経済理論の確立を歴史的背景にMIXして書かれた『ECONOMIX』
【紀伊國屋書店のイチオシ】

紀伊國屋書店

大人はしばしば経済を理解していないということに劣等感を抱く。それはそうだろう。社会において利潤追求を目的として企業に従事する場合、公共奉仕、生活の糧、はてはまた単なる暇つぶしといった名目の別はさておき、経済的観点から考える世界というのが基本的な生活領域となるからだ。経済を理解していないというのは野生動物が生態系に関して何も知覚していないということと大差ない。 と、こんなに大鉈を振ってしまって今更自分の矮小な経済的知識が心許ないのだけれど、ここまで大口が叩けるのはマイケル・グッドウィン氏の『ECONOMIX』(みすず書房) を読んだからかもしれない。

エコノミックス―マンガで読む経済の歴史
エコノミックス―マンガで読む経済の歴史
グッドウィン,マイケル〈Goodwin,Michael〉/バー,ダン・E.【画】〈Burr,Dan E.〉/脇山 美伸【訳】
みすず書房
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エコノミックス―マンガで読む経済の歴史
エコノミックス―マンガで読む経済の歴史
著者
グッドウィン,マイケル〈Goodwin,Michael〉/バー,ダン・E.【画】〈Burr,Dan E.〉/脇山 美伸【訳】
出版社
みすず書房
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本書は人類における経済理論の確立を歴史的背景に文字通りMIXして書かれたものである 。 そして中身は何とマンガだ!

「マンガで読む」「マンガでわかる」という本が多く出回っているのは、今に始まったことではないが、正直僕はこの手の本に酷く懐疑的である。マンガは思考の補助線にはなるかもしれないが、いくら補助線を引き続けても回答には辿り着かない。理論やスキルとは緻密な計算式の積み重ねであって、省略できる部分はどこにもない。もしマンガを用いてその理論を補完しようとするなら、少なくとも3倍以上の頁が割かれなければ、確実に落とし穴が存在すると思っている。

では、なぜそれが本書なら良いと思ったのか。経済を理解しようとすることは、演劇を見るようなものだからである。本書を読んだ僕の理解はこうだ。経済学者がシナリオを用意する。政治家が演出。それを大根役者の我々が揃って悲喜こもごもに演じる。それが経済の実体だ。シナリオが間違っているのはご愛敬。演出が過剰過ぎて、役者がついていけないのもご愛敬。役者たちがこう動いたらおいしいんじゃないか=得じゃないのか、と勝手に振舞うのもご愛敬。チャップリンの映画がシリアスなドキュメントよりときに胸を抉るように、本作のマンガとしての愉快さが、経済を眺望するには丁度良い距離感だと思う。

経済は政治より簡単に本質を見誤る。程度の差こそあれ、暮らし向きが上向くことを願っていない人はいない訳で、極端に視点が近いと、「その人にとって」という条件がつきまとい全体が見えなくなる。賞賛や揶揄はあくまでどこからスポットを当てたかという一側面に過ぎないし、経済的帰結には多くの意思が介在している。
そもそも経済競争というのは善悪では規定できないし、企業が安定した成長と利潤を追求しなければ、瞬く間に人類は堕落する。ひとの夢や願望は経済学者がいつまでも数式の中で解明できないXであるだろうし、根本的には怠惰であることも同様である。

現在に至る経済的なトピックはほとんどおさえている本書を眺めていると、よくもまあ、という感慨が沸き上がる。叡智と狡猾さをない交ぜにしてゴロゴロ転がり続ける経済に対して (単に地球の限界への下り坂を転がっているだけかもしれないが)本書の何よりの示唆はやはりこの点にあるのではないか。
それは「経済は誰かの筋書きではない」ということだ。

本書で描かれている通り、経済はこれまで失敗の積み重ねだった。その失敗を糧に何が学べるか。学者にも、政治家にも、そして我々一般市民にも同様の責任がある。 経済を理解しようとすることは、歴史に参加することに他ならない。 『ECONOMIX』、つくづくよく考えられた一冊である。

紀伊國屋書店西武渋谷店 店長 竹田勇生

https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Seibu-Shibuya-Store

公開日:2017/06/27
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