・経済的な課題が横たわったまま。一方で、「子どもの可能性を伸ばすために、親がどう関わるべきか」という情報は、あまりにも多い。そのため、情報に振り回され、疲弊しかけている方もいらっしゃるのではないだろうか。この本は、そうした断絶に、精神的な支えという形で、橋を架けてくれる一冊だと感じた。

とにかく、小児科医である著者のまなざしが、あたたかい。医療に携わるなかで、子どもたちの成長において「奇跡」のようなできごとが起こってきた。そして、そのたびに「遺伝子が書いたシナリオ」の力を感じてきたという。そんな著者が、親御さんや子どもに関わる読者に向かって、「よく頑張ってきましたね」「もっと子どもが本来もつ力を信じたらいいんですよ」と、語りかけてくるようだった。

「あなたのことを見守っているよ」と、子どもに関心を向け続けることが、その子の安心や成長にどれだけ大事なのか。著者が病院で出会ってきた子どものエピソードは、涙なしには読めないほどだ。

本書が子育てに関する類書以上に心に響いたのは、小児科医という存在が私にとって大きなものだからかもしれない。私は生まれて数日後に手術を受け、幼児期に十数回もの入退院をくり返していた。そのとき、先生方が医学的にだけでなく精神的にも両親の支えになっていた。

小児科医はもちろん、医療に携わる方々だからこそ見える「親と子のあり方」。そこに、もっと光を当てていくことで、救われる人が増えるのではないか。そんなことに気づかせてくれる大事な一冊だ。

庄子結
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生き物の死にざま
生き物の死にざま
稲垣栄洋
草思社
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生き物の死にざま
生き物の死にざま
著者
稲垣栄洋
出版社
草思社
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私たちは何のために生きているのでしょう。家族のため? 趣味のため? 仕事のため? 自覚のあるなしにかかわらず、誰もがそれぞれにミッションを持っているのではないでしょうか。

一方、ヒト以外の生き物の使命は実にシンプル。「次の世代へ命をつなぐこと」です。

本書は、29の生き物の「死にざま」にスポットライトを当てた一冊です。繁殖が終わったとたんに死んでしまうサケ、命がけでヒトの肌に降り立つアカイエカ、永遠の命を与えられたベニクラゲ……本書で描かれる彼らの「最期」は儚く、どこか美しささえ感じさせます。

不思議なのは、「死にざま」を描くことで、かえってその生き物の「生きざま」が見えてくること。そこには、つくりものではない、色とりどりのストーリーが存在しています。

読後はきっと、人生への覚悟を問われるような、奮い立たされるような気持ちになるでしょう。でも、だからといって敬遠せず、気軽に手に取ってみてほしいです。シリアスになりすぎない、絶妙な文体で書かれていますから。短編小説を読むような気持ちで、生き物たちの人生(?)を覗いてみてはいかがでしょうか。

井手琢人
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秋本治の仕事術
秋本治の仕事術
秋本治
集英社
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秋本治の仕事術
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著者
秋本治
出版社
集英社
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先日、漫画家の秋本治さんが紫綬褒章を授賞された。

代表作『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(通称『こち亀』)は連載開始の1976年から2016年まで40年間一切休載なしというとんでもない記録を持っている。単行本は200巻に到達し、「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録に認定されているほどだ。

私は昔からあまり漫画を読まない方だったが、『こち亀』は例外でよく読んでいた。

休みに新幹線で祖母の家に遊びに行く時に必ず駅で『こち亀』を買っていたのを思い出す。

連載開始時の両津勘吉(両さん)は劇画調なタッチでハードボイルドな雰囲気だったが、なぜかいつの間にか舞台が下町になり、ギャグマンガになった。

一話完結の読み切り型でどこから読んでも面白く、お得意のミリタリーや下町の昔の遊び、ジオラマ、鉄道模型から最新のゲームやデジタル機器までいろんなテーマが扱われているので、雑学的に読むのも楽しかった。

先日、亀有駅に久々に訪れたが、北口にも南口にも両さんの像がある。観光客も多く訪れ、漫画の力で街をも活性化させているのがまた凄い。

本書は40年間連載を切らさなかった秋本さんの仕事術が語られている。

ギネス記録を持つ秋本さんの仕事術というだけで興味深いが、そのポイントは2つ。

「時間術」と「変化を恐れないこと」だ。

詳しくは要約をお読みいただきたいが、2点目の「変化を恐れないこと」、これが『こち亀』の長い人気の秘訣だったのではないかと思う。

連載当初のハードボイルド調からギャグマンガに転換したのも然り、『こち亀』は時代に合わせて柔軟にテーマを広げている。

「両さんは凝り性で新しいもの好き」という設定が加わってから、あらゆる新しいテーマが続々と出てくるようになり、読者の我々は毎週『こち亀』を読みながら流行を追いかけているようだった。

現状に甘んじず、常に新しいものを追い続け、変化を恐れない秋本さんだからこそ成し得た偉業と言えるだろう。

全く関係ないが、私は最後両さんは麗子(秋本・カトリーヌ・麗子)と結婚すると思っていたがその予想は外れた。結構多くの人が予想していたと思うが、どうなのだろう?といまだに思っている。

大賀康史
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カスタマーサクセスとは何か
カスタマーサクセスとは何か
弘子ラザヴィ
英治出版
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カスタマーサクセスとは何か
カスタマーサクセスとは何か
著者
弘子ラザヴィ
出版社
英治出版
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東横線中目黒駅の近くでちょっとした用事があった時に、駅前の蔦屋書店(https://store.tsite.jp/nakameguro/about/) に立ち寄ってみた。スタイリッシュな店内を歩いていると、ちょうど目線の高さで面陳されている、赤いカバーの目立つ本があった。今回紹介する『カスタマーサクセスとは何か』だ。たとえ知らない本だったとしても、優れた本であることは手に取った瞬間にそれとわかる気がする。一冊、自分の分を買ってみた。

読み始めてすぐに、カスタマーサクセス領域の本の中でも一番の本かもしれないと感じた。まず、熱狂を生むサービスの形として、リテンションモデルの解説がなされる。課金形態がサブスクリプション型かどうかは重要ではない。初期投資が少なくいつでもやめられるサービスなのに、それなしではいられないほどに使い続けてしまう。頻繁に機能が更新され、利用履歴等から自分にカスタマイズされていく。私個人にとってはSpotifyが該当しそうだ。

しばらくページをめくると、カスタマーサクセスの経済的効果が説明されていて、インパクトの大きさに改めて驚かされる。さらにオンボーディング、アダプション、エフォートレスなどの重要な概念も、背景から実践のポイントまで詳しく解説されていく。最後まで読み終えて、社内のカスタマーサクセス担当と営業担当の希望者全員に、一人一冊ずつ配ることにした。英語圏ではカスタマーサクセスに関するマニュアルや知見が数多く公開されているという。そのような最新の海外事例もカバーされた続編にも期待したい。

熊倉沙希子
編集部熊倉沙希子のイチオシ詳細
グレタ たったひとりのストライキ
グレタ たったひとりのストライキ
マレーナ&ベアタ・エルンマン,グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ,羽根由(訳)
海と月社
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グレタ たったひとりのストライキ
グレタ たったひとりのストライキ
著者
マレーナ&ベアタ・エルンマン グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ 羽根由(訳)
出版社
海と月社
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いまや時の人となったグレタ・トゥーンベリさん。

厳しい表情で気候問題について訴える彼女をニュースで見かけるたび、16年の人生にどんなことがあったのか、この行動力はどこからくるのか、と思っていました。家族が共同執筆したという本書を読むと、グレタさんの来し方には想像以上に激しいものがありました。

グレタさんは、学校の授業で環境問題に関する映画を観て、ものも食べられないほどの深刻なうつ病を発症してしまいます。思春期の始まりの頃のことでした。その後発達障がいがあると診断されたグレタさんに、家族は寄り添い、ともに環境問題について学び続けます。

非常に印象的だったのは、グレタさんの両親の態度です。

発達障がい児の親は、その世界に入りこまないことが大事といわれるそうです。なぜなら、簡単に共依存に似た状態に陥ってしまうから。

母親は、そのことを理解しつつ、自分たちについてこう書きます。「だがときには、あえてその考えにそむき、発達障がい児の世界に入る選択もする。発達障がい児が正しくて、『健常者』が間違っていることだってあるからだ。」

一般的/そうでないという区分けに惑わされず、耳を傾けること、共感してみること。たとえ愛する肉親に対してであっても、そうした態度で接することは易しいことではありません。しかし、それができたとき、自分たちだけでなく、多くの人にとっても何か大切なものをもたらすことができるのかもしれません。

本書は、環境問題を再考するというテーマだけに限定されない、豊かな内容を持った本だと思います。

公開日:2019/12/01
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