要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ! (2020年2月号)


2020年、あっという間に1カ月が経過しましたね。2月にイチオシしたい本を紹介いたします。次に読みたい本を選ぶ際の一助となれば幸いです……!



ありのままの、自然体の、ナチュラルな……ここ数年、そんな生き方をよしとする流れになりつつあるように思います。とはいえ、「ありのままに生きよ」と言われても、戸惑う人のほうが多いのではないでしょうか。日本で生まれ育った人の多くは、「人様に迷惑をかけてはいけません」と繰り返し言われてきているのですから。
――そんなことを考えていたときに手に取ったのが、人生で成功するための28のステップが紹介されている『SELFISH』。本書は、今までの人生で植え付けられてきた「人様に迷惑をかけてはいけない思考」を「セルフィッシュ思考」に塗り替えてくれました。
セルフィッシュな人とは、主体的な選択をしていて、満たされない人の対極にいる人。満たされているから、他人に対しても寛大でいられる――そう聞くと、「セルフィッシュな人」がにわかに魅力的に見えてきませんか?
とはいえ、染みついた価値観を壊すのは難しいもの。そんな私たちに、本書は、セルフィッシュになる方法を教えてくれます。私が特に気に入ったのは、 “自分の望みを自覚してきちんと口に出すこと”。自分の望みを言語化でき、「察してちゃん」になることなく、相手にうまく伝えられることは、成熟の一つの条件だと思うからです。
日本中の人がセルフィッシュになったらどうなるだろう? そうほんの少しだけドキドキしながらも、誰もがセルフィッシュに生きられる時代がやってくることを願っています。



個人的に、他者のことは「自分とはまったく別の存在であり、よくわからない謎の生き物」と思うことが多いです。
とはいえ人間生活を営むうえで、他者とのコミュニケーションは基本的に欠かせません。それは相手から情報を受け取るときもそうだし、こちらから発信するときもそうです。なのでまさにフライヤーのようなツールを使って、どうやったらうまくコミュニケーションできるのかを勉強してきました。
ですが本書を読んで、「よくわからない相手とコミュニケーションするため、スキルを磨こう!」と考えるよりも、「相手と自分は想像以上に似ているから、相手と円滑にコミュニケーションするためには、自分自身をもっと理解するのが大切なのではないか?」と思えてきました。
たしかに言われてみれば、自分だって論理的に説得されても大体納得しませんし、教師から「勉強しろ!」と言われても勉強しませんでした。にもかかわらず自分から伝えるときは、相手を論理的に説得しようとしてしまったり、相手に「○○しろ!」と言ってしまったりしていました。物事の正当性や実益を伝えれば、相手はきっと動いてくれると信じて。
本書は相手を理解するための本でありつつ、その実、自分自身を理解するための本と言えます。そしてそれこそが案外、相手を理解するための近道だったりするのではないでしょうか。



「アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人である」
本書に紹介されていた、アメリカを代表する現代美術家ジェームズ・タレル氏による言葉が胸に突き刺さった。そして、この本自体が、人生や人間という存在に対し、いくつもの「問い」を投げかけてくれる至高の一冊だった。
著者は、直島を「現代アートの聖地」へと導いた、直島アートプロジェクトの仕掛け人として知られる秋元雄史氏。金沢21世紀美術館を、国内の美術館としては最多となる年間255万人が来場する現代美術館に育てあげた人物でもある。ビジネスとアートの交差点で活躍し続けている著者が、アーティストのように思考する「アート思考」の本質を描き出したのが本書だ。ここでのアートとは、「現代アート」を意味する。いまや現代アートは世界の美術界でメインストリームとなり、ビジネスパーソンに不可欠な教養とされている。
とにかく内容の充実ぶりに心を打たれずにはいられない。現代アートの旗手たちはどのように世界と対峙し、洞察力を磨いているのか。シリコンバレーのイノベーターたちはなぜ現代アートを好むのか。どうすれば現代アートを通じてアート思考を磨けるのか。資本主義のもとにアートの価値はどう決まっていくのか――。こうしたことが次々に解き明かされていく。さらには、注目すべき現代アーティストと、アートの鑑賞法までもが学べる仕立てになっている。読み終えるとすぐ現代アートの展示会を探し始めてしまうほど、この本の世界観に魅せられた。
ハッとさせられたのは次の言葉だった。「社会に対する問題提起、つまり新たな価値を提供し、歴史に残るような価値を残していけるかどうかという姿勢を極限まで追求するのが、アーティストの願望である」
この姿勢は、アートだけでなく、ビジネスや個々人の人生においても共通して大事なのではないだろうか。優れたアーティストの発想の根幹は、分野を問わず、新たな価値を生み出したい、人々を幸せにしたいと願う人たちと響き合うものだと感じた。これこそが、私たちがアート思考を学ぶ意義だといえる。アート思考は、「わからない」ものにじっくり対峙する力と、人の幸福に本質的につながるものは何かを探すための軸を、私たちに授けてくれるのではないだろうか。本書は、真の感性と知性への扉を開いてくれる一冊だと感じた。
では私自身は自らの課題意識にどう向き合うのか。微力ながらも何を生み出していきたいのか。本書から受けとった「問い」を携えて、英知の断片を集めながら、自分なりのブリコラージュをつくっていきたいと思う。



「調子に乗るな」と親に言われて育ってきました。わたしはお調子者なのです。ですので、本書の記述は心に突き刺さります。群衆における個人は、責任観念がうすくなったり、感情や行為が感染しやすくなったりするそうです。こうした箇所を読むと、悪ノリして後から反省した、数々のできごとを思い出します。
さらに、群衆の想像力を動かすのは、「一大勝利とか、一大奇蹟とか、一大犯罪」といったちょっと奇異なことであるということは、まさにワイドショーネタを追ってしまう心理だ……とドキッとしてしまいます。
社会心理学の古典である本書は、現代の日常にある人間心理をも、冷徹に見通しています。
ギクッとするような本書のおそろしさはさらに加速します。群衆に特有の心理があるせいで、個人がどのように暴動に加担するか、指導者たちが群衆をどのように支配するか、といった内容が続きます。後者については、効果的な演説の仕方や選挙の勝ち方(!)まで、具体的な方法が満載です。これは悪用されたらおそろしいことこの上なし。現に、本書はヒトラーの愛読書だったとのことです。
群衆心理がどんなものかわかったとしても、意志的にこの心理状態を避けようとするのは非常に難しいでしょう。たとえば、トリックがわかっていてもだまされてしまう、目の錯覚のクイズのようなものではないでしょうか。この心理的な性質は、人間という生き物の本質の一部だと感じます。
せめて、読後のショックを胸に刻まねばと思います。そして、わたしを導こうとしている人たちが、「どこへ」導こうとしているのか考えることを、怠らないようにしたいものです。
ぜひ、みなさまも本書を読んで、それぞれにショックを受けてみてください。すでに要約が公開されている『普通の人びと』の併読もおすすめです!