幸せな人は「3つの資本」をバランスよくもっている
ワーママはるさんが語る「人生の転機を支えた一冊」

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」
「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」
あなたには、そんな一冊がありますか?
「人生の転機を支えた一冊」に関するインタビュー第10回目に登場していただくのは、Voicyのワーママはるラジオでもおなじみのワーママはるさん。ワーママはるさんは、読書コミュニティflier book laboでもパーソナリティとして活躍されています。そんなワーママはるさんの「人生の転機を支えた本」は何だったのでしょうか?
これまでの常識が通用しない突然の「社内転職」
人生の転機といえば、1つは、新卒から勤めていた会社で大きな部署異動を経験した27歳のときです。業務内容や住む場所だけでなく、仕事のやり方や評価されるポイントがガラリと変わりました。まるで社内転職をしたかのよう。新しい部署では社内の人を動かすことが求められたのですが、社内の人間関係の力学もわかっていなかった。しかもそこは異動希望が絶えない人気の部署。当時の私は「異動先で育ててもらえる」と思っていましたが、先輩からも「ここは戦力としてくるところ」といわれたんです。結果を出さなければ、1年でこの部署から出されてしまう――。
そんな切迫した状況で、自ら学ばなくてはと手にとったのが『初速思考 30代で一気に突き抜ける人の集中戦略』という本です。著者の金田博之さんは、SAPジャパンで結果を出し続けてきた方。新しい環境では、90日以内に目に見える結果を出さないと突き抜けることはできない、といったことが書かれています。「計画は6割で見切り発車」「他の業務にヨコ展開して大きな成果をもたらす」。こういった言葉にハッとさせられました。
同じく金田さんの著書『29歳からの人生戦略ノート』の影響もあり、自分自身について「書く」という習慣が身についていったように思います。この本で推奨されているのは、ノートに「小さな成功体験」を一日一行書き込んでいくこと。成功体験について書くためには、自分で自分の成功を認識しないといけない。だから、書くことを通じて、自分の仕事の棚卸しができ、成功した要因や人からの期待を客観視できるようになるのです。いま振り返ると、金田さんの本との出合いが「書くこと」の原点になったように思います。
「3つの資本」をバランスよくもっている人が幸せな人
転機を支えた本というと、小説からビジネス書まで幅広く執筆されている橘玲さんの著作も思い浮かびました。『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』や『残酷すぎる成功法則』など、好きな著書や監訳書がたくさんあります。
橘さんによると、人の資産は「金融資本(金融資産)」「人的資本」「社会資本」の3つに分かれます。金融資本はビジネスオーナーのように仕組みで稼いだお金のこと。人的資本は仕事のことで、自分の労働を通じて得られるお金もここに含まれます。そして社会資本とは家族や友人関係、コミュニティ内のつながりなどを意味します。
もちろん人的資本を増やすことは大事です。ただし、会社員だとそのほかの資産について見落としがち。私の場合、子どもが生まれて自分の時間が一気になくなり、仕事という軸だけで評価されようとするのは限界があるなと気づきはじめたんです。そこで、私にとっての社会資本とは何だろうかと自問するようになった。そして、どれか1つの資本に偏るのではなく、3つの資本をバランスよくもっている人が幸せな人なのだと思うようになりました。
たとえば、投資などお金が入る仕組みづくりも含めて、収入を得る経路を複数もっておくことで安心ができる。また仕事を通じてコンフォートゾーンから抜け出し、自分をストレッチさせられる。そうすると人間関係も広がり、そこでのつながりから仕事のチャンスが広がっていく。こんなふうに3つの資本を土台に調整していくことで、よい循環も生まれます。
もちろん、3つの資本のほどよいバランスは人それぞれ。だからこそ、価値基準を外的なものにゆだねてしまわずに、自分なりの選択の基準「マイものさし」をもって、よいバランスを見出していくことが大切ではないかと思います。


自分に対する「断る力」で、自己喪失感が和らいだ
最後に紹介したいのは、一度目の育休明けのときに読んで衝撃を受けた、勝間和代さんの『断る力』です。この本の趣旨は、自分の時間を奪う外的要因に、アサーティブ・コミュニケーションで「ノー」を伝えることで、生産性を向上できるというものです。実はこの「断る力」は他者だけでなく自分に対しても有効なのです。
それまでの私は、「もち帰り残業をしてでも仕事を終わらせるべき」「子供の世話もちゃんとしなくては」と無意識に思っていました。断りたい私と断ってはいけないと思う私との対話がうまくできていなかったんです。ですが、この本を読んで考え方が変わりました。
アサーティブ・コミュニケーションを学ぶことは、自分と他者の両方を尊重して落としどころを見つけることですが、それを自分のなかでの対話に適用することで、自分のなかでの争いが減りました。同時に、自分のなかの物事の優先度が明確になり、それに伴って自己喪失感も和らいでいきました。こうした経験から、「自分を幸せにするのは自分」という感覚が強くなっていき、それが自著『やめる時間術』の考え方にもつながっているように思います。
自分自身について知るうえで読書は非常に有用な方法ですし、本について人と対話するとそれが内省を促すきっかけにもなります。読書コミュニティflier book laboで参加者の方々と対話するときにも、それを強く感じました。laboのみなさんは知的好奇心が強くて、どちらかというと自分の内面と向き合うのが好きな方が多いように思います。そして、どんな考え方からも学ぼうという気持ちにあふれていて、あたたかい雰囲気があります。本を「人生をよくするためのツール」ととらえている方が多いのでしょうね。
そうした心理的安全性が担保された環境だからこそ、活発に質問やコメントが飛び交うし、自他についての理解を深めやすいのではないでしょうか。そしてこれこそが、他の読書コミュニティとは一味違ったlaboの魅力だと感じています。




編集後記
「金融資本・人的資本・社会資本のほどよいバランスは人それぞれ」。この言葉が響きました。flier book laboでも「読書で磨くわたしデザイン」という音声コンテンツを配信してくださっているはるさん。はるさんは、幼少期から本が大好きだったとのこと。特に小説は人生のケーススタディで、なかでも論理や損得でなく第一感にしたがって生きる人のほうが生き生きしていることに気づいたそうです。そうした第一感を信じ、試行錯誤をくり返すことが、「マイものさし」を磨くことにつながるのだと感じました。
ゲストスピーカーになられたLIVEのインタビュー記事はこちら!
尾石晴(ワーママはる)
外資系メーカーにて16年間勤務。共働き、長時間労働、子持ち管理職、ワンオペ育児、ワーママを経験する中で日々葛藤し、2020年4月に会社員を卒業し、現在はサバティカルタイム(使用用途を決めない学びの休暇)中。
その経験の中で培ってきた時短術、習慣術、思考法、実践術を日々SNS(音声メディア「voicy」や「Twitter」「note」など)で発信。自分を主語にした、主体的な生き方を語る言葉が多くの人の心を動かしている。
『やめる時間術』(実業之日本社)『ワーママはるのライフシフト習慣術』(フォレスト出版)を上梓。