
2021年6月号
6月といえば梅雨のシーズン。 ただでさえ外に出ることがためらわれるご時世のなか、ますますお家に引きこもり……という日々に嫌気が差すこともあるでしょう。 でも案外、自分と向き合うにはちょうどいい季節なのかもしれません。 思うように動けない時間を生かして、自分の「妄想」と向き合ってみませんか。 来たるべき時に、いま育んだ「妄想」が社会を、そして自身を変えることを願って。
ライター・石渡翔



「新しいものを生み出す」ことに苦労している人は多いです。実際、「新しいもの」というと大仰な気がしてきますし、「自分にそんなことは……」と思ってしまうのも無理はありません。ですが義務感にとらわれていると、かえって頭がかたくなってしまうもの。
そういうときは、いったん目的意識を完全に忘れ、自分の「妄想」を育むところから始めてみるといいかもしれません。「妄想」するのも一種の重要な能力です。まずは目の前のビジネスや課題にとらわれず、自分自身の持つ「妄想」と向き合ってみる――そうすることで、抑えられていた発想や展望が、次々と出てくることに気づくでしょう。
もちろん、ただ「妄想」しているだけでは、何も現実は変わりません。「妄想」は現実になるとき、はじめてその真価を発揮します。そこでお読みいただきたいのがこちら。世界初のモバイルARシステムやマルチタッチシステムの発明者である暦本純一が、妄想を現実にするためのプロセスを見事に描き出しています。その道は舗装されたものではなくデコボコしており、ときには迂回を迫られるかもしれません。しかしそれでも前に進もうと思える推進力こそ、「妄想」のもつ真価なのです。


一方で、「いやいや、妄想が大事とは言っても、結局のところ業務には生かせないと……」という方におすすめしたいのがこちら。「こんなことができたらいいな」「こんな世の中になったらいいな」という「妄想」を、いかに企業の中で実現させていくかが書かれています。
本書がすばらしいのは、著者が行なった大企業での変革について、実際の例をもとに解説しているところ。大企業で新規事業を立ち上げるのは、起業や独立とはまた違った難しさがあります。日本的な組織のなかで、ボトムアップでイノベーションを起こしていくためには何をすればいいのでしょうか?
一人の力だけで妄想を現実にすることは、ほとんどの場合困難を伴うものです。多かれ少なかれ、どこかのタイミングで、他の人を巻き込んでいかなければなりません。集団で「妄想」を実現させるためのリアルな知見が満載のこの一冊。いま企業に属しているかどうかを問わず、誰かを巻き込む必要性を感じているのなら、本書から得られるものは大きいはずです。


最後にご紹介したいのが、「意味のイノベーション」で知られるベルガンティの著作。アイデアを考えるとき、特にビジネスの文脈では「まずユーザーや市場のニーズを把握して〜」となりがちですが、その結果、どの商品も決定的な機能の差がない、いわゆるコモディティ化が進んでしまったように思います。
ベルガンティは、ユーザーが本当に望んでいるのは、モノゴトのもつ意味を刷新するような、「まったく新しいもの」だとし、自分自身から自ずと湧き上がってくるアイデアがカギになると指摘します。全員でブレストを重ねるのではなく、一人の「妄想」をとことんドライブさせることが、より意味のあるイノベーションを紡ぎ出すというわけです。
特にユニークなのが、「妄想」を現実にも耐えられるものにするため、「解釈」と「対話」を重視している点です。ある意味、個人のもつ哲学や世界観が試される方法論ともいえるでしょう。そういう領域を得意としている人であれば、ばっちりハマる方法論なのではないでしょうか。