「ジョブ型」時代にチャンスをもらえる人、もらえない人
コミュニケーションの主戦場が「対面」から「文章」へ

コロナショックにより、テレワークや非対面のコミュニケーションが増えてきました。また多くの企業は、中長期的な景気低迷への対応として、業界再編を伴う事業のスクラップアンドビルド、経営のスリム化を進めようとしています。人員のスリム化が予想されるなかで、求められる人材となり、評価を上げていくにはどうすればよいのでしょうか?
それを体系的に解説した一冊が『「ニューノーマル」最強仕事術』(講談社)です。著者の濱田秀彦さんは、4万人のビジネスパーソンにマネジメントやコミュニケーションなどを指導してきた人気研修講師です。コロナ後に評価が急上昇する人の条件とは何なのでしょうか。
コミュニケーションの評価軸は「感覚」から「内容」へ
── コロナ後の働き方で評価されるようになった人と、そうでない人。とくにコミュニケーションの観点で両者を分ける新基準はズバリ何でしょうか。
評価される人と、そうでない人の分かれ目は「対面コミュニケーション」にあります。これから評価されるのは、今まで対面コミュニケーションで損をしていた人です。話す内容はしっかりしているのに、話すのが下手で瞬時に切り返すのが苦手。そのせいでパッとしない印象を与えがちでした。ですがリモートワークのもとでは、コミュニケーションの主体は対面から、メールやチャットなどの文章に変わりました。またオンライン会議では、他者の威圧感を感じにくく、話している最中に割り込まれることも少ない。そのため、情報を受け取る側はこれまで以上に内容面で判断するようになります。
そうなると、対面コミュニケーションで評価されていた人は印象が薄くなってしまいます。こうした人は、対面なら後輩に何かと声をかけていました。上司からすると面倒見がいいという印象を与えます。話の内容はあまり重視されません。しかし、文章でのコミュニケーションが主流になると、後輩にどんなアドバイスをしているのかといった内容面での勝負になっていく。つまり、コミュニケーションの評価軸が「感覚」から「内容」へと移ってきているわけです。

── そうなるとリーダーシップのとり方も変化していくのでしょうか。
そうですね。求められるリーダーシップも「パワー型」から「参画型」へと変化するのではないでしょうか。対面影響力を使うのではなく、相手の話を傾聴し、コーチングスキルによって引き出していく。そんなリーダーが力を発揮できるはずです。
もちろん対面コミュニケーション力に自信があるのなら、顧客と対面する機会が多い職種にシフトするというのもアリです。対面が得意な人、文章で伝えるのが得意な人、それぞれ自分に合った主戦場を選べばいい。コロナで仕事や働き方の選択肢が狭まった面もありますが、コミュニケーションやリーダーシップをどうとっていくかという意味では、選択肢が広がったともいえるでしょう。
ただし、社会と企業、企業と社員といった関係性が変化するなかで、仕事への取り組み方も刷新しないといけなくなります。新著『「ニューノーマル」最強仕事術』では、報連相などのコミュニケーションの観点にくわえて、目標管理、時間管理、チームワークという4つの観点から、評価される人の新基準を示しました。


チャンスをもらえる人、もらいにくい人の分かれ目は?
── 雑談を通して上司に仕事上の希望を伝える機会が少なくなったという声を聞きます。そうした昨今、仕事のチャンスをもらいやすい人になるには、どんな点を意識するとよいでしょうか。
それは「しかける」というアクションです。コロナショックにより、上司も部下も目の前の仕事をこなすというように、受け身になっています。これでは仕事は先細りになってしまう。
だからこそ、自ら自分の使い道をアピールし、しかけていくことが必要になります。そこで大事なのは、自社の課題に、自分のスキルや得意分野をどうミートさせるかを考えることです。たとえば「この仕事を任せてもらえれば、こんなアウトプットを出せる。だからやらせてほしい」と伝えます。たとえば総務・経理などの間接部門なら、業務の改善提案を積極的に行い、その成果を定量的に示すとよいでしょう。自社の課題を見極めるには、やはり「大局観」をもつことが大事になってきます。

もう「大玉転がしスタイル」は通用しない。「企業内個人事業主化」の時代へ。
── 「ジョブ型雇用」を導入する企業が大手を中心に増えていますが、濱田さんはこの状況に対してどのようにお考えですか。
自然な流れだと思います。これまでの仕事の進め方は「大玉転がしスタイル」でした。みんなであうんの呼吸で玉を押す位置を調整し、大きな玉を押していく。そして誰がどんな役割を果たしているか、責任の所在もはっきりしないというスタイルです。ですがこれは、各自が同じ場所に立っているからこそできたこと。リモートで働くようになると、各人が自分の玉をもって走るしかありません。すると必然的に役割も明確に決められていき、より大きくて、質の高い玉を運べた人に大きな報酬が与えられるわけです。
また経営者には、より多くの利益を出した人に報いたいという「成果主義志向」があります。こうしたことからも、役割をきっちり分担し、貢献度に応じて報いるというジョブ型雇用に向かうのは自然だといえます。
── ジョブ型雇用が進むと、全社的な視点や経営者の目線をもつ社員の育成が今以上に難しくなるように思います。そんななかで社員に自律型人材として力を発揮し、成長してもらうために、経営層はどのように人材育成を行っていくとよいのでしょう?
その通りだと思います。今後は経営やマネジメントを担う「経営人材」と、専門性を極めていく「プロフェッショナル人材」とに分けて育成するようになるでしょう。そしてそう社員に明示したほうがいい。「なんとなく頑張っていれば雇い続けてもらえる」という幻想を抱かせていたら、個人も会社側もお互いに不幸です。
人材育成のポイントは、個人の裁量範囲を広げていくことです。これからの社員は「企業内個人事業主化」していきます。自分で自分の使い道を提案し、仕事をつくりだして成果を上げることが求められます。ただし、その過程を中間管理職が「前例がないから」とつぶしてしまうのは怖い。そうならないようにするために、社員に一定の裁量を与えていくことが人材育成のポイントになるでしょう。

いまこそ読みたい、「人間関係の本質」に立ち返る名著とは?
── ニューノーマルのコミュニケーションやマネジメントという観点で、濱田さんのおすすめの本を教えてください。
自己啓発書の名著として有名な、デール・カーネギーの『新装版 人を動かす』です。偉大な政治家や実業家の行い、ビジネスや日常の場における具体例がたくさん提示されていて、どう実践に取り入れたらいいのかがとてもイメージしやすい。先日読み返したら、コミュニケーションや人間関係の本質に立ち返るためのヒントに数多く出合えました。パソコンもスマホもない時代に書かれた本ですが、コミュニケーションツールが多様化した現代だからこそ真価を発揮する一冊だと思います。


── フライヤーでは「ビジネスワークアウト」というコンセプトを提案しています。これは、筋トレのように「知的筋力」を鍛える時間をとり、学びを習慣化しようという提案です。濱田さんの「私のビジネスワークアウト」は何ですか。
新しい学びを得るための最良の方法は「教えること」です。人に教えるためには、ある分野について「知っていること」の3倍以上の広さや奥行きが求められます。だから、ある分野について短期間で知識を深めたいのなら、それについて教える機会をつくり、必死に準備するのがよいでしょう。
私自身の例でいうと、ZOOMの習熟度を上げるため、ZOOM未経験の講師仲間向けに無料のZOOM講座を開くと提案しました。教えるというゴールがあると勉強せざるを得ず、これを機に自分のレベルが上がりました。フライヤー読者のみなさんも、自分の専門分野についての社内勉強会を企画してみてはいかがでしょうか。

── 濱田さんの今後のビジョンについて教えてください。
まずはオンライン研修を進化させたいと考えています。リアル研修の代替というところにとどまっているケースが多いので、オンラインならではのよさを引き出せるのではないかと、試行錯誤しています。リアル研修とうまく組み合わせて、受講者にとっての効果や満足度を上げる仕組みづくりをしていきたいですね。


濱田秀彦(はまだ ひでひこ)
株式会社ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1997年に独立。現在はマネジメント、コミュニケーション研修講師として、階層別教育、プレゼンテーション、話し方などの分野で年間150回以上の講演を行っている。これまで指導してきたビジネスパーソンは4万人超。おもな著書に『上司のタテマエと本音』(SBクリエイティブ)、『あなたが上司から求められているシンプルな50のこと』(実務教育出版)、『社会人1年目からの仕事の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。