要約の達人が選ぶ、今月のイチオシ! (2020年8月号)

石渡翔

社会のあり方が大きく変動し、ウィズコロナ/アフターコロナの生き方が模索されるようになってきました。さまざまな情報が行き交い、ともすると「情報疲れ」を起こしてしまっている人もいるのではないでしょうか。

読書がすばらしいのは、自分のペースで読み進められるところ。消化不良になりそうだったら、そのページの内容を何度か咀嚼してみてもいいですし、一度立ち止まってしまってもいいのです。本はいつだって私たちに優しく寄り添ってくれます。ということで2020年8月、編集部のイチオシをお届けいたします。

庄子結
編集部庄子結のイチオシ詳細
STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか
STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか
堀新一郎,琴坂将広,井上大智
NewsPicksパブリッシング
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STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか
STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか
著者
堀新一郎 琴坂将広 井上大智
出版社
NewsPicksパブリッシング
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「最近、ワクワクする本読んだ?」と聞かれたら、真っ先に本書を挙げるでしょう。

本書に登場する起業家たちは、著者の言葉を借りれば、「スタートアップコミュニティの中でも一目置かれている16社の起業家たち」。そんな彼らの経験談をふんだんに交えながら、アイディアを見つける、最初の仲間を集める……などといった起業・経営の各フェーズで使えるノウハウが紹介されています。

ただの起業指南本と思うなかれ。「はじめに」に「この本でしか語られていないエピソードはたくさんある。普通のインタビューでは教えてくれないことも、筆者の投資家という立場を悪用(?)して聞き出した」というなんともそそられる文章がある通り、色とりどりのエピソードがかなりリアルに描かれているのです。

情報がたっぷり詰まっているので、刺さるポイントは読者によって違うでしょう。起業家たちの知られざる努力に圧倒される人もいれば、天才的なひらめきにはっとさせられる人もいるはずです。すぐに使えるノウハウを手に入れる人も、いま所属している組織のリーダーの苦労に思いを馳せる人もいるでしょう。

きわめて実際的な内容なのにワクワクさせてくれて、不思議とエモい……本書の魅力を一言で表現するなら、こんな感じでしょうか。「起業する気はないから、自分には関係ない」などと決めつけず、まずは読んでみてください。目の前の仕事への取り組み方を変えてくれるはずです。

石渡翔
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感染症の世界史
感染症の世界史
石弘之
KADOKAWA
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感染症の世界史
感染症の世界史
著者
石弘之
出版社
KADOKAWA
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新型コロナウイルス(COVID-19)が流行して、良かったことなんてありません。健康面はもちろんのこと、文化的にも経済的にも、壊滅的な影響を人類にもたらしています。なかには潤った業界もあるかもしれませんが、ほとんどの人がネガティブな影響を受けている以上、遅かれ早かれ万人が、なんらかの形でダメージを受けることになるでしょう。なんだか書いててイヤになってきてしまいますが……。

そのなかで、なんとか自分にとってポジティブな影響を見出そうとするならば、感染症に対する情報感度が高まったことです。本書『感染症の世界史』もまた、感染症に対する理解を深めてくれる一冊でした。2018年に出版されたため、新型コロナウイルスに関する記載はありません。ですが人類と病原体の関わりについて、新たな視座を与えてくれます。

そもそも人の遺伝情報(ゲノム)のうち、タンパク質をつくる機能のある遺伝子はわずか1.5%しかなく、全体の約半分はウイルスに由来するそうです。人体にはウイルスとの戦いの歴史が、文字通り刻み込まれているんですね。しかも興味深いことに、哺乳動物の胎児が母体内で生き残るうえで、ある種のウイルスが大きく関わっている(というかウイルスがないと生きていけない)というのですから、想像以上に私たちとウイルスの関係は複雑だということがわかります。

目には見えない隣人、ウイルス。その特徴や挙動を理解することは、私たち自身の理解にも繋がるかもしれません。コロナ禍が早く終焉することを祈りつつ、ウイルスをはじめとした微生物との闘いの歴史に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

松尾美里
編集部松尾美里のイチオシ詳細
こころの相続
こころの相続
五木寛之
SBクリエイティブ
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こころの相続
こころの相続
著者
五木寛之
出版社
SBクリエイティブ
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「ステイホーム」が必要とされた時期を境に、家で過ごす時間が増えた。自由が制限された状態は、自分を取り巻く情報がそぎ落とされた状態にも近い。そこで、本来自分が大事にしたいものは何だろうかと、振り返るようになった方もいらっしゃるのではないだろうか。私自身は、目に見えないけれども自分を支えてくれている存在との絆について考えるようになった。そうした存在の1つに、両親の存在がある。

遠方に住む親の看護が必要になってはじめて、親が元気でいることは当たり前でもなんでもないことに気づかされた。お酒が好きだった父親とは、「いつか一緒にお酒を飲みにいこう」と思っていたが、それはもう実現しないのだということもわかっている。親が昔、何に夢中になり、どんな経験に悔しさを覚えたのか。そんな思い出話を、面と向かってもっと聞いておけばよかった――。そう思っていたときに出合ったのが、五木寛之さんのご著書『こころの相続』だ。

私たちは自分を育ててくれた人たちから、目に見える財産だけではなく、「形なき財産」を相続している。たとえば、挨拶の仕方や口ぐせ、配膳の仕方、好きな歌謡曲。著者は、この無形の相続を「こころの相続」と呼ぶ。これは個人からの相続に限らず、社会や国家、歴史などの社会的な相続をも含んでいるという。

「親の背中を見て育つ」といわれるように、親が色々な壁にぶつかりながらも一生懸命に生活する姿から、生きる姿勢のようなものを、私たちは知らず知らず受け継いできている。本書で語られる「こころの相続」というコンセプトは、こうしたものの大切さに優しい光を当ててくれた。もちろん、受け継いだ「見えないもの」が手放しに良いものばかりとは限らない。ただ、良い悪いは別にして、こうして世代を超えて脈々と受け取ってきたものがあり、それが自分の血肉になっているという事実自体が、今後生きていくうえでの心の拠りどころになってくれるように感じている。

「こころの相続」は、親の話を聞くことから始まる。今度実家へ帰省したときには、親から何度も聞いた昔話であっても、今までよりもちゃんと耳を傾けようと思った。その話を直接聞ける時間自体が尊いのだから。

石田翼
編集部石田翼のイチオシ詳細
レイシズム
レイシズム
ルース・ベネディクト,阿部大樹(訳)
講談社
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レイシズム
レイシズム
著者
ルース・ベネディクト 阿部大樹(訳)
出版社
講談社
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たわいのない世間話で終わるはずだった。いつもと同じようなくだらない会話。

「ていうか、韓国、嫌いだわ、俺」

ひどく酔っているのか、それまでの話題と全く関係なく、おぼつかない調子でボソリと友人がこぼす。

あまりに急な攻撃性の発露に、動揺した。背筋の形がわかるほど凍りつくような気がした。長い友人との仲にひびが入るかもしれないと思いながら、その根拠を問いただしたくなった。

これは、フィクションのようで私が実際に体験したことだ。

なぜ「嫌い」なのか説明を求めても、要領を得た回答は返ってこない。その人には韓国出身の知人もいる。彼のことも嫌いなのかと問えば、そんなことはないと言う。しかし、「嫌い」な理由のなかには、その友人がどこかで醸成した「韓国人の性質」とやらが含まれているし、部分的にはその知人のことも指している。それでも彼は関係ない、と。

日本人と韓国人を隔てるものは何か。言語、文化、慣習。たしかに違っているものはたくさんあるけれど、それが多様性というものである。日本人同士であっても、まったく同じ文化を共有しているなどということは、はっきりと幻想でしかない。隣人が何者であろうと、結局他人なのだから。

この「憎しみ」は、ルース・ベネディクトによると近代になって初めて生じたものだ。先住民の統治政策を進めるなかで、正当性の全くない皮膚の色による差別を、執拗に繰り広げていった。日本人と韓国人は肌の色こそ同じであるけれど、政治的な利害によって「日本人と対立する他者」としての「韓国人」が誕生してしまった。

そこに人種差を認めようとする精神は、いまや隣でともに酒を飲む友人にまで降りてきたのだ。インターネットという装置は、この「精神」の複製コピーを容易に実現するのかもしれない。

ベネディクトは、『レイシズム』のなかで倫理や道徳を振りかざしはしなかった。差別には根拠がないということを、ていねいに示しただけだ。だから、差別感情は人のサガであるかのようには言わない。差別はつくられた伝染病のようなもので、根源を断ち切れば消すこともできる。

「嫌いだ」と口にした友人は、この本を手に取ってくれるだろうか。

公開日:2020/08/01
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