ポストコロナライフの未来予測
「ニューノーマル」に向けて私たちのつながり方・都市はどう変わるのか?

ポストコロナライフの未来予測

コロナ禍で、満員電車での通勤、東京一極集中、インバウンド頼みの地域活性化などのリスクが顕在化しました。今後は、ライフスタイル、人とのつながり方、都市のあり方も変化していくことが予測されます。そんななか、私たちのつながり方や暮らし方、働き方はどう変わっていくのか? 新しい生活様式「ニューノーマル」に、私たちはどのようなマインドセットで臨めばいいのでしょうか? 『2060 未来創造の白地図』(技術評論社)の著者、川口伸明さんにお聞きしました。

執筆の狙いは、AI脅威論のような暗い未来ではなく、明るい未来を描き出すこと

── まずは、川口さんがどのような課題意識から、『2060 未来創造の白地図』を執筆されたのかについてお聞かせください。

もともと2014年頃からアスタミューゼにて、「未来を創る事業・技術分類」の監修を行ってきました。毎年更新を行い、現在は「有望成長領域136と技術領域40」という形で公開しています。具体的には、近年注目を浴びている量子コンピューターや、喫緊の課題である気候変動対応農業や海洋デブリ、超高齢化社会にかかわる再生医療やがん医療などを含みます。また、こうした領域を発展させるうえで必須の基礎領域としてナノ光学、有機エレクトロニクス、VR技術なども含まれています。これらの技術領域について共通しているのは、投資や有望人材が集まっている分野だということ。領域の選定にあたって、特に重視しているのは、単に成長が見込めるというだけでなく、SDGsのような社会課題の解決につながるという観点です。

こうした分析を書籍化できないかと出版社からお声掛けいただいたのが、本書を執筆した直接のきっかけです。書籍にするのなら、SFのストーリー仕立てで2060年頃までの未来を描くことで、シンギュラリティにどう臨むかというところまで伝えたい。そうした狙いのもと、AI脅威論のような暗い未来ではなく、明るい未来を、色々な立場の読者が描き出せるようにと工夫しました。

2060 未来創造の白地図
2060 未来創造の白地図
川口伸明
技術評論社
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2060 未来創造の白地図
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著者
川口伸明
出版社
技術評論社
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テレワークの浸透は、コミュニケーションをアップデートさせるチャンス

── 最初は働き方やコミュニケーションについてお聞きしていきたいと思います。テレワークが大企業を中心に一気に広がり、働き方が変わりつつありますが、オフィスや職場はどのように変化していくのでしょうか。

事務作業中心の職場では、テレワークが主流になるでしょう。すると、企業側も都心に高い賃料のオフィスを構える必然性が減っていく。従業員も都心への通勤圏内に住む必要がなくなり、実家のある地方や魅力的な地方に移住するUターンやIターンの増加が予想されます。

ただし、テレワークでのオンライン上のコミュニケーションが対面のものと遜色ないようになるには、テレカンファレンス用のカメラやマイクの解像度や品質の向上、通信インフラの強化は欠かせません。現在のツールでは、音声や表情、身振り手振り、感情や熱意が伝わりにくいですから。

さらには、セキュリティ強化の生体認証、ハッキング防御の進化も加速するでしょう。実はこうした変化は、コミュニケーションに関するテクノロジーの発展を促し、私たちのコミュニケーションがアップデートするチャンスでもあるのです。

── どういうことでしょう? テレワークの浸透によってコミュニケーションも変わっていくのでしょうか。

まず、ヒトのVR化・アバター化が加速するでしょう。たとえば、avexと東芝デジタルソリューションズのコラボによる「コエステーション(コエステ)」。これは、身近な人から有名人まで、多種多様な合成音声(人工の声)を生成し、様々なデバイスとつなげられるサービスです。自分の声で読み上げた数百のセリフを、スマホアプリを通してクラウドAIが学習し、再現してくれます。私も試してみましたが、自分にそっくりの声で自在に喋らせることができました。私が大勢の前に立ってプレゼンするよりも、あらかじめ用意しておいた原稿をコエステに淀みなく話してもらうほうが、聴衆の理解が進むのではないかと思うほど。さらには、初音ミクやVTuber「Kizuna AI」のように、プレゼンター仕様のペルソナアイドルも、ビジネスシーンに違和感なく登場するようになってくるでしょう。

5G・6G、VR技術の発展があってこそではありますが、こういったツールを利用すれば、自分の声に近似した合成音声と、仮想空間上のアバターを通したより表現力豊かなプレゼンテーションも実現できる。たとえば、ある会議には自分のアバターを登場させ、コエステに講演をしてもらう。そして込み入った質疑応答のときだけ本人が登場する。このようにすれば、同時に2つの会議や講演に出席することも可能になるのです。これは私たちの時間の使い方を劇的に変えるかもしれません。

「対面でないと一体感を味わえない」。そんな常識を覆すVRとテレイグジスタンス

── それは画期的ですね! 人と対面する機会が減ると、同じ空間にいる一体感を味わうといったことが難しくなったり、孤独感の増大につながったりするのではないかと危惧していました。そうした課題解決に寄与するテクノロジーはあるのでしょうか。

身体性の獲得や心の伝達という課題の多くは、VRとテレイグジスタンス(遠隔臨場制御)によって解消されていくと考えています。たとえば、VRスタートアップFOVE社の「HUG PROJECT」では、寝たきりの祖母が、遠く離れた都会の孫娘の結婚式にVR技術を利用して参加するというのが実現しました。Pepperに搭載したカメラで結婚式場の様子を撮影し、祖母はヘッドマウントディスプレイを通じてその映像を見るのです。孫娘がPepperを抱きしめると祖母もそれに応えるという様子に、心を揺さぶられた出席者も多かったようです。今後、体温や鼓動、触覚も伝達できるようになれば、さらなる臨場感が期待できます。

私たちが人とのつながりを感じられるかどうかは、実際に対面しているかどうかよりも、つながり合っている自信、信頼といった私たちの意志次第だと考えています。エンタメやゲームの世界ではすでに先をいっていますが、VR技術が生み出す没入感によって、私たちの脳はまるでその場に居合わせているように錯覚します。滑らかな動きや触力覚表現の向上により、バーチャル空間における身体感覚も補完されていくのではないでしょうか。

── そうなると、私たちのつながり方や生き方も変化していくのでしょうか。

そうですね。人間がリアル(フィジカル)とバーチャル(サイバー)の並行する2つの世界を行き来するような「ヒトのデジタルツイン化(※1)」が生じて、世界観が大きく変わると見ています。

仮想空間つまりバーチャルワールドとリアルワールドが並行していくと、バーチャルの世界では、アバターがリアルの自分とは違う職業に就いたり、リアルの自分とは異なる人格をもった人間の人生を歩んだりできる。たとえばリアルでは研究者として働き、バーチャルではアスリート人生を生きるといったことも可能です。リアルとバーチャルそれぞれで人間関係を構築するため、多様な価値観にふれやすくなる。くわえて、複数の生き方によって人生の満足度が向上していく。将来的には仮想世界で事業を展開することも夢ではないでしょう。

日本ではめざすべき未来社会の姿として「Society5.0」を掲げています。その際に重要になるのも、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたサイバー・フィジカル・システム(CPS)です。CPSをいかにコントロールして経済発展と社会課題解決をめざすか。これが今後ますます問われるようになるはずです。

(※1)デジタルツイン:リアルワールドをそのままデジタル空間に写像して、CGやVR、ホログラムなどとして再構成することで、リアルワールドの事象をデジタルワールドでリアルタイムに再現すること。

With/Afterコロナで私たちの都市はどう変わるのか?

── With/Afterコロナの時代において、私たちの「都市」はどのようなものになっていくのでしょうか。この数年で予測される変化をお聞かせください。

数年といわず10年ほどはかかると思いますが、東京の大手町や渋谷のような大都市は、スマート化、ヒトや情報の高度集積化・高機能化がますます進むでしょう。才能のある人や情報、設備が集積することで、化学反応を加速するという価値はなくなりません。そのため、名だたる企業と国内外の研究機関、ベンチャーとのアライアンスは、今後も大都市圏で生まれることが多いでしょう。大都市は、「住居空間」というより「情報空間」という様相をますます強めていくはずです。

── 今後は東京一極集中が緩和していくという見方もありますが、地方移住が進むといった変化が起きるのでしょうか。

Withコロナの間は短期的に大都市の「三密」を避けて地方への移住が進み、人口が増える中小規模地方都市は登場すると考えています。コロナによる心理的な影響はこの数年間は確実に残るため、その間に私たちの生活の価値観が転換していくでしょう。就業や事業のために東京をめざす必然性も小さくなるので、主に大学進学や就職における移動分布のあり方が変わっていくとみています。

ですが、多くの地方では、これまでと変わらず人口自然減による過疎化が進むのではないでしょうか。ポストコロナの時代において、都市化が進んでいく現状が大きく変わることはないというのが私の見解です。

── ご著書では、他都市に先駆けてチャレンジをしている都市、スマートシティの事例として、茨城県つくば市や島根県益田市が紹介されていました。こうしたチャレンジを可能にしている条件はどのようなものでしょうか。

スマートシティへの挑戦に必要なものの1つは、その地域の課題となるものを抽出し、その地域で時をかけ、確実に実績を出しファンを増やすことです。そうすれば関係人口増加から始まり、移住希望者が増え、企業進出や企業投資も見込めます。

もう1つは、企業、行政、地域社会がともにどんな未来をめざしたいのかというストーリーを描いて、共有していること。特定分野にのみ先進技術を導入しても、数年の実証実験としての成果しか得られていないケースも多いのではないでしょうか。

その点、本書で解説しているつくば市や益田市は、その地の生活・地場産業・地域の人々を核に、生活の質を向上させ、新しい体験価値を生み出しています。益田市だと、地元の農作物を守るための鳥獣対策や地域防災としての水位計を用いた水害対策、高齢者のひとり歩きを見守るための地域ネットワーク構築など、生活に根差したプロジェクトを実施しています。住民の生活を安心で豊かなものにしようというストーリーのもとに、各主体がこうした施策を総合的に行っているからこそ、持続的な発展という成果が出ているのです。

── なるほど。とはいえ、企業、行政、地域社会の連携を進めながら、総合的な指揮をできる人や組織となると限られる気がします。何かそれを補うような道はないのでしょうか。

たしかにどの地域でも総合的な未来図を描き、実行に移せるかというと、なかなか難しいものがあるでしょう。そこで私が期待しているのは、「ホロニックコミュニティ」の分散的ネットワークです。これは、異なる個性を持った魅力的な小規模都市がつながり合い、共通の仲間意識をもち、互いの強みや弱みを補完し合うことで、全体の成長をめざしていくような分散型都市モデルを意味します。

隣接した地方都市同士である必要はないので、世界中に分散していてもかまわない。国内外の地方都市がネットワーク化し、それぞれの都市にある情報機能をネット上で利用できるようにするのです。たとえば、その町の特徴的な建築群を登場させたVRゲームをつくって、提携した他の都市の人たちも体験できるようにする。あるいは、その土地独自の美術館や図書館のアーカイブをネットで共有するということもできるでしょう。海外であっても、VR空間を瞬間移動してコンサートや買い物にも出かけられます。CPSとネットワーク化により、地方都市の可能性は一気に広がります。このように、スマートシティの先にある、自律分散型のブロックチェーンのような都市ネットワークに大きな可能性を見出しています。

With/Afterコロナ時代にもつべきマインドセットとは?

── こうした変化を伴う「ニューノーマル(新常態)」に向けて、私たちはどのようなマインドセットで臨めばよいのでしょうか。With/Afterコロナ時代に磨いておくとよい能力とともに教えてください。

変化を恐れず、可能性に枠を設けずに前向きでいることですね。私はよく「多様な人生を試着してみよう」といっています。先ほどお話したようにVR化・アバター化が進めば、複数の生き方を試して、自分では気づかなかった適性や新しい才能を見つけやすくなります。

普段から面白そうと思ったら見てみる、ふれてみる、現地を訪れてみるという好奇心をもって、積極的に行動する力がますます大事になると考えています。

── 川口さんのミッションは何ですか。

高齢化・人口減少といった不都合な真実に目を背けるのではなく、その現状をイノベーションによって解決することが可能だと捉える。そしてネガティブに見える状況が、新しい生き方を生み出すチャンスにもなる――。こうした考え方を発信し続けたいと考えています。新型コロナウイルスなどのパンデミック、災害、気候変動でさえ、新しい価値や事業の源泉にできないかとポジティブに捉えられる人が増えてほしいと願っています。そうした前向きな発想やアイデアがあれば、たとえDNAによって規定された運命すらも、再生医療やロボティクス、AIやVR技術などで、ある程度は克服することができるのです。シンギュラリティとは、その道を開くカギを手にすることだと思います。

── フライヤーでは「ビジネスワークアウト」というコンセプトを広めようとしております。筋トレと同じく、1日のうちに「知的筋力」を鍛える時間をとり、学びを習慣化しようという提案です。川口さんが日々新たな学びを得るために、習慣にされていることについて、教えていただけますか。

TVでもネットでも論文でも、面白い情報に出逢ったら、必ずそのソースを探るようにしています。興味をもったらすぐにググるし、その場所に行けるなら足を運んでみる。たとえば展示会などでパワースーツの試着やVRシミュレータがあれば、できる限り体験して、味わってみる。こういうことの積み重ねが明るい未来を描き、必要な技術についての知識を得ていくうえで重要になります。2060年には私は101歳になっているはずですが、『2060 未来創造の白地図』を書いたことで、その世界を実際に見たいという思いがますます強くなってきました。

2060 未来創造の白地図
2060 未来創造の白地図
川口伸明
技術評論社
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2060 未来創造の白地図
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著者
川口伸明
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With/Afterコロナで加速する未来

プロフィール:

川口伸明 (かわぐち のぶあき)

アスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部部長。薬学博士(分子生物学・発生細胞化学)。

1959年4月、大阪生まれ。東京大学大学院薬学系研究科修了。博士号取得直後に起業、国際会議プロデューサーなどを経て、2001年より、株式会社アイ・ピー・ビー(Intellectual Property Bank)に参画。取締役技術情報本部長、Chief Science Officerなどを歴任、世界初の知財の多変量解析システム構築、知財力と経営指標の総合評価による株式投信開発、シードベンチャーへのプリンシパル&ファンド投資、事業プロデュースなどに携わる。

2011年末、アスタミューゼ入社。広範な産業分野の技術・事業コンサルティング、約180の有望成長領域の策定、世界の研究・技術・グローバル市場の定量評価手法の開発、学会や経済団体などからの招待講演、各種執筆などに奮闘中。

おもな編著書は『2060 未来創造の白地図』(技術評論社/2020年)、『生体データ活用の最前線』(共著、サイエンス&テクノロジー社/2017年)、『IoTビジネス・機器開発における潜在ニーズと取り組み事例集』(共著、技術情報協会/2016年)、『実践 知的財産戦略経営』(共著、日経BPコンサルティング/2006年)、『特許四季報1・2・3』(共著、IPB/2003・2004・2005年)、『新たな文明の創造をめざして』(編著、秋桜社/1994年)、『細胞社会とその形成』(共著、東京大学出版会/1989年)ほか。

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文責:松尾美里 (2020/07/15)

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