第2回 Lunch time ビジネスワークアウト 【イベントレポート】
いま知っておきたい、マネジメント力

ランチを食べながら「知的筋力」を鍛えるフライヤーの「Lunch timeビジネスワークアウト」ウェビナー。好評だった第1回に引き続き、2020年10月27日(火)のお昼の時間帯に第2回が行なわれました。リラックスしたムードの無料オンラインセミナーに、今回もたくさんの方がご参加くださいました。
メインスピーカーは株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリストの荒木博行です。本記事では、当日のセミナーの様子をダイジェストで再構成してお届けします。
マネジメントとは何かと言われると難しいですよね。マネジメントは「管理」という日本語に翻訳されがちですが、この「管理」の頭に別の言葉をつけると、勤怠管理、数字管理といった言葉になります。それが管理職の役割だと思ってしまうと、言葉の響きとして負の印象が強いですよね。楽しくなさそうで。
マネジメントの本質はまず、マイナスをゼロに戻すアシスト、ちゃんとできる下地を整えるというネガティブな側面です。一方で、ゼロをプラスに高めるアシストというポジティブな面もあります。この後者の部分が、最近のマネジメントのイシューになっています。
これついて、いま語られているキーワードも含めながら、フライヤーで配信されている要約をベースに6冊紹介していきます。
1.目標は分割せよ


まず紹介するのは、手塚貞治さんの『マネジメントの基本』です。この本にはこのようなことが書かれています。
「マネジメントは経営層から与えられた目標を分割する必要がある。なぜ分割する必要があるかというと、ただ目標を与えられただけでは、部署のメンバーが業務の中で具体的にどのような行動をすればよいのかわからないケースがほとんどだからだ」
テキストだとさっと読み流されそうな文章ですが、すごく深いことを言っています。マネジメントが下手な人は、分割スキルがない。仕事の塊の分け方には無限のパターンがありますから、どう分けるかはとても大事なスキルです。
ある組織が分割というところでスタックしてしまうと、その下の組織は壊死してしまいます。
チェックポイント:あなたには「分解するためのスキル」が身についているのか?
2.仕事の相互依存性を断ち切れ


次は、中原淳さんの『残業学』。マネジメントと残業という言葉は切っても切り離せません。この本での大事なキーワードのひとつは「仕事の無限性」。どこまで仕事をすれば終わるのかがわからないという、残業しがちな組織にありがちなものです。その原因は「仕事の相互依存性」にあるというのが、中原さんが書くポイントです。
部長がいるから、若手を残しているから帰れない。若手の人はたいてい上の人が帰らないと帰れませんから、エンドレスですよね。これが相互依存性です。仕事の範囲がはっきりしないことが問題の根本にあります。
そこで注目されているのが「ジョブ型」というキーワード。仕事の塊を分割したあと、一人ひとりの仕事の輪郭を定義することです。ただ一方で、輪郭をはっきりさせるとどういう弊害があるかも同時に考えないといけません。
ジョブ型では、「私はここまでしかやらない」と考えた行動が生まれやすくなる。ウェビナー参加者の方があげた「外注に近くなる」という表現はいいですね。他人が何をしようが知らない、会社がどっちの方向に進もうが関係ない、ということを言いかねないのが、ジョブ型の怖いところです。
チェックポイント:あなたは、一人ひとりの仕事の輪郭(ジョブ)を明確に定義しているか?
3.存在意義でジョブを統合せよ


そこで紹介したいのが、丹羽真理さんの『パーパス・マネジメント』です。「パーパス」は一言でいえば「存在意義」です。「ジョブ型」と食い合わせがいい言葉なんですね。ハンバーグとポテトみたいな。抽象度の高い存在意義ですりあわせる、しっかり握る一方で、具体的な仕事では輪郭をはっきりさせる。この2つがセットでないとダメ。リモート環境でスタートアップを立ち上げている会社も少なからずいると思うけれど、パーパスの部分でしっかり議論して、ジョブを定義していくことが大事です。
この本では、大事なキーワードとして「幸せ改革」という言葉も出てきます。「幸せ」については後で紹介します。
チェックポイント:あなたは、その職場や仕事の「存在意義」を語っているか?
4.メタファーは組織力を高める


変化球的ですが、ここで野中郁次郎さん、竹内弘高さんが書いた古典的名著の『知識創造企業』を見てみましょう。
この本では、抽象的なパーパスを語るときに、メタファーやアナロジー、比喩や類推を多用するマネジメントが評価されているんです。なるほどと思いました。
抽象度が高いパーパスでも、我々はこんな存在でいたいよねという比喩があるだけで結構イメージしやすくなる。コンセプト化すると、遠くの方を見ることができる。身近なジョブだけ見ると視野が短期的で排他的になっちゃいますが、パーパスとジョブとの往復関係をマネジメントでつくれるととてもよい効果を生みます。
かつて東レは炭素繊維を開発する際、「俺たちは黒い飛行機を飛ばすぞ」と掲げました。「黒い飛行機」はメタファーです。実際の飛行機を黒くするわけではありませんから。でも、黒い飛行機と聞くとイメージできますよね。
チェックポイント:あなたの組織が目指していること、目指しているその姿は何に喩えることができるだろうか?
5.「幸福」をマネジメントに取り込む


そして組織力の根底を問うているのが、前野隆司さん、小森谷浩志さん、天外伺朗さんの共著、『幸福学×経営学』です。この本には「ふだんから愛情深く部下に接している必要がある」と書かれています。
部下育成につながる権限の委譲、コミュニケーションといったものの根底にあるのは、「愛情」なんです。機械的に何かをこなすというより、その人に寄り添ってものごとを考えることができるかどうか。本質をついていますよね。
新型コロナウイルスの文脈で、「幸福」「愛情」というキーワードが出てきているのはよくわかる気がします。先の予想がつかないという状態だと、いまやっていることそのものが楽しいかどうかが、何よりも重要になる。苦しんでがんばれば1年後に何か得られるとわかっているなら、1年間歯を食いしばれるんです。いま、そういうゴールありきの逆算のマネジメントは、ご破算になってしまった。
一人ひとりにとって、プロセスそのものがハッピーかどうか。だから、幸福や愛情というキーワードが大事になるんですね。
チェックポイント:社員にとっての「幸福」とは何か、考えたことはあるだろうか?
6.「個性」が出せる組織


そして、最後に紹介するフレデリック・ラルーの『ティール組織』は、これまでの話を包み込む文脈を提示してくれます。
キーワードは「全体性(ホールネス)」。これからの組織では、その人そのものをさらけ出せる職場ができるかどうかが大事なんですよ、というメッセージが「全体性」という言葉に込められています。さっきの「幸福」と関係している文脈ですよね。その場に自分らしさを投影できている、それがウェルカムだと認められている。そういう環境はすごく強くなるし、長続きする。
組織に入るときは、組織の大きな目標を理解した上で、自分の人となりや目標がどれくらい組織と重なり合っているかが大事です。一体化できたらとてもハッピーなことですが、完全に重なるのはふつう難しい。はみ出る部分があってもいいから、組織と重なる部分をちゃんとすりあわせられるかどうかです。
もっと自分を出してそこに組織を投影しながらプロセスそのものを楽しんでもらう、みたいなマネジメントのあり方が問われているのではないでしょうか。
チェックポイント:あなたの職場の社員は、そしてあなた自身は、職場で自分らしく振る舞えているだろうか?
6つのポイントから自分と組織のマネジメント力を見直す

ここまでで紹介してきた、「分解」「ジョブ」「パーパス」「メタファー」「幸福」「全体性」というキーワードは、必然性の糸でつながっているから、いま注目されています。そのストーリーが理解できて、さらにそれをマネジメントで実践できれば、いい組織ができる。「管理」という意味のマネジメントではなくて、プラスに引き上げていくマネジメントが効果を発揮するのです。
今日紹介した本が、みなさんの行動変容につながれば幸いです。
flierのゴールドプランに登録すると、今回紹介した本の要約を含め、flierで公開されているすべての要約が読み放題になります。この機会にぜひご利用ください。
「Lunch time ビジネスワークアウト」は、今後も定期的に開催予定です。次回もお楽しみに!
プロフィール
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学教員就任予定。
著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。