「分断」が続く世界を救う「偉大なリーダー」とは?
ベストセラー『転職の思考法』『天才を殺す凡人』著者、最新作に迫る!

『転職の思考法』『天才を殺す凡人』で26万部を突破し、株式会社ワンキャリアにて最高戦略責任者を務める北野唯我さん。
新著『分断を生むエジソン』(講談社)によると、世の中は西の国、東の国、中部、南部の「4つの国」に分断されているといいます。「分断を生むエジソン」とは何者か? 分断をつなぐ偉大なリーダーとはどのような存在なのか? 新著は、天才女性起業家アンナの復活と成長を追いながら、こうしたことが明らかになっていくストーリーです。
本書を書かれた動機と、そこに込められたメッセージについてお聞きしました。北野さんご自身のリーダーシップの源泉にも迫ります。
「愛がない革命」は人を幸せにしない
── 『分断を生むエジソン』の執筆動機は何ですか。
背景には、「そもそも幸せとは何か」という問いについて考え続けてきたことがあります。世界で起きている目まぐるしい変化は、人々を幸せにしているのだろうか、と。
イーロンマスクのような革新的なビジネスリーダーたちは、世界をよりよいものにし、変化や新たなものを生み出そうとしている。これは日本でも同じです。ところが、日本の、特に地方に目を向けると、変化を求める人ばかりではありません。むしろ、変化のスピードに対応できず、変化を望んでいない人も多い。
人々が望まないような「愛がない革命」は、果たして人を幸せにするのだろうか。必要なのは「愛ある革命」ではないか――。これをテーマにした本を書こうと考えました。

世界をどう認識するかは「身近な5人」から判断している
── 北野さんがそうした課題意識をもちはじめたきっかけは何だったのでしょうか。
世の中で、分断をあおる人が増えているのはなぜなのかと疑問をもったことです。世代間や都市と地方の間など、さまざまな分断論がはびこっている。その象徴がトランプ大統領の誕生です。
一方、データを基に世界を正しく見る習慣が大事だと説く『FACTFULNESS』を読むと、世界は基本的にはよくなっていることがわかる。つまり、主観と客観の距離が離れはじめている。これこそが分断を生み出す根本原因ではないかと考えています。
『分断を生むエジソン』では、この認識の世界を「4つの国」に分け、分断を生む者を「4人の病める王」と表しています。たとえば、新しいテクノロジーを重視する革新派(=分断を生むエジソン)は、共感を重視し、群れで行動するために思考停止に陥りがちな多数派(=才能を殺す巨大なスイミー)によって、殺されてしまうというように、それぞれの国の間で軋轢や対立が生まれているのです。

人間は客観的な事実ではなく、主観的な認識で世界を理解しようする生き物。世界をどう認識するかは、「身近な5人」から判断していることがほとんど。けれども、6人目以降の世界を理解しようと努力できるようになれば、4つの国をつないで、分断を乗り越えられると考えているんです。


── この本を読み終えたとき、その面白さを一言で言い尽くせないというか、「ただただよかった」という読後感をいだきました。一般的なビジネス書とはひと味もふた味も違うスタイルをとったのは、何か狙いがあったのですか。
めざしたのは、長きにわたり読み継がれている『アルケミスト』や『こころ』のビジネス書版です。読者の年代や置かれた状況によって、心を揺さぶるポイントや共感する人物が変わっていく。いつ読んでも、ちゃんと読めばなにか価値を感じてもらえる。そんな本をつくるなら、すぐに役立つ理論やフレームワークを提示するのではなくて、意味があるとじわじわ感じてもらえる本がいいだろうと考えました。
「すぐ実践に活かせるものを学びたい」という方がこの本を読んでも、面食らうかもしれません。ビジネス書というと、明快に要点がわかる本が好まれますから。本書の編集者からも「もっとわかりやすく表現してほしい」と、原稿に赤字がたくさん入ったほど(笑)。ですが、文学作品のように、読者ごとに色んな解釈ができる本になってほしいという思いを大事にしました。今のビジネス書のほとんどは、ファストフードのように消化される。そんな本はつくりたくなかった。この『分断を生むエジソン』が、「ビジネス文学」という新しいジャンルを切り拓く一冊になればという願いを込めています。

天才は「優しさ」だけでは生きていけない
── 本書には偉大なリーダーについても書かれていましたが、北野さんの考える「偉大なリーダー」の特徴とは何ですか。
理想論かもしれませんが、優しさや繊細な心と、強さや知性の両方を兼ね備えていることだと考えています。強さや知性は、人が優しくあり続けるために存在すると思うんです。僕は学生時代にソーシャルセクターで組織を運営してきました。そのときに痛切に感じたのが、どれだけ優しさがあっても、それだけでは組織は持続できないということ。そして、(いわゆる)社会的弱者と呼ばれる人たちを救済するだけでは、社会は、絶対に100%変えられないということでした。
『天才を殺す凡人』にも書いた通り、天才が生きていくためには、繊細でピュアな心だけでは生きていけない。クリエイターや起業家の世界では特にそう。優しさや天才的な部分と、したたかに生き抜くための知性。この両方を自分の中に飼う必要がある。『分断を生むエジソン』では、それを、天才起業家であり天才性ゆえに経営者の座を失ってしまったアンナと、アンナの再起を助けるコンサルタント黒岩という形で具現化しました。
── あの二人の登場人物には、そんな意味合いが込められていたのですね。
読者から「天才同士がバトルするシーンが見たい!」という声がありました。ですが、天才同士は本質的に、同じ場所には一緒にい続けられないんです。黒澤明監督もパートナーだった伝説の脚本家、橋本忍さんの関係もそうでしょう。あるいは、もののけ姫もそうです。主役の二人であるアシタカとサンも最後は別れを選ぶ。二人は、いずれバラバラの道を歩みます。
もちろん天才性は、どんな人のなかにも存在します。アンナと黒岩の白熱する会話から、何かしら自分を投影して、感じるものがあれば嬉しいなと思います。

これからのリーダーには異分子を「面白がる力」が必要
── 北野さんは経営に携わるなかで、どのようなリーダーシップを大事にされているのか教えてください。
異なる才能をもった人たちをつなげられる人でありたいと思います。そこで圧倒的に大事なのは、自分とは異なるものを絶対的に面白がること。たとえばお笑いの世界だと、今田耕司さんや東野幸治さんは面白がる天才です。次々に出てくる後輩たち、つまり異分子を面白がる力が高い。だからこそ、新しい才能が今田さんや東野さんのもとに集まっていき、芸人のプラットフォーマーのようなものができていると思うんです。
これは『分断を生むエジソン』に書いた「投資家」の視点にかなり近い。これまで世になかった才能を見出し、それに価値があると信じて、大きく賭けるわけですから。
この面白がる力が大事だと気づけたのは、数多く失敗してきたからかもしれません。経営の中でも、挑戦もした分、失敗して涙した場面が多々ありました。だから、人にはそれぞれの役割があるんだし、失敗してもいい、それを応援したいという気持ちが人一倍強いのだと思います。

北野さんが人生で影響を受けた本とは?
── これまで、ご自身の生き方や発想に対し、大きな影響を与えた本は何でしたか。
影響を受けたという意味では、高校生の頃に読んだ『夜と霧』だと思います。強制収容所という極限状況を生き抜いてきたフランクル。彼は、どれほど絶望的な状態に置かれても、愛する人を思うことで、生きる意味を見出せるということを教えてくれました。人生の意味というのは、先に運命づけられたものではなく、生きるなかで見出されていくもの。そんなふうに、「実存は本質に先立つ」という概念をクリアに理解できた一冊で、破壊的な迫力がありました。


── 北野さんにとって本を書き続ける「意味」は何なのでしょうか。
「人生って本当に大変なことがあるけれど、それでも頑張って生きていこうよ」。そんなふうに呼びかける「応援ソング」をつくることです。これまで書いてきた作品の主人公は、一貫してピュアで不器用。でも思いやりに満ちているキャラクター。やっぱりこういう人が好きなんですよね。
僕は自分の書いた本は、歌に近いものととらえています。歌は、作詞作曲家がつくって完結するものではありません。つくり手を離れて、色々な人が自身を重ね合わせて、意味を見出しながら、それぞれ楽しんでいくもの。僕の本もそんな存在になってほしい。自分自身へのファンが増えるんじゃなくて、自分の作品が、読者の人生の一ページになればという思いで、本を執筆していきたいと思います。
── 最後に、北野さんのビジョンを教えてください。
ビジネスパーソンとしてのビジョンは、日本の職場を良くしていくこと。成毛眞さんが「防災はできないが減災はできる」とおっしゃっていましたが、HRマーケットでもそれが可能だと考えています。採用のミスマッチをゼロにすることはできないけれど、ミスマッチを限りなく減らして、幸せに働く人を増やすことはできると考えています。
もう1つ、クリエイターとしてのビジョンは、映画制作会社「PIXAR」のような才能集団をつくること。「PIXAR」はゼロからキャラクターを創り出して、息を吹き込み、子どもから大人まで楽しめる作品を世に出している。そんなエンターテインメントを生み出す組織をつくれたらと思います。







プロフィール:
北野 唯我(きたの ゆいが)
兵庫県出身、神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。執行役員として事業開発を経験し、現在同社の最高戦略責任者、子会社の代表取締役を兼務。テレビ番組や新聞、ビジネス誌などで「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家としてコメントを寄せる。
著書に『転職の思考法』『OPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』(ダイヤモンド社)『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)がある。