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不朽の〝ロング・ミリオンセラー〟『生き方』の舞台裏

不朽の〝ロング・ミリオンセラー〟『生き方』の舞台裏

読者が選ぶビジネス書グランプリ2023 ロングセラー賞受賞記念インタビュー

インタビュー

混迷の時代だからこそ「人間は何のために生きるのか」という根本的な問いが重要なのではないか。私たち人間が生きる意味は、心を高めること、魂を磨くことにあるのではないか——。

こんな問いかけから始まる稲盛和夫氏の著作『生き方』(サンマーク出版)は、2004年の刊行以来、多くの人の心を動かし続けています。刊行後10年をかけてミリオンセラーとなり、現在では150万部に達した本書は、国外でも広く愛され、中国では600万部を突破しています。時代も国も越えて読まれ続ける『生き方』は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」でロングセラー賞を受賞しました。

『生き方』はどのようにして生まれたのか。小さな出版社であるサンマーク出版から、ベストセラーやロングセラーが生まれ、世界への広がりまでをも実現できるのはなぜか。「手のひらに、一冊のエネルギー。」を旗印に、これまで8冊のミリオンセラーを送り出してきた、株式会社サンマーク出版代表取締役社長(インタビュー当時)である植木宣隆氏に、『生き方』や本にかける思いを語っていただきました。

ライター・池田友美

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ロングセラーは、いつ読んでも何度読んでも新しい

── 読者が選ぶビジネス書グランプリ2023、ロングセラー賞の受賞おめでとうございます! まずは受賞のご感想をお聞かせください。

非常に光栄なことです。よく「ベストセラー」が話題にのぼり、書籍は絶えず部数の話をされるものですが、どのくらいの期間読まれたかは案外見逃されやすいのかもしれません。長く付き合った人は裏切らないというのと同じで、長く読み継がれた本は裏切らないものだと思います。「ロングセラー」は「本物」の同義語なのではないかと。

不思議なことに、ロングセラーになっているものは古びないんですよね。私自身、ドラッカーの『経営者の条件』を何度も読んでいるのですが、出版されてから60年近く経っている今読んでも全然古びていないんですよ。それに、経営者になって最初の年に読んだとき、5年、10年、20年経ったときとでは、気づきを得られるページが違っていて、その時々で新しい読み方ができます。社会や人のあり方万般について語り、その本質を射抜いている本だからこそ、人の心の本質的な部分を揺さぶることができるのではないでしょうか。

こうしてロングセラー賞をいただき、『生き方』がそうした「ロングセラー」になりつつあるという保証のようなものを頂戴したような気持ちで、大変ありがたく思っています。

生き方
生き方
稲盛和夫
サンマーク出版
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生き方
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著者
稲盛和夫
出版社
サンマーク出版
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── 『生き方』にも、社会や人の本質を射抜くような力がありますね。

ありますね。私なりに稲盛先生の言葉の特徴をとらえて申し上げるならば、「鋭さ」と「平易さ」が挙げられます。「一流の人は、難しいことをやさしく伝える。二流の人は、難しいことは難しく伝える。三流の人は、やさしいことを難しく伝える」と私はよく口にするのですが、稲盛先生の言葉は研ぎ澄まされたものでありながら、とてもやさしいですよね。

稲盛先生は臨済宗妙心寺派の円福寺で得度され、宗教的にも深い探求をされていて、非常に高い精神性をお持ちです。仕事の場で苦しみ鍛え抜かれた経験と、人間の心についての深い洞察が、鋭利でやさしい言葉につながっているのではないかと思います。

刊行まで7年、熱意の広がりは世界にまで

── 『生き方』は企画時点で大変な熱意をかけて準備されたと伺っています。制作のご様子をお話しいただけますか。

『生き方』は、企画から刊行まで7年ほどかかっています。先生とお会いするまでにもずいぶん時間がかかりました。

野心的なオファーではあるんですけれども、私たちは先生の代表作になるようなものをつくりたいと本気で思っていました。それまでのご著書は経営的なものが多かったので、もっと広く一般の読者が読んで感動するような、先生の考えと体験を凝縮して大きなエネルギーをもつ本にしたいというお願いをしたんです。

そのときの稲盛先生には先行している企画の依頼がいくつもあって、私たちと本をつくれるとしたら何年か先になると言われました。それでもかまわないとお伝えしたところで、簡単に引き受けていただけるわけではありません。

そこで、引き受けていただけるかは別として、社を挙げてこの企画に取り組もうということになりまして、当時の担当編集者が自らホテルに缶詰になって、先生の著作はもちろん、盛和塾の会報誌すべてにまで目を通すという取り組みを始めたんです。

── まだ企画を引き受けていただけていない段階で、そこまでの取り組みができる会社は少ないかもしれないですね。植木社長はその様子をどうご覧になっていたのでしょうか。

たしかにここまでする会社は少ないかもしれません。もし先生に引き受けていただけなかったら、時間も労力も無駄になってしまうと考えるものです。でも、私は仮に稲盛先生に企画を断られたとしても、そこで編集者が缶詰になって盛和塾の会報に目を通すことは、どこかで会社のプラスになるに違いないと、そうした取り組みをしていこうと思ったんです。

私たちはそれを稲盛先生にアピールするためにやっていたわけではなく、それくらい本気で取り組むことが必要だと考えてやっていたことなんですけれども、不思議なことに稲盛先生のような一流の方ともなると、聞かなくてもわかるようなんです。私たちが、本気で準備していることが伝わって、ぜひそういう姿勢で取り組む人たちと仕事をしたいと言っていただき、いくつも順番を飛び越えて、私たちの企画をやっていただけました。

トップに立つような方は、目に見えないものが見える人なんだなと思わされました。それは経営の世界の話だけではなく、一流の人同士は、初対面でも長年の知り合いのようになめらかに対話をすることがありますよね。あれはきっと、目に見えないことが見えるという、共通の地下ケーブルのようなものが両者の間につながっているからなのではないかと。そんなことも、本づくりを通して学ばされたことの一つです。

── 熱意が稲盛先生にも伝わったからこそ、この企画が実現したんですね。その熱意は時間も場所も越えて多くの読者にも伝わっているようです。

この本は2004年の刊行で、10年かけてミリオンセラーになった稀有な例です。それからも売れ続け、今では150万部に達しました。19年をかけ、本自体の成長を感じさせられます。読者の方からも、出版人冥利につきるようなご感想をいくつも頂戴しています。本には人の人生を変える力があると実感しますし、本づくりという代替できない仕事に関われることのありがたさを感じます。

『生き方』は世界16か国に翻訳されて、中国では600万部を突破しています。日本での盛和塾活動は終了となりましたが、中国では活動が継続しており、会員は2万人に達しているようです。欧米とは異なるかたちの資本主義のあり方を模索している今の中国で、ここまでの大きな支持を集めることには驚かされます。稲盛先生の心の火が、どこまでも広がって多くの人の人生を変えていこうとしているようです。

日本人のスピリットが織り込まれた活字が、世界で売れないわけがない

── サンマーク出版さんでは、『生き方』を含め、これまで8冊のミリオンセラーを出されていますね。小さな出版社としては異例の数ですが、本づくりで心がけていることを教えていただけますか。

3つ挙げるとしたら、第一は「本のエネルギー」です。編集者のエネルギーはもちろん、著者の「本然」、本来そこにあるものを凝縮して一つのエネルギーにして、それを人の心に吹き込んでいきたいと考えています。

2つめは「驚きのある企画」です。既視感のある企画ではつまらないですよね。本当に「ブランニュー」になっているか、今の時代にそれを出す価値があるかを考えます。ソフト産業なので、ある程度の失敗はつきものです。それでも、「ブランニュー」をつくろうじゃないかと考えてこそ、私たちの生きる意味も生まれるというものです。

3つめは、「世界に打って出る」ということです。これは経営者になる前、20年以上前から言い続けていることです。漫画やアニメは世界に受け入れられていますが、これは筋書きや技法だけが受け入れられているわけではなく、正直さや真面目さ、他者への思いやりなどの日本人のスピリットが求められているのだと思うのです。そうしたスピリットは、我々の活字の中にも織り込まれているはずです。だから、活字が売れないわけがない。そう言い続けてきました。

近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法 』は、世界で1300万部を超えています。川口俊和さんの『コーヒーが冷めないうちに』は日本国内ではシリーズ130万部突破、アメリカでもベストセラーになり、イギリスやイタリアでもロングセラーになっています。

小さな出版社からこうした例がたくさんあるのは、運がいいというのも確かです。でもやはり、単なる偶然とまでは言い切れないのではないかなと思います。本自体のエネルギーがあることが前提ですけれども、世界へ打って出ようという志がなければ、海は渡れなかったと思いますから。

── 国内でのロングセラーやベストセラーだけでなく、世界への広がりを実現されているんですね。何か特別な取り組みをされているのでしょうか。

コロナ禍で今は中断してしまっているのですが、フランクフルトで行われている世界最大のブックフェアを全社員に経験してもらうようにしてきました。世界中から本に関わる人たちが集まって、ライツ(著作権)を売り買いする場なのですが、本を愛する人たちばかりが集まっていて、国境を越えた思いに胸が熱くなります。ブースのつくりも素晴らしくて、大変勉強になります。これを全員に体験してもらおうと、業績の良い年を中心に社員に順々に行ってもらうことにしました。帰りには他の都市によってもらったりもしましてね、それも良い経験です。

じつはサンマーク出版は、世界では知られた出版社なんですよ。向こうのブックフェアではサンマーク出版のブースも盛況で、たくさんの方がパンフレットを求めにいらっしゃいます。実際に行った社員からは、サンマーク出版が世界で注目されているのを肌で感じられた、いろんなブースで世界の本を見てこられて視野が広がったという話を聞いています。

こうした取り組みを中心に、社員の経験になるようなことを先行投資としてやってきています。それが本が売れることと相関があるのかと言われると、関係がないかもしれない。でも、そんなことを考えなくてもいいんですよ。刺激になる経験をすることで、何かが開くかもしれない。開かなければ、社員がエンジョイしてくれればいい。新しいものやおもしろいものを見ることが本人の役に立つかもしれないけど、役に立たなくてもかまわないと思っているんです。

袋小路の中で考えるのではなく、世の中にたくさんあるおもしろいものに触れて、壮大な心で挑戦してほしいですね。失敗してもかまわないから、また次の挑戦をしようと、そういう考えを私は大事にしてきたつもりです。失敗もたくさんしてきましたけどね。でも、最初は無駄に見えるようなことが、本づくりや本を広げることにつながった例もたくさんあります。

── 挑戦を奨励する取り組みが実を結んでいるんですね。他の取り組みについてもぜひお聞かせください。

本然にのっとって仕事をすると結果を出しやすいという観点から、「編集者特権」というものを設定しています。先ほどお話しした『コーヒーが冷めないうちに』は、もともと演劇なのですが、たまたま舞台を見た編集者があまりにも感動して、脚本家に本にしてもらいたいと企画を出したんです。でも、当時の編集長はダメを出したんですよ。小説に強い出版社ではありませんでしたから。

ところがサンマーク出版には「編集者特権」というものがあって、社長や編集者が何と言おうと、年に1冊だけ編集者が本当に出したいと思う本が出せるという制度があるんです。それで『コーヒーが冷めないうちに』を2015年に刊行したら、これもロングセラーになって、世界に広がっている。ここからもっとすごいことが起きるかもしれないという期待がありますね。

── どの本づくりにも、熱いドラマがありますね。

思うことから、すべては始まる
思うことから、すべては始まる
植木宣隆
サンマーク出版
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思うことから、すべては始まる
思うことから、すべては始まる
著者
植木宣隆
出版社
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今の悩みを、『生き方』で照らす

── 時代も国も越えて愛されている『生き方』ですが、今のビジネスパーソンにおすすめするとしたらどんな読み方があるでしょうか。

人はその時々でいろんな悩みを抱えて生きていますよね。そうした自分の問題を、この本を読むことによって照らし出してみようとするなど、自分なりのテーマを持って読むことが、一つの方法になると思います。

── 植木社長ご自身が『生き方』や稲盛先生から受けた影響はありますか?

稲盛先生からはさまざまな影響を受けました。『生き方』を出版した後の2005年、盛和塾に入塾いたしまして、経営者としてたくさんの勉強をさせていただきました。なかでも、先生がお話をされたDVDを見る、DVD勉強会が印象に残っています。繰り返し見ていると、その時々に自分が抱えているものによって、お話の違うところが気になったり、別の学びがあったりするんですね。そういう点でも、経営者としてやるべきことを学ばせていただきました。

稲盛先生の言葉にも影響を受けました。『生き方』には、「手の切れるような製品をつくれ」と言って、稲盛先生が研究者にやり直しを命じたエピソードがあります。「手の切れるような製品」は私の大好きなフレーズです。これこそ「ブランニュー」じゃないですか。研ぎ澄まされた熱意が感じられます。

「もうダメだというときが仕事のはじまり」という稲盛先生の言葉もありますね。こう考えるのはけっこうしんどいことでもありますが、それこそが仕事のはじまりなのだと自分を奮い立たせることができます。

先生が亡くなられたと聞いたのは、8月30日のことでした。私はあるミーティングがありまして、そのときはなんとか堪えていたんですけどね、帰りの電車の中でぼろぼろと涙が出て止まらなかったんですよ。もう恥ずかしいなんてものではなくて。高校2年生で親父を亡くしたときよりも涙が出たかもしれないですね。それだけ自分にとっては大きな存在だったのだということを実感しました。仕事を通してそういう存在になっていただけたということは本当にありがたく、我々は尊い仕事をさせていただいているなと思います。

亡くなられてからもこうして本や映像を通してその人のメッセージは残り続けます。私は出来の悪い弟子ではありますけれども、稲盛先生はこれからも恩師であり続けていただけるのではないかと思います。

植木宣隆(うえき のぶたか)

株式会社サンマーク出版 代表取締役社長(インタビュー当時)。1951年、京都に生まれる。76年、京都大学文学部独文科を卒業。株式会社潮文社を経て78年、サンマーク出版の前身である株式会社教育研究社に入社。戦後2番目(当時)の大ヒットとなった春山茂雄著『脳内革命』(410万部)をはじめとして、久徳重盛著『母原病』や船井幸雄著『これから10年 生き方の発見』などを企画編集した。リチャード・カールソン著『小さいことにくよくよするな!』(177万部)や稲盛和夫著『生き方』(150万部)、新谷弘実著『病気にならない生き方』(140万部)、近藤麻理恵著『人生がときめく片づけの魔法』(160万部)など、編集長として、また経営者として、この25年で8冊の単行本ミリオンセラーに恵まれてきた。ライツの海外販売にも早くから取り組み、江本勝著『水は答えを知っている』は世界35か国で累計300万部、『生き方』は中国で600万部を突破した。また2015年には『人生がときめく片づけの魔法』が世界43か国で大ヒット。アメリカではアマゾンの年間総合第2位、480万部を突破。サンマーク出版の海外発行総部数は累計2500万部となっている。2002年より現職。

文責:池田友美(2023/03/07)