ダイバーシティの心得本 『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』
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ほんをうえるプロジェクト

多様な働き方を許容するダイバーシティの動きは、2児の父で介護中である私にとって、非常に好ましいものだ。マクロな意味でも、生産年齢人口が減り労働力の確保が急務な状況で、避けて通れないテーマだろう。ただ、効率を求める企業活動とは相反する部分が多く、制度を導入してもなかなか活用が進まない企業が多い現状がある。

これは私の想像でしかないが、若い頃に家庭を犠牲にして働いた経営者の方々の中には、制度を利用して早々に帰宅する社員を見ると、複雑な心境になる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、この国の人口構造は当時とは全く別のものになっており、考え方を変えることを余儀なくされている。このままでは生きにくい。

その島のひとたちは、ひとの話をきかない 精神科医、「自殺希少地域」を行く
その島のひとたちは、ひとの話をきかない 精神科医、「自殺希少地域」を行く
著者
森川すいめい/著
出版社
青土社
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「私は生きやすさとは何かを知りたかった。」
本書の「はじめに」はこの言葉で始まる。日本には、自殺者がほとんど出ない地域(=自殺希少地域)がいくつかあって、本書は、精神科医である著者がそれらの地域を訪問して見聞した記録である。その記録は、効率化と多様化の狭間で落ち着かない日々を過ごすビジネスパーソンの方々に、「働きやすさとは何か」を考える機会を与えてくれる。

新しい考え方を見出そうと、アツイ議論が噴出してはしぼんでいく。いつまでたっても、私たちの心のベクトルは定まらない。それはなぜだろう。もしかしたら、その議論がアツすぎるからではないか。私は本書を読んで、突然気づいた。現在のような袋小路で、「これだ!」というものが今更みつかるわけがないではないか。

ただ、そのヒントは、そこここに転がっている。

例えば、自殺希少地域の「ベンチ」である。ベンチがあれば人が座る。引きこもっていたかもしれない老人が、そのベンチに座る。人が座れば、そこに会話が生まれる。本書のタイトルである「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」という言葉も、そういったヒントの一つだ。人が何といおうと、自分が興味ないことにはつきあわないという意味だ。

自分と他人の境界を明瞭にもつということ。これこそ、多様性を受け入れるということではないか。まさにダイバーシティの心得である。人を理解しようという、意識高い系は疲れる。そのうえ、「こうあるべきだ」と余計な口をはさんできて、邪魔くさい。知らず知らずに、人も自分も追い込んでしまうものである。

本書は、これからの時代の「働きやすさ」のヒントを、精神科医である著者が各地を歩いて拾い集めたレポートである。丹念に事実が記してあるだけで、何かを強烈に主張したアツイ本ではない。だが微温的でありながら、同時に刺激的な本でもある。政治家の皆さんは、ダイバーシティの掛け声を暑苦しく張りあげるよりも、まずは、ベンチでもつくってみたらどうだろう。

ほんをうえるプロジェクト 吉村博光

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公開日:2017/07/21
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