COTEN RADIO深井龍之介が語る「人生の転機を支えた一冊」
奴隷でもナンバー2になれる? 古代中国思想家の「超絶実力主義」

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」
「あのとき出会った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」
あなたには、そんな一冊がありますか?
「人生の転機を支えた一冊」に関するインタビュー第11回目に登場していただくのは、株式会社COTENの深井龍之介さん。『歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)』(以下、コテンラジオ)のメインスピーカーを務めています。フランス革命、吉田松陰、ヒトラー、第一次世界大戦など、古今東西の歴史のトピックを魅力的に解説してくれる人気ポッドキャストです。
Apple Podcastランキングでは堂々の第1位を獲得しています(2021年9月時点)。
深井さんは、読書コミュニティflier book laboでもパーソナリティとして、歴史を学ぶ面白さや、リベラルアーツを学ぶ意義が伝わる動画コンテンツを提供してくださっています。そんな深井さんの「人生の転機を支えた本」とは何だったのでしょうか?
奴隷でもナンバー2になれる? 古代中国思想家が合理的すぎる理由
僕が大きく影響を受けた本というと、2500年前の中国の春秋・戦国時代に生きた思想家たちの教えがつまった本が浮かびます。歴史の本を読み始めたのは大学2年生の頃ですが、なかでも中国思想全体に感銘を受けました。特におすすめするとしたら、『墨子』『孟子』『老子・荘子』です。この3冊を読むと、中国思想の幅広さがわかるかなと思います。孟子を知れば孔子の思想もわかるのでこの3冊にしています。
そのポイントは彼らの考え方が合理的ということです。日本の思想は比較的倫理的な内容で、「何が社会的に良いか悪いか」という視点で語られていることが多い。たしかにそれも大事ですが、たとえば「なぜ人を殺してはいけないのか」という主題に、論理的な説明がなされていないような、そんなもどかしさを覚えていました。
それに対して中国思想は実に合理的でドライ。どういう意味かというと、まず老子を除くと彼らは思想家以外の顔をもっていた。墨子と孫子は思想家兼軍師で、孔子は思想家兼政治家です。歴史的に見て、彼らの生きていた中国の春秋・戦国時代ほど長く戦争が続いた時代はありません。階級は存在していたものの、奴隷でも実力があれば宰相のような国家のナンバー2になりあがれる。それほど殺伐とした「実力主義」の時代でした。そのため、彼らの思想には「自分の教えが聞き入れられなかったら死ぬかもしれない」という切迫感があるんです。
各国の王は近隣諸国のなかでもっとも優秀な人材を採用しないと生き残れないという、まさに「採用戦争」の渦中にあった。思想家たちは、自分の思想を自国の政治を通じて実現するために、理想を描くだけでなく、それを現実に即した形で具体化しなければならなかったんです。そのためには命がけで王を説得する必要があり、彼らのプレゼンテーションは実に論理的。相手の心に響くよう、一つひとつの言葉が洗練されていた。
古代中国の思想家たちがいかに優秀で、極限の採用戦争のもとで切磋琢磨していたのか。読書を通じてこうした事実にふれたことが、教養を学ぶようになったきっかけでした。


墨子ほど「クリティカルシンキング」を貫いた人はいない
特に面白いと感じたのは、血縁を超えた無差別平等の「兼愛」を主張した思想家である墨子です。彼は「戦争をなくしたい」というビジョナリーな理念を掲げていながら、誰よりも強く、戦争で負けたことがない。理想を追いながらも現実世界と向き合い結果を出し続けることを体現した人物で、現代のソーシャルベンチャーに非常に近いなととらえています。戦乱の世において戦争をなくすための方法を考え抜いていたなんて、彼ほどクリティカルシンキングを貫いた人はいなかったと思います。
また戦争を哲学した人物で優れていたのは孫子です。戦略や戦術について考えた人は西洋にもいましたが、「そもそも戦争とは何か」という点から突きつめて考え、戦争に勝つための方法を諸侯に伝えていったのは孫子だけでしょう。


歴史を学ぶ原点にあるのは「人類とは何か」への好奇心
僕の場合は、中国の古代思想にふれて、そこから日本史、世界史全体へと興味が広がっていきました。歴史って勉強すればするほど過去との関連が見え、新たな問いが生まれるんですね。西洋史を学ぶと、たとえば「中国史で生まれたような人物が、なぜ西洋史では現れなかったのか」といった問いが浮かんでいく。それぞれの時代の感覚を想起しながら、違う時代を比較することで仮説が生まれやすくなります。
この原点にあるのは、「人類とはどういったものなのか?」という問いへの飽くなき興味です。自分が見たことのない挙動をする人、行動原理をすぐには理解できない人がいたら、それはデータとして価値がある。「中世の騎士(ナイト)っていったい何だろう?」と問いが浮かんだら、すぐ調べたくなるんです。
物事の「系譜」を知ると、人や社会への理解が深まる
人間や社会について学ぶには色々な方法がありますが、歴史のアプローチをとる理由は何か。それは歴史という学問は時系列の概念が入るため、物事の系譜がわかるからです。たとえば採用面接のときに、その人がどんな人生を歩んできたのかを聞くことで、その人がどんな状態に置かれているか、どんな未来を進もうとしているのかを深く理解しやすくなります。同様に、物事がどんなステップを踏んでそうなっていったのかを知ることは、人や社会の理解を深めてくれるんです。また、とりうる時間軸の幅も広がるので、現状をより俯瞰して見られるようにもなります。
歴史を学ぶというと、「まずは浅く広く全体像をつかもう」と思うかもしれません。ですが、僕はそれは最後の最後でいいと思っています。おすすめは、誰か一人興味のもてる人物を選んで、その人に関する本をじっくり読むことです。大河ドラマで好きな人物でも、世界観が好きな時代でもいい。「興味があるから読む」という状態をつくったほうが、問いが生まれやすく、芋づる式で関連書籍に手が伸び、学びが深まりやすいと思います。
とはいえ、歴史を学ぶのには一生かかっても足りません。僕がコテンラジオで歴史について話せるようになったのも10年学んでやっとです。だから逆説的ですが、歴史に興味のある人は学者や信頼のおける書き手のコンテンツからエッセンスを効率よく学んで、そして自分の一番興味があるところにリソースを割くほうがいい。人生はそれくらい短いからです。
いま株式会社COTENのメンバーとともに取り組んでいるのが「世界史データベース」の研究開発と事業化です。めざすのは、歴史の膨大なケーススタディと深い洞察に誰もがアクセスできるようになること。このデータベースによって、先人たちの知恵を未来に活かす動きが増えていくと嬉しいですね。
編集後記
深井さんは2021年1月から、flier book laboで「深井龍之介の歴史カフェ」という動画コンテンツを配信してくださっています。歴史を学ぶことの意味・意義や、深井さんがどんな方向へと学びを深めているかが語られています。世界史のエピソードや偉人たちの軌跡を学ぶことで、3000年という長い時間軸で物事をとらえられ、新しい視点や価値観に出会える。深井さんのお話をうかがって、そうした「歴史を学ぶ楽しさ」の原点にふれたいという気持ちが強まりました。
中国古典の名著の要約はこちら!
深井龍之介(ふかい りゅうのすけ)
株式会社COTEN 代表取締役CEO
大手メーカーの経営企画を経て、福岡のスタートアップ企業に取締役として参画。その後、様々な企業に経営メンバーとして参画しながら、2016年に歴史領域をドメインとした株式会社COTENを設立。「人類が、人類をより深く理解することに貢献する」という理念の下、世界史データベースの研究開発、事業化を推進しながら、「Japan Podcast Awards2019」で大賞とSpotify賞をダブル受賞した「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」を配信。Apple Podcastランキング1位を獲得。