【書店員のイチオシ】
キツイとき、苦しいとき、崖っぷちのとき、誰かの応援が踏ん張る力になる『負けるな、届け!』
【ほんをうえるプロジェクト】



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表紙を見ると、飛び出すような配置のタイトル。沿道からこちらに向かって声援を送る人々。今日おすすめしたい『負けるな、届け!』はマラソン小説であり、ほかにあまり読んだことのない「応援」小説です。読んだ後、自分が元気になるのはもちろんのこと、応援され励まされるだけじゃなくて「私も応援したい!」という気持ちになるのです。そして何かを、誰かを応援したいという気持ちそのものが、ずいぶんと自分のことも力づけてくれるんだということに気付きます。
主人公は25年勤めた会社をリストラされた小野寺かすみ。アラフィフ、独身。仕事が好きで頑張ってきたのに理不尽な理由であっさり首を切られ、プライドはズタズタ。人生がけっぷちの主人公が友人に誘われて参加したのが、東京マラソンの応援でした。
走る側でなく、応援する側。それはランナーの走るペースから各地点の到着時間を予想して、地下鉄を駆使して先回りしては応援するという、パワフルなもの。はじめはそのパワーに圧倒されていたかすみも、大きな声を出して応援したい気持ちになっていきます。そしてその自分の声は思いがけず自分を励ますパワーになり、自分も走ってみたいとフランスの「メドック・マラソン」に勢いでエントリーしてしまうのです。
この物語で、かすみだけでなく、様々な立場の女性が「応援する・される」ことを通して人生を見つめなおしていきます。みなそれぞれに理不尽な経験をしていて、自分をすり減らしていくものに対してどう向かい合っていくかという物語でもあります。
この物語のなかに、すごい悪役が登場するんです。かすみをリストラする柳沢という人事部長で、自分の立身出世のためにとる様々な行動は、もう殴ってやる! と思うくらいの最低の振る舞い。ですが読んだ方の感想のなかに、ちらほら柳沢を励ますコメントもあったのが印象に残りました。そう、社会人を何年もやっていると、理不尽に見える行動をとる側にも、様々な立場や事情や思いがあったりすることも、想像はできます。今この記事を読んでくれているフライヤーの愛読者のみなさんのなかには、リストラする側の方も当然いるでしょうし、柳沢の気持ちのほうが良くわかる……なんて方もいるかもしれません。物語の最終章、かすみと柳沢が再会する場面があるのですが、その場面をそれぞれの立場の人に是非読んで欲しい! 涙がぶわっと出た、私にとってのベストシーンです。その時かすみがとった行動は、いろんな面倒くさいぐちゃぐちゃを吹き飛ばしてくれます。スカッとシンプルに「なにがあったって、がんばろう!」と思える場面です。
「がんばれ!」って、難しい言葉でもあります。重荷になるんじゃないかと思って言いにくいときもあるし、言われて「もう頑張ってるんだよー!」と破裂しちゃいそうになることもある。でもやっぱり、シンプルに相手を思って、力になれることを願って伝える「がんばれ」は声に出したい言葉です。つらいとき、くるしいときに、誰かの応援が力になる。そして応援することが、自分も元気にしてくれる。
『負けるな、届け!』はそんなことを伝えてくれる、人にもおすすめしたくなる作品です。みなさんにも、この本のパワーが届きますように!
ほんをうえるプロジェクト 船田真喜
「ほんをうえるプロジェクト」とは?
植物に水をやってゆっくりと育てるように、本ももっとていねいに売っていこうと、出版総合商社トーハンがはじめたプロジェクトです。新刊やベストセラーに限らず、独自の手法で良書を発掘し、本屋さんにご提案しています。同じ趣味をもった方同士がつながれる、「 #好きな本を語ろう 」というコミュニティを運営中です。ぜひご参加ください!