いまビジネスパーソンがデッサンを学ぶべき理由
『東京藝大美術学部 究極の思考』著者・増村岳史さん

いまビジネスパーソンがデッサンを学ぶべき理由

アート・アンド・ロジック株式会社 取締役社長の増村岳史さんは著書『東京藝大美術学部 究極の思考』のなかで、東京藝大美術学部の卒業生や現役学生の共通点や、アートの視点をビジネスに取り入れる方法について書いています。

ご著書に込められたメッセージを、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリストである荒木博行さんが、Voicy「荒木博行のbook cafe」の対談を通じて伺いました。その内容を再構成してお伝えします。

数学的センスと芸術の関係

荒木博行(以下、荒木):

増村さん、ご無沙汰しています! 新著『東京藝大美術学部 究極の思考』拝読しました。非常にユニークな一冊ですね。

東京藝大美術学部 究極の思考
東京藝大美術学部 究極の思考
増村岳史
クロスメディア・パブリッシング
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東京藝大美術学部 究極の思考
東京藝大美術学部 究極の思考
著者
増村岳史
出版社
クロスメディア・パブリッシング
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増村岳史さん(以下、増村):

ありがとうございます! 私はいま、企業向けにアートやデザインを通して脳を活性化し、新たな知覚と気づきの扉を開くプログラムを提供しています。仕事を通して東京藝大(以下、藝大)の卒業生や現役学生の方々とお付き合いをするうちに、そのユニークな視点や考え方に驚かされ、この本を書くことにしました。

具体的には、直観と論理のバランスがとてもいいこと。アーティストって、常に直観と感性と野性的な勘で生きていると思われがちではないでしょうか。でも実は、かなり高いレベルの論理的思考力を持っている方が多いように思います。

また、多才な方も多いと感じます。知人のある画家さんは句集を出版されていますし、小説も書いているそうです。このエピソード一つとっても、重層的な思考をしていることがわかりますよね。

荒木:

それはすばらしいですね。藝大というと日本の芸術系大学の最高峰ですが、やはり合格するのはものすごい天才ばかりですか?

増村:

もちろん才覚はあるにせよ、天才というより思考のバランスがいい人が多いですね。

おもしろい話を一つご紹介しましょう。私がインタビューした卒業生、現役学生、先生方、助手の方に共通しているのは、数学的センスが高いということです。

荒木:

数学的センスですか! おもしろいですね。数学と芸術、どういう関係があるんでしょう?

増村:

絵の基礎といえばデッサンですが、デッサンには物事を論理的に考える力が欠かせないんです。

デッサンをするときは、二次方程式のX軸とY軸のように、対象を座標的にとらえて線でつないでいきます。そういうふうにすると、ほぼ正確に対象の形をとれるんです。

荒木:

座標的にですか。それは、昔からある手法なんですか。

増村:

表現の技術として、ルネサンスの頃にレオナルド・ダ・ヴィンチたちが表現の技術として発明したものです。写真が発明される以前のことでしたので、キリストやマリア様が立体的に描かれていて、そこにいるように見えることが大切だったんですね。

サイエンス、テクノロジー、アート、デザイン……デッサンには、ルネサンスに発展したこれらすべての要素が含まれています。そう考えると、数学とのつながりにも納得ですよね。

ペストの流行で生まれたイノベーション

増村:

私はコロナ時代において、「問う力」がいままで以上に重要になると思っています。

ルネサンスには前期と後期がありますが、このうち、より多くのイノベーターが生まれたのは後期。前期と後期で何が違うのかというと、前期と後期の間にペストが大流行し、ヨーロッパに住んでいた人の3分の1ほどが亡くなっているんですね。

荒木:

なるほど! ペストの流行により、イノベーションが起こったと。

増村:

ペストが流行するまで、神は万物を創造し、人間を助けてくれる、絶対的な存在でした。しかしペストをきっかけに、人々は神に対して疑問を抱き始めます。「神様って、本当に私たちを助けてくれる存在なの?」「人間は、神を超えられるのでは?」と。

そうした問いが生まれたことで、探究が始まり、テクノロジーやサイエンスが発展したと言われているんですね。私は、コロナ時代にも同じようなことが起こり得るのではないかと思います。

荒木:

大きな前提を疑い、新しいルールを組み立てなければならない時代になっていますよね。前の世代の人たちが決めたルールに従って、正解当てゲームをしてる場合じゃないと。

増村:

今までのように、目の前にある課題を解決すれば豊かになれる、給料が上がるというのではなくて、自ら問い、課題設定ができるようになる必要があると思います。それこそ、アーティストたちが得意な思考ですね。

「アントレプレナータイプ」と「組織人タイプ」の違い

荒木:

増村さんは本書で、ビジネスの世界で活躍している卒業生にもインタビューされていました。

ビジネスの世界では、PDCAを回しながら正解を見つけていくのが一般的だと思います。一方、アートの世界には自己表現の側面がありますよね。このあたりの折り合いは、みなさんどのようにつけているのでしょうか?

増村:

アーティストマインドが強い人は、一般企業で苦労することも多いようですね。たとえば広告代理店でクリエイティブを担当するといっても、クライアントの意向に沿うように表現しなければなりませんから。

その一方で、ビジネスの領域にピタッとはまる人がいるのも事実です。ある卒業生は、藝大の油絵科に現役合格したものの、入学してすぐに「自分はこの油画科には合わない」と気づいたそうです。アートは自分のなかにある情熱をはきだすものなのに、自分のなかにははきだすものがないことに気づいてしまったとおっしゃっていました。

しかし卒業後、広告代理店に入社すると、さまざまな賞を獲得するなどして大成功。アーティスティックな目をあえて排除し、どうすれば購買に結びつくような表現ができるのかを考え尽くしたからこそ、そのような結果が出せたのでしょう。

荒木:

興味深いエピソードですね。組織人とアントレプレナーの違いとも重なるところがあるように感じました。

アントレプレナータイプの人は、内発的な欲求がドライブになります。誰から「○○しなさい」と言われると腹が立つタイプですね(笑)。

一方、組織人としてのネイチャーのある人は、与えられたことは完璧にこなすけれど、「あなたは何がしたいの?」と問われると困ってしまう。

増村:

まさにそうですね。別の知人に、後者のタイプの方がいます。その方は、藝大デザイン科を卒業して、アメリカの大学院で学ぶことにしました。入学後すぐに「ここでみなさんはソリューションとしてのデザインを学ぶのです」といったことを言われて、それが腹落ちしたそうなんですね。

その方は大学院卒業後、有名メーカーのブランドデザイン責任者を務めました。そんな彼女いわく、「私は自由にやれと言われると何もできません。明確な課題があると燃えるのです」。

荒木:

まさに組織人タイプですね。もちろんどちらが良い、悪いということはありませんが、向き、不向きはあると思います。

「見る技術」としてのデッサン

荒木:

アートを取り込みながらビジネスの素養を身につけるとしたら、まずアートのどのような要素を学べばいいでしょうか。

増村:

最初に学ぶべきはデッサンだと考えます。デッサンは、いわば「美術表現の九九」。九九を暗記しないことには、掛け算も割り算も因数分解ができませんよね。デッサンはそれと同じで、美術表現の基礎中の基礎です。

芸術には基礎などない、自己表現だけを好きにやればいいんでしょと誤解されることもありますが、とんでもない。基礎を押さえない限り、クリエイティビティが十分に発揮されることはありません。

荒木:

芸術家の卵がデッサンばかりやらされて、「俺はティッシュ箱ばかり描くためにここに来ているわけじゃない!」と文句を言う……なんてイメージがありますけど、デッサンは自己表現のために欠かせない基礎なんですね。

増村:

その通りです。「ティッシュ箱ばかり描かされている」ととらえる人は、往々にしてティッシュ箱をちゃんと見ていないんですよね。見れば見るほど、「こんなところに影が入っているんだ」なんて発見があるものです。

荒木:

なるほど。これはビジネスでも言えることですね。

シリコンバレーは……ジョブズは……と、誰かの真似をすれば一足飛びにレベルアップできるかのように思ってしまいますが、それよりもまず「ティッシュ箱の影をちゃんと見ているか?」。基礎を押さえずにクリエイティブな表現をしようとしてもだめなんですよね。

増村さんのアート・アンド・ロジック株式会社でも、ビジネスパーソンにデッサンのプログラムを提供していると思います。ビジネスパーソンがデッサンをすると、どのような効果が期待できますか。

増村:

デッサンは、描く技術に見えて、実は見る技術なんですよね。バイアスを排除して、見たものをあるがままに描く。それができると、自分なりの問う力と、創造的な課題解決力がつきます。

荒木:

自分のなかにもともとあったイメージを追い出す作業が必要なんですね。

増村:

たとえば「顔」は、多くの人の頭のなかで「目と鼻と口があるもの」と言語化されているでしょう。デッサンするときは、それを捨てて、とにかく目の前にある事実をとらえてアウトプットする必要があります。言語化はその後ですね。

この思考プロセスはビジネスにも応用可能で、当社のプログラムに参加してくれた方からは「抽象力と具現力が上がった」といったお声をいただいています。

荒木:

常に数字に追い立てられているビジネスの世界で、抽象度の高いビジョンをなくしたままラットレースを続けるのではなく、自分の目で見たものを素直に描写してみること。これはとても大事なスキルなんじゃないかと思います。増村さん、本日はありがとうございました!

写真提供:増村さん
東京藝大美術学部 究極の思考
東京藝大美術学部 究極の思考
増村岳史
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著者
増村岳史
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※本内容は、Voicyで放送された対談を再構成したものです。対談の音声のリンクはこちらから。

増村岳史(ますむら たけし)

アート・アンド・ロジック株式会社 取締役社長

大学卒業後、株式会社リクルート入社。マーケティング・営業を経て映画・音楽の製作および出版事業を経験。リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。

2015年、アートと人々との垣根を越えるべく誰もが驚異的に短期間で絵が描けるプログラムを開発、企業向けにアートやデザインを通して脳を活性化し、新たな知覚と気づきの扉を開くアート・アンド・ロジック株式会社を立ち上げ、現在に至る。

代々のアート家系で、人間国宝・増村氏の血筋。著書に『ビジネスの限界はアートで超えろ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

荒木博行(あらき ひろゆき)

株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。

著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。

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文責:庄子結 (2021/08/25)
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