
どの会社にも存在する「カルチャー」。このカルチャーについて、『カルチャーモデル』著者の唐澤俊輔さんは、「ビジネスと両輪で考えるべき」といいます。カルチャーはビジネスに比べて劣後されてしまいがちですが、ビジネスをうまく回すには、カルチャーの設計が欠かせないと考えているからです。
本書には、唐澤さんが確立した、カルチャーを言語化し、浸透させるための実践的なノウハウが詰まっています。企業はいかにカルチャーと向き合っていくべきか。ご著書に書かれたメッセージを、Voicy「荒木博行のbook cafe」の対談を通じて伺いました。その内容を再構成してお伝えします。

一方、理論やフレームワークだけを提示しても、「それは理想であって、現実にはそうはいかないでしょう」と思われてしまうことも。
そこで、前提をしっかり揃えるために、冒頭で「なぜカルチャーが重要になるのか」と「カルチャーとは何か」についてまとめました。
荒木:第1章には「事業(ビジネスモデル)と組織(カルチャーモデル)は両輪」というメッセージがありますが、まさにその通りですよね。カルチャーはビジネスに比べてないがしろにされてしまいがちだけど、ビジネスと同じくらい重要なものですから。残業が必ずしも悪いというわけでありません。本人が「残業してもいいから、早く経験を積んで成長したい」と考えているなら何の問題もないでしょう。残業が多いのに「うちは自由な働き方です」というようなことを言っているから、期待とのギャップが生まれるんです。
そうならないように、会社のカルチャーを可視化し、言語化し、浸透させて、外部にも発信していく。それが、会社と新入社員の期待値ギャップを生まないために必要なことだと思っています。

一般的に「7S」というと「ハードの3S」(ストラテジー、ストラクチャー、システム)と「ソフトの4S」(シェアドバリュー、スタッフ、スキル、スタイル)のことですが、本書ではアレンジが加えられていますね。
唐澤:そうです。ここで言う「7S」は、一般的な「7S」とは少々異なります。マッキンゼーの「7S」をベースにしつつ、「ストラテジー」を抜いて、代わりに「スタンス」を組み込んでいます。「ストラテジー」は、ビジネスモデルの方で考えるべきことなので、カルチャーモデルでは削除して、その代わりに「スタンス」という項目を入れました。
スタンスとは、経営方針のこと。スタンスを決めておかないと、「フラットでオープンなカルチャーにしたいけど、社長が全部決めたい」などといった“いいとこ取り”になって矛盾してしまいかねません。
荒木:スタンスというのが、「経営スタンスの4象限」ですね。縦軸は中央集権型なのか、分散型なのか。つまり、意思決定をどこまでエンパワーするかどうか、という論点ですね。一方横軸は変化志向なのか、安定志向なのか。つまり、既存のビジネスを破壊するくらいの変化をしていくのか、それとも改善しながら進化していくのか。スタンスは、7Sにおいても根幹になるものだと思います。だから、途中で変わってもいいけど、変えるならば意図を持ってちゃんと変えること。「分散型にする」と決めておきながら、「やっぱり社長が決めたい」とひっくり返すのはなしです。ブレないことが大切です。
荒木:なるほど。DXと言いながらも、本質的に変わらない企業が多いのは、この「スタンス」のイメージが分散型×変化志向にしたいと思っていながらも、中央集権型×安定志向から動けていない、ということに背景がありそうですね。なぜなら、共通言語がないと、意図したようには伝わらないからです。同意したはずでも、人によって認識がまったく違うかもしれませんよね。人材と働き方が多様化する時代において、きちんと言葉をつくり込み、その意味合いをすり合わせることはどんどん重要になっていきます。
荒木:確かにそうですね。その一方で、カルチャーを言語化するにあたって、経営者の願望が投影されてしまうこともあるのではないでしょうか。願望と現実がずれてしまうというか……。重要なのは、現状の棚卸をしたうえで、ありたい姿を描くこと。そして、トップダウンで決めてしまうのではなく、社員を巻き込んで言語化していくこと。一緒に悩んで、議論して、対話して出てきた言葉だからこそ、愛着を抱けるはずです。

でもここは、悩んでいいところだと思っています。むしろ解釈の余地、議論の余地があるからこそ、定着が進むはずですから。
荒木:なるほど、余白をつくることが重要なんですね。100%決まっていると、思考停止してしまいかねない。じっくり考えた経験があるからこそ意味を語れるし、実践につながっていく。上司も、部下の行動に対して「その行動はすばらしい! まさにGo Boldな行動だったよ」などと、Go Boldの意味合いを具体的に伝えていく努力が必要ですね。
唐澤:そう思います。「いい仕事だったね、お疲れ!」だけだと、その仕事のどこがよかったのか、部下には伝わらない。そうではなくて、「どこが」「どんなふうに」良かった/自社らしかったのかを伝えることで、カルチャーの意味合いが浸透していきます。

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ)
Almoha LLC, Co-Founder
大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。
経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用育成制度設計労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人組織を支援するサービスツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。