「攻めのDX」とコストゼロ時代の生き残り戦略
デジタルシフトカンパニーが語る「コストゼロ時代の生き残り戦略」

「攻めのDX」とコストゼロ時代の生き残り戦略

近い将来、確実に起きるのが「ゼロ・インパクト」。テクノロジーの進化によって、あらゆる領域でコストゼロ化が進んでいきます。特に影響度が大きいのは「モビリティー」「通信コミュニケーション」「エネルギー」の3つのインフラで起きるゼロ・インパクトです。また、GAFAの脅威が差し迫るなか、日本企業も既存のビジネスを根本から見直し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める必要が出てきます。

ゼロ・インパクトの社会で日本企業が生き残るためにはどうしたらいいのか? その戦略や必要な人材像をわかりやすく解説したのが、『ZERO IMPACT』(日経BP)です。著者は、2020年7月に商号を変更し、これまで成長を牽引してきたインターネット広告代理事業から、デジタルシフト事業へと主力事業の転換を宣言したデジタルホールディングス代表取締役会長の鉢嶺登氏。自ら危機感を持って動き始めている鉢嶺登氏が考える、DXを進めるうえでの戦略の肝とは何なのでしょうか?

いち早くDXに取り組んでいた企業は、業績を伸ばしている

── 新著『ZERO IMPACT』の執筆動機は何でしたか。

日本全体がデジタル化しなければいけないという強い危機感をもっていたためです。インターネットが普及し始めて30年ほど経ちましたが、日本では、インターネットの影響をダイレクトに受けていた業界はほんの一部でした。例えば広告やゲーム、一部のEコマース、小売業などです。ところが2020年5月には、GAFAM(※注1)の時価総額が東証一部全銘柄の時価総額を上回ったことが話題になりました。今後も世界的プラットフォーマーとして世界を席巻していくでしょう。

にもかかわらず日本の経営層では、「日本はアメリカほど影響を受けることはないだろう」と考えている方も少なくありません。デジタル化によって自社を取り巻く業界地図がどのように変わるのか、シミュレーションできていない方々もいらっしゃるのが現状です。

アメリカに目を向けると、コロナ禍で小売業がバタバタとつぶれているように見えます。しかし、コロナ禍は原因ではなく、あくまできっかけに過ぎません。GAFAへの対策として、いち早くDXに取り組んでいた企業は、業績を伸ばしています。逆にDXに出遅れていた企業は破綻の一途をたどっているのです。

(※注1):GAFAMとは、世界的なIT企業であるGoogle、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftそれぞれの頭文字をとったものを指す。

── コロナ禍の影響で日本のDXは加速しているのでしょうか。

そうですね。コロナをきっかけに時計の針が早まり、日本の産業界全体でDXの動きが加速しています。消費活動がデジタルに移行したため、企業もまたデジタルシフトを真剣に迫られているのです。もちろん自動車業界のように、CASE(※注2)に対応すべくビジネスモデルを根本から見直そうとしている業界もあります。

だからこそ、ここでDXに乗り遅れると、あらゆる業界で起こる再編の波に飲み込まれ、日本はさらに「失われた30年」を過ごすことになってしまう。生き残りをかけて是が非でもDXを実現していかないといけない。それを伝えたい一心で、本書『ZERO IMPACT』の執筆に至りました。

(※注2):CASEとは、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語を指す。。

 ZERO IMPACT ゼロ・インパクト
ZERO IMPACT ゼロ・インパクト
鉢嶺登
日経BP
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 ZERO IMPACT ゼロ・インパクト
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著者
鉢嶺登
出版社
日経BP
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自社の存在意義を問い続けた先にあった、「デジタルシフトカンパニー」への挑戦

── 御社は昨年社名を変更してDX支援事業に注力するという大転換を果たしました。伸びている事業からの転換には大変さがあったと思います。その経緯と、変革への意志を支えたものは何だったのか、教えていただけますか。

私たちデジタルホールディングスもまさにDXに挑戦中です。もともと本業のネット広告代理事業は伸びており、黒字で利益が出ているのに業態を変える必要性はなかったといえます。しかし、ネットの特性を考えると、代理店のような中間業者の存在がなくならないまでも、付加価値が低減していくのは目に見えていた。それに、ネット広告よりもDX支援の方が社会的意義が大きいのではないか。自分たちの存在意義とは何か、社内で議論を繰り返しました。


DXは社会の要請であり、デジタル化に困っている企業は目の前にたくさんいらっしゃる。一方、私たちの会社には約1600人のデジタル人材がいる。それならDXを推進するデジタルシフトカンパニーに進化することで、さらなる社会のニーズに応え、未来の産業界の発展に寄与できる。それこそが自分たちの存在意義ではないか――。変化にあらがうのではなく、変化の波を乗りこなそう。そうした決意のもと、2020年7月にデジタルシフト事業へと主力事業の転換を宣言しました。

もちろん現場での混乱も少なからずありました。それでも現場の一人ひとりが変化のなかで自社の進むべき道は何か、主体的に考え、行動してくれています。そんな試行錯誤を経験している私たちが、日本におけるDXのモデルケースの一つになればと考えています。

「攻めのDX」を進めるCDOを社内で育成せよ

── 組織がDXを進めるうえでの戦略の肝を教えていただけますか。

国や自治体、あらゆる企業が最初に取り組むべきことは「守りのDX」です。従来の業務プロセスをデジタル化し、コストダウンと生産性向上をめざしていく。たとえば、押印を含む承認作業の電子化、コールセンターのチャット移行、RPA導入がわかりやすいでしょう。次に取り組むべき本当の意味でのDXは、デジタル産業革命時代に合った形でビジネスモデルを創造・再構築する「攻めのDX」です。

私たちが推奨するのは、攻めのDXを進めるCDO(最高デジタル責任者)を置くことです。CDOは、顧客の環境変化やテクノロジーの進化にも目を配らないといけません。もちろんCDOを設置して終わりではなく、DXを実現するために必要な職種は全部で4つあります。CDOを長とするプロデューサー、マーケッター、エンジニア、クリエーター。これら4職種人材を調達しないことには、DXは遅々として進みません。

今後IoTが進み、あらゆるもののデータが取得できるようになり、デジタル中心の社会になる。予測が難しい複雑な世の中で、これは明白に予見できます。それならば、未来がくるのを待つよりも、先に飛びこんだほうが成功確率は高まるはず。そのためには、トップ自身に、「DXは必要不可欠」と唱え続ける強い意志とリーダーシップが求められます。

── 経営のトップがDXの必要性をそこまで感じていない場合に、参謀や管理職層にできることは何でしょうか。

自社には関係がないと思っても、取引業者をはじめ、まわりの企業はすでにDXを見据えて動いています。その影響が早晩及ぶのだという具体例を示すことでしょう。

たとえば、ある中小のガラス建材メーカーでは、トップが将来を見据えたDXを進めています。そのメーカーの納品先は、スマートオフィスやスマートシティに取り組むであろう大手のオフィスビル。そんな彼らが納入業者として選ぶのは、デジタルに詳しく、スマートオフィスやスマートシティへの知見のある会社のはず。そうした未来を見据えて、そのガラス建材メーカーはデジタルに備えているのです。これはあくまで一例で、変化に備えようとする方々に役立つ具体例を『ZERO IMPACT』では多数取り上げています。

未来予測本、「世界の知性」が書く本から未来のヒントを得る

── 鉢嶺さんは20年間毎年100冊以上の本を読まれるほどの読書家で、『役員になれる人の「読書力」鍛え方の流儀』も執筆されています。これまで読まれた本のなかで、先を見通す力や戦略眼を養うのに役立った本は何でしたか。

「2050年の世界はこうなる」といった未来予測の本は、できるだけ数多く読むようにしています。たとえば、『2052―今後40年のグローバル予測』『2050年の世界 英『エコノミスト誌』は予測する』などから、今後どんな世の中になっていくかをインプットしてきました。そうすれば、未来に対し当事者意識をもてるようになり、それを踏まえて自分たちはどう動くかをシミュレーションしやすくなります。

また、「世界の知性」と呼ばれる人たちの思考にはできるだけふれるようにしています。たとえば、歴史学者で、世界的ベストセラー『サピエンス全史』『ホモ・デウス』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏。それから、共有型経済の台頭を予測した、文明評論家のジェレミー・リフキン氏などです。コスト(限界費用)が限りなくゼロに近づき、モノやサービスが無料化することで企業の利益は消失し、資本主義は衰退を免れない――。そんな未来図を描いた『限界費用ゼロ社会』も洞察に富んだ一冊でした。

サピエンス全史(上)
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ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之(訳)
河出書房新社
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著者
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)
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ホモ・デウス(上)
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ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之(訳)
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限界費用ゼロ社会 〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭
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ジェレミー・リフキン 柴田裕之(訳)
NHK出版
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── 最後に、鉢嶺さんの今後のビジョンを教えてください。

2030年までに日本の DXを成功させることです。これが私たちの会社としての最大のミッションでもあり、社会の要請でもあります。このミッションを成し遂げることが、私がこの世に生を受けた理由であり、これを成し遂げないと死ねないと思っているんです。未来に起こる変化は確実なものになりつつあります。その変化に対して前向きでありたいですし、そんな企業を一社でも多く増やせたらと思います。

 ZERO IMPACT ゼロ・インパクト
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鉢嶺登
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鉢嶺登
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鉢嶺登(はちみね のぼる)

デジタルホールディングス代表取締役会長。早稲田大学商学部を卒業後、森ビルに入社。その後、1994年にオプト(現:デジタルホールディングス)を設立した。2015年に持ち株会社体制へ移行し、代表取締役社長グループCEO(最高経営責任者)に就任。20年4月より現職。20年7月、デジタルホールディングスに商号変更。DX支援会社の株式会社デジタルシフトの代表取締役会長を兼務。著書は『ビジネスマンは35歳で一度死ぬ』『GAFAに克つデジタルシフト経営者のためのデジタル人材革命』など。

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文責:松尾美里 (2021/06/04)

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