本人に聴いた、当事者によるありのまま。『認知症になった私が伝えたいこと』
【ほんをうえるプロジェクトのイチオシ】



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「注文をまちがえる料理店」というお店が話題になっています。不思議な名前の、期間限定のレストラン。注文を間違えるっていったい何事?と調べてみると、その理由は「注文をとるスタッフがみんな認知症のレストラン」だから。もしかしたら間違えてしまうかもしれないから、頼んだ注文通りにこないかもしれない。でもそれを楽しんでみませんか?というのがコンセプトのプロジェクトでした。楽しみながら寛容を促すもので、いままでにない認知症へのアプローチに思えて驚きました。
2025年には10人に1人が認知症に、というショッキングなニュースが2015年にありました。その後も断続的に話題になり、認知症に関することが雑誌のメイン特集になることも少なくありません。介護のこと、社会保障のこと、予防するための生活習慣のこと……。認知症に関する様々な話題が増えていく一方で、ぽっかり空いたドーナツの穴のように、その中心にあたるものが私にはよくわかりませんでした。もしも、認知症になったら。知識としてなんとなくは知っています。でも、たとえばもし自分がなったら。そのとき自分の頭では、心の中では何が起きるのだろうか。起きていることがわかるのだろうか。
ただぼんやりと怖いと思っていたときに出会ったのが、この本『認知症になった私が伝えたいこと』でした。著者の佐藤さんは51歳でアルツハイマー型認知症と診断をうけた男性です。消えていく記憶と戦いながら自分の力で生きていくための術を模索して、発症後も長く1人暮らしをしながら認知症がどんなものなのかを伝えるための講演を行うようになりました。
この本は兆候を感じ始めたころから10年以上にわたって、佐藤さんが日々のなかで書きとめてきた膨大なメモ、講演や取材のために自作した資料、折々につづった言葉をもとに作られた本です。記憶障害などの症状とともに暮らしていくことがどんなことなのか、具体的にリアルに描き出しています。できないこともあるけれど、できることもあること。自分自身のなかに認知症になったら何もわからなくなるという偏見があって、それが自分をだめにしてしまいそうになること。でも自由に生きたいという意志があり、そのための工夫ができるということ。そのことを知ってほしいということ。認知症当事者でなければ書けない、ありのままの気持ちが綴られていました。
この本は2014年に刊行され、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞しました。「注文をまちがえる料理店」の話題を知り、今またこの本を読みたいと思う人が増えるのではないかと感じて、改めてご紹介したいと思いました。認知症にかかわりのある人もない人も、手にとってみていただきたいです。
ほんをうえるプロジェクト 船田真喜
「ほんをうえるプロジェクト」とは?
植物に水をやってゆっくりと育てるように、本ももっとていねいに売っていこうと、出版総合商社トーハンがはじめたプロジェクトです。新刊やベストセラーに限らず、独自の手法で良書を発掘し、本屋さんにご提案しています。同じ趣味をもった方同士がつながれる、「 #好きな本を語ろう 」というコミュニティを運営中です。ぜひご参加ください!