【インタビュー】
無意識の偏見「アンコンシャス・バイアス」に気づくには?
強いチームをつくるための「合い言葉」とは?

無意識の偏見「アンコンシャス・バイアス」に気づくには?

無意識の偏見、根拠のない思い込みという意味をもつアンコンシャス・バイアス。グーグルが「アンコンシャス・バイアス」と名づけた社員教育活動を始めたことで、一躍、有名になりました。アンコンシャス・バイアスの正体とは何なのか。アンコンシャス・バイアスに気づき、対処するために普段からどんなマインドや習慣が必要なのか。そして、バイアスに振り回されず、メンバーの強みが発揮できるチームをつくるカギは何なのか? 新著『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』 (かんき出版)を上梓された、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所の守屋智敬さんにお聞きしました。

組織やチームの課題に潜む「アンコンシャス・バイアス」

── 『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』 を執筆しようと思われたきっかけは何ですか。

これまで、リーダーの育成に20年ほど携わり、リーダーの悩みに耳を傾けてきました。お会いした方のなかには、「部下のやる気がないせいで部署の業績が下がっている」などと、問題の原因が他者や外部環境にあると考えている方も少なくありません。ですが、実際には、リーダー本人の無意識の思い込みや、偏ったものの見方が影響しているのではないか。組織やチームの課題の根っこには、アンコンシャス・バイアスがあるということを、多くの人に知ってもらいたいと考えたのです。

── アンコンシャス・バイアスはどうして生まれるのでしょう?

アンコンシャス・バイアスの正体は、自分は正しい、よく見せたいといった「自己防衛心」です。脳はストレスを回避するために、無意識のうちに、自分に都合のよい解釈をしてしまいます。結果、相手と自分との間に解釈のズレを引き起こし、それが決めつけや押しつけにまで発展すると偏見となったり、思いこみとなったりします。しかしこうした無意識のバイアスは誰でももちうるもの。問題なのは、自分のアンコンシャス・バイアスに気づこうとしないことなのです。

「女性はこうだ」「若い人はこういうもの」という、属性による決めつけにとどまりません。本人は良かれと思っていても、アンコンシャス・バイアスにとらわれて問題が発生するケースも多いのです。

こんな例があります。ある上司は、育休から復帰した女性部下を(よかれと思って)、営業部から事務職に配置転換しました。その上司は、営業職は残業や出張も多く、育児と営業の両立は難しいだろうと思い込んでいたのです。けれども、女性社員は営業の仕事にやりがいを感じており、残業や出張にも対応できるよう、家庭内で調整をしていました。そのため、配置転換の事実を知り、やる気が削がれてしまったそうです。本来なら、上司が本人に希望を尋ねておけばよかっただけ。このように、相手に配慮したつもりが裏目に出ることもあるのです。


守屋さんは、高校時代にフランクルの『夜と霧』を読んだことで、心理学や無意識の領域に興味をもつようになり、フロイトやユング、河合隼雄などの著書を読むようになったという。

── なかなか根深い問題なのですね。

そのとおりです。一番伝えたいメッセージは、「一人ひとり、その時々により、メンバーの考えも事情も違う」ということです。人の受け取り方や価値観はそれぞれですし、考え方は時とともに変化します。とりわけ異動のようなキャリアに関する意思決定や人事評価などの場面では、メンバーの「いま」に向き合わないといけません。

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」といいますが、他責でいるよりも、「自分に問題の原因がある」と考えたほうが、解決の糸口が見えやすいですよね。まずは自分自身の無意識の思い込みや偏ったものの見方に気づき、意識して対処する。自分が変われば、それが周囲にも派生して、組織やチームの未来が変わっていきます。

「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
守屋智敬
かんき出版
「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
著者
守屋智敬
出版社
かんき出版

マインドフルネス、ファクトフルネス、ティール組織――。これらの背景には大きな流れがある

── なぜ、いま、アンコンシャス・バイアスが日本企業で注目されているのでしょうか。

1つは、これまで以上に変化が求められている時代背景です。多様な属性・価値観をもった人材が活躍できる職場をつくるために、多様な働き方が選択できるための制度が導入されました。育児休業を女性だけでなく、男性にも取得を推奨したり、短時間勤務制度の利用対象を育児だけでなく介護にたずさわる社員に広げたり、在宅勤務制度を導入したりといったように、働きやすさを高める制度が導入されています。しかしながら、たとえ制度があっても、経営層や管理職、制度を利用する人を含めた全ての人の意識が変わらないと、制度利用は促進されず、働きやすさは変わりません。

とはいえ、人の意識の問題というのは言語化が難しい。何をやれば効果が出るのか見当がつかないので、手つかずの領域でした。ですが、これには「無意識」の影響が大きいことが知られるようになってきました。無意識の思い込みの存在に「気づく」ことで、意識も変わっていき、組織の課題解決につながるのではないかと、期待値が上がっているのです。

2つ目は、グーグルをはじめ、シリコンバレーの先進的な企業が、人材教育の一環として次々に「アンコンシャス・バイアス」の研修を取り入れたこと。実はアンコンシャス・バイアスは、世界の大きな潮流の1つとして捉えることができるのです。

── どのような潮流でしょうか。

近年、これまでビジネスの世界で正しいとされてきた定説を覆すような概念が登場し、注目を浴びるようになっています。たとえば、「今・ここ」のあり方を整えようとする「マインドフルネス」。先々の計画を立てることも大事だけど、目の前のことに集中するほうが、成果が上がるというのは、当時は新しい発想でした。

ほかには、データや事実への思いこみを外しながら世界を読み解く習慣、「ファクトフルネス」。リーダーが自分の強みや弱みを見つめたうえで、オープンに自分らしさを発揮する「オーセンティック・リーダーシップ」。人々の多様性を統合化しあらたな組織のステージへと進化させていくとして注目を集めた「ティール組織」。
これらは根源的にはアンコンシャス・バイアスの考え方と近いととらえています。なぜなら、いずれの概念も、本質を突き詰めると、組織や社会を構成する一人ひとりの「あり方」「生き方」を内面から変えていくことにフォーカスしたテーマだからです。

こうした潮流のなかで、一人ひとりの最も内面にある無意識に目を向ける、アンコンシャス・バイアスという概念が注目されてきたのだと考えています。



── 守屋さんはアンコンシャスバイアス研究所を設立し、職場だけでなく人に関する社会課題に潜むアンコンシャス・バイアスの存在を広げる活動をされています。こうした活動に力を入れるようになったきっかけは何ですか。

きっかけは、武田雅子さん(カルビー株式会社・常務執行役員)の依頼で、2018年2月の世界対がんデーに行われたイベントにて、「がんのアンコンシャス・バイアスに気づく」と題したワークショップに登壇したことです。がんに罹患した人もその周囲も、「がんと宣告される=余命いくばくもない」と考えがち。本人も、まわりも、「仕事はもう続けられない」と思ったり、まわりが遠慮してコミュニケーションがギクシャクしてしまったり、色々な影響が、がんに対するアンコンシャス・バイアスにより生まれています。

ですが実際には、これまでと同じように仕事を続けられるケースも多くなってきました。実際、私の母親が25年以上の長きにわたって、抗がん剤治療を行いながら仕事を続けてきたのを目にしてきました。

本当は活躍したいのに、無意識の偏見によってその機会が減っている。これはがん患者に限らず、障がいをもった方や、仕事と介護の両立をする必要のある方などにも共通します。さまざまな社会課題に潜むアンコンシャス・バイアスに気づき、意識することで、一人ひとりがイキイキする社会をつくりたい。そんなミッションのもとアンコンシャスバイアス研究所の設立に至りました。

変化が激しい時代に強まる「確証バイアス」

── 守屋さんが研修を行うなかで、「こういう職場では、こうしたバイアスが生まれがち」といった傾向はありますか。

組織やチームによって、どのバイアスに陥りやすいかはさまざま。そのため一括りにはできないのですが、よく問題になるのは自分にとって、都合のいい情報ばかりに目がいってしまう「確証バイアス」です。この確証バイアスが働くことで物事への「確信」が「過信」になってしまい、自ら変わろうとする意識を失ってしまうのです。

他には、集団で合議する際に、周りと同じように行動してしまう「集団同調性バイアス」があります。たとえば、みんながYESといっていると、つい自分もYESといってしまうというように。集団思考に陥ると、社会から非難されるようなことですら、「みんながやっているから大丈夫」と思い込んで行動してしまう。

危機的な状況が迫っていても、周りの状況を過小評価する「正常性バイアス」もそう。「私(私たち)は大丈夫」と都合よく思い込んだ結果、危機に対して鈍感な組織やチームになってしまう。これらのバイアスはおしなべて、変化が激しい局面で強く働き、時に悪影響を及ぼしてしまうのです。



バイアスに振り回されないチームになるための「合い言葉」とは?

── 今後、私たちはアンコンシャス・バイアスにどう対処していくべきなのでしょうか。

個人レベルでは、いかに自己認知力を高めるかに尽きます。自己認知とは、自分のバイアスに気づき、それが周りにどんな影響を与えているかを自覚すること。もちろん無意識の領域のことなので簡単ではありません。そこで、無意識を意識化するためにすすめているのは、「これって、私のアンコンシャス・バイアスかも?」を合い言葉にすることです。

具体的には、自分の思い込みかもしれないと感じたことを、とにかく書き出してみます。文字にすると客観視でき、自分自身に矢印を向けやすくなって、考え方の癖が見えてくるのです。「女性に対してこういう見方をしがち」「ベテランにはこういう思い込みをもっている」といった具合です。

そのうえで、「この発言って、ひょっとして相手を不快な気持ちにさせたかな?」と思ったなら、違和感をそのままにせず、自分がどんなアンコンシャス・バイアスにとらわれていたかを伝えることにトライしてみるとよいでしょう。相手もこちらの行動を理解してくれてお互いが不快に陥ってしまう状況を回避しやすくなるでしょう。

次に、チームレベルで取り組むとよいのは、アンコンシャス・バイアスを定期的に語り合う場をつくることです。アンコンシャス・バイアスかもしれないと思ったことを、チームで共有するほうが、「このチームでどう対処していこうか?」という問いが立つので、個々人がバラバラで考えるよりも効果が大きいのです。

── 普段から本音で話せていないチームの場合、ハードルが高そうですが、共有しやすい空気をつくるにはどうすればいいのでしょう?

ポイントはメンバーの心理的安全性を保つこと。リーダーが率先して「こんな思い込みをしていたかも」と自己開示してみるのが理想的です。そうすれば、メンバーも「この人たちの前でなら話しても大丈夫」と思えるようになっていきますから。

能力の高いリーダーは、「デキる人」といわれます。これに対し、アンコンシャス・バイアスに気づいて対処できているリーダーは人間性が高く「デキた人」といわれるようになるのです。



個人内多様性を育てるには、自己受容が必要

── 最近では日本でも、ダイバーシティ&インクルージョンを浸透させるために、「イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)」を重視しようという考え方が提唱され始めています。この動きに対して、どうお考えですか。

アンコンシャス・バイアスにとらわれず、メンバー一人ひとりの価値観や特性の違いを知るうえでも大事な概念ですね。一人ひとりが、自分の個人内多様性を活かせると、組織やチームとしての力も強くなります。

自分のなかの多様性を育てていくには、色々なものを見聞きするのが大事。居心地よい人とばかり過ごすのではなく、自分とは異なる価値観の人が集まっているコミュニティに出向くのもよいでしょう。

ただし留意したいのは、「あ、やっぱり私はこの人たちとは合わない」などと、自分を閉ざさないこと。「こういう考えもあるのだな」と、他者をフラットに受容できるかどうか。そのためには、自己を受容できていることが前提になります。人は「こうあらねばならぬ」というアンコンシャス・バイアスにとらわれがちなので、自己受容こそが一番のハードルなのかもしれません。

── 守屋さんが読まれてきた本のなかで、アンコンシャス・バイアスへの対処に役立った、ビジネスパーソンにおすすめの本は何ですか。

日本におけるコーチングの第一人者である本間正人さんが書かれた『仕事で「敵をつくる言葉」「味方ができる言葉」ハンドブック』 です。普段使っている言葉が、相手には上から目線や自己保身な印象を与えることって意外と多いのです。この本には、職場で使いがちなNG表現と、「こう言い換えると好感度が上がる」という表現が紹介されています。たとえば、「こうすればよかったのに」のかわりに、「今回は残念だったね」「これからどうしようか」。無責任な言葉、無自覚な表現は、アンコンシャス・バイアスと密接にかかわっています。
行動心理学や組織心理学の本で影響を受けた本は数多くありますが、実践のしやすさでは、この本がイチオシです。



仕事で「敵をつくる言葉」「味方ができる言葉」ハンドブック
仕事で「敵をつくる言葉」「味方ができる言葉」ハンドブック
本間正人
PHP研究所
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仕事で「敵をつくる言葉」「味方ができる言葉」ハンドブック
仕事で「敵をつくる言葉」「味方ができる言葉」ハンドブック
著者
本間正人
出版社
PHP研究所
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強いチームには「感謝」の言葉があふれている

── 個々人が力を発揮し、成果を上げるチームをつくりたいと考える方にアドバイスをお願いします。

これまで色々なチームを見てきましたが、強いチームには「感謝」の言葉が常にあふれています。私がよくいうのは、「ありがとう」の反対は「当たり前」ということ。「メンバーがこの役割を果たすのは当たり前」「ここにいて当然」。そういう感覚では、感謝の気持ちは生まれにくい。ですが、メンバーの存在自体がありがたいものだと考えると、自然と「ありがとう」と伝える機会は増えていくはずです。

人は感謝されると、「私はこのチームで必要とされている」「この職場にいる意味がある」と実感できます。そうした実感を一人ひとりがもてたとき、「全体は部分の総和に勝る」チームになれますし、今後もそんなチームが増えるように貢献していきたいですね。

「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
守屋智敬
かんき出版
「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
「アンコンシャス・バイアス」マネジメント
著者
守屋智敬
出版社
かんき出版

プロフィール:

守屋 智敬(もりや ともたか) 

(一社)アンコンシャスバイアス研究所 代表理事

(株)モリヤコンサルティング 代表取締役

1970年大阪府生まれ。神戸大学大学院修士課程修了後、都市計画事務所を経て、1999年人材系コンサルティング会社の立ち上げ期に参画。ビジョン策定や組織開発プログラムを通した数多くのリーダーシップ研修を提供。

2015年株式会社モリヤコンサルティングを設立。管理職や経営層を中心に2万人以上のリーダー育成に携わる。2018年ひとりひとりがイキイキする社会を目指し、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。アンコンシャス・バイアス研修の受講者はこれまでに5万人を超える。

著書に『シンプルだけれど重要なリーダーの仕事』 (小社刊)、『導く力』 (KADOKAWA刊)、『あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです』 (大和書房刊)がある。

〈公式ホームページ〉

https://www.moriyatomotaka.com/

https://www.unconsciousbias-lab.org/

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文責:松尾 美里 (2019/07/24)

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